『卑弥呼』第103話「ならわし」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年3月20日号掲載分の感想です。前回は、金砂(カナスナ)国の青谷(アオタニ)邑(現在の鳥取市青谷町でしょうか)にて、山社(ヤマト)を盟主とする筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)連合軍と、日下(ヒノモト)連合軍との直接的な衝突がついに始まり、フトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)三男で、青谷邑の筑紫島連合軍を攻撃する日下連合軍の総大将的立場にあると考えられる、ワカタケ王子(稚武彦命、つまり記紀のワカタケヒコノミコトでしょうか)だけではなく、フトニ王も金砂(カナスナ)国と吉備(キビ)国の境を輿で進んでおり、輿から顔を覗かせたところ、矢で射られたところで終了しました。

 今回は、筑紫島連合軍が、青谷邑の東西から攻め寄せてきた日下軍が湿地の水田まで進撃してきたところを、その背後から攻撃する場面から始まります。日下軍の兵士は、敵の矢が尽きて肉弾戦になれば、鉄(カネ)の剣の自軍が有利だ、と考えていますが、伏兵に襲撃され、さらに混乱します。西側には那(ナ)のウツヒオ王が、東側には山社のオオヒコとヌカデがおり、ヌカデは勝てると楽観していますが、ウツヒオ王もオオヒコも、情勢は厳しいと判断しています。ウツヒオ王は敵が再び青谷邑に戻ればヤノハは死ぬと考えていますし、オオヒコは、総勢5000人の敵に対して自軍はわずか400人なので、時が経てば敵軍が有利だ、と考えています。ここで山社軍の動きが止まり、ミマト将軍もイクメも不審に思っていたところへ、もう戦が終わったからだ、とヤノハが現れて告げます。

 日下軍では、ワカタケ王子が戦死したことから、指揮官はもう一度青谷邑を攻めるべきか迷っていましたが、とりあえずフトニ王の指示を待つことにします。そのフトニ王は矢で射られてあっさりと死亡し、以前ヤノハに派遣された日下の使者の男性は、敵の本陣までまだ2日の距離なので、これは敵の斥候による闇討ちに違いなく、直ちに皆殺しにしよう、とクニクル王子(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)に進言します。しかし、フトニ王の護衛隊は、連弩で射られて混乱し、使者だった男性も討ち取られます。矢の多さから、日下軍の兵士は、襲撃してきた部隊には700人ほどもいる、と推測しますが、突然攻撃が止まります。父の遺骸を見て立ち尽くすクニクル王子に、早く本陣に合流するよう、兵士は促しますが、クニクル王子はなかなかその場を立ち去れません。クニクル王子はついに夜明けまでその場におり、全軍引き上げて戦を終えるよう、指示します。兵士は勝てる戦だと考えて納得しませんが、王君が没すれば戦を止めて喪に服すのが日下古来よりの慣例(ナラワシ)だ、と言います。

 青谷邑では、ヤノハがミマト将軍とイクメに、戦が終わったとは、自分の策が上手くいった場合の話で、失敗していれば、敵は青谷邑に攻め込み我々は全滅する、と言います。ヤノハは、敵はすぐに戦わずして撤退する、という天照大神のお告げがあったと言って、配下の者に休むよう命じます。そのヤノハが青谷邑の住居で寝ていると聞いたヌカデが、住居を訪れて寝ているヤノハを見て、呆れつつ感心するところで今回は終了です。


 今回は、ヤノハの策が見事にはまり、筑紫島連合軍がワカタケ王子ばかりかフトニ王まで討ち取り、日下連合軍を撤退に追い込むところが描かれました。ヤノハの決死の策が見事にはまり、フトニ王を討ち取って日下連合軍を撤退させたわけですが、問題はここからで、確かに日下連合軍は服喪のため撤退しましたが、また攻めてくる危険性はかなり高い、とも考えられます。次の戦を起こすことに、相手が相当躊躇うような勝ち方、つまり総大将を殺せば戦意は長くくじかれるだろう、とヤノハは考えており(第93話)、その思惑通りに進みましたが、日下の次の王君であるクニクル王子が、筑紫島への侵攻をいつまで躊躇うのか、という問題は残ります。クニクル王子は温厚というか気弱なようにも見えますが、「帝王教育」を受けてきたでしょうから、安易に筑紫島の征服を諦めるとも思えません。日下を実際に見たミマアキやトメ将軍からの意見を聞いたヤノハが、次にどのように動くのかが、今後の注目です。最近、筑紫島で最強の国である暈(クマ)が描かれていませんが、暈の志能備(シノビ)に捕らわれたアカメのその後も気になるので、暈との関係もそろそろ見たいところではあります。

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