『卑弥呼』第107話「倭の未来」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年5月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハがヌカデに、田油津日女(タブラツヒメ)と名乗って暈(クマ)国に潜入して捕らわれたアカメを救出するよう、懇願するところで終了しました。今回は、夢を見ていたヤノハの前にモモソの霊が現れる場面から始まります。モモソはヤノハに、夢で息子(ヤエト)や弟のチカラオ(ナツハ)のことも考えていただろう、と指摘し、アカメはとっくに死んでいると思う、と告げます。息子も実の弟も友も、誰でもヤノハは平気で見捨てる、というわけです。もし倭の未来すら捨てたならば、お前は生きている資格がない、とモモソに告げられたヤノハは、その意味が分かりません。モモソはヤノハに、このままでは倭国全土で大戦が起き、日下(ヒノモト)はヤノハを信じる国々の半分を滅ぼすだろう、どうすれば戦を止められるか、ということだけを考えろ、と忠告します。

 鞠智(ククチ)の里(現在の熊本県菊池市でしょうか)では、捕らえられたアカメに、見張りの男性が夕餉を与え、最後の食事と伝えます。明朝、志能備(シノビ)の頭に引き渡され、手足を切られて鼻まで削がれる、と見張りはアカメに伝えて嘲笑します。そこへ1匹の犬(狼?)が近づき、アカメは檻の中から狼に餌をやると言って夕餉を見せ、狼は穴を掘り始めます。そこへ見張りの男性2人が戻ってきて、狼を追い払おうとしますが、犬に殺されてしまいます。アカメは狼の掘った穴から何とか脱出し、その先で待っていた犬3匹に導かれるままに逃げます。翌朝、志能備はアカメが脱出したことに気づき、志能備イヌの仕業であることから、ナツハが関わっている、と悟ります。アカメが逃げた先にはナツハがいますが、自分を知らないはずのナツハが救出に来たことに、アカメは疑問を抱きます。

 山社国(ヤマトノクニ)では、ヤノハがミマアキに、日下が筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に総攻撃をかけるのは時間の問題なので、どうすれば止められるのか、尋ねていました。ミマアキも毎日それを考えており、日下の侵略を止めるには、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の大半の国が山社側につかねばならない、とミマアキは答えます。言うは易しだが、と言うヤノハに、山社が権威を得ることだ、とミマアキは指摘します。権威は幻にしてまやかしだが、人が最も畏れるものだ、というわけです。どうすればよいのか、ヤノハに問われたミマアキは、倭国の人々が日下以上に畏れているものの力を借りる、とミマアキは答えます。それは一つには神だが、日見子(ヒミコ)は天照大神の化身で、日見子であるヤノハにはすでにそれがある、と指摘したミマアキは、この世で一番恐ろしい国は日下だろうか、とヤノハに問いかけます。ヤノハは、皆がとうてい勝てないと考えている国は、海の彼方の大国、つまり中原で覇権を握る国に使者を送れということか、と悟ります。ミマアキは、一刻も早くその国に使者を送り、その国から首尾よく「倭王」の称号をもらえれば、日下以外の全ての国の王が日見子様にかしずくだろう、と言います。ミマアキがヤノハに、那(ナ)のトメ将軍と自分を使ってください、と言うところで今回は終了です。


 今回は、アカメの脱出と大陸への遣使構想が描かれました。前回、犬(狼?)がアカメの近くに現れたので、アカメを救うのはチカラオ(ナツハ)ではないか、と予想しましたが、その通りとなりました。ただ、アカメが疑問に思ったように、アカメを知らないチカラオがなぜアカメを救出したのか、明かされておらず、ヤノハが命じたのかもしれませんが、ヤノハはすでにヌカデにもアカメの救出を命じています。ヤノハが念のために両者にアカメの救出を命じたのか、あるいはヤノハがチカラオに以前からアカメの密かな警固を命じており、チカラオが捕らえられたアカメを救出しようとしたのかもしれません。ミマアキはヤノハに大陸への遣使を勧めており、これは作中でも後半の大きな山場となりそうなので、たいへん注目されます。ただ、現時点での年代が明示されていませんが、ヤノハがトンカラリンの洞窟から脱出したさいに、イクメがヤノハに、倭国の王が大陸の帝より印章を授かったのは、150年前の光武帝の時代と、100年前の安帝の時代だ、と説明しており(第11話)、そこからせいぜい5年程度しか経っていないようですから、現時点で紀元後212年前後になる、と考えられます。そうすると、魏への遣使までまだ30年近くあるわけで、このまま中原で覇権を握る国へと使者を送り、物語が収束するわけではなさそうです。魏への遣使は遼東の公孫氏滅亡後すぐのことだったので、中原へと使者を送るものの、遼東の公孫氏政権に阻まれるのでしょうか。本州だけではなく、いよいよ大陸も舞台になりそうで、ますます壮大な物語になってきており、今後の展開もたいへん楽しみです。

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