クジラの巨大化をもたらした遺伝子
クジラの巨大化をもたらした遺伝子に関する研究(Silva et al., 2023)が公表されました。クジラとイルカとネズミイルカにより構成されるクジラ類は約5000万年前に祖先の小型陸生動物から進化し、シロナガスクジラやナガスクジラなどの巨大な代表種を含む、生物の中で最大級とされる水生哺乳類群です。しかし、巨大化は生物学的な不利益(生殖生産量の減少、癌などの疾患にかかりやすくなること)を伴う場合があり、クジラの巨大化にどのような遺伝子がどのような役割を果たしたのか、明らかになっていません。
この研究はクジラ類の巨大化の遺伝的基盤を理解するため、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸と関連した5つの遺伝子(GHSR、IGF2、IGFBP2、IGFBP7、EGF)と、クジラから進化的に比較的近い有蹄動物(ブタやウシやヒツジなど)種の身体サイズと関連があると以前に報告された4つの遺伝子(ZFAT、EGF、LCORL、PLAG1)について、分子進化学的解析を実施しました。このデータセットには19種のクジラ類が含まれ、そのうち7種(マッコウクジラ、ホッキョククジラ、コククジラ、ザトウクジラ、セミクジラ、ナガスクジラ、シロナガスクジラ)は体長10mを超えるため、大型群に分類されます。
その結果、クジラ類関連種では、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸の遺伝子(GHSRとIGFBP7)や、体格増加に関連する遺伝子(NCAPG遺伝子とPLAG1遺伝子)に正の選択の兆候がある、と分かりました。これは、これら4種の遺伝子が巨大なクジラの身体サイズ増加に関与している可能性が高い、と示唆しています。また、歯のないクジラ類であるヒゲクジラ類系統では、EGF遺伝子の偽遺伝子化が検出されました。
GHSR遺伝子は細胞周期の重要な側面を制御し、IGFBP7遺伝子は数種類の癌の抑制因子として作用するため、両者が協働して大きな身体サイズに伴う生物学的不利益のいくつかを打ち消している可能性があります。これらの結果は、分裂や移動や細胞発生制御などの過程に関与する場合、身体の増大とその結果の緩和の両方に作用する遺伝子において、巨大化に対する正の選択の作用があることを示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
海洋生物学:クジラの巨大化をもたらした遺伝子
クジラ類が祖先種と比べて巨大な体に成長できるようになったことに関連している可能性の高い遺伝子が研究によって明らかになったことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、4つの遺伝子(GHSR、IGFBP7、NCAPG、PLAG1)の役割を強調し、それらの遺伝子が大きな体サイズを促進する一方で、潜在的な悪影響(がんリスクの増加など)を軽減することを示唆している。
クジラ、イルカとネズミイルカによって構成されるクジラ類は、約5000万年前に祖先の小型陸生動物から進化したが、クジラ類の一部の種は、体サイズが最大級の動物とされる。しかし、巨大化することは生物学的な不利益(生殖生産量の減少、がんなどの疾患にかかりやすい)を伴うことがあり、クジラの巨大化にどのような遺伝子がどのような役割を果たしたのかが明らかになっていない。
今回、Mariana Neryたちは、そうした遺伝子の候補として、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸に関連した5つの遺伝子(GHSR、IGF2、IGFBP2、IGFBP7、EGF)とクジラから遠縁の有蹄動物(ウシやヒツジなど)の体サイズの増加に関連する4つの遺伝子(NCAPG、LCOLL、PLAG1、ZFAT)を挙げて、分子進化学的解析を行った。これらの遺伝子の評価は、19種のクジラ類について実施され、その中には、体長が10メートルを超え、巨大なクジラと見なされている7種のクジラ(マッコウクジラ、ホッキョククジラ、コククジラ、ザトウクジラ、セミクジラ、ナガスクジラ、シロナガスクジラ)が含まれていた。
Neryたちは、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸の遺伝子(GHSRとIGFBP7)とNCAPG遺伝子とPLAG1遺伝子に正の選択が働いたことを見いだした。Neryたちは、これは、これら4種の遺伝子が巨大なクジラの体サイズ増加に関与している可能性が高いことを示していると考えている。また、GHSR遺伝子は細胞周期の重要な側面を制御し、IGFBP7遺伝子は数種類のがんの抑制因子として作用するため、両者が協働して、大きな体サイズに伴う生物学的不利益のいくつかを打ち消している可能性がある。
参考文献:
Silva FA. et al.(2023): The molecular evolution of genes previously associated with large sizes reveals possible pathways to cetacean gigantism. Scientific Reports, 13, 67.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-24529-3
この研究はクジラ類の巨大化の遺伝的基盤を理解するため、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸と関連した5つの遺伝子(GHSR、IGF2、IGFBP2、IGFBP7、EGF)と、クジラから進化的に比較的近い有蹄動物(ブタやウシやヒツジなど)種の身体サイズと関連があると以前に報告された4つの遺伝子(ZFAT、EGF、LCORL、PLAG1)について、分子進化学的解析を実施しました。このデータセットには19種のクジラ類が含まれ、そのうち7種(マッコウクジラ、ホッキョククジラ、コククジラ、ザトウクジラ、セミクジラ、ナガスクジラ、シロナガスクジラ)は体長10mを超えるため、大型群に分類されます。
その結果、クジラ類関連種では、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸の遺伝子(GHSRとIGFBP7)や、体格増加に関連する遺伝子(NCAPG遺伝子とPLAG1遺伝子)に正の選択の兆候がある、と分かりました。これは、これら4種の遺伝子が巨大なクジラの身体サイズ増加に関与している可能性が高い、と示唆しています。また、歯のないクジラ類であるヒゲクジラ類系統では、EGF遺伝子の偽遺伝子化が検出されました。
GHSR遺伝子は細胞周期の重要な側面を制御し、IGFBP7遺伝子は数種類の癌の抑制因子として作用するため、両者が協働して大きな身体サイズに伴う生物学的不利益のいくつかを打ち消している可能性があります。これらの結果は、分裂や移動や細胞発生制御などの過程に関与する場合、身体の増大とその結果の緩和の両方に作用する遺伝子において、巨大化に対する正の選択の作用があることを示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
海洋生物学:クジラの巨大化をもたらした遺伝子
クジラ類が祖先種と比べて巨大な体に成長できるようになったことに関連している可能性の高い遺伝子が研究によって明らかになったことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、4つの遺伝子(GHSR、IGFBP7、NCAPG、PLAG1)の役割を強調し、それらの遺伝子が大きな体サイズを促進する一方で、潜在的な悪影響(がんリスクの増加など)を軽減することを示唆している。
クジラ、イルカとネズミイルカによって構成されるクジラ類は、約5000万年前に祖先の小型陸生動物から進化したが、クジラ類の一部の種は、体サイズが最大級の動物とされる。しかし、巨大化することは生物学的な不利益(生殖生産量の減少、がんなどの疾患にかかりやすい)を伴うことがあり、クジラの巨大化にどのような遺伝子がどのような役割を果たしたのかが明らかになっていない。
今回、Mariana Neryたちは、そうした遺伝子の候補として、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸に関連した5つの遺伝子(GHSR、IGF2、IGFBP2、IGFBP7、EGF)とクジラから遠縁の有蹄動物(ウシやヒツジなど)の体サイズの増加に関連する4つの遺伝子(NCAPG、LCOLL、PLAG1、ZFAT)を挙げて、分子進化学的解析を行った。これらの遺伝子の評価は、19種のクジラ類について実施され、その中には、体長が10メートルを超え、巨大なクジラと見なされている7種のクジラ(マッコウクジラ、ホッキョククジラ、コククジラ、ザトウクジラ、セミクジラ、ナガスクジラ、シロナガスクジラ)が含まれていた。
Neryたちは、成長ホルモン/インスリン様成長因子軸の遺伝子(GHSRとIGFBP7)とNCAPG遺伝子とPLAG1遺伝子に正の選択が働いたことを見いだした。Neryたちは、これは、これら4種の遺伝子が巨大なクジラの体サイズ増加に関与している可能性が高いことを示していると考えている。また、GHSR遺伝子は細胞周期の重要な側面を制御し、IGFBP7遺伝子は数種類のがんの抑制因子として作用するため、両者が協働して、大きな体サイズに伴う生物学的不利益のいくつかを打ち消している可能性がある。
参考文献:
Silva FA. et al.(2023): The molecular evolution of genes previously associated with large sizes reveals possible pathways to cetacean gigantism. Scientific Reports, 13, 67.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-24529-3
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