ヒト脳の進化において細胞の複雑性を促進した分子的特徴

 ヒト脳の進化において細胞の複雑性を促進した分子的特徴に関する研究(Caglayan et al., 2023)が公表されました。ヒト脳に固有の機能性には、ヒト特異的なゲノム変化が関与しています。ヒト脳に見られる細胞の不均一性と、遺伝子発現の複雑な調節は、ヒト特異的な分子的特徴を、細胞分解能で明らかにすることの必要性を浮き彫りにしています。本論文は、ヒトとチンパンジーとアカゲザルの後帯状皮質の脳組織について、単一核RNA塩基配列解読と単一核ATAC-seq(assay for transposase-accessible chromatin with sequencing、配列決定での転移酵素利用可能性染色質の分析評価)のデータセットを解析しました。

 その結果、皮質組織全体での、オリゴデンドロサイト前駆細胞のヒト特異的な増加と、成熟したオリゴデンドロサイトのヒト特異的な減少が明らかになりました。ヒト特異的な調節変化は、オリゴデンドロサイト前駆細胞で加速しており、この割合の変化に関連する可能性のある主要な生物学的経路が明らかになりました。また、ニューロンサブタイプにおけるヒト特異的な調節変化が突き止められ、FOXP2のヒト特異的な発現上昇が、2つのニューロンサブタイプのみで見られる、と明らかになりました。さらに、ヒト特異的なクロマチン接近可能性の変化と関連する、数百の新たなヒト加速ゲノム領域も特定されました。これらのデータからは、FOS::JUNモチーフとFOXモチーフが、興奮性ニューロンサブタイプのヒト特異的な接近可能クロマチン領域に濃縮されていることも明らかになりました。まとめるとこれらの知見は、ヒト脳の進化的新機軸の根底にあるいくつかの新たな機構を、細胞タイプの分解能で明らかにしています。人類進化の観点からたいへん注目される研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


分子進化学:ヒト脳の進化において細胞の複雑性を促進した分子的特徴

分子進化学:細胞タイプで見るヒト脳の進化

 今回、ヒト脳の進化において細胞や遺伝子発現調節の複雑性を促進した分子的特徴が明らかにされている。



参考文献:
Caglayan E. et al.(2023): Molecular features driving cellular complexity of human brain evolution. Nature, 620, 7972, 145–153.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06338-4

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