上部旧石器時代のペンダントから得られた古代人のDNA(追記有)

 上部旧石器時代のペンダントから得られた古代人のDNAを報告した研究(Essel et al., 2023)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。堆積物など非動物遺骸から古代DNAを解析する手法は近年急速に発展していますが、本論文は、人工遺物からの非破壊的な手法での古代DNA解析の手法を提示しており、たいへん注目されます。もちろん、古代DNAが得られるような人工遺物は少ないでしょうが、日本列島のように人類遺骸の残りにくい地域での古代人のDNA解析への適用も期待されます。


●要約

 石や骨や歯から作られた人工遺物は、更新世におけるヒトの生計戦略と行動と文化を理解する基礎です。これらの遺物は豊富ですが、人工遺物は、埋葬内で見つからなければ、形態学的もしくは遺伝学的に特徴づけられた特定のヒト個体と関連づけることはできず、そうした事例は更新世には稀です。したがって、生物学的性別もしくは遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)に基づいて更新世の個体群の社会的役割を識別する能力は限られています。本論文は、古代の骨と歯で作られた人工遺物に閉じ込められたDNAをじょじょに放出するための、非破壊的な手法の開発を報告します。

 ロシアのシベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された上部旧石器時代のシカの歯のペンダントから、古代のヒトとシカのミトコンドリアゲノムが回収され、このペンダントの年代が25000~19000年前頃と推定できました。核DNA分析から、このペンダントの製作者もしくは着用者は女性個体と推定され、この女性個体は、同じ頃に生きていたものの、シベリアのさらに東方でのみ以前には見つかっていた古代北ユーラシア人(Ancient North Eurasian、略してANE)個体群の1群との強い遺伝的類似性を有しています。この研究は、文化的および遺伝的記録を先史時代の考古学とどのように結びつけることができるのか、再定義します。


●研究史

 旧石器時代の遺物群には通常、近くで発見された場合でさえ、年代が数百年もしくは数千年異なっているかもしれない多くの物が含まれています。したがって、ヒト遺骸を特定の物と関連づけるのは難しいかもしれません。堆積物からのヒトDNAの回収の最近の進歩(関連記事1および関連記事2および関連記事3)は、遺伝学的人口集団と人工遺物を結びつけるために使用できます。しかし、これらの物の具体的な製作者もしくは使用者の特定には、現代の法医学的調査と同様に、物自体から直接的にヒトDNAを回収する必要があります。

 理論的には、そうした分析は動物の骨もしくは歯から作られた人工遺物で最も有望です。それは、そうした人工遺物が浸透性で、それにより体液(たとえば、汗や血液や唾液)の浸透をもたらすからだけではなく、DNAを吸着し、加水分解と核酸分解酵素活性による分解を減少させる、水酸燐灰石を含んでいるためでもあります。したがって、古代の骨と歯は、生涯において組織内で、その後には分解中に放出されるDNAにとってだけではなく、微生物群の形成もしくはヒトによる扱いを通じて死後に基盤に入る外因性DNAの液だめとして機能するかもしれません。

 しかし、古代の骨格資料からのDNA抽出は、破壊的な標本抽出が必要か、抽出緩衝器に直接的に鎮められる場合に標本改変の危険性があります。更新世遺跡における骨と歯で作られた人工遺物、とくに広く身体に密着して扱われるか着用されるペンダントや他の装飾品の少なさのため、保存が主要な関心となっています。したがって、この研究は、表面の微地形など資料を無傷で保存する、骨と歯からのDNA分離法の開発と、骨と歯で作られた人工遺物からりDNA回収の可能性の調査に着手しました。


●非破壊的なDNA分離法

 非破壊的なDNA抽出に適合する試薬を特定するため、フランスのカンシー(Quinçay)およびレス・コテス(Les Cottés)の旧石器時代遺跡で発見された、大きさと形が骨の人工遺物製作に通常用いられる素材と似ている改変されていない動物遺骸10点が選択され、それらが古代DNA抽出に以前に用いられたいくつかの試薬や、比較のための水に沈められました。これらには、(1)非破壊的DNA抽出で以前に提案されたグアニジンチオシアン酸含有試薬、(2)古代DNA抽出に一般的に用いられる脱灰剤であるエチレンジアミン4酢酸塩(ethylenediaminetetraacetate、略してEDTA)溶液、(3)表面に露出した汚染DNAの除去に用いられる試薬を酸化させるナトリウム次亜塩素酸塩(漂白剤)、(4)粉末状の骨標本から温度制御されたDNA放出を可能にすると最近示された、洗剤を添加したナトリウムリン酸塩緩衝物が含まれます。

 処理前後の定量的3次元表面構造分析を用いての微地形の地図作成から、グアニジンチオシアン酸含有試薬もしくはEDTAのどちらかに曝された全ての物でのかなりの表面改変が明らかになりました。対照的に、ナトリウムリン酸塩緩衝物など他の試薬では、散発的でより小さな変化のみが検出され(図1b)、これはおそらく、一部の物の配色の視覚的変化により示唆されるように、堆積物や他の小さな粒子の除去に起因します。この研究はこれらの結果に基づいて、連続的な培養を使用し、骨もしくは歯の基盤からDNAの段階的な萌出のため、温度ごとに3回の培養で、温度が21度と37度と60度と90度のナトリウムリン酸塩緩衝物において非破壊的なDNA分離手法を開発しました(図1a)。以下は本論文の図1です。
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 次に、これらの手法が11点の骨の対象に適用されました。これらの骨はQ10・Q19・Q27と分類され、数十年前にフランスのカンシー洞窟のシャテルペロニアン(Châtelperronian、シャテルペロン文化)で発掘され、45000~35000年前頃に道具として用いられた可能性があります。各温度で回収された最初のDNA断片から一本鎖DNAライブラリが調製され、哺乳類のミトコンドリアDNA(mtDNA)でライブラリが濃縮されました。配列されたmtDNA断片を科の水準での哺乳類分類群に割り当てるためのメタゲノム情報経路では、シカの骨である対象Q10の60度(109の断片)と90度(1519の断片)で、1628のシカ科のmtDNA断片が同定されました。これらの断片は末端におけるシトシン(C)からチミン(T)への置換の頻度増加を示しており、古代DNAで見られるシトシンの脱アミノ化と一致します。

 象牙で作られた別の対象Q15からは、シトシンからチミンへの置換の頻度増加を伴う、ゾウ科のmtDNAの2004の配列が、37度(248の読み取り)と60度(325の読み取り)と90度(1431の読み取り)で得られました。さらに、11点の対象物の各DNA断片で、古代DNA損傷の証拠がない、したがって発掘後のヒトとブタのDNAでの汚染に起因する、ヒト科とイノシシ科のmtDNA断片が特定されました。ヒトのDNA汚染はとくに深刻で、特定されたmtDNA断片の70.9%~98.3%に達し(合計で293~92949の断片、平均して17627の断片)、それにより古代のヒトもしくは他の哺乳類のDNAの痕跡が隠されたかもしれません。


●最近発掘された人工遺物の調査

 現代人のDNA汚染は、発掘中および発掘後に素手で扱われた物の表面に遍在しているようなので、物が部分的に露出したら汚染をすぐ防止するよう手袋と顔面マスクを用いて、2ヶ所の旧石器時代遺跡で進行中の発掘から人工遺物が収集されました。ブルガリアのバチョキロ洞窟(Bacho Kiro Cave)では、3点の上部旧石器時代の歯で作られたペンダント(以後、BKP1~3と呼ばれます)が、壁龕1のI層とH/I層とI/J層で回収されました。デニソワ洞窟では、南空洞の第11層では、歯で作られたペンダント(DCP1)が回収されました(図1c)。

 人工遺物に付着しているより大きな塊は手作業で除去され、その後で人工遺物は3回連続して水で洗浄されました。次に、DNAが堆積物の塊から抽出され、水が洗浄に用いられ、堆積物の粒子がこの過程で収集され(堆積物小粒)、同様に上述の非破壊的手法を用いて人口遺物からも堆積物の粒子が収集されました。古代の哺乳類のmtDNAが、一部の水の洗浄物および関連する堆積物小粒を除いて、分析された断片全てで検出されました(図2)。4点の人工遺物から放出されたDNAの軌跡は、哺乳類のmtDNAの最高量がリン酸塩に基づくDNA抽出において90度で得られた点で類似しており、その断片の数は、BKPでは734、BKP2では6614、BKP3では456、DCP1では77910です。しかし、バチョキロ洞窟資料ではライブラリ調整効率が低く(多くの断片で10%未満)、これは恐らく阻害物質の共抽出に起因し(図2)、回収されて配列決定できるよりも多くのDNAが放出された、と示唆されます。以下は本論文の図2です。
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 37度と60度と90度で得られたリン酸塩DNA断片は、BKP2とBKP3では古代クマ科断片が、DCP1ではシカ科mtDNA断片が優勢で、その形態学的識別と一致します。形態学的に明確ではないBKP1では、リン酸塩断片はウシ科のmtDNA断片が優勢でした。リン酸塩断片とは対照的に、人工遺物に付着した堆積物から回収されたDNAは、分類学的により不均質でした(図2)。さらに、ヒトmtDNA断片のかなり少ない数(断片ごとに0~2969、平均で246)が、カンシー遺跡の資料よりも最近発掘された人工遺物で回収されました。同様に、ひじょうに少ないイノシシ科のmtDNA断片(15もしくはそれ未満)が回収され、発掘後の汚染がほとんど起きなかった、と示唆されます。注目すべきは、シトシンの脱アミノ化の顕著な兆候が、DCP1の90度の断片の1つで回収されたヒトのmtDNA断片で観察されたことです。

 ヒトDNAの回収を増加させるため、具体的にヒトのmtDNAを標的とする捕獲調査一式を用いて、再び全てのライブラリが濃縮されました。バチョキロ洞窟の資料については、これによりBKP3の小粒で古代のヒトDNAの小さな痕跡(29の脱アミノ化したmtDNA断片)の検出が可能でしたが、他の断片では検出されませんでした。DCP1では、古代DNAの塩基損傷の顕著な証拠のあるヒトmtDNA断片が、水の洗浄物から回収された最初の2つの小粒で、最初の37度と60度の断片、および90度の3点の断片全てで特定されました。脱アミノ化したヒトmtDNA断片の最大数は、90度の第2(971)と第3(1096)の断片で得られ、高温での拡張培養がペンダントからの古代のヒトDNAの放出を可能にする、と示唆されます。

 DCP1の第二の90度の断片から得られた追加のライブラリの調整は、現代人の汚染の推定が最低で(0.1%、95%信頼区間では0.0~2.8%)、ヒトのmtDNAゲノムの62倍の平均網羅率と、ほぼ完全な共通配列が得られました。この配列は、系統樹ではmtDNAハプログループ(mtHg)Uに分類されるmtDNA配列とともに収まり(図3a)、他のヒト個体のmtDNA配列とは異なる7ヶ所の「診断部位」を含んでいます。これらの部位と重複するmtDNA断片では、86.6%(95%信頼区間では82.2~90.5%)がDCP1の状態と一致し、この断片で回収されたmtDNA断片が、全てではないものの主に、恐らくはペンダントの使用者か製作者である単一の古代人個体に由来する、と示唆されます。以下は本論文の図3です。
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 DCP1の共通配列の裏づけは、第1(77.8%、95%信頼区間では40.0~97.2%)および第3(82.8%、95%信頼区間では78.9~86.2%)の90度のリン酸塩断片ではわずかにより低く、これらの断片における現代人の汚染のわずかに高い推定値、つまり第1のリン酸塩断片では12.8%(95%信頼区間では1.0~24.6%)、第3のリン酸塩断片では6.6%(95%信頼区間では4.3~8.9%)であることと一致します。対照的に、DCP1の共通配列の裏づけは、先行する60度の断片では37.5%(95%信頼区間では8.5~75.5%)と低く、37度の断片では不確実で、堆積物小粒では低く、第1の堆積物小粒では20.0%(95%信頼区間では5.7~43.7%)、第2の堆積物小粒では9.5%(95%信頼区間では1.2~30.4%)です。これらの結果から、最初の水の洗浄物と90度以下のリン酸塩緩衝物での培養は、おもに1もしくは他の複数個体の古代のヒトDNAを放出しており、それは周辺堆積物のより少ない量に存在するか、DCP1の表面に直接的に吸着されていた、と示唆されます。


●系統発生分析と年代測定

 他の現代人および古代人のmtDNAゲノムとの系統樹におけるDCP1共通配列の分岐長に基づいて(図3a)、DCP1の年代は18500年前頃と推定され、95%最高事後密度区間では31600~4600年前です。さらに、シカ科のmtDNA調査を用いて、ワピチ(Cervus canadensis)と同定された歯の完全なmtDNAゲノムが、635倍の網羅率で再構築されました。この研究で生成された既知の年代の追加の8頭の古代のワピチのゲノムでの系統樹は、DCP1の年代を24700年前頃と推定しました(39000~12800年前の最高事後密度区間)。遺伝学的年代は両方とも、それぞれ、および第11層のDCP1の近くで発見された炭から得られた2点の放射性炭素年代(較正年代で、24200~23830年前と、39180~37560年前頃)のより新しい方と、95.4%の確率で一致します。本論文はしたがって、遺伝学的年代測定はペンダントの直接的な放射性炭素年代測定を不要にするものの、これは非破壊的なDNA抽出後も可能である、と提案します。

 核DNA分析では、第2と第3の90度のリン酸塩断片から得られたライブラリを用いて混合捕獲が実行され、現代人もしくは古代人で多型と知られており、ヒトと他の哺乳類との間で高度の配列分岐の領域に位置するヒトゲノムの部位が標的とされました。これらの部位のうち336429で配列情報が得られ(標的部位の71.5%)、現代人と非ヒト動物の汚染推定値はともに1%未満でした。f3統計とD統計を用いての現在の人口集団との比較は、アメリカ大陸先住民との高い類似性を示します(拡張図5)。以下は本論文の拡張図5です。
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 他の古代の個体群での主成分分析(principal component analysi、略してPCA)に投影されると、DCP1はシベリアのさらに東方の古代北ユーラシア人(Ancient North Eurasian、略してANE)の1群内に収まり、ANEには、シベリアの24000年前頃となるマリタ(Mal’ta)遺跡1号体(MA1)および17000年前頃となるアフォントヴァ・ゴラ(Afontova Gora)遺跡3号個体(AG3)が含まれます(関連記事)。この2個体はともに、D統計で検証した場合、非ANE個体群よりもDCP1の方と遺伝的に密接で、これら3個体(MA1とAG3とDCP1)は全て、f3統計とD統計では古代シベリア人およびアメリカ大陸先住民と同様の類似性を示します。さらに、X染色体と常染色体の配列網羅率の比較を可能とするためにショットガンデータがライブラリのうち1つから作られ、おもに単一の女性個体に由来する90度の断片のヒトDNA(図3b)と一致します。


●まとめ

 要するにこの研究では、骨もしくは歯から作られた人工遺物は、古代のヒトDNAの以前には開発されていなかった供給源であり、これは遠い過去にこれらの物を扱っていたか、有していたか、着用していた個体の祖先系統と生物学的性別についての洞察を提供できる、と浮き彫りになります。本論文で報告された非破壊的なDNA抽出手法は、このDNAの段階的な放出を可能とし、周囲の堆積物に由来するかもしれないDNAと製作もしくは使用中に物へと深く浸透したDNAの区別が可能です。注目すべきは、DCP1から得られたヒトの核ゲノムにおける標的部位の網羅率深度が、よく保存された更新世のヒト遺骸からの混合捕獲で得られたものと類似していることです。さらに、ヒトと非ヒト動物両方のDNAの回収により、その年代の2つの独立した遺伝学的推定が可能になりました。

 旧石器時代の骨製人工遺物からどのくらいの頻度でヒトDNAを回収できるのか判断するには、さらなる研究が必要です。表面のDNA汚染がこれらの分析を妨げるかもしれないので、考古学者には、発掘中および発掘後の扱いを最小限にする実施要綱の適用が求められます。これが行なわれれば、遺伝的分析と文化的分析を体系的に組み合わせて、更新世の人工遺物の使用の調査と、特定の生物学的性別もしくは遺伝的祖先系統の個体による作業の特殊化の可能性を解明できるようになるかもしれません。


参考文献:
Essel E. et al.(2023): Ancient human DNA recovered from a Palaeolithic pendant. Nature, 618, 7964, 328–332.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06035-2


追記(2023年6月9日)
 本論文がナショナルジオグラフィックで報道され、『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します(引用1および引用2)。



考古学:旧石器時代のペンダントから見つかった古代人のDNA

 ロシアのデニソワ洞窟で発見された約2万年前のシカの歯のペンダントは、北ユーラシア系民族の女性が身に着けていた可能性のあることが、このペンダントから回収された古代DNAによって示された。この知見は、非破壊的にDNAを抽出する革新的な方法を用いて得られたものであり、当時、このペンダントを取り扱ったヒト個体の身元を示す直接的な遺伝的証拠をもたらした。このことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。

 石、骨や歯でできた人工遺物は、旧石器時代のヒトの行動や文化に関する知見をもたらす。特に有望なのは、動物の骨や歯から作られた人工物で、多孔質の骨や歯には、DNAを含む体液(汗、血液、唾液など)が浸透するため、そのDNAを使用して、人工物の製作者や使用者を推測することができる。しかし、古代の骨格材料からDNAを抽出する場合、この古代の試料が破壊されたり変質したりする可能性がある他、抽出緩衝液に浸された試料が変質するリスクもあるため、これらの人工物を特定のヒト個体と結び付けることは難しい。

 今回、Elena Essel、Matthias Meyer、Marie Soressiらは、対象物をリン酸ナトリウム緩衝液に浸して、緩衝液の温度を徐々に上げる非破壊DNA抽出法を開発した。骨や歯でできた古代の人工遺物に閉じ込められたDNAは、緩衝液中に放出され、このDNAの塩基配列解読と解析ができるようになる。著者らは、この方法をシベリア南部(ロシア)のデニソワ洞窟で出土したシカの歯のペンダントに適用し、ワピチ(Cervus canadensis)と古代人のDNAを回収することに成功した。DNA解析の結果、ペンダントの年代は、約1万9000~2万5000年前と推定された。この年代測定は、DNAを使用して行われたため、放射性炭素年代測定に伴う破壊的なサンプリングが回避された。古代人のDNA解析をさらに続けたところ、このヒト個体(ペンダントの製作者または着用者と推定される)が、女性であり、この女性とほぼ同時期に生存し、シベリア東部の遠方でしか発見されていなかった北ユーラシア系古代民族と遺伝的に近縁だったことが判明した。

 論文らは、これまで未利用だったが、遺伝的情報と文化的情報を直接結び付けることのできる古代人のDNAについて、今回の研究で、そうしたDNAが古代の人工遺物によって供給される可能性があることが示されたと結論付けている。また、著者らは、人工遺物の表面のDNA汚染があると、こうした解析がうまくいかないため、人工遺物の発掘中と発掘後に人工遺物に触れることを最小限に抑えるためのプロトコルを適用することを提案している。


古生物学:旧石器時代のペンダントから得られた古代人のDNA

古生物学:旧石器時代のペンダントの所有者像

 今回、ロシアのデニソワ洞窟で出土した約2万5000年前のシカの歯のペンダントからDNAが抽出され、その製作者または装着者が女性で、シベリアのより東方の古代北ユーラシア人集団に近縁な人類集団に属していたことが明らかになった。

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