哺乳類の社会組織と寿命との相関
哺乳類の社会組織と寿命との相関について研究(Zhu et al., 2023)が公表されました。社会性と寿命の関係の解明は、動物の生活史がどのように進化してきたのか、より深い理解を可能にします。哺乳類の社会組織は多岐にわたり、単独生活、つがい生活、さまざまな形態の集団生活が観察されています。また、哺乳類の最長寿命は、トガリネズミの約2年からホッキョククジラの200年以上まで、100倍の開きがあります。これまでに個別の哺乳類種を対象とした研究(たとえば、チャクマヒヒの研究)では、社会との絆が強い個体は、弱い個体よりも長生きである、と明らかになっています。集団生活は、捕食される危険性と飢餓の危険性を低く抑えられることが分かっており、これにより哺乳類の寿命を延ばせます。しかし、異なる哺乳類種を分析した研究の数は少なく、哺乳類の進化を理解するうえで重要な哺乳類の社会性と寿命の間の進化的関係の根底にある分子機構は明らかになっていません。
この研究は、哺乳類974種の社会性(単独生活、つがい生活、集団生活)と寿命の系統的な比較解析が行なわれました。これらの哺乳類には、アジアゾウやアフリカゾウ、ワオキツネザル、ヤマシマウマ、キクガシラコウモリなどの集団生活種と。ジュゴン、ツチブタ、トウブシマリスなどの単独生活種が含まれています。分析の結果、群れで生活する種は単独で生活する種よりも一般に長生きすることや、短命な状態から長命な状態への移行率が群れで生活する種において非群れで生活する種よりも高い、と分かり、社会組織と寿命の相関進化を全面的に支持する結果が得られました。たとえば、単独生活種のブラリナトガリネズミと集団生活種のキクガシラコウモリは同じような体重ですが、ブラリナトガリネズミの最長寿命が約2年であるのに対して、キクガシラコウモリの最長寿命は約30年です。
哺乳類94種の脳内トランスクリプトーム解析の比較から、社会組織と長寿の関連に広く関わる31個の遺伝子とホルモン、免疫関連経路が同定されました。さらに、社会組織と長寿の両方に選択されている20の経路が重複していることも明らかにされました。これらの結果は、社会組織が長寿に影響を与える分子的根拠を浮き彫りにし、哺乳類種の社会組織と寿命の進化に関する理解を深める可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
進化学:哺乳類の中で集団生活種の寿命が最も長いかもしれない
哺乳類のうち、集団で生活する種は、単独で生活する種と比べて、概して長生きすることを明らかにした論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、約1000種の哺乳類(キンシコウ、ハダカデバネズミ、ホッキョククジラ、キクガシラコウモリなど)の分析に基づいており、哺乳類種の社会組織と寿命の進化に関する理解を深める可能性がある。
哺乳類の社会組織は多岐にわたり、単独生活、つがい生活、さまざまな形態の集団生活が観察されている。また、哺乳類の最長寿命は、トガリネズミの約2年からホッキョククジラの200年以上まで100倍の開きがある。これまでに個別の哺乳類種を対象とした研究(例えばチャクマヒヒの研究)が行われ、社会との絆が強い個体は、弱い個体よりも長生きであることが判明している。集団生活は、捕食されるリスクと飢餓のリスクを低く抑えられることが分かっており、このことで哺乳類の寿命を延ばすことができる。ただし、異なる哺乳類種を分析した研究の数は少なく、哺乳類の進化を理解する上で重要な哺乳類の社会性と寿命の間の進化的関係の根底にある分子機構は明らかになっていない。
今回、Xuming Zhou、Ming Liたちは、974種の哺乳類を分析し、社会組織の3つのカテゴリー(単独生活、つがい生活、集団生活)と寿命を比較した。これらの哺乳類には、アジアゾウやアフリカゾウ、ワオキツネザル、ヤマシマウマ、キクガシラコウモリなどの集団生活種とジュゴン、ツチブタ、トウブシマリスなどの単独生活種が含まれている。この分析の結果、集団生活種は概して単独生活種よりも長生きすることが判明し、社会組織と寿命の相関進化が裏付けられた。例えば、単独生活種のブラリナトガリネズミと集団生活種のキクガシラコウモリは、同じような体重だが、ブラリナトガリネズミの最長寿命が約2年であるのに対して、キクガシラコウモリの最長寿命は約30年だ。また、94種の哺乳類について、遺伝的解析の一種であるトランスクリプトーム解析が行われ、社会組織と寿命の両方に広範に関連する31個の遺伝子とホルモン、免疫関連経路が同定された。
今回の研究で得られた知見は、集団生活と寿命の背後にある機構についてのさらなる実験と追跡調査の基盤となる。
参考文献:
Zhu P. et al.(2023): Correlated evolution of social organization and lifespan in mammals. Nature Communications, 14, 372.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-35869-7
この研究は、哺乳類974種の社会性(単独生活、つがい生活、集団生活)と寿命の系統的な比較解析が行なわれました。これらの哺乳類には、アジアゾウやアフリカゾウ、ワオキツネザル、ヤマシマウマ、キクガシラコウモリなどの集団生活種と。ジュゴン、ツチブタ、トウブシマリスなどの単独生活種が含まれています。分析の結果、群れで生活する種は単独で生活する種よりも一般に長生きすることや、短命な状態から長命な状態への移行率が群れで生活する種において非群れで生活する種よりも高い、と分かり、社会組織と寿命の相関進化を全面的に支持する結果が得られました。たとえば、単独生活種のブラリナトガリネズミと集団生活種のキクガシラコウモリは同じような体重ですが、ブラリナトガリネズミの最長寿命が約2年であるのに対して、キクガシラコウモリの最長寿命は約30年です。
哺乳類94種の脳内トランスクリプトーム解析の比較から、社会組織と長寿の関連に広く関わる31個の遺伝子とホルモン、免疫関連経路が同定されました。さらに、社会組織と長寿の両方に選択されている20の経路が重複していることも明らかにされました。これらの結果は、社会組織が長寿に影響を与える分子的根拠を浮き彫りにし、哺乳類種の社会組織と寿命の進化に関する理解を深める可能性があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
進化学:哺乳類の中で集団生活種の寿命が最も長いかもしれない
哺乳類のうち、集団で生活する種は、単独で生活する種と比べて、概して長生きすることを明らかにした論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、約1000種の哺乳類(キンシコウ、ハダカデバネズミ、ホッキョククジラ、キクガシラコウモリなど)の分析に基づいており、哺乳類種の社会組織と寿命の進化に関する理解を深める可能性がある。
哺乳類の社会組織は多岐にわたり、単独生活、つがい生活、さまざまな形態の集団生活が観察されている。また、哺乳類の最長寿命は、トガリネズミの約2年からホッキョククジラの200年以上まで100倍の開きがある。これまでに個別の哺乳類種を対象とした研究(例えばチャクマヒヒの研究)が行われ、社会との絆が強い個体は、弱い個体よりも長生きであることが判明している。集団生活は、捕食されるリスクと飢餓のリスクを低く抑えられることが分かっており、このことで哺乳類の寿命を延ばすことができる。ただし、異なる哺乳類種を分析した研究の数は少なく、哺乳類の進化を理解する上で重要な哺乳類の社会性と寿命の間の進化的関係の根底にある分子機構は明らかになっていない。
今回、Xuming Zhou、Ming Liたちは、974種の哺乳類を分析し、社会組織の3つのカテゴリー(単独生活、つがい生活、集団生活)と寿命を比較した。これらの哺乳類には、アジアゾウやアフリカゾウ、ワオキツネザル、ヤマシマウマ、キクガシラコウモリなどの集団生活種とジュゴン、ツチブタ、トウブシマリスなどの単独生活種が含まれている。この分析の結果、集団生活種は概して単独生活種よりも長生きすることが判明し、社会組織と寿命の相関進化が裏付けられた。例えば、単独生活種のブラリナトガリネズミと集団生活種のキクガシラコウモリは、同じような体重だが、ブラリナトガリネズミの最長寿命が約2年であるのに対して、キクガシラコウモリの最長寿命は約30年だ。また、94種の哺乳類について、遺伝的解析の一種であるトランスクリプトーム解析が行われ、社会組織と寿命の両方に広範に関連する31個の遺伝子とホルモン、免疫関連経路が同定された。
今回の研究で得られた知見は、集団生活と寿命の背後にある機構についてのさらなる実験と追跡調査の基盤となる。
参考文献:
Zhu P. et al.(2023): Correlated evolution of social organization and lifespan in mammals. Nature Communications, 14, 372.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-35869-7
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