『卑弥呼』第98話「和議」

 『ビッグコミックオリジナル』2022年12月20日号掲載分の感想です。前回は、金砂(カナスナ)国の出雲で、本殿から出て吉備津彦(キビツヒコ)率いる軍への投稿を決意した吉備津彦(キビツヒコ)の率いる兵が、事代主(コトシロヌシ)が、自らを慕う民に生きよ、と遺言を伝えたところで終了しました。今回は、出雲において、事代主が本殿から吉備津彦率いる軍の方へと大勢の民の中を歩く場面から始まります。吉備津彦は事代主が投降したと安堵していましたが、途中でそれが謀だと気づきます。事代主の配下のシラヒコが民に呼びかけ、民は事代主を囲んで通さないようにします。その事代主に背後からトメ将軍が近づき、民とともに反対方向に走るよう、促します。トメ将軍は、民とともに策を練っていました。吉備津彦は、自分がお人好しだった、と悔いつつ配下とともに走ります。

 宍門(アナト)国のニキツミ王の館では、日下(ヒノモト)国のフトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)使者が書簡を携え、和議を申し出ていました。対応したミマト将軍は使者をヤノハに取り次ぎますが、和議とは名ばかりで、フトニ王は筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)6ヶ国と宍門国の連合軍に全面降伏を要求してきました。伊都(イト)国のイトデ王が死者を斬首して日下に送り返そうか、と日見子(ヒミコ)であるヤノハに提案し、他の連合軍の諸王も同意します。すると日下の使者は、自軍は総勢1万で、戦えば連合軍は一網打尽だ、と気丈に言い返します。穂波(ホミ)のヲカ王もやはり斬首しよう、と言いますが、ヤノハは、使者に手を出さないよう命じ、フトニ王に謝罪を伝えるよう、要請します。何を謝罪するのか、使者に問われたヤノハは、和議の申し出は断るが、それより、すでに開戦したことを許してもらいたい、と答えます。しかし、使者はすでに開戦した、とのヤノハの発言の意味を理解できませんでした。ヤノハはミマト将軍に、使者と供の兵を無事館の外に送り出すよう、命じます。

 吉備(キビ)国の茅萱館(チガヤノヤカタ)では、フトニ王が息子のクニクル王子(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)に、結果は分かっている、と語っていました。クニクル王子から思惑を問われたフトニ王は、使者はもう宍門に着いているだろうが、帰還することはない、と答えます。和議の申し出は拒否され、使者は斬首されるのか、とクニクル王子に問われたフトニ王は、心が痛むのう、と答えます。もっとも、心を痛めているようにはまったく見えませんが。傘下の各国軍もう金砂国に向かう途上なので、そろそろ出立の準備を、とクニクル王子に促されたフトニ王は、日下軍は活かせるが、自分の出立はまだ先で、警固兵のみでのんびりと金砂に向かう、高みの見物だ、と言って、クニクル王子に外を見るよう促し、窓と戸を全開させます。すると、すでに4000の兵が集まっており、明日には残り6000の兵が勢ぞろいする、とフトニ王はクニクル王子に語ります。フトニ王はクニクル王子に、日下以外の、伊予(イヨ)と土器(ドキ)と五百木(イオキ)と賛支(サヌキ)と土左(トサ)と児屋(コヤ)と播磨(ハリマ)と武庫(ムコ)の兵も一旦茅萱館に終結させ、兵の前で開戦を宣言する、と意図を伝えます。戦が始まれば筑紫島6ヶ国と宍門国の連合軍はこの世から消え、1日と保たないだろう、と冷徹な表情でフトニ王は語ります。

 宍門国では、ミマト将軍が諸国の王にヤノハの作戦を伝えていました。山社(ヤマト)と那(ナ)と穂波と都萬(トマ)の郡は金砂国へ、伊都と宍門と末盧(マツラ)の軍は吉備へと向かいます。ミマト将軍の息子のミマアキは、ヤノハの謀の指揮を執るため、昨夜出立しています。筑紫島諸国の王は、顕人神(アラヒトガミ)である日見子様(ヤノハ)には凡人には計り知れない策があり、何をするのか楽しみだ、日見子様の下ならば1万の兵も恐れるに足らず、と言い、疫病などこれまで数々の苦難を切り抜けてきた実績から、ヤノハを顕人神として深く信頼しているようです。翌朝、ヤノハは連合軍の兵を前に、これから金砂国の民と事代主を守る戦に出るが、天照大神様は、戦いは1日で終わると告げた、と兵に伝えます。ヤノハが兵に、皆の命は天照大神様が必ず守ってくれる、と伝えるところで今回は終了です。


 今回は、筑紫島6ヶ国および宍門国の連合軍と、日下とその傘下の国々の連合軍の開戦へと至る過程が描かれました。とはいえ、すでに開戦している、とヤノハは日下の使者に伝えており、それが具体的に何を意味するのか、次回以降に描かれるのでしょう。すでに出雲では、トメ将軍と民の策により開戦した、とも言えそうですが、ヤノハがトメ将軍に指示を出せるような時間はないと思います。ただ、ミマアキがヤノハにトメ将軍の策を伝えているとしたら、それがすでに開戦している、とのヤノハの発言が意味するところなのでしょうか。ヤノハが1日で戦いは終わる、と兵を前に宣言したことが、どのような策なのか、楽しみです。この戦いは本作でも山場の一つになりそうなので、盛り上がり期待しています。 

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