避妊による同性間の性的行動と関わる遺伝的基盤への影響
避妊による同性間の性的行動と関わる遺伝的基盤への影響に関する研究(Song, and Zhang., 2023)が公表されました。同性間の性的行動については、生物学的側面からも強い関心が寄せられてきており、さまざまな研究があり、それぞれ1000人以上のヨーロッパ系の男性の同性愛者と異性愛者を対象として、遺伝的基盤を調べた研究を当ブログでも取り上げました(関連記事)。本論文はイギリスを対象とし、同性間の性的行動は遺伝性でもあるものの、避妊法の普及によりそうした遺伝的基盤が失われていく可能性を指摘します。
●要約
ヒトの同性間の性的行動(same-sex sexual behavior、略してSSB)は遺伝性で、子の減少につながるので、SSB関連のアレル(対立遺伝子)が選択的に除去されなかった理由は不可解です。現時点の証拠は、SSB関連アレルが、性的相手の数の増加とその結果としての子の数の増加により、異性間の性的行動のみを行なう個体の利益となる、という拮抗的多層遺伝仮説を支持しています。しかし、イギリス王国生物銀行(United Kingdom biobank、略してUKB)の分析により本論文では、1960年代の経口避妊以降、より多くの性的相手を有することはもはや、より多くの子を有することを予測しなくなり、SSBは今や子の数と遺伝的に負の相関となる、と示され、現代社会におけるSSBの遺伝的維持の喪失が示唆されます。
●研究史
ヒト社会全体の個体の約2~10%がSSBを行ない、広義の遺伝率は30%程度です。本論文は、SSBのみを行なうかどうかに関わらず、SSBを行なう個体をSSB個体と呼びます。本論文は、異性間の性的行動(opposite-sex sexual behavior、略してOSB)のみを行なう個体を、OSBと呼びます。SSB個体群はOSB個体群よりも子の数がかなり少ないので、なぜSSB関連アレルが進化において選択的に除去されなかったのか、不思議に思われます。最近の研究(関連記事)は、SSBとOSB個体の性的相手の数との間の正の遺伝的相関を見つけ、これはSSB関連アレルを有するOSB個体が、そうしたアレルを有さない個体よりも多くの性的相手を有する、ということを意味します。
ヒトの歴史において一般的だった一夫多妻では、より多くの性的相手を有する男性が、通常はより多くの子供を有する、と一般的に考えられています。女性の性的相手の数が、その子供の人数を明確に予測する、という伝統的なヒト社会から得られた証拠もあります。したがって、上述の発見から、SSB関連アレルは少なくとも前近代社会においてOSB個体に生殖上の利点を提供し、それは原理的に拮抗的多層遺伝の一般仮説下におけるこれらのアレルの進化的維持を説明できる、と示唆されます。
しかし、過去50~100年間の急速な社会変化は、生殖に対する考えや生殖の慣行を大きく変えてきました。とくに、1960年代以降の避妊法の現代化と普及は、OSB個体の子の数と性的相手の数を大きく切り離し、これはSSBの遺伝的維持に関する上述の機序を消滅させるかもしれません。この仮説を検証するため本論文は、1937~1970年に生まれて、2006~2010年に募集されたイギリス人約50万個体の被験者(関連記事)の、遺伝的および表現型の情報のデータベースであるUKBを用いました。
●分析結果
まず、性的相手の数と子供の数がOSB個体で表現型的に相関しているのかどうか、調べられました。人口階層化を防ぐため、ヨーロッパ人祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有する452557人のUKB被験者の焦点が当てられました。これはUKBで最大の民族集団であり、そのうち374585人の被験者が性的相手に関する質問に答えました。これらの回答により、358954人のOSB個体の特定が可能になりました。性的相手の数に対する子供の数の表現型回帰が、遺伝的性別と年齢と年齢の二乗と最初の10の遺伝的主成分の共変数で実行されました。社会経済的交絡因子も、共変数で世帯収入や剥奪指標や教育年数や最初の性交の年齢や二乗項を含めることにより、制御されました。男女をともに分析すると、性的相手の数はOSB個体では子供の数を負に予測する、と分かりました。ずっと強い効果が、男性よりも女性で観察されました。
次に、OSB個体間で性的相手の数と子供の数との間の遺伝的相関が推定され、遺伝的原因により2つの形質が共有する分散の割合を推定します。大規模なゲノム規模関連研究(genome-wide association studies、略してGWAS)がOSBヨーロッパ祖先系統人口集団におけるこれら2つの形質についてそれぞれ実行されて要約統計が得られ、それに基づいて、形質間連鎖不平衡(linkage disequilibrium、略してLD)得点回帰を用いて遺伝的相関が計算されました。遺伝的相関は、ともに分析された男女のOSB個体でも、男性OSB個体でも統計的に有意ではありませんが、女性のOSB個体では有意に負です。
イギリス全土に広く分布する19ヶ所のUKB採用施設からの標本(施設1ヶ所につき1万人超の被験者)が上述の表現型もしくは遺伝的相関について個々に分析されると、施設の大半は有意ではないか負の相関を示し、本論文の結果が一般的であることを示唆します。これらの調査結果から、伝統的な社会からの予測に反して、OSB個体の性的相手の数が現在のイギリス人口集団では表現型もしくは遺伝的に子の数を確実に予測する、という統計的に有意な証拠は一般的にない、と示唆されます。したがって、UKBで再現された以前に報告されたSSBとOSB個体における性的相手の数との間の強い正の遺伝的相関(関連記事)は、SSBとOSB個体における子供の数との間の正の遺伝的相関とは解釈されません。
既婚女性と未婚女性でそれぞれ1961年と1967年経口避妊薬が利用可能になった後、イギリスでは避妊のかなりの増加が起きました。上述の調査結果における避妊の潜在的役割をより具体的に評価するため、その後の分析ではUKBデータがコホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)に分割されました。UKB被験者の99%超が1950~1989年の間に最初の性交を行なっているので、全てのOSB被験者は、最初の性交の年齢に応じて8つの5年ごとのコホートに分割されました。次に、回帰により、各コホートにおける子供の数への性的相手の数の表現型の影響が調べられました。
興味深いことに、係数βは最初の2コホート(1950~1959年)では正でしたが、その後の全てのコホート(1960~1989年)では負になりました(図1)。Βの兆候の転換は、イギリスにおける経口避妊薬の利用可能性および避妊の普及と同時に起きました。1950~1954年のコホートの構成員は、1960年以後にも依然として性的に活発だった可能性が高いので、そのβ値は増加する避妊にも影響を受けたかもしれません。したがって、UKBでは1950年の前に性的に活発になった充分な数の個体を分析できませんでしたが、そのβは1950~1954年のコホートよりもさらに正だった可能性が高く、前近代社会におけるSSBの遺伝的維持に関する以前に提案された機序(関連記事)を裏づけます。以下は本論文の図1です。
図1の観察は、SSBと全個体における子供の数との間の遺伝的相関が、1960年代の経口避妊薬の利用可能以来、負になったのかどうか、という問題を提起します。避妊の増加は生殖力の遺伝的構造を変えるかもしれないので(しかし、SSBのそれは変えません)、被験者の最初の性交が起きた10年ごとに分類された4つのUKBコホートそれぞれについて、子供の数の GWAS要約統計が取得されました。本論文では、8コホートの代わりに4コホートが検討され、それは、遺伝的相関の推定には、比較的少ない数のSSB個体が必要だからです。
興味深いことに、その遺伝的相関は1950年代のコホートでは有意に正で(図2)、SSB関連アレルが全体的に1950年代には正の生殖効果をもたらした、と示唆されます。これは必ずしも、SSB関連アレルが正の選択を受けた、と意味しているわけではないことに要注意です。なぜならば、これらのアレルは、生殖上の利益を相殺する死亡率の増加など、有害な非生殖上の効果を有しているかもしれないからです。遺伝的相関は、1960年代と1970年代のコホートでは、わずかではあるものの、有意ではなく負になりましたが、1980年代のコホートでは有意に負になりました。つまり、SSB関連アレルは現在のイギリス人口集団では全体的に生殖に有害です。以下は本論文の図2です。
●考察
要約すると、ヒトSSB関連アレルの過去の進化的維持に関わる主要な機序が、性的相手の数を増やすことによるOSB個体への生殖上の利益の提供にあったならば、この機序はもはや現代社会において作用しておらず、恐らくは避妊法の広範な使用のため少なくとも過去半世紀にわたって消え去りました。注目すべきことに、性的相手の数は今や、OSB個体における子供の数を負に予測しており、これは恐らく、個体の有する時間が固定されていることを考えると、避妊により分離できる性的関係の時間と育児との間のトレードオフ(交換)があるからです。じっさい、SSBは現在、全個体の子供の数と遺伝的に負に相関しており、多層遺伝の特定の機序に関わらず、SSB関連アレルには子供の数を減らす複合効果がある、と示唆されます。
OSB個体に対するSSB関連アレルの潜在的な生殖上の利益は、まだ検証されていないものの、早期の生殖を促進することで、これは世代時間を短縮し、それにより適応度を増加させます。本論文は、SSBとOSBの女性の平均生殖年齢との間の遺伝的相関を推定できましたが、統計的に有意ではない相関が見つかりました。報告されているSSB男性の出生順位の増加が、遺伝的影響ではなく表現型可塑性に由来することに要注意です。まとめると、これらの観察からの予測は、SSB関連アレルは新たな維持機序が出現しない限り、その頻度がじょじょに減少する、というものです。それにも関わらず、本論文の予測は必ずしも、SSBの割合が減少しないことを示唆し、それは、SSBが環境要因にも影響を受けるからです。じっさいSSBと報告するUKBにおけるヨーロッパ人祖先系統の被験者の割合は、図2に記載された4コホートでは一般的に上昇しており(それぞれ、2.8%、2.2%、3.9%、5.4%)、SSBの行動の確率および/もしくはSSBとの報告の確率が増加するかもしれない、SSBに向けての社会の解放性増加に起因する可能性が高そうです。
本論文で検証された多くの表現型の特徴が環境の影響を大きく受けることは注目に値し、ヨーロッパ人祖先系統のイギリス人に基づく本論文の結果かが、多様な文化的および社会的および経済的および/もしくは政治的環境の人口集団では、一般的パターンを表していないかもしれない可能性を意味します。したがって、人口集団全体にわたっての本論文の調査結果の普遍性に対処する、将来の研究が必要になるでしょう。より広くは、急速な経済および技術的進歩がヒトの表現型の特徴の遺伝的構造とヒトの進化に影響を及ぼす程度は、さらなる調査に値する主題です。
参考文献:
Song S, and Zhang J.(2023): Contraception ends the genetic maintenance of human same-sex sexual behavior. PNAS, 120, 21, e2303418120.
https://doi.org/10.1073/pnas.2303418120
●要約
ヒトの同性間の性的行動(same-sex sexual behavior、略してSSB)は遺伝性で、子の減少につながるので、SSB関連のアレル(対立遺伝子)が選択的に除去されなかった理由は不可解です。現時点の証拠は、SSB関連アレルが、性的相手の数の増加とその結果としての子の数の増加により、異性間の性的行動のみを行なう個体の利益となる、という拮抗的多層遺伝仮説を支持しています。しかし、イギリス王国生物銀行(United Kingdom biobank、略してUKB)の分析により本論文では、1960年代の経口避妊以降、より多くの性的相手を有することはもはや、より多くの子を有することを予測しなくなり、SSBは今や子の数と遺伝的に負の相関となる、と示され、現代社会におけるSSBの遺伝的維持の喪失が示唆されます。
●研究史
ヒト社会全体の個体の約2~10%がSSBを行ない、広義の遺伝率は30%程度です。本論文は、SSBのみを行なうかどうかに関わらず、SSBを行なう個体をSSB個体と呼びます。本論文は、異性間の性的行動(opposite-sex sexual behavior、略してOSB)のみを行なう個体を、OSBと呼びます。SSB個体群はOSB個体群よりも子の数がかなり少ないので、なぜSSB関連アレルが進化において選択的に除去されなかったのか、不思議に思われます。最近の研究(関連記事)は、SSBとOSB個体の性的相手の数との間の正の遺伝的相関を見つけ、これはSSB関連アレルを有するOSB個体が、そうしたアレルを有さない個体よりも多くの性的相手を有する、ということを意味します。
ヒトの歴史において一般的だった一夫多妻では、より多くの性的相手を有する男性が、通常はより多くの子供を有する、と一般的に考えられています。女性の性的相手の数が、その子供の人数を明確に予測する、という伝統的なヒト社会から得られた証拠もあります。したがって、上述の発見から、SSB関連アレルは少なくとも前近代社会においてOSB個体に生殖上の利点を提供し、それは原理的に拮抗的多層遺伝の一般仮説下におけるこれらのアレルの進化的維持を説明できる、と示唆されます。
しかし、過去50~100年間の急速な社会変化は、生殖に対する考えや生殖の慣行を大きく変えてきました。とくに、1960年代以降の避妊法の現代化と普及は、OSB個体の子の数と性的相手の数を大きく切り離し、これはSSBの遺伝的維持に関する上述の機序を消滅させるかもしれません。この仮説を検証するため本論文は、1937~1970年に生まれて、2006~2010年に募集されたイギリス人約50万個体の被験者(関連記事)の、遺伝的および表現型の情報のデータベースであるUKBを用いました。
●分析結果
まず、性的相手の数と子供の数がOSB個体で表現型的に相関しているのかどうか、調べられました。人口階層化を防ぐため、ヨーロッパ人祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有する452557人のUKB被験者の焦点が当てられました。これはUKBで最大の民族集団であり、そのうち374585人の被験者が性的相手に関する質問に答えました。これらの回答により、358954人のOSB個体の特定が可能になりました。性的相手の数に対する子供の数の表現型回帰が、遺伝的性別と年齢と年齢の二乗と最初の10の遺伝的主成分の共変数で実行されました。社会経済的交絡因子も、共変数で世帯収入や剥奪指標や教育年数や最初の性交の年齢や二乗項を含めることにより、制御されました。男女をともに分析すると、性的相手の数はOSB個体では子供の数を負に予測する、と分かりました。ずっと強い効果が、男性よりも女性で観察されました。
次に、OSB個体間で性的相手の数と子供の数との間の遺伝的相関が推定され、遺伝的原因により2つの形質が共有する分散の割合を推定します。大規模なゲノム規模関連研究(genome-wide association studies、略してGWAS)がOSBヨーロッパ祖先系統人口集団におけるこれら2つの形質についてそれぞれ実行されて要約統計が得られ、それに基づいて、形質間連鎖不平衡(linkage disequilibrium、略してLD)得点回帰を用いて遺伝的相関が計算されました。遺伝的相関は、ともに分析された男女のOSB個体でも、男性OSB個体でも統計的に有意ではありませんが、女性のOSB個体では有意に負です。
イギリス全土に広く分布する19ヶ所のUKB採用施設からの標本(施設1ヶ所につき1万人超の被験者)が上述の表現型もしくは遺伝的相関について個々に分析されると、施設の大半は有意ではないか負の相関を示し、本論文の結果が一般的であることを示唆します。これらの調査結果から、伝統的な社会からの予測に反して、OSB個体の性的相手の数が現在のイギリス人口集団では表現型もしくは遺伝的に子の数を確実に予測する、という統計的に有意な証拠は一般的にない、と示唆されます。したがって、UKBで再現された以前に報告されたSSBとOSB個体における性的相手の数との間の強い正の遺伝的相関(関連記事)は、SSBとOSB個体における子供の数との間の正の遺伝的相関とは解釈されません。
既婚女性と未婚女性でそれぞれ1961年と1967年経口避妊薬が利用可能になった後、イギリスでは避妊のかなりの増加が起きました。上述の調査結果における避妊の潜在的役割をより具体的に評価するため、その後の分析ではUKBデータがコホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)に分割されました。UKB被験者の99%超が1950~1989年の間に最初の性交を行なっているので、全てのOSB被験者は、最初の性交の年齢に応じて8つの5年ごとのコホートに分割されました。次に、回帰により、各コホートにおける子供の数への性的相手の数の表現型の影響が調べられました。
興味深いことに、係数βは最初の2コホート(1950~1959年)では正でしたが、その後の全てのコホート(1960~1989年)では負になりました(図1)。Βの兆候の転換は、イギリスにおける経口避妊薬の利用可能性および避妊の普及と同時に起きました。1950~1954年のコホートの構成員は、1960年以後にも依然として性的に活発だった可能性が高いので、そのβ値は増加する避妊にも影響を受けたかもしれません。したがって、UKBでは1950年の前に性的に活発になった充分な数の個体を分析できませんでしたが、そのβは1950~1954年のコホートよりもさらに正だった可能性が高く、前近代社会におけるSSBの遺伝的維持に関する以前に提案された機序(関連記事)を裏づけます。以下は本論文の図1です。
図1の観察は、SSBと全個体における子供の数との間の遺伝的相関が、1960年代の経口避妊薬の利用可能以来、負になったのかどうか、という問題を提起します。避妊の増加は生殖力の遺伝的構造を変えるかもしれないので(しかし、SSBのそれは変えません)、被験者の最初の性交が起きた10年ごとに分類された4つのUKBコホートそれぞれについて、子供の数の GWAS要約統計が取得されました。本論文では、8コホートの代わりに4コホートが検討され、それは、遺伝的相関の推定には、比較的少ない数のSSB個体が必要だからです。
興味深いことに、その遺伝的相関は1950年代のコホートでは有意に正で(図2)、SSB関連アレルが全体的に1950年代には正の生殖効果をもたらした、と示唆されます。これは必ずしも、SSB関連アレルが正の選択を受けた、と意味しているわけではないことに要注意です。なぜならば、これらのアレルは、生殖上の利益を相殺する死亡率の増加など、有害な非生殖上の効果を有しているかもしれないからです。遺伝的相関は、1960年代と1970年代のコホートでは、わずかではあるものの、有意ではなく負になりましたが、1980年代のコホートでは有意に負になりました。つまり、SSB関連アレルは現在のイギリス人口集団では全体的に生殖に有害です。以下は本論文の図2です。
●考察
要約すると、ヒトSSB関連アレルの過去の進化的維持に関わる主要な機序が、性的相手の数を増やすことによるOSB個体への生殖上の利益の提供にあったならば、この機序はもはや現代社会において作用しておらず、恐らくは避妊法の広範な使用のため少なくとも過去半世紀にわたって消え去りました。注目すべきことに、性的相手の数は今や、OSB個体における子供の数を負に予測しており、これは恐らく、個体の有する時間が固定されていることを考えると、避妊により分離できる性的関係の時間と育児との間のトレードオフ(交換)があるからです。じっさい、SSBは現在、全個体の子供の数と遺伝的に負に相関しており、多層遺伝の特定の機序に関わらず、SSB関連アレルには子供の数を減らす複合効果がある、と示唆されます。
OSB個体に対するSSB関連アレルの潜在的な生殖上の利益は、まだ検証されていないものの、早期の生殖を促進することで、これは世代時間を短縮し、それにより適応度を増加させます。本論文は、SSBとOSBの女性の平均生殖年齢との間の遺伝的相関を推定できましたが、統計的に有意ではない相関が見つかりました。報告されているSSB男性の出生順位の増加が、遺伝的影響ではなく表現型可塑性に由来することに要注意です。まとめると、これらの観察からの予測は、SSB関連アレルは新たな維持機序が出現しない限り、その頻度がじょじょに減少する、というものです。それにも関わらず、本論文の予測は必ずしも、SSBの割合が減少しないことを示唆し、それは、SSBが環境要因にも影響を受けるからです。じっさいSSBと報告するUKBにおけるヨーロッパ人祖先系統の被験者の割合は、図2に記載された4コホートでは一般的に上昇しており(それぞれ、2.8%、2.2%、3.9%、5.4%)、SSBの行動の確率および/もしくはSSBとの報告の確率が増加するかもしれない、SSBに向けての社会の解放性増加に起因する可能性が高そうです。
本論文で検証された多くの表現型の特徴が環境の影響を大きく受けることは注目に値し、ヨーロッパ人祖先系統のイギリス人に基づく本論文の結果かが、多様な文化的および社会的および経済的および/もしくは政治的環境の人口集団では、一般的パターンを表していないかもしれない可能性を意味します。したがって、人口集団全体にわたっての本論文の調査結果の普遍性に対処する、将来の研究が必要になるでしょう。より広くは、急速な経済および技術的進歩がヒトの表現型の特徴の遺伝的構造とヒトの進化に影響を及ぼす程度は、さらなる調査に値する主題です。
参考文献:
Song S, and Zhang J.(2023): Contraception ends the genetic maintenance of human same-sex sexual behavior. PNAS, 120, 21, e2303418120.
https://doi.org/10.1073/pnas.2303418120
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