性別と年齢により異なる概日遺伝子発現

 概日遺伝子発現の性別と年齢による違いを報告した研究(Talamanca et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。概日時計はヒトの生理機能を調節し、ヒトの生物学的性質の多くの側面を日々の環境および社会的手がかりと同期させています。しかし、遺伝子発現の周期変動的な概日変化はモデル生物ではよく報告されているものの、霊長類、とくにヒトからのデータは限られており、組織特異的な遺伝子発現の周期的変動の構成や、これらが年齢や性別にどのように依存するかは、ヒトでは定義されていません。

 この研究は、ヒトの性的二形性と分子的概日の周期的変動の相互作用についてより深く理解するため、遺伝子型-組織発現(Genotype-Tissue Expression、略してGTEx)計画のデータと、各個人の複数の組織からの時間情報を統合して、914人の提供者に概日の周期的変動を割り当てる演算法とを組み合わせ、46組織におけるメッセンジャーRNA(mRNA)の24時間の遺伝子発現の周期的変動を同定しました。

 その結果、時計転写産物は、体全体で保存された時期の関係と緊密な同期性を示し、遺伝子発現におけるゲノム規模の24時間の周期的変動はおもに朝と夕方の波として生じる、と分かりました。mRNAの周期的変動は、代謝経路や全身反応など、全体的な機能から組織特異的な機能まで、多岐にわたっていました。時計構造は、性別や年齢層を超えて保存されていました。しかし、全体的な遺伝子発現の周期的変動は性差が大きく、女性でより持続的でした。周期性を示す遺伝子の数は、女性では男性に比べてほぼ2倍多く、特に副腎と肝臓で顕著でした。周期変動的なプログラムは、一般に体全体、とくに冠動脈の心血管疾患で加齢とともに減衰しました。

 こうした概日の周期変動は人類進化の観点から興味深く、現代ヨーロッパ人において、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)に由来すると推測される多様体の存在が確認されています(関連記事)。ネアンデルタール人から現生人類(Homo sapiens)への遺伝子移入(関連記事)には、かつては中立的だったか有益だったのに、現在では適応度を下げているものもあり(関連記事)、遺伝子もしくはそれを基盤とする表現型の有利・不利が、一定不変ではなく環境により変わり得ることを改めて示しています。


参考文献:
Talamanca L, Gobet C, and Naef F.(2023): Sex-dimorphic and age-dependent organization of 24-hour gene expression rhythms in humans. Science, 379, 6631, 478–483.
https://doi.org/10.1126/science.add0846

この記事へのコメント