『卑弥呼』第114話「庭」
『ビッグコミックオリジナル』2023年9月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハがミマト将軍とイクメとミマアキに、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国のアビル王の毒殺のため、アビル王には不老長寿の秘薬(実は毒薬)を贈り、それ以外の山社(ヤマト)連合諸国の王には同じ色の粉末の身体によい薬を贈る、と明かしたところで終了しました。今回は、加羅(伽耶、朝鮮半島)を目指す那(ナ)国のトメ将軍一行が、津島国の鰐浦(ワニノウラ)に休息と物資調達のため停泊した場面から始まります。トメ将軍一行には、伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)国の日守(ヒマモ)りで、伊岐から黒島までの示齊(ジサイ、航海のさいに、万人の不幸・災厄を一身に引き受けて人柱になる神職で、航海中は髭を剃らず、衣服を替えず、虱も取らず、肉食を絶ちます)を務めたアシナカの縁戚で、加羅までの航海の示齊を務めることになったイセキと、ヤノハと旧知の漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)である何(ハウ)がいます。夜が明けたにも関わらず港には誰もおらず、どこかから我々を監視しているのだろう、とトメ将軍一行は推測します。島民である自分だけが上陸を許されているようだ、と考えたイセキは、他の乗員に舟に残るよう言って舟から降ります。港には物資とともに阿比留(アビル)文字で書かれている竹簡が置かれていました。それはワニ一族からのもので、ワニ一族は日出る国、つまり日下(ヒノモト)と敵対する那国の旅人に力を貸すことはできないので、少しの食糧と水を用意したから、休息後にすぐ旅立つよう、促すものでした。トメ将軍一行は、ワニ一族の心遣いに感謝します。
日下国の庵戸宮(イオトノミヤ)では、吉備津彦(キビツヒコ)とモモソが対面していました。庵戸宮は先代のトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)が厲鬼(レイキ)、つまり疫病から民を守るために遷都した場所なのに、そこを我々にくれるとは、新たに即位したクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)は実に気前がよい、と吉備津彦は上機嫌です。クニクル王は庵戸宮を捨てて軽(カル)に新しく都を造るそうだ、と言う兄の吉備津彦(第90話の吉備津彦の台詞からは、モモソが吉備津彦の姉と解釈できそうでしたが、どちらが本作の設定なのでしょうか)に対してモモソは、自分がクニクル王に進言したお告げだ、と言います。王君(クニクル王)を言いくるめたのか、と吉備津彦に問われたモモソは、人聞きが悪い、と否定し、天照様のご神託だと答えます。モモソから金砂(カナスナ)国の情勢を問われた吉備津彦は、日下傘下の汗入(アセイリ、後の伯耆国の汗入郡でしょうか)と事代主(コトシロヌシ)の出雲の二つに割れたままだ、と答えます。事代主を捕らえて自分に送っていただければ、と言うモモソに、二柱の顕人神(アラヒトガミ)が夫婦になれば戦わずして国は一つになる、と吉備津彦は応じます。それには筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の日見子(ヒミコ)、つまりヤノハが邪魔なのか、とモモソに問われた吉備津彦は、金砂国の戦場を丹念にさらって、山社連合がフトニ王の命を奪った弓を発見した、とモモソに伝えます。これは瞬時に10本の矢を発射する連弩で、我々もその武器を携えれば次の勝利は確実ですね、と言うモモソに、そう焦るな、と吉備津彦は諭します。海の彼方(朝鮮半島など大陸)の鉄板(カネイタ)が途絶えた昨今では、自力で鉄の確保が必要になった、というわけです。俘虜にした鬼国(キノクニ)のタタラ人がいるではないか、と問うモモソに、思ったより人数が少なく、量産には時間がかかる、と吉備津彦は答えます。その間に筑紫島の日見子(ヤノハ)が彼方の大国(現時点では後漢)に使者を送ったらどうするのか、とモモソに問われた吉備津彦は、山社を離れてくれれば手は打てる、と答えます。山社の日見子は不死身ではないかと思えるほど悪運が強い、と呆れるように言う吉備津彦に、山社の日見子の最大の弱点を教えようか、とモモソは言います。
那国では、山社から派遣されたミマアキが、ウツヒオ王に長寿の薬を献上していました。酒宴を開こうと考えていたウツヒオ王ですが、穂波(ホミ)国と都萬(トマ)国にも同じ薬を急いで届けねばならない、と言ってミマアキは立ち去ろうとします。するとウツヒオ王は、ミマアキと仲の良い客人が滞在している、と伝えます。それは穂波国のトモで、日下に寝返った父とは異なり、穂波国に留まってミマアキとともにフトニ王を討ちました。トモは穂波国ヲカ王より、各地で見聞を広めるよう、命じられており、とくに那国は、海の彼方の国から来た新しい道具や異国人を見られる、と勧められていました。するとミマアキは、山社にも来るよう、トモを誘います。日見子様(ヤノハ)にお目通りできるか、とトモに問われたミマアキは、自分が頼めば可能だが、今は山社を離れて、伊都(イト)国と末盧(マツラ)国と津島を訪ねることになっている、と答えます。日見子様の力で筑紫島の半分は平和になったのだ、とミマアキはトモに伝えます。
伊都国では、ヤノハが先代の日見子の墓に参拝し、伊都国のイトデ王はヤノハに感謝します。ヤノハは、先代の日見子様の墓には一度挨拶に伺わねばならないと思っていた、とイトデ王に言います。百年前に伊都国に顕れた日見子様は、倭の動乱を治めるため、海の向こうの大国(後漢のことでしょう)に使者を送った、とイトデ王はヤノハに説明します。ヤノハは、この遣使が倭王の称号を得るためだと知っています。当時、山社は伊都にあり、政事は目達(メタ)国のスイショウ王が行なっていました。当時、山社は国ではなく顕人神の聖地だったわけです。当時の日見子とスイショウ王の力で、倭国に一時平和が訪れた、とイトデ王は聞いていました。ヤノハは去ろうとし、長寿のための薬をイトデ王に献上します。百年前の日見子様はどのような方だったのか、とヤノハに問われたイトデ王は、聞いた話では、現在の日見子であるヤノハと、似たところと正反対なところがある、と答えます。似ているのは慈悲深きところで、イトデ王の曾祖父は倭国泰平のため豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)に出兵した一度は大敗し、命からがら筑紫島にたどり着きましたが、その伊都国王に対して当時の日見子は、涙を流しながら、そなたが生還したことこそ何よりの勝利だ、と言ったそうです。当時の日見子は常に、人に与えた恩は忘れろ、だが、人からもらった恩は一生忘れるなと言っていた、とイトデ王から聞いたヤノハは笑いながら、そこが正反対のところで、自分は恩を与えた人には見返りを求め、もらった恩はすぐに忘れてしまう、と言います。するとイトデ王は、正反対なのは別のことで、当時の日見子様は人に平気で弱みを見せ、たとえばスイショウ王などに助けを求めた、今の日見子であるヤノハよりはるかに弱い人だった、とヤノハに伝えます。ヤノハは少人数で伊都国を去り、それをイトデ王の配下は案じますが、山社と那と伊都と末盧と穂波と都萬を、ヤノハ自分の庭と思っている、とイトデ王は説明します。豪胆すぎるが、今の乱世にはあのくらいの方しか日見子になれないのだろう、とイトデ王は呟きます。先を進むヤノハの一行の警固の責任者はオオヒコのようで、夜になり、オオヒコの進言に従ってヤノハは野宿することに決めます。そこへ矢が射かけられ、ヤノハは咄嗟に草陰へ逃げ出し、敵の攻撃が収まると、武勇に優れたオオヒコも含めて全員殺されことに気づきます。ヤノハが、襲撃者が誰なのか考え、自分の甘さを悔い、悪運もこれまでか、と窮地に陥ったところで、今回は終了です。
今回は情報量が多く、本作の過去の設定も明かされ、たいへん楽しめました。ワニ一族は、トメ将軍一行を歓待こそしなかったものの、最低限の食糧と水を与えており、トメ将軍一行は無事に朝鮮半島までたどり着き、スイショウ王の末裔のいる邑から大陸の最新情勢を得ることになりそうです。この情報はヤノハの判断に大きな影響を与えることになりそうですから、トメ将軍一行が大陸の最新情勢を得る過程は、本作においてかなり重要になってきそうです。
そのヤノハは油断から窮地に追い込まれましたが、襲撃を指示したのがどの勢力なのか、ヤノハがこの窮地をどう切り抜けるのか、たいへん注目されます。ヤノハ一行を襲撃した武器は、ミマアキとトモが中心になってフトニ王を殺したさいに用いられた、隠し武器である連弩のようです。そうすると、吉備津彦がすでにこの連弩を入手しており、筑紫島には今でも日下国の祖であるサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の残党がいるとされていますから(第37話)、吉備津彦が隠し武器である連弩を複製させ、筑紫島のサヌ王の残党に渡し、ヤノハを襲撃させた、と推測されます。暈(クマ)の国の大夫で実質的な最高権力者である鞠智彦(ククチヒコ)が黒幕の可能性も考えましたが、隠し武器である連弩が用いられたのならば、吉備津彦がヤノハの襲撃を命じたと思われます。
日下のモモソは久々の登場となり、吉備津彦の姉なのか、それとも妹なのかも気になりますが、二人はかなり親しい関係のようで、クニクル王とはやや距離があるようにも思われます。あるいは、吉備津彦とモモソは同じ両親なのに対して、クニクル王はその二人にとって異母兄となるのでしょうか。モモソが言った、山社の日見子の最大の弱点も気になるところで、モモソは現在の山社の日見子であるヤノハについて、トメ将軍とミマアキから少し聞いているとはいえ、深くは知らないでしょうから、あくまでも日下国の王族に伝わっている、山社の日見子の弱点ということなのでしょう。ただ、これは偽の日見子にとっては弱点にならないかもしれないというか、逆にこの弱点を利用しようとした日下側に対して、山社の日見子の弱点との日下側の思い込みを利用した策略で、反撃に出るのかもしれません。
倭国過去も明らかになり、百年前(紀元後1世紀初頭)の日見子は、自分の弱みを平気で見せ、他人を頼る人だったようです。この点で、確かに現在の山社の日見子であるヤノハとは大きく異なりますが、あるいは今回の襲撃を経て、ヤノハはそうした先代の日見子の在り様も取り入れていくのでしょうか。百年前の日見子が頼ったスイショウ王は、前回初めて作中で名前が言及されましたが、その末裔の邑をトメ将軍一行が訪れることにするなど、作中ではかなりの重要人物のようです。スイショウ王は目達国の王で、目達国は作中の現時点での吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)とされており、ミマト将軍は吉国出身ですから、その息子であるミマアキがトメ将軍とともに加羅に渡ったさいには、スイショウ王の末裔のいる邑から助力を得られるかもしれません。新たな設定が明かされるとともに、作中ですでに明らかにされていた設定が結びついてくところは、しっかりとした構想で連載が始まったことを窺わせ、今後の展開にも大いに期待できそうです。
日下国の庵戸宮(イオトノミヤ)では、吉備津彦(キビツヒコ)とモモソが対面していました。庵戸宮は先代のトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)が厲鬼(レイキ)、つまり疫病から民を守るために遷都した場所なのに、そこを我々にくれるとは、新たに即位したクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)は実に気前がよい、と吉備津彦は上機嫌です。クニクル王は庵戸宮を捨てて軽(カル)に新しく都を造るそうだ、と言う兄の吉備津彦(第90話の吉備津彦の台詞からは、モモソが吉備津彦の姉と解釈できそうでしたが、どちらが本作の設定なのでしょうか)に対してモモソは、自分がクニクル王に進言したお告げだ、と言います。王君(クニクル王)を言いくるめたのか、と吉備津彦に問われたモモソは、人聞きが悪い、と否定し、天照様のご神託だと答えます。モモソから金砂(カナスナ)国の情勢を問われた吉備津彦は、日下傘下の汗入(アセイリ、後の伯耆国の汗入郡でしょうか)と事代主(コトシロヌシ)の出雲の二つに割れたままだ、と答えます。事代主を捕らえて自分に送っていただければ、と言うモモソに、二柱の顕人神(アラヒトガミ)が夫婦になれば戦わずして国は一つになる、と吉備津彦は応じます。それには筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の日見子(ヒミコ)、つまりヤノハが邪魔なのか、とモモソに問われた吉備津彦は、金砂国の戦場を丹念にさらって、山社連合がフトニ王の命を奪った弓を発見した、とモモソに伝えます。これは瞬時に10本の矢を発射する連弩で、我々もその武器を携えれば次の勝利は確実ですね、と言うモモソに、そう焦るな、と吉備津彦は諭します。海の彼方(朝鮮半島など大陸)の鉄板(カネイタ)が途絶えた昨今では、自力で鉄の確保が必要になった、というわけです。俘虜にした鬼国(キノクニ)のタタラ人がいるではないか、と問うモモソに、思ったより人数が少なく、量産には時間がかかる、と吉備津彦は答えます。その間に筑紫島の日見子(ヤノハ)が彼方の大国(現時点では後漢)に使者を送ったらどうするのか、とモモソに問われた吉備津彦は、山社を離れてくれれば手は打てる、と答えます。山社の日見子は不死身ではないかと思えるほど悪運が強い、と呆れるように言う吉備津彦に、山社の日見子の最大の弱点を教えようか、とモモソは言います。
那国では、山社から派遣されたミマアキが、ウツヒオ王に長寿の薬を献上していました。酒宴を開こうと考えていたウツヒオ王ですが、穂波(ホミ)国と都萬(トマ)国にも同じ薬を急いで届けねばならない、と言ってミマアキは立ち去ろうとします。するとウツヒオ王は、ミマアキと仲の良い客人が滞在している、と伝えます。それは穂波国のトモで、日下に寝返った父とは異なり、穂波国に留まってミマアキとともにフトニ王を討ちました。トモは穂波国ヲカ王より、各地で見聞を広めるよう、命じられており、とくに那国は、海の彼方の国から来た新しい道具や異国人を見られる、と勧められていました。するとミマアキは、山社にも来るよう、トモを誘います。日見子様(ヤノハ)にお目通りできるか、とトモに問われたミマアキは、自分が頼めば可能だが、今は山社を離れて、伊都(イト)国と末盧(マツラ)国と津島を訪ねることになっている、と答えます。日見子様の力で筑紫島の半分は平和になったのだ、とミマアキはトモに伝えます。
伊都国では、ヤノハが先代の日見子の墓に参拝し、伊都国のイトデ王はヤノハに感謝します。ヤノハは、先代の日見子様の墓には一度挨拶に伺わねばならないと思っていた、とイトデ王に言います。百年前に伊都国に顕れた日見子様は、倭の動乱を治めるため、海の向こうの大国(後漢のことでしょう)に使者を送った、とイトデ王はヤノハに説明します。ヤノハは、この遣使が倭王の称号を得るためだと知っています。当時、山社は伊都にあり、政事は目達(メタ)国のスイショウ王が行なっていました。当時、山社は国ではなく顕人神の聖地だったわけです。当時の日見子とスイショウ王の力で、倭国に一時平和が訪れた、とイトデ王は聞いていました。ヤノハは去ろうとし、長寿のための薬をイトデ王に献上します。百年前の日見子様はどのような方だったのか、とヤノハに問われたイトデ王は、聞いた話では、現在の日見子であるヤノハと、似たところと正反対なところがある、と答えます。似ているのは慈悲深きところで、イトデ王の曾祖父は倭国泰平のため豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)に出兵した一度は大敗し、命からがら筑紫島にたどり着きましたが、その伊都国王に対して当時の日見子は、涙を流しながら、そなたが生還したことこそ何よりの勝利だ、と言ったそうです。当時の日見子は常に、人に与えた恩は忘れろ、だが、人からもらった恩は一生忘れるなと言っていた、とイトデ王から聞いたヤノハは笑いながら、そこが正反対のところで、自分は恩を与えた人には見返りを求め、もらった恩はすぐに忘れてしまう、と言います。するとイトデ王は、正反対なのは別のことで、当時の日見子様は人に平気で弱みを見せ、たとえばスイショウ王などに助けを求めた、今の日見子であるヤノハよりはるかに弱い人だった、とヤノハに伝えます。ヤノハは少人数で伊都国を去り、それをイトデ王の配下は案じますが、山社と那と伊都と末盧と穂波と都萬を、ヤノハ自分の庭と思っている、とイトデ王は説明します。豪胆すぎるが、今の乱世にはあのくらいの方しか日見子になれないのだろう、とイトデ王は呟きます。先を進むヤノハの一行の警固の責任者はオオヒコのようで、夜になり、オオヒコの進言に従ってヤノハは野宿することに決めます。そこへ矢が射かけられ、ヤノハは咄嗟に草陰へ逃げ出し、敵の攻撃が収まると、武勇に優れたオオヒコも含めて全員殺されことに気づきます。ヤノハが、襲撃者が誰なのか考え、自分の甘さを悔い、悪運もこれまでか、と窮地に陥ったところで、今回は終了です。
今回は情報量が多く、本作の過去の設定も明かされ、たいへん楽しめました。ワニ一族は、トメ将軍一行を歓待こそしなかったものの、最低限の食糧と水を与えており、トメ将軍一行は無事に朝鮮半島までたどり着き、スイショウ王の末裔のいる邑から大陸の最新情勢を得ることになりそうです。この情報はヤノハの判断に大きな影響を与えることになりそうですから、トメ将軍一行が大陸の最新情勢を得る過程は、本作においてかなり重要になってきそうです。
そのヤノハは油断から窮地に追い込まれましたが、襲撃を指示したのがどの勢力なのか、ヤノハがこの窮地をどう切り抜けるのか、たいへん注目されます。ヤノハ一行を襲撃した武器は、ミマアキとトモが中心になってフトニ王を殺したさいに用いられた、隠し武器である連弩のようです。そうすると、吉備津彦がすでにこの連弩を入手しており、筑紫島には今でも日下国の祖であるサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の残党がいるとされていますから(第37話)、吉備津彦が隠し武器である連弩を複製させ、筑紫島のサヌ王の残党に渡し、ヤノハを襲撃させた、と推測されます。暈(クマ)の国の大夫で実質的な最高権力者である鞠智彦(ククチヒコ)が黒幕の可能性も考えましたが、隠し武器である連弩が用いられたのならば、吉備津彦がヤノハの襲撃を命じたと思われます。
日下のモモソは久々の登場となり、吉備津彦の姉なのか、それとも妹なのかも気になりますが、二人はかなり親しい関係のようで、クニクル王とはやや距離があるようにも思われます。あるいは、吉備津彦とモモソは同じ両親なのに対して、クニクル王はその二人にとって異母兄となるのでしょうか。モモソが言った、山社の日見子の最大の弱点も気になるところで、モモソは現在の山社の日見子であるヤノハについて、トメ将軍とミマアキから少し聞いているとはいえ、深くは知らないでしょうから、あくまでも日下国の王族に伝わっている、山社の日見子の弱点ということなのでしょう。ただ、これは偽の日見子にとっては弱点にならないかもしれないというか、逆にこの弱点を利用しようとした日下側に対して、山社の日見子の弱点との日下側の思い込みを利用した策略で、反撃に出るのかもしれません。
倭国過去も明らかになり、百年前(紀元後1世紀初頭)の日見子は、自分の弱みを平気で見せ、他人を頼る人だったようです。この点で、確かに現在の山社の日見子であるヤノハとは大きく異なりますが、あるいは今回の襲撃を経て、ヤノハはそうした先代の日見子の在り様も取り入れていくのでしょうか。百年前の日見子が頼ったスイショウ王は、前回初めて作中で名前が言及されましたが、その末裔の邑をトメ将軍一行が訪れることにするなど、作中ではかなりの重要人物のようです。スイショウ王は目達国の王で、目達国は作中の現時点での吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)とされており、ミマト将軍は吉国出身ですから、その息子であるミマアキがトメ将軍とともに加羅に渡ったさいには、スイショウ王の末裔のいる邑から助力を得られるかもしれません。新たな設定が明かされるとともに、作中ですでに明らかにされていた設定が結びついてくところは、しっかりとした構想で連載が始まったことを窺わせ、今後の展開にも大いに期待できそうです。
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