白亜紀の小型哺乳類による恐竜の捕食

 白亜紀の小型哺乳類による恐竜の捕食を報告した研究(Han et al., 2023)が報道されました。恐竜と哺乳類は2億3千万年ほど共存しました。両者は三畳紀後期に誕生し、中生代から新生代にかけて多様化しました(恐竜は鳥類の形で)。両者が様々な形で相互作用していたことは間違いありませんが、その相互作用を示す直接的な化石証拠は稀です。本論文は、中国の下部白亜紀の義県累層(Yixian Formation)の陸家屯部層(Lujiatun Member)から発見された約1億2500万年前の新化石を報告し、ゴビコノドン類哺乳類とプシッタコサウルス類恐竜が死闘状態で閉じ込められたことを示します。

 この小型のゴビコノドン類哺乳類はレペノマムス・ロブストゥス(Repenomamus robustus)で、プシッタコサウルス類恐竜(Psittacosaurus lujiatunensis)は嘴を持つ二足歩行です。レペノマムス・ロブストゥスは長さ46.7cmで、尾の先端を除いてほぼ完全な形で残っています。プシッタコサウルスの全身骨格は長さ119.6cmで、両者はいずれも死亡時には亜成体だった、と考えられています。プシッタコサウルスは腹ばいになっており、後肢は体の左右で屈曲した状態で、頚部と尾部は左方向に曲がっています。レペノマムス・ロブストゥスはプシッタコサウルスの体の左側に覆い重なった状態で横たわり、体は右方向に曲がっています。レペノマムス・ロブストゥスの左手はプシッタコサウルスの下顎を掴んでおり、その下顎は、前方に少しずれています。レペノマムス・ロブストゥスの左後肢はプシッタコサウルスの屈曲した左後肢の下に挟まれており、レペノマムス・ロブストゥスの足先はプシッタコサウルスの左後肢の脛をつかんでいます。レペノマムス・ロブストゥスの歯は、死亡時にプシッタコサウルスの胸郭に食い込んでいました。

 本論文はこの関係についてさまざまな仮説を考慮していますが、証拠からは、この化石はより小さな哺乳類であるレペノマムス・ロブストゥスの捕食の試みを表しており、泥流型火山岩屑流により突然中断され、その中に保存された、と示唆されます。両者の絡み合いの程度とプシッタコサウルスの骨格に他の噛み跡がないことは、レペノマムス・ロブストゥスがプシッタコサウルスの死骸を漁って食べていたのではない、と示しています。通常、中生代の哺乳類は、同時代の大型恐竜の影に隠れて暮らしていたように描かれていますが、この新たな化石は、哺乳類がほぼ完全に成長し、恐竜にさえ脅威を与える可能性があった、と説得力を持って論証しています。義県累層、およびより広く中国の熱河生物群(Jehol Biota)は小柄な恐竜と他の動物相の多様性の解明に、とくに重要な役割を果たしてきました。陸家屯部層に固有の火山噴出堆積物も同様に、他の化石記録では知られていない生物の相互作用の証拠を提供し続けるでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古生物学:恐竜を捕食していた白亜紀の小型哺乳類

 中国で発見された珍しい化石の研究が行われ、白亜紀に生息していた小型哺乳類が、自分の体よりかなり大きな恐竜を捕食していた可能性のあることが示唆された。この化石は、レペノマムス・ロブストゥス(Repenomamus robustus)という小型哺乳類が、くちばしを持つ二足歩行恐竜のプシッタコサウルス(Psittacosaurus lujiatunensis)を攻撃している状態を保存したものと考えられている。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の知見は、一部の恐竜種にとって哺乳類が脅威であった可能性を示唆しており、哺乳類は、自分より大きな恐竜に捕食されるだけだったとする仮説に疑問を投げ掛けている。

 今回、Jordan Mallonらが報告した化石は、下部白亜紀層である中国の義県累層の陸家屯(Lujiatun)部層で2012年5月に発見されたもので、古代の哺乳類動物R. robustusと恐竜P. lujiatunensisの激しい一騎打ちが化石化されている。この化石標本は、約1億2500万年前と年代決定された。R. robustusの標本は、長さ46.7センチメートルで、尾の先端を除いてほぼ完全な形で残っている。P. lujiatunensisの全身骨格は長さ119.6センチメートルだ。いずれも死亡時には亜成体であったと考えられている。

 化石化した恐竜は、腹ばいになっており、後肢は体の左右で屈曲した状態で、頚部と尾部は、左方向に曲がっている。哺乳類動物は、恐竜の体の左側に覆い重なった状態で横たわり、体は右方向に曲がっている。哺乳類動物の左手は、恐竜の下顎を掴んでおり、その下顎は、前方に少しずれている。哺乳類動物の左後肢は、恐竜の屈曲した左後肢の下にはさまれており、哺乳類動物の足先は、恐竜の左後肢の脛をつかんでいる。哺乳類動物の歯は、死亡時に恐竜の胸郭に食い込んでいた。

 この化石について、Mallonらは、哺乳類動物が恐竜を捕食しようと攻撃していた時に火山泥流に巻き込まれて埋没してしまったという仮説を立てている。また、両者の絡み合いの程度と恐竜の骨格に他の噛み跡がないことは、哺乳類動物が恐竜の死骸をあさって食べていたのではないことを示している。

 Mallonらは、この化石が見つかった地域の古代の火山活動の規模を考慮すると、陸家屯部層が化石を産出する重要な地層となり、今後も白亜紀の生態系に関する知見をもたらす可能性があると予想している。



参考文献:
Han G. et al.(2023): An extraordinary fossil captures the struggle for existence during the Mesozoic. Scientific Reports, 13, 11221.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-37545-8

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