絶滅鳥類の卵殻から得られたミトコンドリアDNA

 絶滅鳥類の卵殻から抽出したミトコンドリアDNA(mtDNA)の解析結果を報告した研究(Grealy et al., 2023)が公表されました。マダガスカル島の絶滅鳥類であるゾウドリについては、化石記録における大きな間隙と骨格標本の生体分子保存性の低さから、その系統分類には依然として議論の余地があります。ゾウドリは空を飛べない大型鳥類種で、マダガスカル島にヒトが植民した1000年前頃に絶滅した、と考えられています。ゾウドリは4種により構成されていた、と示唆されていますが、その進化史は不明のままです。研究対象となる動物の骨格化石の数が少ない場合、卵殻中に保存された古代DNAの解析が関連情報を得るための有力な手段である、と知られています。たとえば以前の研究では、古代DNA解析によりゾウドリとキーウィが近縁関係にあった、と裏づけられました。

 この研究は、マダガスカル島全土の291ヶ所で発見されたゾウドリの卵殻の破片(960個)を解析しました。その年代は6190~1290年前頃で、ゾウドリが生息していた時代と一致します。卵殻の厚さの測定に基づいて、その重さは0.86~10.47kg、卵を産んだゾウドリの体重は41~1000kgと推定されました。分析された卵殻のうち、17点でほぼ完全なミトコンドリアゲノム(平均網羅率は27倍)が、4点で部分的なミトコンドリア配列(平均網羅率は3倍)が得られ、ゾウドリ類の系統分類が初めて明らかになり、その生態と進化に関する知見が得られました。

 マダガスカル島全域のミトコンドリアゲノムから、卵殻の形態、安定同位体組成、地理的分布と相関のある遺伝的変異が明らかになりました。高水準のクレード(単系統群)間の遺伝的差異から、ゾウドリ(Mullerornis)属を別々の科に再分類することが裏づけられました。つまり、エピオルニス(Aepyornis)科とゾウドリ(Mullerornithidae)科です。この両科の分岐は、マダガスカル島が北上するにつれて乾燥しなくなったと推定される、3000万年前頃に起きた、と推定されました。

 クレード内の遺伝的差異が低水準であることから、完新世のマダガスカル島南部には2種のゾウドリ属しか存在しなかった、と示唆されました。しかし、この研究は、エピオルニス(Aepyornis)科の独特な系統を表している、マダガスカル島最北端の卵殻群を発見しました。さらに、エピオルニス科 の分岐は、初期更新世にマダガスカル島が乾燥化した時期(150万年前頃) と一致し、短期間での多様化と極端な巨大化を促進した、高地における個体群の断片化と一致します。本論文は、古地質学と古生態学の観点を統合する分類学の改訂を提唱します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:卵の殻の化石がエレファントバードの知られざる系統を探り出す

 絶滅した鳥類種の1つでマダガスカルに生息していたエレファントバードに関する新たな知見が、1000年以上前の卵殻化石のDNA解析によって得られたことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。この研究知見によって、マダガスカルにおけるエレファントバードの進化と分布に関する理解が深まり、これまで知られていなかったエレファントバードの系統の可能性が示唆された。

 エレファントバードは、空を飛べない大型鳥類種で、マダガスカル島に人間が上陸した約1000年前に絶滅した。わずかな数の骨が見つかっており、エレファントバードが4種の鳥類種によって構成されていたことが示唆されているが、この分類群の進化史は不明のままだ。研究対象となる動物の骨格化石の数が少ない場合、卵殻中に保存された古代DNAの解析が関連情報を得るための有力な手段であることが知られている。例えば、以前の研究では、古代DNA解析によってエレファントバードとキーウィが近縁関係にあったことが裏付けられている。

 今回、Alicia Grealyたちは、マダガスカル全土の291カ所で発見されたエレファントバードの卵の殻の破片(960個)を解析した。これらの卵の殻は6190~1290年前のもので、エレファントバードが生息していた時代と一致する。そして、卵の殻の厚さの測定に基づいて、卵の重さは0.86~10.47キログラム、卵を産んだ鳥の体重は41~1000キログラムと推定された。また、DNA解析によって、マダガスカル南部のエレファントバードは遺伝的多様性が低く、骨格化石を用いた推定結果より種数が少ないことが判明した。その一方で、Grealyたちは、エレファントバードのこれまで知られていなかった系統がマダガスカル北部に生息していた可能性があるという考えを示している。ただし、この「新」系統の骨格遺物は見つかっていない。

 今回の知見は、卵殻に重要な情報が保存されることを実証し、エレファントバードの進化の複雑さを浮き彫りにしている。



参考文献:
Grealy A. et al.(2023): Molecular exploration of fossil eggshell uncovers hidden lineage of giant extinct bird. Nature Communications, 14, 914.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-36405-3

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