『卑弥呼』第104話「無類の軍師」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年4月5日号掲載分の感想です。前回は、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)連合軍が、ヤノハの策により、金砂(カナスナ)国の青谷(アオタニ)邑(現在の鳥取市青谷町でしょうか)を襲撃した日下(ヒノモト)連合軍の指揮官であるワカタケ王子(稚武彦命、つまり記紀のワカタケヒコノミコトでしょうか)だけではなく、日下の主君であるフトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)まで討ち取り、その後継者であるクニクル王子(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)が服喪を理由に軍に撤退するよう命じ、ヤノハが青谷邑の住居で寝ているところで終了しました。

 今回は、その5日前、吉備(キビ)と金砂の国境をフトニ王の一行が通過している場面から始まります。ミマアキが率いる特殊部隊は庶民の通行人を装い、通過するフトニ王の輿を密かに確認します。ミマアキは穂波(ホミ)国のトモに、日下王(フトニ王君)が乗るのは黄仁色の輿だと伝え、今夜だと伝えます。ミマアキは樹上から日下王を狙い、それを合図に一斉に矢を放つよう、命じます。フトニ王が顔を出すと、ミマアキはフトニ王を狙って連弩で矢を放ち、フトニ王を一撃で射殺すとともに、特殊部隊の他の兵士も一斉に連弩で矢を放って敵を混乱させ、特殊部隊は直ちに退却し、フトニ王一行を待つ敵軍の監視に向かいます。日下の王子(クニクル王子)を生かしておくのか、とトモに問われたミマアキは、王子は戦を止める決断ができる立場なので殺すな、とヤノハが指示している、と答えます。クニクル王子が戦の継続を選択下場合どうするのか、とトモに問われたミマアキは、その場合は必ず5000人の兵と合流するので、王子も殺す、と答えます。

 話は現在に戻って青谷邑では、ヤノハを日見子(ヒミコ)として擁立した山社(ヤマト)を盟主とする連合国の諸王とミマト将軍が、今後について話し合っていました。諸王は、吉備と金砂の国境あたりでの一戦を覚悟していましたが、青谷邑に来るまで敵兵をまったく見ておらず、ミマト将軍は、4日前の早朝に日下連合軍は蜘蛛の子を散らすように撤退したが、罠かもしれないと思って絶えず見張りを配置していた、と説明します。しかし、野にも森にも山にも敵兵の姿はありません。末盧(マツラ)のミルカシ王から青谷邑の軍の死者数を問われたミマト将軍は、負傷者はいるが死者はいない、と答えます。ミルカシ王は、予言通りとヤノハ(日見子)を畏怖しているようです。宍門(アナト)国のニキツミ王は、敵の日下は倭統一を執拗に企んでおり、本当に諦めたのだろうか、と疑問を呈します。

 そこへミマアキとトモが現れ、フトニ王が死に、クニクル王子が全軍の撤退を指示し、自分たちが見届けた、と伝えます。日下の使者が宍門に来た時から日見子様(ヤノハ)は戦を始めており、自分たち特殊部隊は使者一行を密かに追跡してフトニ王の居所を突き止めた、というわけです。フトニ王の首を獲るためだけに連弩を使ったのか、と山社連合国の諸王は驚きます。ミマト将軍は息子のミマアキを褒めますが、ミマアキは、山社連合軍7ヶ国の精鋭の手柄で、とくに副官のトモの原木は見事だった、と説明します。ミマト将軍は、副官のトモが、穂波国を裏切って日下に出奔したトモの一族ではないか、と疑問に思いますが、穂波国のヲカ王は、副官のトモは裏切り者のトモの息子だが、父に従わず穂波国を選んだ忠臣であることは、自分が保証する、と答えます。ミマアキも、トモが信頼できる男だと保証します。ミマト将軍に感謝されたトモは、副官に取り立ててくれたミマアキに恩義を感じている、と伝えます。日見子様(ヤノハ)のお告げ通り、わずか700の兵で1万人の兵に勝ったことを確信した山社連合軍の諸王は大声で勝利を喜びます。

 金砂国の(オオウチ)では、山社軍を率いる吉備津彦(キビツヒコ)が、フトニ王の死のため撤退する、悔しいが筑紫島連合軍の勝ちだ、と大声で邑に立て籠もる事代主(コトシロヌシ)に伝えます。しかし、フトニ王の息子である吉備津彦は、事代主が自分の双子の姉であるモモソを娶って倭を統一する野望は諦めていない、と呟きます。大内では、ミマト将軍が事代主に、戦が終わったようだ、と伝えます。事代主は日見子殿(ヤノハ)と筑紫島連合軍のおかげだ、と感謝し、ヤノハは無類の軍師なので、策をめぐらして敵兵1万人を翻弄したのだろう、とトメ将軍は推測します。事代主はトメ将軍に感謝し、一日も早く出雲に戻り民に寄り添いたい、と言いますが、吉備津彦の策略の可能性もあるので数日待つよう、トメ将軍は進言します。本当に戦が終わったのならどうするのか、と事代主に問われたトメ将軍は、笑顔で答えます。船に乗り、朝鮮半島、さらには後漢(もう滅亡は近そうですが)に行きたい、とトメ将軍は考えているのでしょう。青谷邑で、ヤノハが山社連合国の諸王と兵士に、戦は終わったのでともに故郷に帰ろう、と呼びかけるところで今回は終了です。


 今回は、日下連合軍との戦いにおける、ヤノハの意図が明かされました。ヤノハは、敵の総大将であるフトニ王の殺害を目標としつつ、その後継者であるクニクル王子は、撤兵を決断すれば殺さないよう、ミマアキに指示していました。これは、敵を攻め滅ぼすだけの力はない以上、戦を終結させるには交渉もしくは停戦を決断できる敵側の人物が必要になる、とのヤノハの冷静な判断だったように思います。これは、ヤノハが優れた政治家であることを示した描写になっています。次回から新展開とのことで、久しく描かれていない暈(クマ)国や、暈の志能備(シノビ)に捕らわれたアカメのその後も描かれるのではないか、と期待しています。

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