オーストラリアにおける後期更新世の植生変化
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、オーストラリアにおける後期更新世の植生変化に関する研究(Lopes dos Santos et al., 2013)が公表されました。後期更新世のオーストラリアは、寒冷期にはニューギニア島やタスマニア島などとは陸続きとなりサフルランドを形成していました。オーストラリアでは、ヒトがオーストラリアに定着した時期と一致する50000~45000年前頃に、大型動物相の大規模な絶滅が起きました。この期間に植生の大きな変化も起きましたが、この植生変化が、ヒトの火の使用により引き起こされ、それ故に絶滅事象の一因となったのか、それとも大型動物相のグレーザー(体重900kg以上となる、おもに草本を採食する動物)の消滅の結果だったのか、不明です。
本論文は、ママレー・ダーリング盆地(Murray–Darling Basin)沖のよく年代測定された堆積物コアで得られた、生物標識のレボグルコサンの蓄積速度から、高次植物のワックスn-アルカンの安定炭素同位体組成と生物量の燃焼水準を用いて、オーストラリア南東部における過去の植生変化を再構築します。その結果、58000~44000年前頃に、C4炭素固定経路の植物の量が一般的に多かった(60~70%)、と分かりました。43000年前頃までには、C4植物の量は30%に減少し、生物量燃焼が増加しました。この過渡的移行は約3000年間続き、ヒトの到来期間の後となり、48900~43600年前頃の大型動物相絶滅に直接的に続きました。こうした植生変化はこの地域における大型動物相絶滅の原因ではなかった、と本論文は結論づけました。本論文のデータは代わりに、植生変化は大型ブラウザー(低木の葉や果実を食べるヤギやシカなどの採食動物)の絶滅の結果で、オーストラリアの景観における火災の起きやすい植生につながった、という仮説と一致します。
オーストラリアへの人類最初の移住がいつなのか、議論があり、6万年以上前の可能性も指摘されていますが、まだ確定したとは言えないでしょう(関連記事)。さらに、人類がオーストラリアへと6万年以上前に到達したとしても、それが現在のオーストラリア先住民の直接的な祖先なのか、という問題もあります(関連記事)。オーストラリアにおける大型動物相絶滅が一定以上人為的なのかどうかといった問題も含めて、オーストラリアにおける初期人類史は今後も注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です
大型動物の絶滅により起きた古代オーストラリア植生の変化
オーストラリアで見つかった陸上植物種の4万3000年前の変化は、大型草食動物が絶滅したことにより起きたという見解を示す論文が、今週オンライン版に掲載される。この発見は、それほど昔ではない時期にオーストラリアに入植した人間による火の利用が、大陸で火をおこしやすい植生の発達をもたらす植生の変化を起こしたというこれまでの示唆と反対のものである。
Stefan Schoutenらは5万8000年前から4万3000年前の間の植生と火事の変化を、植物の存在度と植物体の燃焼に対する指標を用いて再現した。彼らは、それ以前に支配的であった植物種の存在度がこの時期に顕著に減少し、それが植物体燃焼の増加と一致していることを示した。この植生の変化の直後にはオーストラリア巨型動物類の絶滅が起きている。
参考文献:
Lopes dos Santos RA. et al.(2013): Abrupt vegetation change after the Late Quaternary megafaunal extinction in southeastern Australia. Nature Geoscience, 6, 8, 627–631.
https://doi.org/10.1038/ngeo1856
本論文は、ママレー・ダーリング盆地(Murray–Darling Basin)沖のよく年代測定された堆積物コアで得られた、生物標識のレボグルコサンの蓄積速度から、高次植物のワックスn-アルカンの安定炭素同位体組成と生物量の燃焼水準を用いて、オーストラリア南東部における過去の植生変化を再構築します。その結果、58000~44000年前頃に、C4炭素固定経路の植物の量が一般的に多かった(60~70%)、と分かりました。43000年前頃までには、C4植物の量は30%に減少し、生物量燃焼が増加しました。この過渡的移行は約3000年間続き、ヒトの到来期間の後となり、48900~43600年前頃の大型動物相絶滅に直接的に続きました。こうした植生変化はこの地域における大型動物相絶滅の原因ではなかった、と本論文は結論づけました。本論文のデータは代わりに、植生変化は大型ブラウザー(低木の葉や果実を食べるヤギやシカなどの採食動物)の絶滅の結果で、オーストラリアの景観における火災の起きやすい植生につながった、という仮説と一致します。
オーストラリアへの人類最初の移住がいつなのか、議論があり、6万年以上前の可能性も指摘されていますが、まだ確定したとは言えないでしょう(関連記事)。さらに、人類がオーストラリアへと6万年以上前に到達したとしても、それが現在のオーストラリア先住民の直接的な祖先なのか、という問題もあります(関連記事)。オーストラリアにおける大型動物相絶滅が一定以上人為的なのかどうかといった問題も含めて、オーストラリアにおける初期人類史は今後も注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です
大型動物の絶滅により起きた古代オーストラリア植生の変化
オーストラリアで見つかった陸上植物種の4万3000年前の変化は、大型草食動物が絶滅したことにより起きたという見解を示す論文が、今週オンライン版に掲載される。この発見は、それほど昔ではない時期にオーストラリアに入植した人間による火の利用が、大陸で火をおこしやすい植生の発達をもたらす植生の変化を起こしたというこれまでの示唆と反対のものである。
Stefan Schoutenらは5万8000年前から4万3000年前の間の植生と火事の変化を、植物の存在度と植物体の燃焼に対する指標を用いて再現した。彼らは、それ以前に支配的であった植物種の存在度がこの時期に顕著に減少し、それが植物体燃焼の増加と一致していることを示した。この植生の変化の直後にはオーストラリア巨型動物類の絶滅が起きている。
参考文献:
Lopes dos Santos RA. et al.(2013): Abrupt vegetation change after the Late Quaternary megafaunal extinction in southeastern Australia. Nature Geoscience, 6, 8, 627–631.
https://doi.org/10.1038/ngeo1856
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