ネオンテトラの避難行動

 ネオンテトラ(Paracheirodon innesi)の避難行動に関する研究(Larrieu et al., 2023)が公表されました。群衆運動は、昆虫から哺乳類まで、および運動性細胞のような非認知体系システムにおいて、異なる種間と異なる規模で観察されます。狭い開口部から脱出を余儀なくされた場合、ほとんどの陸生動物は粒状物質のように振る舞い、閉塞現象は避難効率を低下させます。本論文は、巨視的な水生主体であるネオンテトラの避難行動を調べ、狭い通路を強制的に通らせることにより、その群れ行動を促します。

 具体的には、粒状物質のため開発された統計解析手法を用いて、実験に使われた水槽は壁で2つの区画に仕切られ、壁に開けられた穴は、直径1.5~4cmの範囲内で調整できるようになっていました。この研究では、一方の区画に入れられた30匹のネオンテトラ(体幅約0.5cm、体長約3cm)の群れをすくい網で穴に追い込み、もう一方の区画に避難する際の行動が観察されました。ネオンテトラの避難に要した時間は、穴が大きい場合の方が小さい場合よりも短かったものの、避難する個体が穴を移動する速度は、穴の大きさに関わらずほぼ一定で、最後の数匹だけが遅くなる傾向が見られました。また、ネオンテトラは、穴の大きさに関わらず、穴から避難するために穴の周囲に集まりましたが、避難する個体間の物理的接触は観察されませんでした。閉塞は狭い箇所でも起きなかったわけです。

 ネオンテトラは衝突せず、社会的距離を尊重しながら、連続する2つの出口間で最小の待ち時間を示しました。狭さがその社会的距離と同じかそれよりも小さくなると、この認知的距離によって定義される個々の領域が変わり、魚の密度が増加します。逃げ惑う魚の流れが、狭部を通過する変形可能な2次元領域である2次元気泡の集合のように振る舞う、と本論文は示します。魚の群れは、社会的規則を尊重することによって、緊急事態であっても、個体の群れが詰まることなく避難できることを示しています。ネオンテトラは、狭い穴から避難する前に待機または順番待ちをすることで、望ましい社会的距離を保ち、渋滞するのを避けているのではないか、というわけです。

 これは以前のアリの研究で観察された避難行動に似ており、渋滞が発生することの多い、ヒトの群れやヒツジ羊の群れとは異なります。この研究で示されたネオンテトラの行動は、川に生息する野生種の群れが岩の間を通り抜ける行動を反映している可能性があり、この研究の知見について、群れロボットの開発の他に、自律走行車やヒトの群衆の通行を管理する方法にとって有益な情報として使用できるかもしれない、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


動物行動学:ネオンテトラは順番待ちをして避難路の渋滞を防いでいる

 ネオンテトラ(Paracheirodon innesi)の群れを使って、水槽の中で狭い空間を通って隣接する区画に避難させる実験が行われ、この魚が、順番待ち行動をとって、渋滞や衝突を起こさずに避難していたことが観察された。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。

 実験に用いられた水槽は、壁で2つの区画に仕切られ、壁に開けられた穴は、直径1.5~4センチメートルの範囲内で調整できるようになっていた。今回の研究で、Aurélie Dupontらは、一方の区画に入れた30匹のネオンテトラ(体幅約0.5センチメートル、体長約3センチメートル)の群れをすくい網で穴に追い込んで、もう一方の区画に避難する際の行動を観察した。

 ネオンテトラの避難に要した時間は、穴が大きい場合の方が、小さい場合よりも短かったが、避難する個体が穴を移動する速度は、穴の大きさにかかわらずほぼ一定で、最後の数匹だけが遅くなる傾向が見られた。また、ネオンテトラは、穴の大きさにかかわらず、穴から避難するために穴の周囲に集まったが、避難する個体間の物理的接触は観察されなかった。以上の知見をまとめると、ネオンテトラは、狭い穴から避難する前に待機または順番待ちをすることで、望ましい社会的距離を保ち、渋滞するのを避けている可能性が示された。これは、以前のアリの研究で観察された避難行動に似ており、渋滞が発生することの多いヒツジの群れやヒトの群衆で観察された避難行動とは対照的だ。

 Dupontらは、今回の研究におけるネオンテトラの行動は、川に生息する野生種の群れが岩の間を通り抜ける行動を反映している可能性があるという見方を示し、今回の知見について、群れロボットの開発の他、自律走行車やヒトの群衆の通行を管理する方法にとって有益な情報として使用できるかもしれないと提唱している。



参考文献:
Larrieu R. et al.(2023): Fish evacuate smoothly respecting a social bubble. Scientific Reports, 13, 10414.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-36869-9

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