封印された古代エジプトの動物の棺の調査
封印された古代エジプトの動物の棺の調査結果を報告した研究(O’Flynn et al., 2023)が公表されました。古代エジプトでは動物のミイラ化が一般的で、多くの非ヒト動物遺骸は、神の肉体的な化身だと信じられていたり、神への供物とされていたり、儀式に用いられたりして、非ヒト動物やヒトと非ヒト動物との混血を表現した彫像や奉納箱に納められていました。奉納箱はさまざまな材料で作られ、密閉されることが多くありました。いくつかの奉納箱は、この状態で博物館に保存されています。大英博物館所蔵の銅合金製奉納箱を対象とした先行研究では、X線コンピュータ断層撮影法を用いての動物遺骸調査が行なわれましたが、箱内部の金属の密度が高いことなどから、画質に問題がありました。
この研究は、これまでに調査された奉納品のうち銅合金で作られた6点に、非侵襲的な中性子断層写真術(中性子源から放出された中性子が物体を透過する程度に基づいて、物体の画像を生成する技術)を適用しました。この6点の棺のうち3点は、古代都市ナウクラティス(Naukratis)があった地域で発見され、棺の上部には、トカゲやウナギの彫像やリング状の構造物がついており、年代は紀元前500~紀元前300年頃と推定されました。第四の棺は、古代都市テル・エル・イェフディエー(Tell el-Yehudiyeh)があった地域で発見され、上部にトカゲの彫像がついており、年代は紀元前664~紀元前332年と推定されました。他の2点の棺の発見場所は不明で、年代は紀元前650~紀元前250年頃と推定され、棺の上部の構造体は、ウナギとコブラの彫像とヒトの頭が組み合わされています。
分析の結果、3点の奉納箱の内部から、トカゲのものと思われる動物遺骸や、織物の包みの破片が発見されました。たとえば、カベカナヘビ類の頭蓋骨と同じような大きさの頭蓋骨が無傷の状態で見つかり、カベカナヘビ類には、アフリカ北部の固有種が含まれています。別の2点の棺の中では、バラバラになった骨の存在を示す証拠が見つかりました。また、3点の棺の中には、リネンで作られた可能性のある布の繊維片が確認された。リネン布は、古代エジプトのミイラ作りで一般的に使用されていました。本論文は、動物のミイラをリネン布で包んでから棺の中に安置したのではないか、と推測しています。
また、箱の製造工程や修理の痕跡が中性子により発見され、リング状の構造物がついていない3点の棺からは相当量の鉛が確認されました。本論文は鉛について、2点の棺では棺内の重量配分を補助するために用いられ、もう1点の棺では穴の修理に用いられ、鉛が選ばれたのは、鉛が古代エジプトで魔法の材料と位置付けられていたためだった、と推測しています。過去の研究では、鉛が愛のお守りや呪いに使われていた、との見解が提示されていました。棺の上部にリング状の構造物がついている3点の棺からは鉛が検出されませんでした。これらの棺は相対的に軽量で、このリングは、神社や寺院の壁や、宗教儀式の行列の際に使用される像や船から吊り下げるために使用された可能性があり、リング状の構造物がついておらず、相対的に重く、鉛が含まれている棺は、別の目的に使用された可能性がある、と本論文は指摘します。
こうした一連の調査結果は、密閉された金属容器内のミイラ化した遺骸の研究に中性子断層写真術が有効であることを示し、奉納された箱の上部に表された動物像と隠された遺体を結びつける証拠となります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
考古学:封印された古代エジプトの動物の棺に関する新たな知見
6つの封印された古代エジプトの動物の棺の中身が非侵襲的な方法で画像化された。この結果を記述した論文がScientific Reportsに掲載される。
動物のミイラ作りは、古代エジプトで広まっていた慣習で、動物のミイラは、神の肉体的な化身だと信じられていたり、神への供物とされていたり、儀式のパフォーマンスに使用されたりしていたことが以前の研究で示唆されていた。
今回、Daniel O’Flynnたちは、中性子断層撮影法(中性子源から放出された中性子が物体を透過する程度に基づいて物体の画像を生成する技術)を用いて、6つの封印された動物の棺の中身を画像化した。過去の研究では、X線で棺を調べようとしたが、十分な成功を収められなかった。6つの棺は、全て銅合金でできている。O’Flynnたちは、このように今でも封印された状態になっている動物の棺は稀であることを指摘している。そのうちの3つの棺は、古代都市ナウクラティスがあった地域で発見され、棺の上部には、トカゲやウナギの彫像やリング状の構造物がついており、紀元前500~300年のものと判定された。4番目の棺は、古代都市テル・エル・イェフディエーがあった地域で発見され、上部にトカゲの彫像がついており、紀元前664~332年のものと判定された。他の2つの棺は、発見場所が不明で、紀元前650~250年頃のものとされ、棺の上部には、一部がウナギで一部がコブラの彫像とヒトの頭が組み合わされた構造体がついている。
O’Flynnたちは、3つの棺の中に骨があることを確認した。例えば、カベカナヘビ類の頭蓋骨と同じような大きさの頭蓋骨が無傷の状態で見つかった。カベカナヘビ類には、北アフリカの固有種が含まれている。別の2つの棺の中には、バラバラになった骨の存在を示す証拠が見つかった。また、3つの棺の中には、リネンで作られた可能性のある布の繊維片が確認された。リネン布は、古代エジプトのミイラ作りで一般的に使用されていた。O’Flynnたちは、動物のミイラをリネン布で包んでから棺の中に安置したのではないかという見方を示している。また、リング状の構造物がついていない3つの棺の成分に鉛が含まれていることが判明したが。この点について、O’Flynnたちは、2つの棺では、棺内の重量配分を補助するために用いられ、もう1つの棺では、穴の修理に用いられたという考えを示している。鉛が選ばれたのは、鉛が古代エジプトで魔法の材料と位置付けられていたためだったとO’Flynnたちは推測している。過去の研究では、鉛が愛のお守りや呪いに使われていたという見解が示されていた。棺の上部にリング状の構造物がついている3つの棺からは鉛が検出されなかった。これらの棺は相対的に軽量で、このリングが、神社や寺院の壁や、宗教儀式の行列の際に使用される像や船から吊り下げるために使用された可能性があり、リング状の構造物がついておらず、相対的に重く、鉛が含まれている棺は、別の目的に使用された可能性があるという見解をO’Flynnたちは示している。
参考文献:
O’Flynn D. et al.(2023): Neutron tomography of sealed copper alloy animal coffins from ancient Egypt. Scientific Reports, 13, 4582.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-30468-4
この研究は、これまでに調査された奉納品のうち銅合金で作られた6点に、非侵襲的な中性子断層写真術(中性子源から放出された中性子が物体を透過する程度に基づいて、物体の画像を生成する技術)を適用しました。この6点の棺のうち3点は、古代都市ナウクラティス(Naukratis)があった地域で発見され、棺の上部には、トカゲやウナギの彫像やリング状の構造物がついており、年代は紀元前500~紀元前300年頃と推定されました。第四の棺は、古代都市テル・エル・イェフディエー(Tell el-Yehudiyeh)があった地域で発見され、上部にトカゲの彫像がついており、年代は紀元前664~紀元前332年と推定されました。他の2点の棺の発見場所は不明で、年代は紀元前650~紀元前250年頃と推定され、棺の上部の構造体は、ウナギとコブラの彫像とヒトの頭が組み合わされています。
分析の結果、3点の奉納箱の内部から、トカゲのものと思われる動物遺骸や、織物の包みの破片が発見されました。たとえば、カベカナヘビ類の頭蓋骨と同じような大きさの頭蓋骨が無傷の状態で見つかり、カベカナヘビ類には、アフリカ北部の固有種が含まれています。別の2点の棺の中では、バラバラになった骨の存在を示す証拠が見つかりました。また、3点の棺の中には、リネンで作られた可能性のある布の繊維片が確認された。リネン布は、古代エジプトのミイラ作りで一般的に使用されていました。本論文は、動物のミイラをリネン布で包んでから棺の中に安置したのではないか、と推測しています。
また、箱の製造工程や修理の痕跡が中性子により発見され、リング状の構造物がついていない3点の棺からは相当量の鉛が確認されました。本論文は鉛について、2点の棺では棺内の重量配分を補助するために用いられ、もう1点の棺では穴の修理に用いられ、鉛が選ばれたのは、鉛が古代エジプトで魔法の材料と位置付けられていたためだった、と推測しています。過去の研究では、鉛が愛のお守りや呪いに使われていた、との見解が提示されていました。棺の上部にリング状の構造物がついている3点の棺からは鉛が検出されませんでした。これらの棺は相対的に軽量で、このリングは、神社や寺院の壁や、宗教儀式の行列の際に使用される像や船から吊り下げるために使用された可能性があり、リング状の構造物がついておらず、相対的に重く、鉛が含まれている棺は、別の目的に使用された可能性がある、と本論文は指摘します。
こうした一連の調査結果は、密閉された金属容器内のミイラ化した遺骸の研究に中性子断層写真術が有効であることを示し、奉納された箱の上部に表された動物像と隠された遺体を結びつける証拠となります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
考古学:封印された古代エジプトの動物の棺に関する新たな知見
6つの封印された古代エジプトの動物の棺の中身が非侵襲的な方法で画像化された。この結果を記述した論文がScientific Reportsに掲載される。
動物のミイラ作りは、古代エジプトで広まっていた慣習で、動物のミイラは、神の肉体的な化身だと信じられていたり、神への供物とされていたり、儀式のパフォーマンスに使用されたりしていたことが以前の研究で示唆されていた。
今回、Daniel O’Flynnたちは、中性子断層撮影法(中性子源から放出された中性子が物体を透過する程度に基づいて物体の画像を生成する技術)を用いて、6つの封印された動物の棺の中身を画像化した。過去の研究では、X線で棺を調べようとしたが、十分な成功を収められなかった。6つの棺は、全て銅合金でできている。O’Flynnたちは、このように今でも封印された状態になっている動物の棺は稀であることを指摘している。そのうちの3つの棺は、古代都市ナウクラティスがあった地域で発見され、棺の上部には、トカゲやウナギの彫像やリング状の構造物がついており、紀元前500~300年のものと判定された。4番目の棺は、古代都市テル・エル・イェフディエーがあった地域で発見され、上部にトカゲの彫像がついており、紀元前664~332年のものと判定された。他の2つの棺は、発見場所が不明で、紀元前650~250年頃のものとされ、棺の上部には、一部がウナギで一部がコブラの彫像とヒトの頭が組み合わされた構造体がついている。
O’Flynnたちは、3つの棺の中に骨があることを確認した。例えば、カベカナヘビ類の頭蓋骨と同じような大きさの頭蓋骨が無傷の状態で見つかった。カベカナヘビ類には、北アフリカの固有種が含まれている。別の2つの棺の中には、バラバラになった骨の存在を示す証拠が見つかった。また、3つの棺の中には、リネンで作られた可能性のある布の繊維片が確認された。リネン布は、古代エジプトのミイラ作りで一般的に使用されていた。O’Flynnたちは、動物のミイラをリネン布で包んでから棺の中に安置したのではないかという見方を示している。また、リング状の構造物がついていない3つの棺の成分に鉛が含まれていることが判明したが。この点について、O’Flynnたちは、2つの棺では、棺内の重量配分を補助するために用いられ、もう1つの棺では、穴の修理に用いられたという考えを示している。鉛が選ばれたのは、鉛が古代エジプトで魔法の材料と位置付けられていたためだったとO’Flynnたちは推測している。過去の研究では、鉛が愛のお守りや呪いに使われていたという見解が示されていた。棺の上部にリング状の構造物がついている3つの棺からは鉛が検出されなかった。これらの棺は相対的に軽量で、このリングが、神社や寺院の壁や、宗教儀式の行列の際に使用される像や船から吊り下げるために使用された可能性があり、リング状の構造物がついておらず、相対的に重く、鉛が含まれている棺は、別の目的に使用された可能性があるという見解をO’Flynnたちは示している。
参考文献:
O’Flynn D. et al.(2023): Neutron tomography of sealed copper alloy animal coffins from ancient Egypt. Scientific Reports, 13, 4582.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-30468-4
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