初期デニソワ人についての研究

 人間進化研究ヨーロッパ協会第12回総会で、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)についての研究(Douka et al., 2022)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P43)。シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)は、上部旧石器層における現生人類(Homo sapiens)と同様に、同じ(中部旧石器)考古学的層における、デニソワ人とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)、およびネアンデルタール人の母親とデニソワ人の父親の唯一の子供の遺骸および/もしくは古代DNA残留物を含む、独特な旧石器時代遺跡です。初めて特定されたデニソワ人(デニソワ号)は、層序の比較的上部に由来し、間接的に6万年前頃と年代測定されました(関連記事)。しかし、デニソワ洞窟およびより一般的にこの地域におけるデニソワ人の最初の出現ついては、ほとんど知られていません。

 過去8年間にわたって、デニソワ洞窟の東および南空洞で回収された数千もの識別されていない骨片に、ZooMS(Zooarchaeology by Mass Spectrometry、質量分光測定による動物考古学)が適用されました。層序全体で資料が分析されましたが、最新の試みでは、デニソワ洞窟遺跡の最初の居住者特定を狙って、ヒトの証拠が欠けているデニソワ洞窟の最下層に焦点が当てられました。

 じっさい、11点のZooMSで特定されたヒト化石のうち、3点の人類の骨は、20万年前頃となる東空洞の最初の考古学的層位(第15層と第14層)に由来します。遺伝的分析から、この3点はデニソワ人型のミトコンドリアDNA(mtDNA)を有している(関連記事)、と示され、海洋酸素同位体ステージ(MIS)7において層序底部にデニソワ人を位置づけます。MIS7はひじょうに温暖な亜間氷期で、動植物相資源が局所的に繁栄し、アルタイ山脈はヒトの居住に好適な場所になっていたでしょう。これら初期デニソワ人の層位には、石器と動物遺骸の形で豊富な考古学的資料が含まれており、これら初期人類と関連する物質文化の判断や、その行動および環境適応の調査が可能となります。

 最後に、アジア西部および東部両方の他地域と比較して、新たな人類遺骸とその年代的位置づけと関連する考古学的証拠検討することで、より広くユーラシアの状況にデニソワ人を位置づけることが試みられます。デニソワ人はまずアルタイ山脈でその存在が確認されましたが、この研究の後には、ラオスにおいてデニソワ人のものと考えられる歯が発見されています(関連記事)。デニソワ人は、ユーラシアの中緯度以上の地域だけではなく低緯度地域にも拡散していた可能性があり、これは遺伝学的研究と整合的と言えるかもしれません。デニソワ人はネアンデルタール人と比較して研究が大きく遅れていますが、出アフリカ後の現代人の拡散と進化を考えるうえで、ネアンデルタール人と同等以上に重要な分類群と言えるかもしれません。


参考文献:
Douka K. et al.(2022): Early Denisovans - what we know and what we don't. The 12th Annual ESHE Meeting.

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