北アメリカ大陸東岸の初期植民地住民のゲノムデータ

 北アメリカ大陸東岸の初期植民地住民のゲノムデータを報告した研究(Fleskes et al., 2023)が公表されました。近世以降のヨーロッパ系勢力による広範な植民地化の進展は世界規模の人口動態に大きな影響を及ぼし、とくにアフリカからアメリカ大陸へは多くの人々が奴隷として強制的に移動させられ、カリブ海地域を初めとしてアメリカ大陸圏の人口構造を大きく変えました。本論文は、北アメリカ大陸東岸の初期植民地住民のゲノムデータを報告することにより、こうした人口動態の大きな変化の一側面を提示しており、今後歴史学などですでに明らかにされた知見を補完するような古代ゲノム研究が盛んになっていく、と予想されます。


●要約

 北アメリカ大陸の17世紀の植民地化により、数千人ものヨーロッパ人がデラウェア地域の先住民の土地に流入し、それは今では、アメリカ合衆国の大西洋中部地域があるチェサピーク湾の東側境界を構成します。これら最初の植民地移住の人口統計学的特徴は均一ではなく、ヨーロッパ人ヨーロッパ系アメリカ人は他国や近隣の植民地から、自由人の単身もしくは家族単位や年期奉公人や小作農として移住してきました。ヨーロッパ人の入植者は、チェサピーク地域への数千人のアフリカ人の強制移送を通じて、人種差別的な奴隷制度を制定しました。デラウェア地域におけるアフリカ人の子孫の個体群についての歴史的情報は限られており、1700年頃までの人口推定値は500人未満です。

 この期間の人口史に光を当てるため、本論文はデラウェア州に位置するエイヴリーズ・レスト(Avery’s Rest)遺跡(1675~1725年頃)の11個体の低網羅率のゲノムを分析しました。前の骨学とミトコンドリアDNA(mtDNA)配列の分析は、アフリカ人の母系子孫の3個体の北群から約4.572m~6.096m離れて埋葬された、ヨーロッパ人の母系子孫8個体の南群を示しました。常染色体の結果はさらにそれぞれ、ヨーロッパ北西部参照人口集団もしくはアフリカ西部および西部~中央部の参照人口集団とのゲノム類似性を明らかにします。ヨーロッパ人祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の3世代にわたる母方親族と、アフリカ人祖先系統の成人と子供との間の父子関係も確認されました。これらの調査結果は、17世紀後半および18世紀初頭の北アメリカ大陸先における出自と家族関係の理解を深めます。


●ゲノム配列決定の結果

 ヒトのゲノムとmtDNAが、エイヴリーズ・レスト遺跡の11個体のそれぞれの側頭骨の錐体突起から抽出されました。DNA抽出は全ゲノム濃縮を経て、0.17~0.64倍のゲノム網羅率で生成されました(表1)。現在のDNA配列汚染の推定値が計算され、染色体が男性のX染色体の汚染は4.5%未満で、現在のmtDNAの汚染は0.73~15.38%の範囲でした。4個体(AR03、AR07、AR09、AR10)は5%超のmtDNA汚染を示しました。その結果、以下の人口分析の全て、つまり主成分分析(principal component analysi、略してPCA)とADMIXTURE とf3統計と親族関係分析で、PMDtoolsを用いて損傷のあるそれの個体のみを含めて配列読み取りを制限し、本論文の調査結果において矛盾があるのかどうか、判断されました。その結果は使用可能な配列読み取り数の減少により影響を受けましたが、最初の推定値と大きくは異なりませんでした。

 最初の塩基部位における損傷の全体的な割合は5.16~21.33%で、ライブラリ調整中の部分的なUSER処理と一致します。損傷パターンは、まずMapDamageを用いて特徴づけられ、3′末端におけるグアニンからアデニンへの置換率増加と、5′末端におけるシトシンからチミンへの置換率減少が確認されました。この非対称な損傷のパターンは、ライブラリ増幅中におけるニューイングランド生物学研究室社(New England Biolabs、略してNEB)のフュージョン高正確度DNAポリメラーゼ(Phusion High-Fidelity DNA Polymerase)の使用に起因する可能性が高く、これはウラシル塩基を読み取れないものの、CpG(シトシンとグアニンがホスホジエステル結合でつながったDNA配列)メチル群への損傷の痕跡を保存します。PMDtoolsは「カモノハシ」選択を用いて実行され、5′および3′両末端におけるCpGメチル群への損傷の水準増加が検出され、DNA分解に起因する損傷が示唆されました。


●主成分分析

 エイヴリーズ・レスト遺跡個体群のゲノム祖先系統を確認するため、アフィメトリクス(Affymetrix)社ヒト起源(Affymetrix Human Origins)パネルで、異性塩基対置換(transversion、プリン塩基、つまりアデニンおよびグアニンと、ピリミジン塩基、つまりシトシンとチミンとの間の置換)部位に対して、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、略してSNP)が呼び出されました。SmartPCAの結果は、大陸祖先系統に基づいて11個体の2群への分離を明確に示した以前の調査結果を補強し、南方の埋葬群の8個体はPCA空間ではヨーロッパおよび中東の参照人口集団とクラスタ化し(まとまり)、北方群の3個体はアフリカの参照人口集団に投影されます(図1A)。この結果を検証するため、SmartPCAが損傷を受けた読み取りのみでも実行され、その結果は類似のデータを示します。以下は本論文の図1です。
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 ヨーロッパ人口集団の近くに投影された8個体(AR01~AR08)について、ヒト起源パネルにおいてヨーロッパ参照人口集団のみとのゲノム類似性が調べられました。SmartPCAの結果から、この8個体はヨーロッパ北西部の参照人口集団の近くに投影される、と示されました(図1B)。ヨーロッパ祖先系統のより詳細な評価を得るため、追加のSmartPCAがヒト起源パネルでヨーロッパの人口集団のみで実行されました。ヨーロッパ祖先系統を有する8個体は、イギリスおよびフランスの人口集団と最も近くにクラスタ化しました。

 アフリカ祖先系統を有する3個体のゲノム類似性が、78の人口集団および3558個体の特注パネルを用いて、さらに評価されました。SmartPCAの結果から、これら3個体はさまざまな地域のアフリカの参照人口集団とクラスタ化する、と示唆されました(図2B)。個体AR09は、バルバドスの混合アフリカ系子孫人口集団とともに、PCAの中央に向かって投影されました。個体AR10はアフリカ西部~中央部のバントゥー諸語話者人口集団が投影された範囲内に収まりますが、個体AR11はアフリカ西部と東部の人口集団間にクラスタ化します。以下は本論文の図2です。
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 そのアフリカ祖先系統のより良好な解像度を得るため、アフリカの西部と西部~中央部と南部の参照人口集団のデータを用いて、SmartPCAが実行されました。全体的に、これら3個体は第2主成分に沿って、アフリカ西部および西部~中央部の生物地理的集団との類似性を示しました。個体AR09はアフリカ西部の人口集団の近くに投影されましたが、個体AR10はアフリカ西部~中央部の人口集団とクラスタ化しました。対照的に、個体AR11はどの特定の人口集団とも密接に一致しませんでした。しかし、この手法は、現在のアフリカの参照人口集団が植民地期に存在した多様性の包括的な代表であることを前提としています(関連記事)。これが問題なのは、人口集団が統計的実体ではなく、アフリカ中央部における人口集団の分布が大西洋横断奴隷貿易により混乱させられ、アフリカの参照人口集団が刊行されたデータベースでは過小評価されているからです。


●大陸間および大陸内の混合

 エイヴリーズ・レスト遺跡の個体群について大陸間の人口集団の混合を調べるため、ヒト起源パネルの異性塩基対置換部位に対して、K(系統構成要素数)= 3~8でADMIXTUREを用いてそのゲノムデータが分析されました。その結果、これらの個体のどれでも大きな大陸間の混合は示されませんでした(図1C)。特注のアフリカ人パネルと、1000人ゲノム計画のヨーロッパ系アメリカ人(CEU)、中国の漢人(CHS)、メキシコ人(MXL)、ペルー人(PEL)の人口集団で、K=4~12でのADMIXTUREの実行により、アフリカ人の子孫の個体について混合パターンが調べられました。個体AR10で得られた混合特性は、アフリカ西部~中央部、つまりカメルーンとガボンの参照人口集団と類似していました。

 対照的に、個体AR09とAR11は、パネルではどの現在のアフリカの人口集団とも類似した混合特性を示しませんでしたが、個体AR09における主要なクラスタは、アフリカ西部の参照人口集団で高度に表されているようでした。個体AR11の混合特性も、全てのアフリカ人クラスタの組み合わせを含んでおり、どの地域集団とも密接に一致しません。このパターンから、AR11はいくつかの異なるアフリカの人口集団から遺伝的寄与を受けたか、主要な供給源人口集団が参照パネルでは表されていなかった、と示唆されます。

 次に、popstatsを用いて、エイヴリーズ・レスト(AR)遺跡の全個体について、ヒト起源参照パネルで外群f3統計が実行され、共有された遺伝的浮動のパターンが確認されました。本論文は、ヒト起源参照パネルにおける全ての人口集団に対して、f3(AR、標的人口集団;ムブティ人)統計を指定し、ここではムブティ人はアフリカ西部およびヨーロッパの人口集団に対して等しく外群を表します。その結果は、SmartPCAとADMIXTURE分析の調査結果を反映していました。個体AR0からAR08についてはヨーロッパ北部もしくは西部人口集団でより高いf3値があり、個体AR09とAR10とAR11については、アフリカのバントゥー諸語話者人口集団でより高いf3値がありました。全ての値は3超の有意なZ得点を含んでいました。

 アフリカ系3個体の混合特性のより詳細な表示を得るため、配置f3(AR、標的人口集団;ムブティ人)を用いて、外群f3統計が実行されました。その結果は、アフリカの西部と南部と中央部にわたって3超の有意なZ得点があるより高いf3値を示し、どの1人口集団とも強い関連を明らかにしませんでした。さらに、個体AR09とAR11で混合f3統計が実行され、両個体がアフリカの参照人口集団のいずれかと混合したのかどうか、f3(AR、検証人口集団;標的人口集団)で検証されましたが、その証拠は見つかりませんでした。


●染色体の性別決定


 染色体の性別が、選別された読み取りから全個体で推定されました。その結果エイヴリーズ・レスト遺跡には女性2個体と男性9個体が埋葬された、と示され、成人の性別の骨学的評価を実証し、ヨーロッパ祖先系統の乳児(個体AR02)とアフリカ祖先系統の子供(個体AR11)は染色体では男性と明らかになりました。ヨーロッパ祖先系統の女性2個体は、南方の墓群に埋葬されました。


●mtDNAとY染色体の多様性

 エイヴリーズ・レスト遺跡個体群の母方および父方系統を調べるため、そのミトコンドリアゲノムと男性特有のY染色体(male-specific Y chromosome、略してMSY)配列が特徴づけられました。南方埋葬群の8個体は、イギリス王国を含めてヨーロッパ西部全域で広く見られるmtDNAハプログループ(H・J・U・T・W)を示しました(表1)。この8個体のうち3個体(成人男性のAR06およびAR07と乳児のAR02)はmtHg-H1af1aを共有しており、母方親族である強い可能性を示唆しています。北方埋葬群の3個体は明らかにアフリカのmtHg、つまりL0a1a2とL3d2とL3e3bのmtDNAを有していました。これらのうち、mtHg-L3e3およびL0a1a2の個体はアフリカ中央部に存在し、mtHg-L3dの個体はアフリカ西部の人口集団において高頻度で見られるものの、その下位系統であるmtHg-L3d2は、アフリカ東部の人口集団でも観察されました。mtHg-L0a1aおよびL3e3はアメリカ合衆国のサウスカロライナ州と南アフリカ共和国のセントヘレナ島の他の歴史時代のアフリカ人の子孫の個体群でも見られ、エイヴリーズ・レスト遺跡北方埋葬群の3個体は全て、アメリカ大陸において現在のアフリカ人の子孫人口集団で報告されてきました。

 染色体では男性(AR01、AR02、AR03、AR04、AR05、AR08、AR09、AR10、AR11)のMSYハプログループ(YHg)は、Yleafを用いてゲノム配列データから予測され、祖先の分布と類似のパターンを示しました(表1)。南方埋葬群はヨーロッパの父系の多様な一式を有しており、下位系統ではYHg-I1・I2・R1b1aが特定されました。YHg-I1aはヨーロッパ北部の人口集団で一般的に見られ、YHg- I2はヨーロッパの東西で、YHg-R1b1aはヨーロッパ西部全域で見られます。対照的に、北方埋葬群の3個体は、アフリカ人のYHg-E1b1aに分類されます。YHg-E1b1aはアフリカの西部と中央部と南部の人口集団、およびアメリカ大陸のアフリカ人の子孫人口集団で観察されます。さらに、成人男性個体(AR10)と子供の個体(AR11)は、E1b1aハプロタイプで同じ末端標識(Z5974)を共有しています(YHg-E1b1a1a1a1c1a1a3d5)。父方の遺伝的関係の決定的な証拠ではありませんが、この発見はその可能性を除外しません。


●遺伝的親族関係

 エイヴリーズ・レスト遺跡個体間の遺伝的親族関係の程度を調べるため、2つの主要な手法を用いて、常染色体の親族関係が評価されました。READ で平均的な対だの距離を用いて1親等の関係が推定され、3組の1親等の関係(AR06とAR07、AR07とAR02、AR10とAR11)が観察されました(図3)。この3組は、同じmtHg(AR02とAR06とAR07ではH1a1af1)もしくはYHg(AR10とAR11ではE1b1a1a1a1c1a1a3d5)を共有しています。アフリカ祖先系統を有する2個体について、同じmtHgを共有していない事実は、同一のYHgを有する1親等の親族である状況では、全キョウダイ(両親が同じキョウダイ)の関係であることを除外します。したがって、この証拠は、アフリカ人の子孫である成人男性(AR10)と子供(AR11)との間の父方の親子関係を裏づけます。以下は本論文の図3です。
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 さらに、NgsRelateを用いて、ヨーロッパ祖先系統を有する個体のみ(AR02とAR06とAR07)で1親等の関係がさらに特徴づけられました。このプログラムは、現在の人口集団から生成された入力アレル(対立遺伝子)頻度を必要とし、それはアフリカ人の個体群には正確には近似できませんでした。ヨーロッパ人の個体群については、1000人ゲノム計画からイギリス(GBR)とヨーロッパ北部(CEU)の人口集団を用いて、交差するSNPでアレル頻度が推定されました。個体AR06とAR07、およびAR02とAR07の組み合わせのR0とR1とKING系統統計は、先行研究により報告されたように、親子関係の範囲内に収まりました。さらに、NgsRelateはAR06とAR02との間の2親等の関係を特定しました。個体AR06とAR07とAR02は同じmtHgを共有しているので、世代間の母方の関係、具体的には祖母と母親と息子の関係だった可能性が高そうです。


●考察

 エイヴリーズ・レスト遺跡における本論文の調査結果は、植民地主義の絡み合った網がより大きな大西洋世界にどのように広がっているのか示し、17世紀末のデラウェアにおける初期植民地開拓や親族関係や大西洋横断奴隷貿易への重要な洞察を提供します。この事例研究は、以前には古文書の記録と考古学的証拠だけで推測されてきた、17世紀のデラウェアにおけるヨーロッパからの植民地移民とその居住の人口統計学的構成の最初のゲノム証拠を提供します。本論文の結果から、ヨーロッパ人の子孫である個体群はイギリスおよびフランスの人口集団と遺伝的最も近い、と示され、それは先住民の島々のオランダによる占拠に続く、デラウェアにおけるイギリス植民地の移民を示す歴史的記録と相関します。伝的に関連していない男性5個体が、祖母と母親と息子を表している母系親族の連続した3世代とともに埋葬されています。この人口統計学的特性は、初期植民地のチェサピークおよび大西洋中部におけるヨーロッパ人入植者の混合もしくは斑状の組織構造を裏づけており、そうした組織構造では、親族関係にない男性と生物学的親族小集団が社会と労働単位を形成しました。

 植民地期のデラウェアの人口動態への洞察の提供に加えて、エイヴリーズ・レスト遺跡におけるヨーロッパとアフリカの祖先系統の識別は、北アメリカ大陸の辺境地環境における葬儀慣行を反映しています。これらの個体は、密接しているものの分離している、大陸水準の祖先系統により区分された埋葬クラスタで葬られていました。その埋葬場所からさらに、ヨーロッパ人とアフリカ人の個人間の相互用は、埋葬が人種に基づいてより離れた場所にしばしば葬られていた、その後の南北戦争前の墓地における葬儀慣行により示唆されているよりも、統合的だったかもしれない、と示唆されます。それにも関わらず、大陸祖先系統に基づく埋葬の明確なクラスタ化から、境界の生活様式はその当初から、人種化された奴隷化の入植者の植民地慣行により支配されていた、と示唆されます。

 1665~1713年のデラウェア地域に入ってきた奴隷化されたアフリカ人はほとんど知られていないので、エイヴリーズ・レスト遺跡におけるアフリカ人個体群の存在は、それ自体が重要です。しかし、エイヴリーズ・レスト遺跡における成人のアフリカ人2個体(AR09とAR10)は、ジョン・エイヴリー(John Avery)の1682年9月の死の後の財産に対する負債に関する、1690年10月7日に申し立てられた財差異再評価事件の一部として記録されていました。再評価の理由として述べられたのは、アフリカ人男性2人が、最初の1683年の評価が実行される直前に死亡したことでした。不確かですが、エイヴリーズ・レスト遺跡で発見されたアフリカ人の成人2個体がその記録で記載されているアフリカ人男性2人だったかもしれません。以前の骨学的分析は、個体AR10の死因に関する情報を提供しました。その頭蓋は、死亡時もしくはその近い時期の鈍器での外傷による右側の頬骨弓と上顎の顔面骨折の証拠を示します。頭蓋の骨折場所は、対人暴力と一致します。

 成人AR10と子供AR11との間の父系での親子関係の特定は、北アメリカ大陸の植民地遺跡において古代DNAを用いた、アフリカ人の子孫の個体群における生物学的親族関係の最初の証明を表しています。AR10とAR11が並んで埋葬されたことは、生物学的親族関係が、父親(AR10)のに続いた死んだ可能性が高い、息子(AR11)の埋葬位置を決定したかもしれない、と示唆しています。埋葬位置から、他の埋葬のほとんどと同様の囲いの境界線に隣接して埋葬されたAR09は、AR10およびAR11より前に埋葬されたと、と示唆されます。父親と息子の関係は注目に値し、それは、家族がその奴隷主の意志で引き離される可能性があり、よくそうなったからで、構造的暴力が奴隷制度に埋め込まれていたことを反映しています。この発見は、古文書の記録における生物学的親族関係の証拠が限定的な、植民地時代初期におけるアフリカ人の子孫の個体群の歴史の理解にとくに重要です。

 さらに、この研究は、植民地時代の大西洋世界において、強制的に奴隷化されて周辺地域に連行されたアフリカの個体群の人口史への重要な洞察を提供します。父親(AR10)と息子(AR11)については、本論文の結果から、父親はアフリカ西部~中央部にたどれる祖先系統を有しているものの、息子は特定のアフリカの参照人口集団との明確な関連を示さない、と示唆されます。この調査結果から、エイヴリーズ・レスト遺跡で発見されなかったAR11の母親は、アフリカの異なる人口集団に由来した、と示唆されるかもしれません。親族関係にない成人のアフリカ人男性個体(AR09)は、アフリカ西部に祖先の起源があった可能性が高そうです。これらの結果は、北アメリカ大陸とカリブ海のアフリカ人の子孫の個体群および同時代の他のアフリカ系アメリカ人の他の古代ゲノム分析(関連記事)と一致しており、大西洋横断奴隷貿易におけるアフリカ西部および西部~中央部起源のより大きなパターンを広く反映しています。さらにゲノムデータから、大西洋横断奴隷貿易に埋め込まれた交流網は、イングランドの植民地時代の北アメリカ大陸における初期の中核地帯と周辺地帯との間で一貫していた、と示唆されます。


参考文献:
Fleskes RE. et al.(2023): Historical genomes elucidate European settlement and the African diaspora in Delaware. Current Biology, 33, 11, 2350–2358.E7.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.04.069

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