孵化直後のゼブラフィッシュの数的能力
孵化直後のゼブラフィッシュの数的能力に関する研究(Lucon-Xiccato et al., 2023)が公表されました。数的能力は、ヒトだけではなくカワスズメ科やエイの一種などでも確認されており(関連記事)、脊椎動物に広く存在すると考えられます。数的能力の普遍性を説明する興味深い仮説は、すべての脊椎動物が生まれながらにして、数を処理するための神経細胞ネットワークを備えている、というものです。これまで、この仮説を明確に裏づけたのは、ヒトの胎児を対象とした研究だけで、孵化直後のグッピーやニワトリヒナにも備わっている可能性が指摘されています。ただ、これらの種は誕生(孵化)直後の時点で、脳が高度に発達しており、幼生や胎児の状態で生まれ、脳が未発達な種の数的能力については、ほとんど解明されていませんでした。
ゼブラフィッシュは受精後48~72時間で孵化し、胚性神経系を持つため、この仮説を調査する独特な機会を提供します。本論文は、出生時に縦棒に曝されたゼブラフィッシュの幼生が、水槽の白い壁に印刷された黒い縦線の刺激に反応する、と示し、この選好性に基づいて数値識別課題を開発しました。これらの幼生は、最初に壁面が黒い縦線の模様で覆われた水槽で飼育されました。その96時間後に、180匹の幼生が別の水槽の中央部に移されました。この水槽の2つの壁面には、白地に最大4本の黒い線が印刷されていました。
難易度の高い棒グラフ(1対4、1対3、1対2、2対4)を用いて、幼生が黒い縦線の本数の多い壁面に泳いでいくのか、少ない壁面に泳いでいくのか、あるいは水槽の中央部に留まるのか観察し、それぞれの区画に滞留していた時間を計測する識別検定が実行されました。120匹の幼生を用いた対照試験では、縦線の密度や表面積と縦線により形成された全体の形状の違いを制御し、同じ実験が実施されました。
その結果、幼生の63.1%が黒い線の本数の多い壁面を好み、この壁面近くでの滞留時間(56.9秒)は、本数の少ない壁面付近での滞留時間(32.0秒)の約2倍でした。壁面上の黒い線の数をそれぞれ1本と4本とした実験では、30匹の幼生の66.5%が黒い線が4本の壁面を好みました。また、縦線の密度や表面積と全体の形状を制御した試験では、63.2%の幼生が黒い線の多い壁面を好みました。これらの結果から、ゼブラフィッシュの幼生は黒い線の本数の違いを識別でき、黒い線の多い方を好む、と示されています。このように、ヒトとゼブラフィッシュという系統的に離れた2種で得られた結果は、数値処理能力が古くから組み込まれた脊椎動物の脳の特徴である可能性を示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
動物学:孵化直後のゼブラフィッシュに数的能力が組み込まれている可能性
孵化後96時間以内のゼブラフィッシュ(Dania rerio)の幼生が、黒い線の本数の違いを識別したことを報告する論文が、Communications Biologyに掲載される。孵化直後のゼブラフィッシュに数的能力が組み込まれているという可能性が、今回の知見から示唆されている。
これまでの研究で、数的能力が、ヒト新生児や孵化直後のグッピーやニワトリヒナに備わっていることが実証されているが、これらの種は、誕生(孵化)直後の時点で、脳が高度に発達している。これに対して、幼生や胎児の状態で生まれ、脳が未発達な種の数的能力については、ほとんど解明されていなかった。
今回、Tyrone Lucon-Xiccatoたちは、孵化して間もないゼブラフィッシュの幼生が、水槽の白い壁に印刷された黒い縦線の本数の違いを識別できるかどうかを調べた。これらの幼生は、最初に壁面が黒い縦線の模様で覆われた水槽で飼育された。それから96時間後に180匹の幼生が別の水槽の中央部に移された。この水槽の2つの壁面は白地に最大4本の黒い線が印刷されていた。この実験で、幼生が黒い線の本数の多い壁面に泳いでいくのか、少ない壁面に泳いでいくのか、あるいは水槽の中央部に留まるのかを観察し、それぞれの区画に滞留していた時間を計測した。そして、120匹の幼生を用いた対照試験では、縦線の密度、表面積と縦線によって形成された全体の形状の違いを制御して同じ実験が実施された。
その結果、幼生の63.1%が、黒い線の本数の多い壁面を好み、この壁面近くでの滞留時間(56.9秒)は、本数の少ない壁面付近での滞留時間(32.0秒)の約2倍だった。壁面上の黒い線の数をそれぞれ1本と4本とした実験では、30匹の幼生の66.5%が黒い線が4本の壁面を好んだ。また、縦線の密度、表面積と全体の形状を制御した試験では、63.2%の幼生が、黒い線の多い壁面を好んだ。以上の結果からは、ゼブラフィッシュの幼生が、黒い線の本数の違いを識別することができ、黒い線の多い方を好むことが示されている。
Lucon-Xiccatoたちは、遠縁の関係にあるヒトとゼブラフィッシュの新生児と孵化直後の幼生の両方が数的能力を備えているということは、数的能力が、発達中の脊椎動物の脳に古くから組み込まれた顕著な特徴であることを示しているかもしれないという考えを示している。
参考文献:
Lucon-Xiccato T. et al.(2020): Quantity discrimination in newly hatched zebrafish suggests hardwired numerical abilities. Communications Biology, 6, 247.
https://doi.org/10.1038/s42003-023-04595-7
ゼブラフィッシュは受精後48~72時間で孵化し、胚性神経系を持つため、この仮説を調査する独特な機会を提供します。本論文は、出生時に縦棒に曝されたゼブラフィッシュの幼生が、水槽の白い壁に印刷された黒い縦線の刺激に反応する、と示し、この選好性に基づいて数値識別課題を開発しました。これらの幼生は、最初に壁面が黒い縦線の模様で覆われた水槽で飼育されました。その96時間後に、180匹の幼生が別の水槽の中央部に移されました。この水槽の2つの壁面には、白地に最大4本の黒い線が印刷されていました。
難易度の高い棒グラフ(1対4、1対3、1対2、2対4)を用いて、幼生が黒い縦線の本数の多い壁面に泳いでいくのか、少ない壁面に泳いでいくのか、あるいは水槽の中央部に留まるのか観察し、それぞれの区画に滞留していた時間を計測する識別検定が実行されました。120匹の幼生を用いた対照試験では、縦線の密度や表面積と縦線により形成された全体の形状の違いを制御し、同じ実験が実施されました。
その結果、幼生の63.1%が黒い線の本数の多い壁面を好み、この壁面近くでの滞留時間(56.9秒)は、本数の少ない壁面付近での滞留時間(32.0秒)の約2倍でした。壁面上の黒い線の数をそれぞれ1本と4本とした実験では、30匹の幼生の66.5%が黒い線が4本の壁面を好みました。また、縦線の密度や表面積と全体の形状を制御した試験では、63.2%の幼生が黒い線の多い壁面を好みました。これらの結果から、ゼブラフィッシュの幼生は黒い線の本数の違いを識別でき、黒い線の多い方を好む、と示されています。このように、ヒトとゼブラフィッシュという系統的に離れた2種で得られた結果は、数値処理能力が古くから組み込まれた脊椎動物の脳の特徴である可能性を示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
動物学:孵化直後のゼブラフィッシュに数的能力が組み込まれている可能性
孵化後96時間以内のゼブラフィッシュ(Dania rerio)の幼生が、黒い線の本数の違いを識別したことを報告する論文が、Communications Biologyに掲載される。孵化直後のゼブラフィッシュに数的能力が組み込まれているという可能性が、今回の知見から示唆されている。
これまでの研究で、数的能力が、ヒト新生児や孵化直後のグッピーやニワトリヒナに備わっていることが実証されているが、これらの種は、誕生(孵化)直後の時点で、脳が高度に発達している。これに対して、幼生や胎児の状態で生まれ、脳が未発達な種の数的能力については、ほとんど解明されていなかった。
今回、Tyrone Lucon-Xiccatoたちは、孵化して間もないゼブラフィッシュの幼生が、水槽の白い壁に印刷された黒い縦線の本数の違いを識別できるかどうかを調べた。これらの幼生は、最初に壁面が黒い縦線の模様で覆われた水槽で飼育された。それから96時間後に180匹の幼生が別の水槽の中央部に移された。この水槽の2つの壁面は白地に最大4本の黒い線が印刷されていた。この実験で、幼生が黒い線の本数の多い壁面に泳いでいくのか、少ない壁面に泳いでいくのか、あるいは水槽の中央部に留まるのかを観察し、それぞれの区画に滞留していた時間を計測した。そして、120匹の幼生を用いた対照試験では、縦線の密度、表面積と縦線によって形成された全体の形状の違いを制御して同じ実験が実施された。
その結果、幼生の63.1%が、黒い線の本数の多い壁面を好み、この壁面近くでの滞留時間(56.9秒)は、本数の少ない壁面付近での滞留時間(32.0秒)の約2倍だった。壁面上の黒い線の数をそれぞれ1本と4本とした実験では、30匹の幼生の66.5%が黒い線が4本の壁面を好んだ。また、縦線の密度、表面積と全体の形状を制御した試験では、63.2%の幼生が、黒い線の多い壁面を好んだ。以上の結果からは、ゼブラフィッシュの幼生が、黒い線の本数の違いを識別することができ、黒い線の多い方を好むことが示されている。
Lucon-Xiccatoたちは、遠縁の関係にあるヒトとゼブラフィッシュの新生児と孵化直後の幼生の両方が数的能力を備えているということは、数的能力が、発達中の脊椎動物の脳に古くから組み込まれた顕著な特徴であることを示しているかもしれないという考えを示している。
参考文献:
Lucon-Xiccato T. et al.(2020): Quantity discrimination in newly hatched zebrafish suggests hardwired numerical abilities. Communications Biology, 6, 247.
https://doi.org/10.1038/s42003-023-04595-7
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