真核生物のアスガルド古細菌内での位置づけ

 真核生物のアスガルド(Asgard)古細菌内での位置づけに関する研究(Eme et al., 2023)が公表されました。真核生物誕生の過程(eukaryogenesis)、つまり祖先原核細胞からの真核細胞の出現を導いた一連の進化事象に関しては、現在議論が続いており、アスガルド上門古細菌のいくつかの構成員が真核生物に最も近縁な古細菌として、その焦点となっています。しかし、アスガルド古細菌と真核生物の最終共通祖先の性質や系統学的な位置づけは、まだ明らかにされていません。

 本論文は、アスガルド古細菌の拡張的なゲノム標本抽出による特徴的な系統学的マーカー遺伝子のデータセットを解析し、最先端のゲノム系統学的手法を用いて、対立する進化シナリオを評価しました。その結果、真核生物は、アスガルドアーキア内に完全に含まれるクレード(単系統群)として、そして、ヘイムダルアーキア綱(Heimdallarchaeia)内に新たに提案されたホドアーキア目(Hodarchaeales)の姉妹系統として、高い信頼度で位置づけられました。

 遺伝子系統樹と種系統樹を一致させる洗練された手法により、真核生物ゲノムの進化と同様に、アスガルド古細菌のゲノムの進化では、他の古細菌と比較してより多くの遺伝子重複が生じた一方で、遺伝子喪失がより少なかった、と明らかになりました。さらに、アスガルド古細菌の最終共通祖先は好熱性の化学合成無機栄養生物だった可能性が高く、また、真核生物進化の起源となった系統が中温性の条件に適応し、従属栄養性の生活様式を支持する遺伝的能力を獲得した、と推測されました。本論文は、原核生物から真核生物への移行に関する重要な知見を提供し、真核生物の複雑な細胞の出現に関する理解を深めるための基盤をもたらします。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:進化系統の推定と再構築により真核生物の祖先をヘイムダルアーキア綱とする

進化学:真核生物のアスガルドアーキア内での位置付け

 今回、アスガルドアーキアの大規模なゲノムデータセットの解析により、真核生物が、アスガルドアーキアの中に完全に含まれる、新たに提案されたホドアーキア目(Hodarchaeales)の姉妹系統として高い信頼度で位置付けられ、真核生物誕生の過程(eukaryogenesis)」に関する重要な知見が得られた。



参考文献:
Eme L. et al.(2023): Inference and reconstruction of the heimdallarchaeial ancestry of eukaryotes. Nature, 618, 7967, 992–999.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06186-2

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