新石器時代ヨーロッパの農耕民における狩猟採集民との混合による選択の促進
新石器時代ヨーロッパの農耕民における選択についての研究(Davy et al., 2023)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ヨーロッパは古代人のゲノム研究が最も進んでいる地域で(関連記事)、先史時代からの選択の経時的過程を古代ゲノムデータで直接的に詳しく観測できます。最近ではヨーロッパの上部旧石器時代~新石器時代の狩猟採集民の大規模なゲノムデータが報告されており(関連記事)、旧石器時代から中石器時代を経て新石器時代にかけての人類集団の遺伝的構成の変容や選択の具体的過程について、今後さらに詳しく明らかになっていくのではないか、と期待されます。
●要約
古代DNAは、文化的革新と関連する地理的拡大期のヒト先史時代における混合の複数事象を明らかにしてきました。重要な一例は近東からヨーロッパへの新石器時代農耕集団の拡大と、その後の中石器時代狩猟採集民との混合です。この期間の古代ゲノムは、選択が作用した新たな遺伝的変異を提示する混合の役割についての研究と、狩猟採集民からの遺伝子移入に抵抗し、したがって農耕適応に寄与したかもしれないゲノム領域の同定に機会を提供します。
本論文は、中石器時代から新石器時代にまたがるヨーロッパの677個体のゲノム規模DNAを用いて、混合個体群のゲノムにおける祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の偏差を推測し、ゲノム規模帰無分布からの偏差の検定により混合後の自然選択について検証します。その結果、色素沈着関連遺伝子SLC24A5周辺の領域はゲノムにおいて新石器時代在来祖先系統の最大の過剰出現を示す、と分かりました。
対照的に、主要組織適合複合体(major histocompatibility complex、略してMHC)全域での中石器時代祖先系統の最大の過剰出現が見つかりました。MHCは主要な免疫遺伝子座で、混合後の選択を示唆するアレル(対立遺伝子)頻度偏差も示します。これは、新石器時代人口集団に一般的なMHCアレルでの負の頻度依存選択か、中石器時代アレルが正の選択を受け、病原体もしくは他の環境要因への新石器時代人口集団における適応を促進した、ということを反映しているかもしれません。この研究は、石器時代の選択圧へのより最近の人口集団における適応の対象として免疫機能と色素沈着を強調する、以前の結果を拡張します。
●分析結果と考察
完新世人口集団間の混合は遍在している、という古代DNA研究の証拠にも関わらず、混合が移行期に作用する自然選択について変異をどのようにもたらしたのか、あまり知られていません。完新世の混合は劇的な移住もしくは生活様式の変化と関連していることが多いことを考えると、適応的遺伝子移入の重要な役割を予測できます。おそらく、古代の混合の最も深く研究された事例は、ヨーロッパにおける中石器時代から新石器時代への移行です。前期新石器時代集団は10000~5000年前頃にアナトリア半島からヨーロッパ全域に拡大するにつれて、在来の中石器時代狩猟採集民と混合し、6000年前頃までにこれら在来集団からその祖先系統の20~30%が由来することになりました(関連記事)。したがって、混合した新石器時代祖先系統は新たな文化的および地理的景観にあり、人口密度と家畜動物への近さのため感染症負荷が増加した、と仮定されました。
ヨーロッパ新石器時代における自然選択に関する先行研究は、他の古代および現代の人口集団とアレル頻度もしくはハプロタイプ構造を比較してきました(関連記事)。しかしこれまで、混合形態の適応がヒトにおいて繰り返し観察されてきた事実にも関わらず、適応的混合を特定し用途の具体的試みはありませんでした。最近の研究は2つの最適手法を特定し、アレル頻度と在来祖先系統に基づいて、現在の人口集団から得られたデータで適応的混合を検出しました。本論文は、これら2つの手法を新たな枠組みで古代の人口集団に適合させ、ゲノム規模帰無分布からp値を得て、中石器時代と前期および中期新石器時代(混合新石器時代個体群)677個体における適応的混合を調べます。
過去15000年間のヨーロッパとアナトリア半島のゲノム規模古代DNAデータで個体群をクラスタ化し(まとめ)、3集団のうちの1集団に分類しました。それは、中石器時代および旧石器時代の狩猟採集民125個体、実質的な狩猟採集民との混合の証拠のないアナトリア半島とバルカン半島の前期新石器時代55個体、かなりの中石器時代狩猟採集民との混合のあるその後の新石器時代個体むです。本論文の分析は合計で677個体から構成され、地理的にはユーラシア西部全域、年代は7500年間にまたがります(図1A・B)。以下は本論文の図1です。
まず、混合を認識しなかった自然選択を見つける手法が用いられ、人口集団間の2乗したアレル頻度、つまりf2統計として、増加する分化が検索されました。各一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、略してSNP)とそれぞれの側でSNPに隣接する25のSNPで平均が計算され(つまり、51塩基対スライディングウィンドウにおいて)、ガンマ分布を少なくとも500万塩基対で分;される、532のほぼ独立した遺伝子座の帰無標本へと適合させることにより、p値が得られました。
中石器時代~新石器時代もしくは中石器時代狩猟採集民と混合した新石器時代人の対比では統計的に有意な外れ値は観察されず、これは、こうした集団間の比較的深い分岐に起因する可能性が高そうです。つまり、自然選択により分化している遺伝子座の兆候を隠す遺伝的浮動から生じたアレル頻度の分散です。しかし、新石器時代混合と新石器時代の対比では、HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球型抗原)-DQB1遺伝子型に集中している6番染色体上のMHC領域全体で、ひじょうに顕著な過剰分化が観察されます。これは新石器時代および混合新石器時代集団のデータに網羅されている期間のMHCにおける自然選択を示唆しますが、この分析はそれが適応的な中石器時代の混合に起因するかもしれないのかどうか、処理しません。
適応的混合を探すため、先行研究に基づくとうけいが適用されました。これはFadmと呼ばれており、寄与している祖先系統のゲノム規模平均混合割合を考慮して予測されるアレル頻度から得た偏差について検証します。HLA-DQB1に集中した、MHC全体の過剰な兆候が再度観察されます(図2A)。この調査結果が120万SNPパネルにおける確証の偏りにより駆動されていないことを確認するため、中石器時代65個体、新石器時代25個体、混合新石器時代83個体から得た合計173個体の全ゲノムショットガン配列におけるMHC領域が分析され、クラス2MHC領域全体に伸びる部位統計と要約統計両方における124万SNPの結果と一致する最高点が観察されました(図2C)。以下は本論文の図2です。
次に、ゲノム全体の局所的祖先系統の偏差(local ancestry deviation、略してLAD)の検索、混合の方向性の定量化が試みられました。混合した中期新石器時代537個体において、ancestryHMMを用いて、ゲノム規模SNPデータで局所的祖先系統が推測されました。ancestryHMM は、2人口集団からのアレル頻度を使用しての低網羅率ゲノムにおける局所的祖先系統を推定します。少なくとも500万塩基対により分離された555ヶ所の部位で構成されるゲノム規模分布のほぼ独立した二次標本を用いて、LADについて標準誤差とZ得点が計算されました。
新石器時代祖先系統の最大の過剰はSLC24A5に集中しており(図2D)、その最高は+17.82%です。新石器時代祖先系統の背景で見られる派生的なSLC24Aのアレルは、現在のユーラシア西部祖先系統人口集団において明るい肌の色素沈着に最も寄与している2つのアレルのうちの1つです。新石器時代の祖先背景で担われている派生的なSLC24A5対立遺伝子は、現在の西ユーラシア祖先集団【47】の明るい皮膚色素に最も寄与する2つの対立遺伝子のうちの1つである。このアレルは以前には、新石器時代人口集団においては比較的高頻度で、中石器時代狩猟採集民には存在しない、と示されてきており、本論文の結果から、選択がその後の混合新石器時代集団においてこの遺伝子座における狩猟採集民祖先系統を除去した、と示されます。
一方、新石器時代祖先系統の最低量は6番染色体上のMHC領域で見られます。この遺伝子座内では、中期新石器時代祖先系統の領域がHLA-Eに集中しており、最高の過剰は+23.1%となり、それに次ぐ高さ(+17.18%)の過剰はクラス2領域に集中しています。この中期新石器時代祖先系統の増加領域は連続した領域として続いており、全MHC(6番染色体の部位では28477797~33448354の間)では祖先系統の平均が+9.16%になります。HLA遺伝子座におけるLAD分析の偏りは、より高い多様性の供給源祖先系統の方向性で予測される、と提案されてきており、本論文での観察とは異なります。
ヒト参照ゲノムでもancestryHMMが実行され、偏ったマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)との仮説が検証されましたが、参照ゲノムはこの遺伝子座において新石器時代と中石器時代両方の祖先系統を有すると推測され根、と分かりました。ancestryHMMと他の局所的祖先系統手法は、古代人の遺伝的データでは広く用いられておらず、これらのデータの特定の特性には敏感かもしれません。しかし、LADの結果はFadmの結果とほぼ一致し、この手法が堅牢であることを示唆します。
適応的混合は小さな効果で複数の多様体に作用し、ゲノム全体に広がった可能性もあります。そうした多遺伝子選択の証拠を検証するため、ほぼ独立していると希薄されたゲノム規模の有意なSNPを用いて、イギリス王国生物銀行(United Kingdom BioBank、略してUKBB)の38の形質について、LADと含まれた局所的祖先系統効果規模ピアソン相関が計算されました(図3A)。肌の色における形質得点とLADとの間で相関の有意な証拠が見られ、SLC24A5周辺における適応的混合と一致します。じっさい、この兆候は単に2つの遺伝子座によってのみ駆動され、中石器時代祖先系統に向かって偏っているHERC2遺伝子の多様体は、SLC24A5遺伝子とともに肌の色素沈着のより明るい水準に寄与します。これら2つの遺伝子座がなければ、多遺伝子選択の有意な証拠はありません。腰の大きさについて、より弱いものの有意な相関が観察されます(図3A)。以下は本論文の図3です。
新石器時代への移行は、人口動態と分化と食性における劇的な変化と、新たな病原体への曝露および人畜共通感染症の可能性増加をもたらしました。混合新石器時代個体群では、色素沈着遺伝子座SLC24A5における過剰な新石器時代農耕民祖先系統と、MHC免疫遺伝子座における過剰な中石器時代祖先系統が見つかりました。先行研究も、ヨーロッパの人口集団のSLC24A5における自然選択の証拠を見つけ、そのアレルはアナトリア半島農耕民でほぼ固定されており、新石器時代にヨーロッパ西部へともたらされた、と示しましたが、本論文はさらに、中期新石器時代におけるその後の選択は、約300万塩基対を網羅するより広範な遺伝子座全体で、中石器時代祖先系統の除去をもたらすのに充分だった、と論証します。類似しているものの逆の過程で、MHC遺伝子座は以前に、現在のヨーロッパ人の祖先、とくに新石器時代ヨーロッパにおいて選択を受けてきた、と論証されました。本論文では、複数の検定で修正されたMHC遺伝子座における選択についてさらに堅牢な結果が得られ、この過程がとくらMHC遺伝子座において狩猟採集民祖先系統を増加させた、と論証されました。
SLC24A5とは対照的に、HERCにおける二番目に高い効果の色素沈着多様体は、中石器時代祖先系統の過剰(+10.79%)を示します。したがって、ユーラシア草原地帯からの後の拡大を経由してヨーロッパに到来したSLC45A2における三番目に高い効果の色素沈着多様体とともに、ヨーロッパにおける色素沈着の選択は、3つの主要な祖先人口集団それぞれからの多様体を対象としました。これは、ユーラシア西部の肌の色素沈着の進化における混合の顕著な役割を浮き彫りにしています。この兆候がFadmでのアレル頻度に基づく分析では見られないことは、本論文の新石器時代人口集団間のアレル頻度の小さな絶対的変化に起因する可能性があり、局所的祖先系統が一部の事例では混合人口集団における選択の検出にとってアレル頻度分析より強力である、との最近の論証を確証します。
MHC遺伝子座全域にわたる中石器時代祖先系統の選択の証拠は、ヨーロッパにおける新石器時代への移行期における免疫での適応促進に果たした役割を浮き彫りにします。一つの仮説は、これは、新石器時代人口集団が、中石器時代時がすでに適応していた病原体を含む環境へと拡大した、という事実を反映している、というものです。これは、新石器時代人口集団における病原体負荷は、増加する人口密度および人畜共通感染症媒介動物への近さにのみ駆動された、との見解に反しています。一方、MHCを含む推定される適応的混合の事例が以前に記載されましたが、この領域内の選択下のアレルと特定の病原体との間の明確な関連は特定されていません。
別の可能性は、この適応が負の頻度依存選択を反映している、というものです。それは、病原体が人口集団において最も一般的なアレルへ適応し、稀なアレルが有利になるからです。とくに、MHCクラス2遺伝子は、抗原提示タンパク質の結合能力と、この結合およびその後の免疫応答を逃れる病原体の能力との間で、赤の女王的軍拡競争を経ている、と提案されてきました。このモデル下では、特定の病原体により見えないHLAアレルは、希少性のために混合後の最初の適応度が高くなるでしょう。したがって、割合の低い中石器時代祖先系統での選択は、新石器時代人口集団へとより稀な多様体をもたらした混合を単純に反映し、この遺伝子座における多様性を増加させたのかもしれません。これは、人口集団内の免疫を多様化する、クラス2遺伝子における異型接合性の選択としても説明できます。
この解釈に対する一つの注意点は、広い地域と期間にわたる標本を収集していることで、本論文の結果は、より多くの標本抽出された多様性での地域と期間で、より局所的な分化もしくは自然選択を反映している可能性があります。一方、類似の効果が現在の人口集団で観察されてきたことに要注意です。先行研究では、MHCにおける適応的混合が見つかり、同様に、農耕の西バントゥー諸語話者におけるアフリカ西部熱帯雨林狩猟採集民に由来するより低い割合の混合祖先系統について、50%程の在来祖先系統が報告されています(関連記事)。
HLAは自然選択の対象になることが多いようで、上述の過程は排他的ではないことに要注意です。選択の広範な証拠は、過去数千年に焦点を当てた調査と、古代型のヒト【非現生人類ホモ属】からの遺伝子移入の後の両方で検出されてきました。改善された機能的注釈付けとの協同での全ゲノムショットガンデータを含む将来の研究は、この適応的過程にさらなる光を当てるかもしれません。
参考文献:
Davy T. et al.(2023): Hunter-gatherer admixture facilitated natural selection in Neolithic European farmers. Current Biology, 33, 7, 1365–1371.E3.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.02.049
●要約
古代DNAは、文化的革新と関連する地理的拡大期のヒト先史時代における混合の複数事象を明らかにしてきました。重要な一例は近東からヨーロッパへの新石器時代農耕集団の拡大と、その後の中石器時代狩猟採集民との混合です。この期間の古代ゲノムは、選択が作用した新たな遺伝的変異を提示する混合の役割についての研究と、狩猟採集民からの遺伝子移入に抵抗し、したがって農耕適応に寄与したかもしれないゲノム領域の同定に機会を提供します。
本論文は、中石器時代から新石器時代にまたがるヨーロッパの677個体のゲノム規模DNAを用いて、混合個体群のゲノムにおける祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の偏差を推測し、ゲノム規模帰無分布からの偏差の検定により混合後の自然選択について検証します。その結果、色素沈着関連遺伝子SLC24A5周辺の領域はゲノムにおいて新石器時代在来祖先系統の最大の過剰出現を示す、と分かりました。
対照的に、主要組織適合複合体(major histocompatibility complex、略してMHC)全域での中石器時代祖先系統の最大の過剰出現が見つかりました。MHCは主要な免疫遺伝子座で、混合後の選択を示唆するアレル(対立遺伝子)頻度偏差も示します。これは、新石器時代人口集団に一般的なMHCアレルでの負の頻度依存選択か、中石器時代アレルが正の選択を受け、病原体もしくは他の環境要因への新石器時代人口集団における適応を促進した、ということを反映しているかもしれません。この研究は、石器時代の選択圧へのより最近の人口集団における適応の対象として免疫機能と色素沈着を強調する、以前の結果を拡張します。
●分析結果と考察
完新世人口集団間の混合は遍在している、という古代DNA研究の証拠にも関わらず、混合が移行期に作用する自然選択について変異をどのようにもたらしたのか、あまり知られていません。完新世の混合は劇的な移住もしくは生活様式の変化と関連していることが多いことを考えると、適応的遺伝子移入の重要な役割を予測できます。おそらく、古代の混合の最も深く研究された事例は、ヨーロッパにおける中石器時代から新石器時代への移行です。前期新石器時代集団は10000~5000年前頃にアナトリア半島からヨーロッパ全域に拡大するにつれて、在来の中石器時代狩猟採集民と混合し、6000年前頃までにこれら在来集団からその祖先系統の20~30%が由来することになりました(関連記事)。したがって、混合した新石器時代祖先系統は新たな文化的および地理的景観にあり、人口密度と家畜動物への近さのため感染症負荷が増加した、と仮定されました。
ヨーロッパ新石器時代における自然選択に関する先行研究は、他の古代および現代の人口集団とアレル頻度もしくはハプロタイプ構造を比較してきました(関連記事)。しかしこれまで、混合形態の適応がヒトにおいて繰り返し観察されてきた事実にも関わらず、適応的混合を特定し用途の具体的試みはありませんでした。最近の研究は2つの最適手法を特定し、アレル頻度と在来祖先系統に基づいて、現在の人口集団から得られたデータで適応的混合を検出しました。本論文は、これら2つの手法を新たな枠組みで古代の人口集団に適合させ、ゲノム規模帰無分布からp値を得て、中石器時代と前期および中期新石器時代(混合新石器時代個体群)677個体における適応的混合を調べます。
過去15000年間のヨーロッパとアナトリア半島のゲノム規模古代DNAデータで個体群をクラスタ化し(まとめ)、3集団のうちの1集団に分類しました。それは、中石器時代および旧石器時代の狩猟採集民125個体、実質的な狩猟採集民との混合の証拠のないアナトリア半島とバルカン半島の前期新石器時代55個体、かなりの中石器時代狩猟採集民との混合のあるその後の新石器時代個体むです。本論文の分析は合計で677個体から構成され、地理的にはユーラシア西部全域、年代は7500年間にまたがります(図1A・B)。以下は本論文の図1です。
まず、混合を認識しなかった自然選択を見つける手法が用いられ、人口集団間の2乗したアレル頻度、つまりf2統計として、増加する分化が検索されました。各一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、略してSNP)とそれぞれの側でSNPに隣接する25のSNPで平均が計算され(つまり、51塩基対スライディングウィンドウにおいて)、ガンマ分布を少なくとも500万塩基対で分;される、532のほぼ独立した遺伝子座の帰無標本へと適合させることにより、p値が得られました。
中石器時代~新石器時代もしくは中石器時代狩猟採集民と混合した新石器時代人の対比では統計的に有意な外れ値は観察されず、これは、こうした集団間の比較的深い分岐に起因する可能性が高そうです。つまり、自然選択により分化している遺伝子座の兆候を隠す遺伝的浮動から生じたアレル頻度の分散です。しかし、新石器時代混合と新石器時代の対比では、HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球型抗原)-DQB1遺伝子型に集中している6番染色体上のMHC領域全体で、ひじょうに顕著な過剰分化が観察されます。これは新石器時代および混合新石器時代集団のデータに網羅されている期間のMHCにおける自然選択を示唆しますが、この分析はそれが適応的な中石器時代の混合に起因するかもしれないのかどうか、処理しません。
適応的混合を探すため、先行研究に基づくとうけいが適用されました。これはFadmと呼ばれており、寄与している祖先系統のゲノム規模平均混合割合を考慮して予測されるアレル頻度から得た偏差について検証します。HLA-DQB1に集中した、MHC全体の過剰な兆候が再度観察されます(図2A)。この調査結果が120万SNPパネルにおける確証の偏りにより駆動されていないことを確認するため、中石器時代65個体、新石器時代25個体、混合新石器時代83個体から得た合計173個体の全ゲノムショットガン配列におけるMHC領域が分析され、クラス2MHC領域全体に伸びる部位統計と要約統計両方における124万SNPの結果と一致する最高点が観察されました(図2C)。以下は本論文の図2です。
次に、ゲノム全体の局所的祖先系統の偏差(local ancestry deviation、略してLAD)の検索、混合の方向性の定量化が試みられました。混合した中期新石器時代537個体において、ancestryHMMを用いて、ゲノム規模SNPデータで局所的祖先系統が推測されました。ancestryHMM は、2人口集団からのアレル頻度を使用しての低網羅率ゲノムにおける局所的祖先系統を推定します。少なくとも500万塩基対により分離された555ヶ所の部位で構成されるゲノム規模分布のほぼ独立した二次標本を用いて、LADについて標準誤差とZ得点が計算されました。
新石器時代祖先系統の最大の過剰はSLC24A5に集中しており(図2D)、その最高は+17.82%です。新石器時代祖先系統の背景で見られる派生的なSLC24Aのアレルは、現在のユーラシア西部祖先系統人口集団において明るい肌の色素沈着に最も寄与している2つのアレルのうちの1つです。新石器時代の祖先背景で担われている派生的なSLC24A5対立遺伝子は、現在の西ユーラシア祖先集団【47】の明るい皮膚色素に最も寄与する2つの対立遺伝子のうちの1つである。このアレルは以前には、新石器時代人口集団においては比較的高頻度で、中石器時代狩猟採集民には存在しない、と示されてきており、本論文の結果から、選択がその後の混合新石器時代集団においてこの遺伝子座における狩猟採集民祖先系統を除去した、と示されます。
一方、新石器時代祖先系統の最低量は6番染色体上のMHC領域で見られます。この遺伝子座内では、中期新石器時代祖先系統の領域がHLA-Eに集中しており、最高の過剰は+23.1%となり、それに次ぐ高さ(+17.18%)の過剰はクラス2領域に集中しています。この中期新石器時代祖先系統の増加領域は連続した領域として続いており、全MHC(6番染色体の部位では28477797~33448354の間)では祖先系統の平均が+9.16%になります。HLA遺伝子座におけるLAD分析の偏りは、より高い多様性の供給源祖先系統の方向性で予測される、と提案されてきており、本論文での観察とは異なります。
ヒト参照ゲノムでもancestryHMMが実行され、偏ったマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)との仮説が検証されましたが、参照ゲノムはこの遺伝子座において新石器時代と中石器時代両方の祖先系統を有すると推測され根、と分かりました。ancestryHMMと他の局所的祖先系統手法は、古代人の遺伝的データでは広く用いられておらず、これらのデータの特定の特性には敏感かもしれません。しかし、LADの結果はFadmの結果とほぼ一致し、この手法が堅牢であることを示唆します。
適応的混合は小さな効果で複数の多様体に作用し、ゲノム全体に広がった可能性もあります。そうした多遺伝子選択の証拠を検証するため、ほぼ独立していると希薄されたゲノム規模の有意なSNPを用いて、イギリス王国生物銀行(United Kingdom BioBank、略してUKBB)の38の形質について、LADと含まれた局所的祖先系統効果規模ピアソン相関が計算されました(図3A)。肌の色における形質得点とLADとの間で相関の有意な証拠が見られ、SLC24A5周辺における適応的混合と一致します。じっさい、この兆候は単に2つの遺伝子座によってのみ駆動され、中石器時代祖先系統に向かって偏っているHERC2遺伝子の多様体は、SLC24A5遺伝子とともに肌の色素沈着のより明るい水準に寄与します。これら2つの遺伝子座がなければ、多遺伝子選択の有意な証拠はありません。腰の大きさについて、より弱いものの有意な相関が観察されます(図3A)。以下は本論文の図3です。
新石器時代への移行は、人口動態と分化と食性における劇的な変化と、新たな病原体への曝露および人畜共通感染症の可能性増加をもたらしました。混合新石器時代個体群では、色素沈着遺伝子座SLC24A5における過剰な新石器時代農耕民祖先系統と、MHC免疫遺伝子座における過剰な中石器時代祖先系統が見つかりました。先行研究も、ヨーロッパの人口集団のSLC24A5における自然選択の証拠を見つけ、そのアレルはアナトリア半島農耕民でほぼ固定されており、新石器時代にヨーロッパ西部へともたらされた、と示しましたが、本論文はさらに、中期新石器時代におけるその後の選択は、約300万塩基対を網羅するより広範な遺伝子座全体で、中石器時代祖先系統の除去をもたらすのに充分だった、と論証します。類似しているものの逆の過程で、MHC遺伝子座は以前に、現在のヨーロッパ人の祖先、とくに新石器時代ヨーロッパにおいて選択を受けてきた、と論証されました。本論文では、複数の検定で修正されたMHC遺伝子座における選択についてさらに堅牢な結果が得られ、この過程がとくらMHC遺伝子座において狩猟採集民祖先系統を増加させた、と論証されました。
SLC24A5とは対照的に、HERCにおける二番目に高い効果の色素沈着多様体は、中石器時代祖先系統の過剰(+10.79%)を示します。したがって、ユーラシア草原地帯からの後の拡大を経由してヨーロッパに到来したSLC45A2における三番目に高い効果の色素沈着多様体とともに、ヨーロッパにおける色素沈着の選択は、3つの主要な祖先人口集団それぞれからの多様体を対象としました。これは、ユーラシア西部の肌の色素沈着の進化における混合の顕著な役割を浮き彫りにしています。この兆候がFadmでのアレル頻度に基づく分析では見られないことは、本論文の新石器時代人口集団間のアレル頻度の小さな絶対的変化に起因する可能性があり、局所的祖先系統が一部の事例では混合人口集団における選択の検出にとってアレル頻度分析より強力である、との最近の論証を確証します。
MHC遺伝子座全域にわたる中石器時代祖先系統の選択の証拠は、ヨーロッパにおける新石器時代への移行期における免疫での適応促進に果たした役割を浮き彫りにします。一つの仮説は、これは、新石器時代人口集団が、中石器時代時がすでに適応していた病原体を含む環境へと拡大した、という事実を反映している、というものです。これは、新石器時代人口集団における病原体負荷は、増加する人口密度および人畜共通感染症媒介動物への近さにのみ駆動された、との見解に反しています。一方、MHCを含む推定される適応的混合の事例が以前に記載されましたが、この領域内の選択下のアレルと特定の病原体との間の明確な関連は特定されていません。
別の可能性は、この適応が負の頻度依存選択を反映している、というものです。それは、病原体が人口集団において最も一般的なアレルへ適応し、稀なアレルが有利になるからです。とくに、MHCクラス2遺伝子は、抗原提示タンパク質の結合能力と、この結合およびその後の免疫応答を逃れる病原体の能力との間で、赤の女王的軍拡競争を経ている、と提案されてきました。このモデル下では、特定の病原体により見えないHLAアレルは、希少性のために混合後の最初の適応度が高くなるでしょう。したがって、割合の低い中石器時代祖先系統での選択は、新石器時代人口集団へとより稀な多様体をもたらした混合を単純に反映し、この遺伝子座における多様性を増加させたのかもしれません。これは、人口集団内の免疫を多様化する、クラス2遺伝子における異型接合性の選択としても説明できます。
この解釈に対する一つの注意点は、広い地域と期間にわたる標本を収集していることで、本論文の結果は、より多くの標本抽出された多様性での地域と期間で、より局所的な分化もしくは自然選択を反映している可能性があります。一方、類似の効果が現在の人口集団で観察されてきたことに要注意です。先行研究では、MHCにおける適応的混合が見つかり、同様に、農耕の西バントゥー諸語話者におけるアフリカ西部熱帯雨林狩猟採集民に由来するより低い割合の混合祖先系統について、50%程の在来祖先系統が報告されています(関連記事)。
HLAは自然選択の対象になることが多いようで、上述の過程は排他的ではないことに要注意です。選択の広範な証拠は、過去数千年に焦点を当てた調査と、古代型のヒト【非現生人類ホモ属】からの遺伝子移入の後の両方で検出されてきました。改善された機能的注釈付けとの協同での全ゲノムショットガンデータを含む将来の研究は、この適応的過程にさらなる光を当てるかもしれません。
参考文献:
Davy T. et al.(2023): Hunter-gatherer admixture facilitated natural selection in Neolithic European farmers. Current Biology, 33, 7, 1365–1371.E3.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.02.049
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