ホモ・フロレシエンシスの中足骨

 人間進化研究ヨーロッパ協会第12回総会で、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の中足骨に関する研究(Tsegai et al., 2022)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P171)。謎めいたホモ・フロレシエンシスは、頭蓋と頭蓋後方(首から下)の独特な組み合わせを示しており、ホモ属の他種と区別されます。その骨格形態は明確な陸上二足歩行への適応を示しますが、樹上行動に役立つ一連の特徴も保持しています。したがって、ホモ・フロレシエンシスの移動行動を他の人類と正確に比較することは、依然として重要な研究課題です。ホモ・フロレシエンシスの基準標本であるLB1の足は、その大腿骨と比較して長く、後足が前足より長く、非母指側中足骨(Mt)と比較して指節骨が長く、第1趾(Mt1)は他のMtsと比較して短くなっています(関連記事)。しかし、LB1はヒト的なMt頭の形態と比較的頑丈性のパターンも有しています。この研究は、LB1のMtの内部形態を評価し、ホモ・フロレシエンシスにおける足の機能形態と移動運動学をさらに評価します。

 LB1のMtのマイクロCTスキャン、および現生人類(Homo sapiens)10個体とチンパンジー(Pan troglodytes)15個体とボノボ(Pan paniscus)15個体とゴリラ属種10個体とオランウータン属種9個体の比較標本を用いて、骨幹部の断面幾何学分析と、Mt頭における海綿骨分布の分析が行なわれました。Mt頭が完全に保存されているのはLB1の右側第5趾(Mt5)だけだったので、海綿骨分析はこの要素に限定されました。

 骨幹部におけるMtの断面形状は、非ヒト類人猿的な生体力学とヒト的な生体力学とを区別し、非ヒト類人猿におけるMt2およびMt3は、ヒトにおけるより側面側の付加と比較して、より大きな負荷があります。LB1のMtは内部が頑丈で、骨の長さと比較して断面の領域が大きくなっています。その結果、Mtの相対的強度は、内部構造に基づくと、骨幹部周辺の外側計測に基づいていた、以前に報告されたヒト的なパターンとは異なる、と示されます。全骨長による拡大縮小後、LB1の左側Mtの頑丈性のパターンは、CSAとZでは1>2>5>3>4、Jでは1>5>2>4>3と分かりました。ヒトでは多少の差異がありますが、一般的に、第3趾(Mt3)と第2趾(Mt2)は、Mt4およびMt5よりも頑丈性の測定値が低くなります。LB1では、Mt2は一貫してヒトで予測されるよりも頑丈で、ヒトにおける1>4/5>2/3と比較して1>2/5>3/4のパターンを示します。

 Mt5東部における海綿骨の分布は、移動様式群を区別します。背屈した状態で足に負荷がある現生人類では、骨の背側に集中し、背内側の拡張において非対称的です。足指が、ナックル歩行(ナックルウォーク)時には背側に、木登り時には遠位足底に位置する(底部の大きさに依存します)アフリカの非ヒト類人猿では、海綿骨の分布は中足骨頭で足底へと背側に伸びています。オランウータン属では、海綿骨は掴む足を反映して、遠位に分布しています。LB1のMt5における海綿骨の分布は、背側および遠位に位置していますが、足底には伸びていません。この分布パターンは、内側ではなく中央側にある点でヒトとは異なっており、さらに遠位にまで伸びています。これは、LB1の中足指節関節がヒトよりも中立的な部位で負荷がかかっていることを示唆します。

 まとめると、これらの結果から、ホモ・フロレシエンシスの足の負荷は現生人類とは異なっていた、と示唆されます。第一に、足全体の負荷の分布はMt2においてより高かった可能性が高く、これは、比較的短い第1中足骨を有する足における第2中足骨のより高い負荷と関連している可能性がある特徴です。第二に、海綿骨のパターンは、少ない非対称的負荷のある、ヒトよりも遠位でのMt5頭の負荷を示唆しています。この中足指節関節の異なるパターンは、長くて湾曲したLB1の指節骨と関連している可能性があります。中足骨の全骨皮質と海綿骨の構造を調べる将来の研究は、ホモ・フロレシエンシスにおける移動の運動学に新たな光を当てるでしょう。


参考文献:
Tsegai ZJ. et al.(2022): Locomotion in Homo floresiensis: reconstructing foot use from the internal bone structure of the metatarsals of LB1. The 12th Annual ESHE Meeting.

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