『卑弥呼』第100話「約束の地」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年1月20日号掲載分の感想です。ついに100話に到達し、すでに同じ作画者の『天智と天武~新説・日本書紀~』の93話を超えており、同じ原作者の『イリヤッド』の123話も超えそうで、どこまで連載が続くのか、楽しみです。前回は、金砂(カナスナ)国の出雲で、ヤノハがミマト将軍とイクメに、自分の必勝策は、山社軍が全滅することで初めて功を奏す、と語ったところで終了しました。巻頭カラーとなる今回は、その7日前の、宍門(アナト)国のニキツミ王の館で、ミマト将軍が日下(ヒノモト)国の使者を見送る場面から始まります。日下の使者は、日見子(ヒミコ)であるヤノハな和議の申し出を断られ、斬首される覚悟だったものの、なぜ殺されなかったのか、疑問に思っていました。ミマト将軍は、日見子様の心の広さだろう、と言います。ミマト将軍は日下の使者を見送った後、ヤノハの命により出立する息子のミマアキを見送ります。

 その2日後、日下からの使者は埃(エ)国との境に到達していましたが、依然として日見子(ヤノハ)が自分を生かして帰還させたことについて、疑問を抱いていました。護衛兵は、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)で顕人神(アラヒトガミ)と信じられているとはいえ、しょせんは女性なので、戦の駆け引きが分からないだろう、と言います。すると使者は、几帳に遮られて顔は分からなかったものの、日見子の口調は神というより軍師で、海の向こうの古代の軍師である周の呂尚(太公望)や漢の張良の生まれ変わりのように感じた、と警固兵に語ります。考えすぎではないか、と言う警固兵に対して、「すでに戦を始めた」という日見子の言葉が使者は気になり、700の兵で1万の兵を破るような奇策があるのではないか、と警戒します。

 時は現在に戻って金砂(カナスナ)国の汗入(アセイリ、後の伯耆国の汗入郡でしょうか)では、ヌカデが到着したヤノハを出迎えていました。汗入は金砂国の都ですが、ヌカデが到着した時にはもぬけの殻で、鬼(キ)軍に襲撃され、住民は死んだか逃散した、とヤノハは推測します。ヌカデはヤノハに、金砂王は吉備津彦(キビツヒコ)に殺された、と報告します。ヤノハにフトニ王と吉備津彦の動向を訊かれたヌカデは、フトニ王は一旦全軍を吉備(キビ)の萱館(カヤノヤカタ)に集めたので、吉備軍も鬼軍も主力部隊は金砂におらず、吉備津彦は事代主(コトシロヌシ)を追って奥出雲に留まっている、と答えます。事代主が無事だと知ったヤノハは、敵がどう出るのか、思案します。軒猿(ノキザル、間者)の報告では、日下以外の連合軍は萱館を出てこちらに動き出したようだ、とヌカデから聞いたヤノハは、山道の幅はせいぜい大人2名が並んで歩ける程度で、2列での行進となると金砂まで随分時間がかかるだろう、と推測します。筑紫島6ヶ国と宍門の7ヶ国の軍勢が集結するのを待っているのだろうから、日下にとって時は関係ないだろう、と言うヌカデに、我々を包囲して一気呵成に攻めてくるのだろうな、とヤノハは推測します。予想通り、フトニ王はこちらの戦場選択を待っているのだろう、と判断したヤノハは、条件に合致する戦場は見つかったのか、とヌカデに尋ねます。ヌカデが金砂国の青谷(アオタニ)邑を指すと、ヤノハはヌカデに、案内するよう命じます。

 吉備国の萱館では、寝ているフトニ王を、その息子で後継者であるクニクル王子が起こし、日下軍の出陣を伝えます。1万の連合軍となると最後の軍の出立まで2日もかかるか、とフトニ王は上機嫌に言います。山社(ヤマト)軍は戦場を決めたようだ、と報告するクニクル王子に、急ぐことはない、全軍がゆっくり進み、敵の集結を待って一気に攻める、とフトニ王は意図を語ります。しかし、日下軍の到着前に戦は終わるかもしれない、とフトニ王は情勢を楽観視しています。我々はいつ出立するのか、とクニクル王子に問われたフトニ王は、明日にでも発とう、どうせ自分たちが金砂国に到着しても、筑紫島の日見子の骸を見るだけだろう、と答えます。

 金砂国の青谷では、ヌカデがヤノハに、条件に適う場所はここしかなかった、と語ります。その条件とは、正面に山があり、背後が海である土地です。ヤノハはヌカデに、ここに決めたとミマト将軍に伝えるよう、命じ、ヌカデは連合軍にも伝令を出すことにします。ここで自分と山社軍が全滅しても、必ず戦いを終わらせる、とヤノハが決意を語るところで今回は終了です。


 今回は、山社を盟主とする連合軍と、日下を盟主とする連合軍との決戦に至る過程が描かれました。日下のフトニ王は楽勝だと確信しており、すっかり油断しているようなので、これが命取りになりそうです。しかし、兵数では圧倒的に日下軍の方が優勢なわけで、この苦境をヤノハがどのように切り抜けるのか、注目されます。ヤノハは、自分と山社軍が全滅してもこの戦いを終わらせる、と覚悟を決めていますが、それが具体的にどのようなことなのか、さっぱり分かりません。この戦いは本作の山場の一つとなりそうなので、ヤノハの策と戦いの結末がどのように描かれるのか、たいへん楽しみです。

この記事へのコメント

F2
2023年01月07日 09:55
まずは100話到達、おめでとうですね。 本作はこのブログと共に大いに楽しませてもらっています。 長期連載で卑弥呼を描き切ってほしいと希望しています。

アオタニは青谷町みたいですね。 山と海に挟まれた狭い地形、圧倒的な兵力差、全滅覚悟、テルモピレーのスパルタ軍を連想しました。 もちろん全滅では連載も終わってしまうので、ここはミマアキの特殊部隊に期待しましょう。
管理人
2023年01月07日 10:37
やはりミマアキの部隊が鍵を握るのだと思います。この危地をどう脱するのか、楽しみです。