『卑弥呼』第102話「囮」
『ビッグコミックオリジナル』2023年3月5日号掲載分の感想です。前号では作画者の中村真理子氏が急病のため休載となり、案じられましたが、今号では無事掲載されていました。前回は、金砂(カナスナ)国の青谷(アオタニ)邑(現在の鳥取市青谷町でしょうか)にて、日下(ヒノモト)のフトニ王(大日本根子彦太瓊天皇、つまり記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)の三男で、山社(ヤマト)連合軍を攻撃する日下連合軍の総大将的立場にあると考えられる、ワカタケ王子(稚武彦命、つまり記紀のワカタケヒコノミコトでしょうか)が、青谷の陣地で一人立っているヤノハを見て、自分が一矢で仕留めよう、と呟くところで終了しました。今回は、吉備(キビ)と金砂の国境で、日下軍の兵が前を行く人々に、これからフトニ王が通るので平伏して道を開けて森に隠れるよう、指示する場面から始まります。日下軍の兵士は、前を行く人々が戦火から逃れた避難民と考えており、蛮族の王たちに率いられている筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の軍勢が明日にも押し寄せてくるので、のろのろ道を歩いている者は殺される、というわけです。平伏する者のうち男性一人が、王君様(フトニ王)を見送った後で獣道に逸れる、と申し出ると、日下軍の兵士はその忠義を褒めます。王君がどこにいるのか男性に問われた日下軍の兵士が、先頭の黄丹色の輿だと答えると、その男性は顔を上げてその輿を確認します。その男性は、ヤノハに命じられて特殊部隊を率いているミマアキでした。
青谷では、ヤノハがワカタケ(フトニ王の三男)に率いられた日下軍の潜んでいる山を、ミマト将軍とその娘であるイクメと共に眺めていました。山に何人いるのかヤノハに問われたミマト将軍は、弓部隊が500名程で、残りの4500名の歩兵は青谷邑の両側に移動中だろう、と答えます。青谷邑は、北方は海、南は山に面しており、東西に開けた地形です。ヤノハは松明を持ってくるよう命じ、山から見える場所に留まる、と言います。それでは総大将が敵の矢の恰好の標的になる、とミマト将軍もイクメもヤノハを諫めますが、ヤノハは、総大将は死んではならない役割であるものの、兵は自分を総大将というより顕人神(アラヒトガミ)と見ており、生きていること以上に不死身であることが必須条件だ、と言います。自分がいくら矢を射かけられても死ななければ、皆の士気は上がるはずだ、というわけです。
山からその様子を見ていたワカタケは、5000人の敵兵が潜んでいるのに邑で火を灯すとは、山社の日見子(ヒミコ)は実に愚かだ、と見下したように呟きます。ワカタケは配下の兵に、日が暮れたら一斉に矢を射かけ、東西の叢に潜む歩兵はそれを合図に青谷邑を攻めるよう、命じます。勝負は十刻(約2時間)とかからないだろう、とワカタケは楽観し、日見子(ヤノハ)だけは狙わないよう、命じます。日見子は自分が殺す、というわけです。
配置についたミマト将軍に娘のイクメが近づき、東側の配備が整った、と伝えます。東側の部隊を率いるのはヌカデとオオヒコのようで、ミマト将軍は安心しています。ヤノハを案じるイクメに、ヤノハ千穂(現在の高千穂でしょうか)の巖谷に籠ってから、それ以前は自分が生き残ることだけを考えていたのに、今では筑紫島の者を守ることを第一に考えている、と言います。それでもヤノハが矢を受けた場合を案じるイクメに、ヤノハが死ねば山社どころか筑紫島は終わる、とミマト将軍は言います。
ワカタケは矢を射るよう命じ、自身はヤノハをめがけて矢を射ます。しかし、ヤノハには当たらず、自分の悪運はまだ残っているようだ、とヤノハは呟きます。山から矢が射かけられているのを見た、青谷邑の東西の叢に潜んでいた日下軍は、一気に青谷邑に攻め入ります。暗くてよく見えなかった、と考えたワカタケは、火矢を放つよう命じ、その明かりを頼りにヤノハを射殺そうとします。青谷邑の東西の叢から出撃した日下軍は、泥の水田で動けないことに気づき、焦ります。ヤノハは、火矢で明るくなり、自分を執拗に狙う者(ワカタケ)に気づき、それが日下軍の総大将だと考えて、矢を射かけようとします。ワカタケは、青谷邑には兵士が数人しかおらず、ヤノハが自分を囮にしたことに気づきます。泥の水田に足を取られた日下軍の兵士は退却しようとしますが、ミマト将軍の部隊に襲撃されます。ミマト将軍は、撤退すれば反対側から襲撃されるのを知らないようだ、と呟いて作戦の成功を確信します。
ワカタケは、山社や那(ナ)や穂波(ホミ)や都萬(トマ)といった筑紫島の主力部隊が青谷邑にいなかったことから、東西から青谷邑に攻め入った日下軍の背後にいるのではないか、と考えて焦ります。そこに、ヤノハの放った矢がワカタケの首を貫きます。その頃、以前ヤノハに派遣された日下の使者の男性は、輿に乗ったフトニ王に、軒猿(ノキザル、間者)からの報告によると、日下軍が日没を待って攻撃を開始した、と伝えていました。日没後十刻が経過したので、戦は終わった頃だろうが、せめて筑紫島の日見子(ヤノハ)の骸だけは見たいものだ、とフトニ王は呟きます。男性から、ヤノハが「もはや戦を始めてしまったことを、王君(フトニ王)に謝ってほしい」と言ったことを伝えられたフトニ王は、その意味が分からず不審に思います。その直後、フトニ王の目交に矢が刺さるところで、今回は終了です。
今回は、ついに筑紫島連合軍と日下連合軍との戦いが始まり、ヤノハの周到な策が描かれて爽快感はありましたが、一方で、ヤノハは敵に自身を曝すなど、運を天に任せたような策も採用しており、命がけで筑紫島を守ろうとした覚悟も示しています。そうしたヤノハに、以前とは異なる覚悟をミマト将軍もその娘であるイクメも見ているようです。今回、ワカタケもフトニ王も射殺されたでしょうから、次の戦を起こすことに、相手が相当躊躇うような勝ち方、つまり総大将を殺せば戦意は長くくじかれるだろう、と考えていた(第93話)ヤノハの思惑通りとも言えそうです。ただ、日下ではフトニ王の息子のうち、後継者であるクニクル王子(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)と、吉備津彦(キビツヒコ)は健在ですから、日下連合軍が総崩れとはならないかもしれません。ヤノハにはさらに策があり、日下を撤退させ、長く筑紫島に攻め込ませないよう、考えているのでしょうが、次にヤノハがどのような手を打つのか、たいへん楽しみです。
青谷では、ヤノハがワカタケ(フトニ王の三男)に率いられた日下軍の潜んでいる山を、ミマト将軍とその娘であるイクメと共に眺めていました。山に何人いるのかヤノハに問われたミマト将軍は、弓部隊が500名程で、残りの4500名の歩兵は青谷邑の両側に移動中だろう、と答えます。青谷邑は、北方は海、南は山に面しており、東西に開けた地形です。ヤノハは松明を持ってくるよう命じ、山から見える場所に留まる、と言います。それでは総大将が敵の矢の恰好の標的になる、とミマト将軍もイクメもヤノハを諫めますが、ヤノハは、総大将は死んではならない役割であるものの、兵は自分を総大将というより顕人神(アラヒトガミ)と見ており、生きていること以上に不死身であることが必須条件だ、と言います。自分がいくら矢を射かけられても死ななければ、皆の士気は上がるはずだ、というわけです。
山からその様子を見ていたワカタケは、5000人の敵兵が潜んでいるのに邑で火を灯すとは、山社の日見子(ヒミコ)は実に愚かだ、と見下したように呟きます。ワカタケは配下の兵に、日が暮れたら一斉に矢を射かけ、東西の叢に潜む歩兵はそれを合図に青谷邑を攻めるよう、命じます。勝負は十刻(約2時間)とかからないだろう、とワカタケは楽観し、日見子(ヤノハ)だけは狙わないよう、命じます。日見子は自分が殺す、というわけです。
配置についたミマト将軍に娘のイクメが近づき、東側の配備が整った、と伝えます。東側の部隊を率いるのはヌカデとオオヒコのようで、ミマト将軍は安心しています。ヤノハを案じるイクメに、ヤノハ千穂(現在の高千穂でしょうか)の巖谷に籠ってから、それ以前は自分が生き残ることだけを考えていたのに、今では筑紫島の者を守ることを第一に考えている、と言います。それでもヤノハが矢を受けた場合を案じるイクメに、ヤノハが死ねば山社どころか筑紫島は終わる、とミマト将軍は言います。
ワカタケは矢を射るよう命じ、自身はヤノハをめがけて矢を射ます。しかし、ヤノハには当たらず、自分の悪運はまだ残っているようだ、とヤノハは呟きます。山から矢が射かけられているのを見た、青谷邑の東西の叢に潜んでいた日下軍は、一気に青谷邑に攻め入ります。暗くてよく見えなかった、と考えたワカタケは、火矢を放つよう命じ、その明かりを頼りにヤノハを射殺そうとします。青谷邑の東西の叢から出撃した日下軍は、泥の水田で動けないことに気づき、焦ります。ヤノハは、火矢で明るくなり、自分を執拗に狙う者(ワカタケ)に気づき、それが日下軍の総大将だと考えて、矢を射かけようとします。ワカタケは、青谷邑には兵士が数人しかおらず、ヤノハが自分を囮にしたことに気づきます。泥の水田に足を取られた日下軍の兵士は退却しようとしますが、ミマト将軍の部隊に襲撃されます。ミマト将軍は、撤退すれば反対側から襲撃されるのを知らないようだ、と呟いて作戦の成功を確信します。
ワカタケは、山社や那(ナ)や穂波(ホミ)や都萬(トマ)といった筑紫島の主力部隊が青谷邑にいなかったことから、東西から青谷邑に攻め入った日下軍の背後にいるのではないか、と考えて焦ります。そこに、ヤノハの放った矢がワカタケの首を貫きます。その頃、以前ヤノハに派遣された日下の使者の男性は、輿に乗ったフトニ王に、軒猿(ノキザル、間者)からの報告によると、日下軍が日没を待って攻撃を開始した、と伝えていました。日没後十刻が経過したので、戦は終わった頃だろうが、せめて筑紫島の日見子(ヤノハ)の骸だけは見たいものだ、とフトニ王は呟きます。男性から、ヤノハが「もはや戦を始めてしまったことを、王君(フトニ王)に謝ってほしい」と言ったことを伝えられたフトニ王は、その意味が分からず不審に思います。その直後、フトニ王の目交に矢が刺さるところで、今回は終了です。
今回は、ついに筑紫島連合軍と日下連合軍との戦いが始まり、ヤノハの周到な策が描かれて爽快感はありましたが、一方で、ヤノハは敵に自身を曝すなど、運を天に任せたような策も採用しており、命がけで筑紫島を守ろうとした覚悟も示しています。そうしたヤノハに、以前とは異なる覚悟をミマト将軍もその娘であるイクメも見ているようです。今回、ワカタケもフトニ王も射殺されたでしょうから、次の戦を起こすことに、相手が相当躊躇うような勝ち方、つまり総大将を殺せば戦意は長くくじかれるだろう、と考えていた(第93話)ヤノハの思惑通りとも言えそうです。ただ、日下ではフトニ王の息子のうち、後継者であるクニクル王子(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)と、吉備津彦(キビツヒコ)は健在ですから、日下連合軍が総崩れとはならないかもしれません。ヤノハにはさらに策があり、日下を撤退させ、長く筑紫島に攻め込ませないよう、考えているのでしょうが、次にヤノハがどのような手を打つのか、たいへん楽しみです。
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