中原の後期新石器時代の陶製排水体系
中原の後期新石器時代の陶製排水体系を報告した研究(Li et al., 2023)が公表されました。中国の中原の現在の行政区分では河南省周口市淮陽区に位置する平糧台(Pingliangtai)遺跡は温帯モンスーン気候で、気温と降水量が劇的に変化し、夏の月間降水量は500mmを超えることもあります。平糧台遺跡の集落は氾濫原に位置していたため、住民は水に不自由しなかったものの、不安定な気候による脅威に直面していたと考えられます。アジア全域の集落や都市の遺跡を調べる先行研究では、水関連社会基盤の整備と社会階層の形成との関連性が示唆されました。しかし、水管理は、さまざまな過程を経て発達した可能性があり、必ずしも階層的な権力構造の下で発達したわけではなく、充分には解明されていません。
本論文は、平糧台遺跡が位置する淮陽区で採取された堆積物コア(147点)を分析し、4200年前に降水量の短期変動(極端な降雨現象を含む)があった、と示す証拠を発見しました。平糧台遺跡では大規模な発掘調査も実施され、当時の住民(推定で約460~600人)がどのように洪水に適応したのかも調べられました。本論文は、水管理の社会基盤の発掘および地質考古学的調査の結果を報告し、平糧台遺跡で発掘された4100~3900年前頃と推定される最古の陶製排水体系は、後期更新世アジア東部モンスーン地域において社会が急激な環境危機に直面する中で、前例のない社会および環境処置を表しています。それは、綿密に計画されて制御された二層構造の排水体系の運用と維持を明らかにします。
排水活動は、「中央集権的階層化」ではなく、おもに家屋や共同体の水準で行なわれており、家屋の基礎に並行して敷設され、排水を別の共同排水区域へ流し込むための排水溝体系が見つかりました。この排水体系の設置を通じて平糧台社会は社会的統治のより実際的な側面に引き込まれました。空間的均一性、公共事業における協力、一連の技術革新に重点を置くことにより、平糧台遺跡の水管理は、社会が繰り返しの環境の偶発的事件に対応しながら、集団的な共有利益へと向かいました。そうした実際的な公共事業への集中は、以前には認識されていなかった、後期新石器時代とその後の中原の政権における権力構造と社会統治の発展への、代替的な経路を構成していました。平糧台遺跡では、古代ゲノム研究により後期新石器時代となる龍山(Longshan)文化期の親族関係も推定されており(関連記事)、今後のさらなる研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
考古学:中国で発掘された最古の陶製排水システム
中国の中央平原に位置する平糧台(Pingliangtai)の城壁遺跡で、陶製排水管を用いた排水システムが発掘された。これは、約4000年前に構築された中国で最古の排水システムで、環境危機に適応するための初期の社会・環境操作であった可能性があり、社会による集団的水管理の初期事例とされる。今回の研究について報告する論文が、Nature Waterに掲載される。
平糧台の遺跡は、後期新石器時代の遺跡であり、この地域は、温帯モンスーン気候で、気温と降水量が劇的に変化し、夏の月間降水量は500ミリメートルを超えることもある。平糧台の集落は、氾濫原に位置していたため、住民は水に不自由しなかったが、不安定な気候による脅威に直面していたと考えられる。以前にアジア全域の集落や都市の遺跡を調べる研究が行われ、水関連インフラの整備と社会階層の形成との関連性が示唆された。しかし、水管理は、さまざまな過程を経て発達した可能性があり、必ずしも階層的な権力構造の下で発達したわけではなく、十分に解明されていない。
Hai Zhang、Yijie Zhuangらは、平糧台が位置する淮陽県で採取した堆積物コア(147点)を分析し、約4200年前に降水量の短期変動(極端な降雨現象を含む)があったことを示す証拠を発見した。今回の研究では、平糧台で大規模な発掘調査も実施され、当時の住民(460~600人)がどのように洪水に適応したのかを調べた。著者らは、平糧台の地域社会で、排水管と排水溝を併用した排水システムが運用、維持されていたという見解を示している。この発掘調査で、4100~3900年前のものとされる陶製排水管が発見されると同時に、家屋の基礎に並行して敷設され、排水を別の共同排水区域へ流し込むための排水溝システムが見つかった。そのいずれも複数回の修繕と再建が行われたと考えられている。家屋を取り巻くように敷設された排水溝は、主に世帯単位で建設、維持されていたと考えられるが、公共空間に敷設された陶製排水管や排水溝は、計画と調整が必要だったと考えられる。平糧台は、社会階層が形成された地域社会ではなかったと考えられているため、著者らは、平糧台での水関連インフラの管理は、協調的な水のガバナンスの存在を示していると考えている。
参考文献:
Li C. et al.(2023): Earliest ceramic drainage system and the formation of hydro-sociality in monsoonal East Asia. Nature Water, 1, 8, 694–704.
https://doi.org/10.1038/s44221-023-00114-4
本論文は、平糧台遺跡が位置する淮陽区で採取された堆積物コア(147点)を分析し、4200年前に降水量の短期変動(極端な降雨現象を含む)があった、と示す証拠を発見しました。平糧台遺跡では大規模な発掘調査も実施され、当時の住民(推定で約460~600人)がどのように洪水に適応したのかも調べられました。本論文は、水管理の社会基盤の発掘および地質考古学的調査の結果を報告し、平糧台遺跡で発掘された4100~3900年前頃と推定される最古の陶製排水体系は、後期更新世アジア東部モンスーン地域において社会が急激な環境危機に直面する中で、前例のない社会および環境処置を表しています。それは、綿密に計画されて制御された二層構造の排水体系の運用と維持を明らかにします。
排水活動は、「中央集権的階層化」ではなく、おもに家屋や共同体の水準で行なわれており、家屋の基礎に並行して敷設され、排水を別の共同排水区域へ流し込むための排水溝体系が見つかりました。この排水体系の設置を通じて平糧台社会は社会的統治のより実際的な側面に引き込まれました。空間的均一性、公共事業における協力、一連の技術革新に重点を置くことにより、平糧台遺跡の水管理は、社会が繰り返しの環境の偶発的事件に対応しながら、集団的な共有利益へと向かいました。そうした実際的な公共事業への集中は、以前には認識されていなかった、後期新石器時代とその後の中原の政権における権力構造と社会統治の発展への、代替的な経路を構成していました。平糧台遺跡では、古代ゲノム研究により後期新石器時代となる龍山(Longshan)文化期の親族関係も推定されており(関連記事)、今後のさらなる研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
考古学:中国で発掘された最古の陶製排水システム
中国の中央平原に位置する平糧台(Pingliangtai)の城壁遺跡で、陶製排水管を用いた排水システムが発掘された。これは、約4000年前に構築された中国で最古の排水システムで、環境危機に適応するための初期の社会・環境操作であった可能性があり、社会による集団的水管理の初期事例とされる。今回の研究について報告する論文が、Nature Waterに掲載される。
平糧台の遺跡は、後期新石器時代の遺跡であり、この地域は、温帯モンスーン気候で、気温と降水量が劇的に変化し、夏の月間降水量は500ミリメートルを超えることもある。平糧台の集落は、氾濫原に位置していたため、住民は水に不自由しなかったが、不安定な気候による脅威に直面していたと考えられる。以前にアジア全域の集落や都市の遺跡を調べる研究が行われ、水関連インフラの整備と社会階層の形成との関連性が示唆された。しかし、水管理は、さまざまな過程を経て発達した可能性があり、必ずしも階層的な権力構造の下で発達したわけではなく、十分に解明されていない。
Hai Zhang、Yijie Zhuangらは、平糧台が位置する淮陽県で採取した堆積物コア(147点)を分析し、約4200年前に降水量の短期変動(極端な降雨現象を含む)があったことを示す証拠を発見した。今回の研究では、平糧台で大規模な発掘調査も実施され、当時の住民(460~600人)がどのように洪水に適応したのかを調べた。著者らは、平糧台の地域社会で、排水管と排水溝を併用した排水システムが運用、維持されていたという見解を示している。この発掘調査で、4100~3900年前のものとされる陶製排水管が発見されると同時に、家屋の基礎に並行して敷設され、排水を別の共同排水区域へ流し込むための排水溝システムが見つかった。そのいずれも複数回の修繕と再建が行われたと考えられている。家屋を取り巻くように敷設された排水溝は、主に世帯単位で建設、維持されていたと考えられるが、公共空間に敷設された陶製排水管や排水溝は、計画と調整が必要だったと考えられる。平糧台は、社会階層が形成された地域社会ではなかったと考えられているため、著者らは、平糧台での水関連インフラの管理は、協調的な水のガバナンスの存在を示していると考えている。
参考文献:
Li C. et al.(2023): Earliest ceramic drainage system and the formation of hydro-sociality in monsoonal East Asia. Nature Water, 1, 8, 694–704.
https://doi.org/10.1038/s44221-023-00114-4
この記事へのコメント