高橋のぼる『劉邦』第15集(小学館)
電子書籍での購入です。第15集は、従う兵士が残り百人ほどとなり、圧倒的に優勢な漢軍相手に討ち死にしようと考えた項羽が、愛馬の騅とともに烏江へとわずか26人で出撃した、との報告を劉邦が女性と戯れながら受けている場面から始まります。項羽は投降するよう促す韓信を投げ捨て、必死に戦いつつ逃げますが、愛馬の騅が矢で射られて長くないのを見て、墓穴を掘ります。それでも項羽は諦めず、漢軍の陣営に潜り込み、劉邦が呂雉(呂后)への恐怖心から女性より離れて一人でいるところを襲撃します。命乞いはしないので殺せ、と言う劉邦に、項羽は一つだけ訊きたいことがある、と言います。天はなぜお前を選んだ、と項羽に問われた劉邦は、人間は身を置くところで生き方が決まる(李斯の逸話でしょうか)、と言われているが、そうではないと思う、と答えます。ゴロツキだった自分はそのままで、知恵も才覚もないから才能のある人間や面白い人間が好きで、そうした人間に担がれ、仲間や民のためと夢を追いかけてきたからここまで来た、と劉邦は項羽に語ります。だから、人間は身を置く場所ではなく、信じ合える仲間がいて、生き様が決まってくると信じている、というわけです。劉邦は項羽に、自分を殺してもよいが、また乱れた国に戻すのか、と問いかけ、また自分と組もう、と誘います。項羽が持っている強さや勇敢さや威厳や品格は自分にないものばかりだ、というわけです。項羽は強いが、一人ではダメだ、仲間がいる、と劉邦は項羽を説得しますが、項羽は自害します。項羽に恨みを抱いている漢軍の兵士は、項羽の死体を蹴りますが、劉邦はそれを止めます。
劉邦はこの後引き籠り、家臣は論功行賞がないことに不満を抱き始め、張良も引き籠っていることから、蕭何の不安は高まります。劉邦は戚と戯れており、それを見た呂雉は、激昂します。夜、呂雉が戚の部屋を訪れ、それに気づいた劉邦は、呂雉が戚とその息子の如意(本作では実父は紀信)を殺すのではないか、と案じますが、呂雉は如意の実父が紀信だと知っており、戚に羽根つきのような競技を挑み、勝って戚の顔に豚のような耳をつけ、人豚がいる、と言って大笑します。
論功行賞を待つ家臣の不満が高まるなか、劉邦は張良の策を用いて、劉邦を憎んでいる雍歯にまず恩賞を与えます。雍歯でさえ恩賞を与えられた、ということで、家臣の不満もひとまずは収まります。その張良は、必ず戻ると劉邦に約束しつつ、休暇を願い出ます。しかし、張良が政治の場に戻ることはありませんでした。韓信は旧知の楚軍の将である鍾離眜を匿っており、劉邦に恩赦を願い出ようと考えていましたが、鍾離眜は韓信の身を案じて自害します。韓信が鍾離眜の首を持って都に赴きますが、韓信の強大な力を恐れていた朝臣は韓信を警戒します。劉邦は取り調べの場で、韓信の弁明を待っていましたが、韓信は喋らず、強硬派の朝臣により韓信は釜茹での刑と決まります。蕭何は韓信に謝りますが、韓信は劉邦のために死ぬと決意していました。しかし、韓信が釜に入ったところを劉邦が密かに救い、劉邦は韓信を羌の指導者である燕剣に預けます。劉邦は皇帝に即位しても女性へのだらしなさも含めて勤勉にはならず、それを臣下が必死に支えているので国は回っている、と呂雉は満足そうです。相国となった蕭何が、そんな劉邦の下で多忙でしたが、自分が劉邦を担ぎ上げ、ついに建国にまで至ったことに満足しているようで、自分こそこの世で一番の大馬鹿者だ、と感慨に浸っているところで、本作は完結となります。
本作を知ってからまだ2年経過しておらず、途中からやや駆け足気味になった感があり、とくに項羽を倒した後はかなりあわただしく、正直なところ、もっとじっくりと読みたかった、とは思います。とくに、本作の劉邦の人物造形と、匈奴との戦いでの敗北はつなげやすいように思えたものの、皇帝即位後の功臣粛清がどうにもつながらなかったので、呂雉を悪役に仕立てるなど、どう描くのか注目していたため、その点でも皇帝即位後には分量を割いてもらいたかったものです。皇帝即位後の劉邦は、韓信を密かに逃がすなど、これまでの人物造形から外れない描写となっており、この点では一貫性があったように思います。
ただ、呂雉と戚との関係も『史記』で伝えられるより随分と穏やかなものになっており、盧綰もずっと劉邦に仕え続けているような描写だったので、項羽との和議を破って「闇落ち」したようにも見えた劉邦が、天下のために家臣を粛清していくのかな、とも思っていただけに、後継者争いが描かれなかったことも含めて、正直なところかなり拍子抜けした感は否めません。匈奴に敗北したところは、本作の劉邦の人物像からも説得力のある話になりそうだっただけに、これが描かれなかったのは、陳平の活躍も期待していただけに、残念でした。序盤では重要人物だった王陵が登場しなかったのも残念で、せめてもう1集分は連載を続けてもらいたかったものですが、劉邦の人物像は一貫しており、『史記』などの史書からは外れた設定がありつつも上手くまとめられている、と言うべきでしょうか。後半が駆け足気味だったことには不満も残りますが、全体的にはかなり楽しめた作品でした。なお、本作の過去記事は以下の通りです。
第1集~第10集
https://sicambre.seesaa.net/article/202107article_17.html
第11集
https://sicambre.seesaa.net/article/202109article_4.html
第12集
https://sicambre.seesaa.net/article/202111article_20.html
第13集
https://sicambre.seesaa.net/article/202206article_4.html
第14集
https://sicambre.seesaa.net/article/202209article_10.html
劉邦はこの後引き籠り、家臣は論功行賞がないことに不満を抱き始め、張良も引き籠っていることから、蕭何の不安は高まります。劉邦は戚と戯れており、それを見た呂雉は、激昂します。夜、呂雉が戚の部屋を訪れ、それに気づいた劉邦は、呂雉が戚とその息子の如意(本作では実父は紀信)を殺すのではないか、と案じますが、呂雉は如意の実父が紀信だと知っており、戚に羽根つきのような競技を挑み、勝って戚の顔に豚のような耳をつけ、人豚がいる、と言って大笑します。
論功行賞を待つ家臣の不満が高まるなか、劉邦は張良の策を用いて、劉邦を憎んでいる雍歯にまず恩賞を与えます。雍歯でさえ恩賞を与えられた、ということで、家臣の不満もひとまずは収まります。その張良は、必ず戻ると劉邦に約束しつつ、休暇を願い出ます。しかし、張良が政治の場に戻ることはありませんでした。韓信は旧知の楚軍の将である鍾離眜を匿っており、劉邦に恩赦を願い出ようと考えていましたが、鍾離眜は韓信の身を案じて自害します。韓信が鍾離眜の首を持って都に赴きますが、韓信の強大な力を恐れていた朝臣は韓信を警戒します。劉邦は取り調べの場で、韓信の弁明を待っていましたが、韓信は喋らず、強硬派の朝臣により韓信は釜茹での刑と決まります。蕭何は韓信に謝りますが、韓信は劉邦のために死ぬと決意していました。しかし、韓信が釜に入ったところを劉邦が密かに救い、劉邦は韓信を羌の指導者である燕剣に預けます。劉邦は皇帝に即位しても女性へのだらしなさも含めて勤勉にはならず、それを臣下が必死に支えているので国は回っている、と呂雉は満足そうです。相国となった蕭何が、そんな劉邦の下で多忙でしたが、自分が劉邦を担ぎ上げ、ついに建国にまで至ったことに満足しているようで、自分こそこの世で一番の大馬鹿者だ、と感慨に浸っているところで、本作は完結となります。
本作を知ってからまだ2年経過しておらず、途中からやや駆け足気味になった感があり、とくに項羽を倒した後はかなりあわただしく、正直なところ、もっとじっくりと読みたかった、とは思います。とくに、本作の劉邦の人物造形と、匈奴との戦いでの敗北はつなげやすいように思えたものの、皇帝即位後の功臣粛清がどうにもつながらなかったので、呂雉を悪役に仕立てるなど、どう描くのか注目していたため、その点でも皇帝即位後には分量を割いてもらいたかったものです。皇帝即位後の劉邦は、韓信を密かに逃がすなど、これまでの人物造形から外れない描写となっており、この点では一貫性があったように思います。
ただ、呂雉と戚との関係も『史記』で伝えられるより随分と穏やかなものになっており、盧綰もずっと劉邦に仕え続けているような描写だったので、項羽との和議を破って「闇落ち」したようにも見えた劉邦が、天下のために家臣を粛清していくのかな、とも思っていただけに、後継者争いが描かれなかったことも含めて、正直なところかなり拍子抜けした感は否めません。匈奴に敗北したところは、本作の劉邦の人物像からも説得力のある話になりそうだっただけに、これが描かれなかったのは、陳平の活躍も期待していただけに、残念でした。序盤では重要人物だった王陵が登場しなかったのも残念で、せめてもう1集分は連載を続けてもらいたかったものですが、劉邦の人物像は一貫しており、『史記』などの史書からは外れた設定がありつつも上手くまとめられている、と言うべきでしょうか。後半が駆け足気味だったことには不満も残りますが、全体的にはかなり楽しめた作品でした。なお、本作の過去記事は以下の通りです。
第1集~第10集
https://sicambre.seesaa.net/article/202107article_17.html
第11集
https://sicambre.seesaa.net/article/202109article_4.html
第12集
https://sicambre.seesaa.net/article/202111article_20.html
第13集
https://sicambre.seesaa.net/article/202206article_4.html
第14集
https://sicambre.seesaa.net/article/202209article_10.html
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