中国の少数民族のパンゲノム参照配列
中国の少数民族のパンゲノム参照配列を報告した研究(Gao et al., 2023)が公表されました。パンゲノムとは、1個体の全遺伝情報(ゲノム)だけではなく、分類群が有する全ての遺伝情報です。ヒトのゲノミクスでは、単一の参照配列からパンゲノムの形へと移行しつつありますが、この分野でアジア系集団を研究の対象とすることはまだ少ないのが現状です。本論文は、中国人パンゲノム協会(Chinese Pangenome Consortium、略してCPC)の第1段階で得られたデータを提示します。
このデータには、中国の36の少数民族集団を代表する58例の中核試料に基づく、高品質でハプロタイプ位相化済みの116例の新規変異(de novo変異、親の生殖細胞もしくは受精卵や早期の胚で起きた変異)集合の収集が含まれます。CPCのこの中核集合は、高忠実度の長い読み取りの塩基配列解読の網羅率が平均30.65倍で、配列の連続性(N50コンティグ長)が平均3563万塩基以上、全長が平均30億1000万塩基で、GRCh38参照配列に対して、ユークロマチン多型配列が1億8900万塩基対、タンパク質コード遺伝子の重複が1367件追加されました。また、1590万個の小さな多様体と78072個の構造多様体が明らかになり、そのうち590万個の小さな多様体と34223個の構造多様体は、最近発表されたパンゲノム参照配列(関連記事)では示されていませんでした。このCPCデータは、対象となることが少なかった少数民族集団の人々を含めると、新規の配列や欠けていた配列の発見が顕著に増加することを実証しています。
これまで欠けていた参照配列には、角質化、紫外線照射への応答、DNA修復、免疫応答、寿命と関連する、きわめて重要な機能をもたらす古代型人類(絶滅ホモ属)族由来のアレル(対立遺伝子)や遺伝子が多く含まれており、これは、ヒトの進化に新たな光を当て、複雑疾患のマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)で欠けている遺伝性を見いだすのに、大きな可能性を示しています。これに関して、アジア東部の主要な現代人集団と比較して、カザフスタンやキルギスなどアジア中央部の現代人集団では、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)個体(デニソワ5号)的な配列が少ない、と示されており、これらアジア中央部の現代人集団がユーラシア西部系集団の遺伝的影響を一定以上受けているためではないか、と推測されています。
こうしたゲノムにおける絶滅ホモ属由来の領域の違いは種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)についても示されており、タイ・カダイ語族話者やオーストロアジア語族話者はアジア東部の主要な現代人集団と比較して、デニソワ人的な配列が多くなっています。こうした現代人集団のゲノムにおける絶滅ホモ属由来の領域の割合の違いは、現代人の各地域集団の形成過程の解明に役立つと期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ゲノミクス:中国の36集団のパンゲノム参照配列
ゲノミクス:中国の少数民族のパンゲノム参照配列
今回、中国人パンゲノムコンソーシアム(CPC)の第1段階のデータが報告されている。このデータには、中国の36の少数民族集団を代表する58例の中核標本に基づくde novoアセンブリが含まれており、これまで研究の対象となることの少なかったアジア系集団に関して、貴重なゲノム情報が得られた。
参考文献:
Gao Y. et al.(2023): A pangenome reference of 36 Chinese populations. Nature, 619, 7968, 112–121.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06173-7
このデータには、中国の36の少数民族集団を代表する58例の中核試料に基づく、高品質でハプロタイプ位相化済みの116例の新規変異(de novo変異、親の生殖細胞もしくは受精卵や早期の胚で起きた変異)集合の収集が含まれます。CPCのこの中核集合は、高忠実度の長い読み取りの塩基配列解読の網羅率が平均30.65倍で、配列の連続性(N50コンティグ長)が平均3563万塩基以上、全長が平均30億1000万塩基で、GRCh38参照配列に対して、ユークロマチン多型配列が1億8900万塩基対、タンパク質コード遺伝子の重複が1367件追加されました。また、1590万個の小さな多様体と78072個の構造多様体が明らかになり、そのうち590万個の小さな多様体と34223個の構造多様体は、最近発表されたパンゲノム参照配列(関連記事)では示されていませんでした。このCPCデータは、対象となることが少なかった少数民族集団の人々を含めると、新規の配列や欠けていた配列の発見が顕著に増加することを実証しています。
これまで欠けていた参照配列には、角質化、紫外線照射への応答、DNA修復、免疫応答、寿命と関連する、きわめて重要な機能をもたらす古代型人類(絶滅ホモ属)族由来のアレル(対立遺伝子)や遺伝子が多く含まれており、これは、ヒトの進化に新たな光を当て、複雑疾患のマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)で欠けている遺伝性を見いだすのに、大きな可能性を示しています。これに関して、アジア東部の主要な現代人集団と比較して、カザフスタンやキルギスなどアジア中央部の現代人集団では、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)個体(デニソワ5号)的な配列が少ない、と示されており、これらアジア中央部の現代人集団がユーラシア西部系集団の遺伝的影響を一定以上受けているためではないか、と推測されています。
こうしたゲノムにおける絶滅ホモ属由来の領域の違いは種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)についても示されており、タイ・カダイ語族話者やオーストロアジア語族話者はアジア東部の主要な現代人集団と比較して、デニソワ人的な配列が多くなっています。こうした現代人集団のゲノムにおける絶滅ホモ属由来の領域の割合の違いは、現代人の各地域集団の形成過程の解明に役立つと期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ゲノミクス:中国の36集団のパンゲノム参照配列
ゲノミクス:中国の少数民族のパンゲノム参照配列
今回、中国人パンゲノムコンソーシアム(CPC)の第1段階のデータが報告されている。このデータには、中国の36の少数民族集団を代表する58例の中核標本に基づくde novoアセンブリが含まれており、これまで研究の対象となることの少なかったアジア系集団に関して、貴重なゲノム情報が得られた。
参考文献:
Gao Y. et al.(2023): A pangenome reference of 36 Chinese populations. Nature, 619, 7968, 112–121.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06173-7
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