『卑弥呼』第112話「赤い土くれ」
『ビッグコミックオリジナル』2023年8月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが那(ナ)国のウツヒオ王に、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国のアビル王が自分たち筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)連合に従わねば、人知れず消えてもらう、と語ったところで終了しました。今回は、暈(クマ)国の鞠智里(ククチノサト、現在の熊本県菊池市でしょうか)で、暈国の大夫である鞠智彦(ククチヒコ)に、男性が葦の根についた赤い土くれを見せ、これが自分の飯の種だと説明する場面から始まります。鞠智彦は、その赤さから、墓室の装飾などに使われている丹(硫化水銀から構成される辰砂、水銀の原料)が含まれているのではないか、と推測します。すると男性は、色は同じ赤だが丹ではなくスズ(褐鉄鉱、赤色顔料ベンガラの原料)だ、と説明します。スズは、顔に塗ったり黥の染料に用いたりします。男性は、10日間乾かした土くれを見せ、炭とともに土くれを溶かして焼き、できた粗鉄を取り上げます。男性は鞠智彦に、この粗鉄から簡単に鏃を作れる、と説明します。鉄(カネ)は砂から抽出するものと思っていた鞠智彦は驚きます。しかも、砂鉄を原料にした加羅鍛冶(カラカスチ)はもっと強力な火が必要になる、と鞠智彦の忠臣であるウガヤが説明します。故に、砂鉄の精製にはタタラのような大仕掛けが必要になる、というわけです。
スズが暈にどのくらいあるのか、鞠智彦に問われた男性は、火山と葦の生い茂る沼と温泉だらけの暈にはいくらでもある、と答えます。鞠智彦は、これで日下(ヒノモト)国の鉄の武器に数で負けない、と満足そうに言います。するとウガヤが、日下国では実は鉄が不足している、との軒猿(ノキザル、間者)からの報告を鞠智彦に伝えます。鉄が豊富だから、日下の刀や槍は全て鉄製ではないのか、と鞠智彦に問われたウガヤは、日下では鉄は全て武器とするため、農耕具はまだ青銅(アオカネ)のままで、加羅(伽耶、朝鮮半島)から鉄が入ってこなければ、これ以上武器を作れない、と答えます。鉄板(カネイタ)は全て津島国のアビル王に留め置かれているので、鉄を国内で製造するため、鬼国(キノクニ)や金砂(カナスナ)国を攻める賭けに出たのだろう、と鞠智彦とウガヤは悟ります。鞠智彦は自信に満ちた表情で、後は山社(ヤマト)連合を制し、海の彼方の大国を目指すのみだ、と目標を語ります。少なくとも日下にだけは倭王の称号を与えない、と宣言する鞠智彦に、お館様は山社以上に日下を嫌っている、とウガヤは苦笑しながら言います。すると鞠智彦は、日下国が倭国を統一すればつまらない世の中になる、と語ります。その意味が分からないウガヤに、鞠智彦は世の統治のための三つの方法を語ります。一つは、鞠智彦が目指す一人の王による統治、もう一つは、山社のヤノハが目指す複数の王の合議制による統治ですが、鞠智彦もヤノハも、民が従う限り、人の生き方や生業を問うつもりはないのに対して、日下の王は橙、一人の王による絶対的統治を悲願としている点は鞠智彦と同じであるものの、その上で人の生き方も生業も全てを管理しようとしており、人が生き方を選べない世の中のどこが面白いのか、というわけです。鞠智彦の真意を知り、ウガヤは納得します。
津島国の黒島では、伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)国の日守(ヒマモ)りで、伊岐から黒島までの示齊(ジサイ、航海のさいに、万人の不幸・災厄を一身に引き受けて人柱になる神職で、航海中は髭を剃らず、衣服を替えず、虱も取らず、肉食を絶ちます)を務めたアシナカの縁戚と思われるイセキがトメ将軍に、黒島から北に航路を取っても加羅へはたどり着けない、と説明していました。その理由を問われたイセキは、潮流が南にしか流れていない、と答えます。加羅に向かうには、津島の沿岸を南下し、反対側の海に出て北上するしかありませんが、津島の監視をすり抜けるには夜しかない、というわけです。月読命(ツクヨノミコト、月の神)と天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ、北極星の神)な頼るのはあまりに危険ではないか、とアシナカは案じます。しかし、それしか道がないならそれを選ぶ、とトメ将軍は力強く言います。するとイセキは自分が示齊を務めると言い、感謝したトメ将軍は、いつ出立するのか、アシナカに問われ、明日の夜にしたい、と答えます。
山社では、日見子(ヒミコ)であるヤノハが、丹の石を砕き、薬を調合していました。何の薬かイクメに問われたヤノハは、秦(ハタ)の邑で教わった不老不死の妙薬だ、と答えます。自分で飲むためか、とイクメに問われたヤノハは、永遠に生きようと思わないが、海の彼方の大国ではこの薬の製法を練丹術と云い、数百年前、中華全土を初めて統一した王(始皇帝のことでしょう)も、この不老不死の薬を服用した、と邑長の徐平(ジョヘイ)殿から聞いた、と答えます。その偉大な王は長く生きたのだろう、と言うイクメに、短命だった、とヤノハ説明します。不老不死の妙薬の中身は丹で、服用すれば人は死ぬのに、海の彼方の王たちは好んで飲んだらしい、と説明するヤノハに、その恐ろしい毒薬をなぜ調合しているのか、とイクメは問います。この薬をある人物に進呈するつもりだ、と言うヤノハが、誰なのかイクメに問われて、津島国のアビル王だ、と答えるところで今回は終了です。
今回は、人間にとって毒となる丹(辰砂)を用いて、鉄をめぐる当時の倭国の情勢と、ヤノハによるアビル王の暗殺計画も描かれ、たいへん面白くなっていました。鞠智彦と日下の王との類似点と相違点も示され、今後の倭国情勢は、山社連合と暈国と日下連合を中心に描かれていきそうです。トメ将軍は朝鮮半島に渡海することになり、恐らく成功してヤノハに最新の大陸情勢を報告するのでしょうが、それによりヤノハがどのような判断を下すのか、注目されます。すでに遼東公孫氏は何度か作中で語られており、史料との整合性からは、当分魏への遣使はなさそうなので(現在が何年なのか、作中では明示されていないので、断定はできませんが)、大陸の勢力としてまずは遼東公孫氏が描かれるのかもしれず、倭国情勢と大陸情勢をどう絡めていくのか、今後の展開がたいへん楽しみです。
スズが暈にどのくらいあるのか、鞠智彦に問われた男性は、火山と葦の生い茂る沼と温泉だらけの暈にはいくらでもある、と答えます。鞠智彦は、これで日下(ヒノモト)国の鉄の武器に数で負けない、と満足そうに言います。するとウガヤが、日下国では実は鉄が不足している、との軒猿(ノキザル、間者)からの報告を鞠智彦に伝えます。鉄が豊富だから、日下の刀や槍は全て鉄製ではないのか、と鞠智彦に問われたウガヤは、日下では鉄は全て武器とするため、農耕具はまだ青銅(アオカネ)のままで、加羅(伽耶、朝鮮半島)から鉄が入ってこなければ、これ以上武器を作れない、と答えます。鉄板(カネイタ)は全て津島国のアビル王に留め置かれているので、鉄を国内で製造するため、鬼国(キノクニ)や金砂(カナスナ)国を攻める賭けに出たのだろう、と鞠智彦とウガヤは悟ります。鞠智彦は自信に満ちた表情で、後は山社(ヤマト)連合を制し、海の彼方の大国を目指すのみだ、と目標を語ります。少なくとも日下にだけは倭王の称号を与えない、と宣言する鞠智彦に、お館様は山社以上に日下を嫌っている、とウガヤは苦笑しながら言います。すると鞠智彦は、日下国が倭国を統一すればつまらない世の中になる、と語ります。その意味が分からないウガヤに、鞠智彦は世の統治のための三つの方法を語ります。一つは、鞠智彦が目指す一人の王による統治、もう一つは、山社のヤノハが目指す複数の王の合議制による統治ですが、鞠智彦もヤノハも、民が従う限り、人の生き方や生業を問うつもりはないのに対して、日下の王は橙、一人の王による絶対的統治を悲願としている点は鞠智彦と同じであるものの、その上で人の生き方も生業も全てを管理しようとしており、人が生き方を選べない世の中のどこが面白いのか、というわけです。鞠智彦の真意を知り、ウガヤは納得します。
津島国の黒島では、伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)国の日守(ヒマモ)りで、伊岐から黒島までの示齊(ジサイ、航海のさいに、万人の不幸・災厄を一身に引き受けて人柱になる神職で、航海中は髭を剃らず、衣服を替えず、虱も取らず、肉食を絶ちます)を務めたアシナカの縁戚と思われるイセキがトメ将軍に、黒島から北に航路を取っても加羅へはたどり着けない、と説明していました。その理由を問われたイセキは、潮流が南にしか流れていない、と答えます。加羅に向かうには、津島の沿岸を南下し、反対側の海に出て北上するしかありませんが、津島の監視をすり抜けるには夜しかない、というわけです。月読命(ツクヨノミコト、月の神)と天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ、北極星の神)な頼るのはあまりに危険ではないか、とアシナカは案じます。しかし、それしか道がないならそれを選ぶ、とトメ将軍は力強く言います。するとイセキは自分が示齊を務めると言い、感謝したトメ将軍は、いつ出立するのか、アシナカに問われ、明日の夜にしたい、と答えます。
山社では、日見子(ヒミコ)であるヤノハが、丹の石を砕き、薬を調合していました。何の薬かイクメに問われたヤノハは、秦(ハタ)の邑で教わった不老不死の妙薬だ、と答えます。自分で飲むためか、とイクメに問われたヤノハは、永遠に生きようと思わないが、海の彼方の大国ではこの薬の製法を練丹術と云い、数百年前、中華全土を初めて統一した王(始皇帝のことでしょう)も、この不老不死の薬を服用した、と邑長の徐平(ジョヘイ)殿から聞いた、と答えます。その偉大な王は長く生きたのだろう、と言うイクメに、短命だった、とヤノハ説明します。不老不死の妙薬の中身は丹で、服用すれば人は死ぬのに、海の彼方の王たちは好んで飲んだらしい、と説明するヤノハに、その恐ろしい毒薬をなぜ調合しているのか、とイクメは問います。この薬をある人物に進呈するつもりだ、と言うヤノハが、誰なのかイクメに問われて、津島国のアビル王だ、と答えるところで今回は終了です。
今回は、人間にとって毒となる丹(辰砂)を用いて、鉄をめぐる当時の倭国の情勢と、ヤノハによるアビル王の暗殺計画も描かれ、たいへん面白くなっていました。鞠智彦と日下の王との類似点と相違点も示され、今後の倭国情勢は、山社連合と暈国と日下連合を中心に描かれていきそうです。トメ将軍は朝鮮半島に渡海することになり、恐らく成功してヤノハに最新の大陸情勢を報告するのでしょうが、それによりヤノハがどのような判断を下すのか、注目されます。すでに遼東公孫氏は何度か作中で語られており、史料との整合性からは、当分魏への遣使はなさそうなので(現在が何年なのか、作中では明示されていないので、断定はできませんが)、大陸の勢力としてまずは遼東公孫氏が描かれるのかもしれず、倭国情勢と大陸情勢をどう絡めていくのか、今後の展開がたいへん楽しみです。
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