ヨーロッパ中央部の家畜ネコの歴史
ヨーロッパ中央部の家畜ネコの歴史に関する研究(Krajcarz et al., 2022)が公表されました。ヨーロッパ中央部の最近の研究は、ネコの家畜化の歴史に関する認識を変えてきました。本論文は、地中海を越えての家畜ネコ拡大への洞察を提供する目的で、最近の研究が古遺伝学と動物考古学と放射性炭素年代測定を組み合わせた学際的計画の発展にどのようにつながってきたのか、検討します。
●研究史
過去20年間で、ネコの家畜化に関する理解は根本的に変わり、それはおもに古遺伝学的手法の進歩に起因します。考古学および現代のネコ科の分析により、リビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)全ての家畜ネコの共通祖先と明らかにされてきました。おもな家畜化地域は肥沃な三日月地帯で、そこで野生のネコが1万年前頃に飼い慣らされました。ネコの家畜化についてのその後の証拠は3500年前頃のエジプトに由来し、何世紀にもわたって、エジプトは飼い慣らされた/家畜化されたネコの世界規模の拡大の拠点として機能しました(関連記事)。
地中海におけるその後の拡散に関する理解は限定的ですが、この地域を越えた移動についてはほとんど知られていません。最近のデータは、後期新石器時代のヨーロッパ東部におけるハツカネズミ(Mus musculus)とネコの出現の顕著な重複を示唆し、ヨーロッパ内におけるネコの拡散にとってハツカネズミが重要な要因だった、と提案しています。海運と海上交易はネコ拡大の最重要な要因と考えられていますが、ネコの遺骸は中世後期の前の考古学的記録では比較的稀です。ヨーロッパでは、ネコの人気上昇は動物考古学的記録で13世紀後半に認識できます。
●ヨーロッパ中央部における家畜ネコの5000年の歴史計画
2016年には、動物考古学と遺伝学と絶対年代測定の組み合わせを用いて、ローマ期のポーランドにおける家畜ネコの出現が確証され、これはネコの到来を千年さかのぼらせました。その後、リビアヤマネコのミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプロタイプを有するネコが前期新石器時代のヨーロッパ中央部にすでに存在していた、と論証され、ヨーロッパ中央部へのネコの拡散は以前に考えられていたよりも複雑だった、と示唆されました(図1および図2)。以下は本論文の図1です。
ヨーロッパ中央部における家畜ネコの起源と拡散を全体的に調べるため、現在の計画が立ちあげられました。この計画の目的は、ネコの先史時代と初期歴史時代、つまり、近東における家畜化と、ヨーロッパ中央部における最初の出現と、ローマ期におけるイエネコ集団の後の確立と、中世後期における家畜ネコの個体数の急速な増加との間に関する知識の拡大です。この計画は、身体の大きさや体毛の色を含む身体的概観、たとえば攻撃性低下のような行動、ヒトの食物を消化する生理学的適応など、家畜化と関連する表現型の特徴の特定も目的としています。以下は本論文の図2です。
この研究の分析は、mtDNAと核DNA解析を含む古遺伝学を、動物考古学および直接的な放射性炭素年代測定と組み合わせます。目標は、過去の個体群の遺伝的構造高解像度の時間的変化の解明です。時空間的枠組みにこの情報を位置づけると、在来のヨーロッパの野生ネコと家畜ネコとの間の遺伝子移入事象や、移動の事象と経路の調査が可能となるでしょう。mtDNAと核DNAと形態計測と層序と放射性炭素年代を収集する地域を越えたデータベースは、計画された成果の一つです。
●予備的結果
これまでに収集された資料は、後期更新世と現代の間となる年代の102ヶ所の遺跡(図3)の200点以上の標本で構成されています。予備的なmtDNAの結果から、リビアヤマネコのA1ハプロタイプを有するネコは、新石器時代の前にヨーロッパ中央部に存在していた、と示唆されています。このハプロタイプは家畜化されていないリビアヤマネコに特徴的で、ヨーロッパにおけるその最初の出現はルーマニアで検出され、紀元前7000年頃だった、と以前には推測されていました。この研究のデータから。リビアヤマネコもしくはヨーロッパの範囲もしくは野生ネコとの交雑地帯はずっと広かった可能性がある、と示唆されます。進行中の核DNA解析により、このA1ハプロタイプの観察された範囲が、ヨーロッパと近東との間の自然な遺伝子流動の結果なのか、それとも個体群の拡大だったのか、判断される、と予測されます。以下は本論文の図3です。
ポーランドに焦点を当てたこの研究の予備的な形態計測の結果は、新石器時代から中世にかけてのネコの身体の大きさにおける減少傾向を明らかにしています(図4)。以下は本論文の図4です。
新石器時代のネコは大きい個体で、経時的に大きさが安定していたヨーロッパの野生ネコと同じ大きさでした。2018年の研究では、デンマークの青銅器時代と鉄器時代から中世にかけてのネコにおいて類似の傾向が見つかりました。リビアヤマネコの自生範囲のより近くに位置する研究地域の南部(カルパチア盆地とバルカン半島)からまだデータを収集中なので、より複雑な傾向が最終的には記録されるかもしれません。
参考文献:
Krajcarz M. et al.(2022): The history of the domestic cat in Central Europe. Antiquity, 96, 390, 1628–1633.
https://doi.org/10.15184/aqy.2022.128
●研究史
過去20年間で、ネコの家畜化に関する理解は根本的に変わり、それはおもに古遺伝学的手法の進歩に起因します。考古学および現代のネコ科の分析により、リビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)全ての家畜ネコの共通祖先と明らかにされてきました。おもな家畜化地域は肥沃な三日月地帯で、そこで野生のネコが1万年前頃に飼い慣らされました。ネコの家畜化についてのその後の証拠は3500年前頃のエジプトに由来し、何世紀にもわたって、エジプトは飼い慣らされた/家畜化されたネコの世界規模の拡大の拠点として機能しました(関連記事)。
地中海におけるその後の拡散に関する理解は限定的ですが、この地域を越えた移動についてはほとんど知られていません。最近のデータは、後期新石器時代のヨーロッパ東部におけるハツカネズミ(Mus musculus)とネコの出現の顕著な重複を示唆し、ヨーロッパ内におけるネコの拡散にとってハツカネズミが重要な要因だった、と提案しています。海運と海上交易はネコ拡大の最重要な要因と考えられていますが、ネコの遺骸は中世後期の前の考古学的記録では比較的稀です。ヨーロッパでは、ネコの人気上昇は動物考古学的記録で13世紀後半に認識できます。
●ヨーロッパ中央部における家畜ネコの5000年の歴史計画
2016年には、動物考古学と遺伝学と絶対年代測定の組み合わせを用いて、ローマ期のポーランドにおける家畜ネコの出現が確証され、これはネコの到来を千年さかのぼらせました。その後、リビアヤマネコのミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプロタイプを有するネコが前期新石器時代のヨーロッパ中央部にすでに存在していた、と論証され、ヨーロッパ中央部へのネコの拡散は以前に考えられていたよりも複雑だった、と示唆されました(図1および図2)。以下は本論文の図1です。
ヨーロッパ中央部における家畜ネコの起源と拡散を全体的に調べるため、現在の計画が立ちあげられました。この計画の目的は、ネコの先史時代と初期歴史時代、つまり、近東における家畜化と、ヨーロッパ中央部における最初の出現と、ローマ期におけるイエネコ集団の後の確立と、中世後期における家畜ネコの個体数の急速な増加との間に関する知識の拡大です。この計画は、身体の大きさや体毛の色を含む身体的概観、たとえば攻撃性低下のような行動、ヒトの食物を消化する生理学的適応など、家畜化と関連する表現型の特徴の特定も目的としています。以下は本論文の図2です。
この研究の分析は、mtDNAと核DNA解析を含む古遺伝学を、動物考古学および直接的な放射性炭素年代測定と組み合わせます。目標は、過去の個体群の遺伝的構造高解像度の時間的変化の解明です。時空間的枠組みにこの情報を位置づけると、在来のヨーロッパの野生ネコと家畜ネコとの間の遺伝子移入事象や、移動の事象と経路の調査が可能となるでしょう。mtDNAと核DNAと形態計測と層序と放射性炭素年代を収集する地域を越えたデータベースは、計画された成果の一つです。
●予備的結果
これまでに収集された資料は、後期更新世と現代の間となる年代の102ヶ所の遺跡(図3)の200点以上の標本で構成されています。予備的なmtDNAの結果から、リビアヤマネコのA1ハプロタイプを有するネコは、新石器時代の前にヨーロッパ中央部に存在していた、と示唆されています。このハプロタイプは家畜化されていないリビアヤマネコに特徴的で、ヨーロッパにおけるその最初の出現はルーマニアで検出され、紀元前7000年頃だった、と以前には推測されていました。この研究のデータから。リビアヤマネコもしくはヨーロッパの範囲もしくは野生ネコとの交雑地帯はずっと広かった可能性がある、と示唆されます。進行中の核DNA解析により、このA1ハプロタイプの観察された範囲が、ヨーロッパと近東との間の自然な遺伝子流動の結果なのか、それとも個体群の拡大だったのか、判断される、と予測されます。以下は本論文の図3です。
ポーランドに焦点を当てたこの研究の予備的な形態計測の結果は、新石器時代から中世にかけてのネコの身体の大きさにおける減少傾向を明らかにしています(図4)。以下は本論文の図4です。
新石器時代のネコは大きい個体で、経時的に大きさが安定していたヨーロッパの野生ネコと同じ大きさでした。2018年の研究では、デンマークの青銅器時代と鉄器時代から中世にかけてのネコにおいて類似の傾向が見つかりました。リビアヤマネコの自生範囲のより近くに位置する研究地域の南部(カルパチア盆地とバルカン半島)からまだデータを収集中なので、より複雑な傾向が最終的には記録されるかもしれません。
参考文献:
Krajcarz M. et al.(2022): The history of the domestic cat in Central Europe. Antiquity, 96, 390, 1628–1633.
https://doi.org/10.15184/aqy.2022.128
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