アフリカ東部における中新世の生態系と類人猿の見直し

 アフリカ東部における中新世の生態系と類人猿に関する二つの研究が公表されました。日本語の解説記事もあります。一方の研究(Peppe et al., 2023)は、アフリカ東部におけるC4型の草の従来の想定よりも早い出現を指摘しています。アフリカの象徴的なC4型炭素固定経路で光合成を行なう草の生態系の構築は、人類を含む多くの哺乳類系統の進化論的解釈の中心です。C4型の草は乾燥や高温に耐えられるうえに、日陰を好む先行種であるC3型の草と比べて直射日光にも強い、と示されています。

 ヒト上科(類人猿)は中新世に大きな形態変化を経ており、強い後脚と直立姿勢を獲得しました。これまでの一般的な仮説では、この変化は熱帯林の樹木の末端枝にある果実を捕食への適応だった、と想定されてきました。長い間、C4型の草がアフリカ東部に初めて出現した時期の特定が試みられてきており、C4型の草がアフリカで生態学的に支配的になったのは、1000万年前頃以降と考えられています。しかし、1000万年前頃より古い古植物学的記録は疎らで、C4生物量の拡大時期や性質についての評価は限られています。

 本論文は、アフリカ東部の9ヶ所の前期中新世哺乳類遺跡の植生構造を、多代理設計の使用により記録しました。その結果、2100~1600万年前頃に、C4型のイネ科植物が局所的に豊富に存在し、森林から森林草原に至る異質な生息環境に寄与している、と明らかになりました。これらのデータから、アフリカおよび世界的にC4型の草が支配的な生息地を示す最古の証拠は1000万年以上さかのぼり、この時期のアフリカ東部は大規模な森林地帯だった、との通説に異議が唱えられることになり、哺乳類の進化に関する古生態学的解釈の見直しが迫られています。

 もう一方の研究(Maclatchy et al., 2023)はウガンダで発見された2100万年前頃のモロトピテクス(Morotopithecus)属化石から、類人猿系統における運動能力多様性の進化を調べました。類人猿は、直立した体躯と多彩な運動が特徴です。これらの特徴について、森林の末端枝から果実を食べるために進化した、との仮説があります。類人猿の適応的起源の進化的背景を調べるため、ウガンダのモロト2(Moroto II)遺跡から出土した類人猿化石とともに、複数の古環境代理が分析されました。

 その結果、2100万年前頃という確定した年代から、アフリカで最も早く豊富なC4型の草の証拠のある、季節的に乾燥した森林地帯である、と分かりました。また、葉を食べる類人猿であるモロトピテクス属が水分の少ない植物を食べていたことや、この遺跡から出土した頭蓋後方化石がサバンナやその他の開けた生態系に生息するヒト以外の現存霊長類のものと類似しており、類人猿的な運動適応を示している、と明らかになりました。これらの結果は、類人猿の歩行運動の多様性の起源が、森林ではなく、異質で開けた森林地帯での葉の採食に関連していることを示唆しています。


参考文献:
Maclatchy LM. et al.(2023): The evolution of hominoid locomotor versatility: Evidence from Moroto, a 21 Ma site in Uganda. Science, 380, 6641, eabq2835.
https://doi.org/10.1126/science.abq2835

Peppe DJ. et al.(2023): Oldest evidence of abundant C4 grasses and habitat heterogeneity in eastern Africa. Science, 380, 6641, 173–177.
https://doi.org/10.1126/science.abq2834

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