気候変動と人類の進化
気候変動と人類の進化に関する二つの研究が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヒトの進化について知られていることのほとんどは化石証拠に由来し、これらの化石は、現代人のように、気候や生態系の動態により形成された世界に由来します。これら過去の環境を推定する能力により、現代人の進化を形成した力をより深く理解できるようになります。過去の環境の推定のため気候モデルを、種の出現の予測のため空間分布モデルを使用することで、化石だけでは解明できない詳細を、二つの研究が明らかにします。
一方の研究(Margari et al., 2023)は、これまで知られていなかった、初期更新世のヨーロッパ南部における気候に駆動された人類の人口減少を明らかにしました。ヨーロッパで最古となる既知の人類遺骸は150万~110万年前頃で、イベリア半島で出土しており、当時のイベリア半島について、古環境復元は温暖湿潤な間氷期と穏やかな氷期を示唆しており、人類集団は一度確立すると継続的だった、との見解が裏づけられます。しかし本論文は、ポルトガル縁辺の深海底堆積物コアから採取した海洋および陸域の代理の分析を報告し、1154000~1123000年前頃となる氷期には顕著な千年規模の気候変動が存在し、過去40万年間の最も極端な出来事に匹敵する末期亜氷期寒冷化に至った、と示します。気候包絡線モデル模擬実験は、末期亜氷期における地中海周辺の初期人類生息適地の大幅な減少を明らかにします。本論文は、これら極端な状況がヨーロッパの人口減少につながり、恐らくは数回の氷期と間氷期の周期にわたって続いた、と示唆します。
もう一方の研究(Ruan et al., 2023)は、古代型ホモ属(絶滅ホモ属)の生息地の重複を調べ、ユーラシア大陸の気候や環境の変化と相関する交雑パターンを発見しました。現生人類(Homo sapiens)も含めて後期ホモ属における複雑な交雑はよく知られていますが(関連記事)、いつ、どこで、どれくらいの頻度で人類の交雑が起きたのか、ほとんど分かっていません。本論文は、化石と考古学と遺伝学の膨大なデータを、地球規模の気候と生物群系の過渡的な統合された一般循環モデル模擬実験と統合する、種分布モデルを用いて、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の混合の可能性を調べます。過去のヒトの生息地適性に関する更新世の推算は、ユーラシア中央部におけるデニソワ人とネアンデルタール人の主要な重複地域にける、顕著な気候に駆動された帯状変化を明らかにしました。デニソワ人もネアンデルタール人も多様な環境に生息していましたが、ネアンデルタール人は温帯林を好み、デニソワ人はもっと広い地域に生息していたようです。これらの気候変化は、潜在的な交雑事象の時期と強度に影響を及ぼし、過去の大気中の二酸化炭素と北半球の氷床量の変動に対する気候と植生の反応に起因しているかもしれません。したがって、氷期から間氷期の気候変動は、古代型ホモ属(絶滅ホモ属)間の遺伝子流動を促進する上で重要な役割を果たした可能性が高そうです。
参考文献:
Margari V. et al.(2023): Extreme glacial cooling likely led to hominin depopulation of Europe in the Early Pleistocene. Science, 381, 6658, 693–699.
https://doi.org/10.1126/science.adf4445
Ruan J. et al.(2023): Climate shifts orchestrated hominin interbreeding events across Eurasia. Science, 381, 6658, 699–704.
https://doi.org/10.1126/science.add4459
一方の研究(Margari et al., 2023)は、これまで知られていなかった、初期更新世のヨーロッパ南部における気候に駆動された人類の人口減少を明らかにしました。ヨーロッパで最古となる既知の人類遺骸は150万~110万年前頃で、イベリア半島で出土しており、当時のイベリア半島について、古環境復元は温暖湿潤な間氷期と穏やかな氷期を示唆しており、人類集団は一度確立すると継続的だった、との見解が裏づけられます。しかし本論文は、ポルトガル縁辺の深海底堆積物コアから採取した海洋および陸域の代理の分析を報告し、1154000~1123000年前頃となる氷期には顕著な千年規模の気候変動が存在し、過去40万年間の最も極端な出来事に匹敵する末期亜氷期寒冷化に至った、と示します。気候包絡線モデル模擬実験は、末期亜氷期における地中海周辺の初期人類生息適地の大幅な減少を明らかにします。本論文は、これら極端な状況がヨーロッパの人口減少につながり、恐らくは数回の氷期と間氷期の周期にわたって続いた、と示唆します。
もう一方の研究(Ruan et al., 2023)は、古代型ホモ属(絶滅ホモ属)の生息地の重複を調べ、ユーラシア大陸の気候や環境の変化と相関する交雑パターンを発見しました。現生人類(Homo sapiens)も含めて後期ホモ属における複雑な交雑はよく知られていますが(関連記事)、いつ、どこで、どれくらいの頻度で人類の交雑が起きたのか、ほとんど分かっていません。本論文は、化石と考古学と遺伝学の膨大なデータを、地球規模の気候と生物群系の過渡的な統合された一般循環モデル模擬実験と統合する、種分布モデルを用いて、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の混合の可能性を調べます。過去のヒトの生息地適性に関する更新世の推算は、ユーラシア中央部におけるデニソワ人とネアンデルタール人の主要な重複地域にける、顕著な気候に駆動された帯状変化を明らかにしました。デニソワ人もネアンデルタール人も多様な環境に生息していましたが、ネアンデルタール人は温帯林を好み、デニソワ人はもっと広い地域に生息していたようです。これらの気候変化は、潜在的な交雑事象の時期と強度に影響を及ぼし、過去の大気中の二酸化炭素と北半球の氷床量の変動に対する気候と植生の反応に起因しているかもしれません。したがって、氷期から間氷期の気候変動は、古代型ホモ属(絶滅ホモ属)間の遺伝子流動を促進する上で重要な役割を果たした可能性が高そうです。
参考文献:
Margari V. et al.(2023): Extreme glacial cooling likely led to hominin depopulation of Europe in the Early Pleistocene. Science, 381, 6658, 693–699.
https://doi.org/10.1126/science.adf4445
Ruan J. et al.(2023): Climate shifts orchestrated hominin interbreeding events across Eurasia. Science, 381, 6658, 699–704.
https://doi.org/10.1126/science.add4459
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