脊椎動物における生殖細胞系列の変異率の違い

 脊椎動物における生殖細胞系列の変異率の違いを報告した研究(Bergeron et al., 2023)が公表されました。生殖細胞系列の変異率は、ゲノム進化の速度を決定する一方で、それ自体が進化する媒介変数でもあります。しかし、変異率に関するこれまでの研究の大半は異なる方法論で単一の種に焦点を合わせたものだったので、その進化が何によって決定づけられるのかについて、ほとんど分かっていません。

 この研究は、哺乳類と魚類と鳥類と爬虫類から構成される計68種の親仔トリオ(両親とその仔)151組について、ゲノム塩基配列を高網羅率で解読し、それらを比較することで、異なる脊椎動物の生殖細胞系列の変異率を定量化しました。その結果、世代当たりの変異率は種間で40倍異なり、哺乳類と鳥類では雌より雄で変異率が高いものの、爬虫類と魚類ではそうした偏りは見られない、と明らかになりました。種間のこうした変動に影響を及ぼす主要な生活史形質は、世代時間や成熟齢や種水準の繁殖力でした。

 また、長期的な有効個体群規模が大きな種ほど、世代当たりの変異率は低くなる傾向があり、これは浮動障壁仮説(drift barrier hypothesis)を裏づけています。より短い世代時間などの繁殖力形質が継続的に選択されてきた家畜化動物では、年間変異率がひじょうに高く、これは変異率の進化における世代時間の重要性をさらに裏づけています。まとめると、系統に基づく変異率についてのこの比較解析の結果は、脊椎動物における変異率の進化に関する生態学的な手がかりを示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化遺伝学:脊椎動物における生殖細胞系列の変異率の進化

進化遺伝学:種間で異なる世代当たりの変異率

 今回、計68種の脊椎動物の親仔トリオ(両親とその仔)151組について全ゲノム塩基配列が解読され、生殖細胞系列の変異率の比較解析が行われた。その結果、世代当たりの変異率は種間で40倍異なり、こうした差異は、世代時間、成熟齢、種レベルの繁殖力といった生活史形質に影響を受けることが明らかになった。



参考文献:
Bergeron LA. et al.(2023): Evolution of the germline mutation rate across vertebrates. Nature, 615, 7951, 285–291.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-05752-y

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