北アメリカ大陸の大草原地帯へのヨーロッパ系集団到来前となるウマの導入

 北アメリカ大陸の大草原地帯におけるヨーロッパ系集団到来前となるウマの導入を報告した研究(Taylor et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ウマは北アメリカ大陸で進化し、ベーリンジア(ベーリング陸橋)を渡ってユーラシアへと拡散しました。ウマはユーラシアにおいて進化し続け、家畜化されましたが、知られている限りでは、北アメリカ大陸において後期更新世までに絶滅し、その後でヨーロッパ人の入植者により再導入されました。

 ウマは北アメリカ大陸南西部と大草原地帯全域の多くの先住民文化にとって重要ですが、ウマが先住民の生活様式にいつどのように初めて組み込まれたのか、議論が続いており、既存のモデルはほぼ植民地時代の記録に由来します。現時点で有力な仮説は、スペイン人がメキシコに入植した後で、ヨーロッパ人によりこの地域に家畜ウマがもたらされ、17世紀末にはアメリカ大陸西部に広範に分布するようになった、というものです。しかし、植民地時代の記録には、不正確で先住民に対する強い偏見も見られる、と指摘されています。

 本論文は、北アメリカ大陸のヨーロッパ勢力到来以降のウマ遺骸に関して、古代ゲノムと同位体と放射性炭素年代と骨格形態分析と古病理学的分析を統合した、学際的研究を提示します。その結果、北アメリカ大陸の歴史時代および現代の北ウマは、イベリア半島のウマとの強い遺伝的類似性を示し、その後でイギリスからの流入がありましたが、ヴァイキングのウマとの近縁性を示しませんでした。さらに、ウマはロッキー山脈および大草原地帯へと17世紀前半までに南部から北部へと急速に拡大した、と明らかになり、これは以前の想定よりずっとさかのぼります。北アメリカ大陸のウマは、先住民の交流網を介して拡散した可能性が高そうで、牧畜管理や儀式や文化に反映されているように、この地域において18世紀のヨーロッパ人の到来前に先住民社会へと深く統合されました。


参考文献:
Taylor WTT. et al.(2023): Early dispersal of domestic horses into the Great Plains and northern Rockies. Science, 379, 6639, 1316–1323.
https://doi.org/10.1126/science.adc9691

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