『卑弥呼』第99話「死に場所」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年1月5日号掲載分の感想です。前回は、宍門(アナト)国のニキツミ王の館の前で、ヤノハが筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)6ヶ国と宍門国の連合軍の兵を前に、日下(ヒノモト)国とその傘下の諸国の連合軍との戦いは1日で終わる、と宣言したところで終了しました。今回は、宍門国と金砂(カナスナ)国の境を、ヤノハが進んでいる場面から始まります。そこへミマト将軍が慌てて駆けつけ、後方の兵との距離がかなり離れている、と進言します。そろそろ金砂領内なのに、急ぐヤノハと友軍との距離は離れるばかりで、いつ鬼国(キノクニ)や吉備(キビ)国の軍に襲われるのか分からない、というわけです。ヤノハは、山社(ヤマト)と那(ナ)と穂波(ホミ)と都萬(トマ)の兵を率いていました。するとヤノハは、むしろ各軍がバラバラで金砂国に入る方が安全と考えている、とミマト将軍に語ります。敵のフトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)ならどうするか考えると、自軍に1万の兵で敵はわずか700の兵と圧倒的な差があり、真綿で首を締めるようにじわじわと囲い込み、1回の戦で決着をつけたいだろう、というわけです。つまり、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の連合軍が一同に揃ってから日下は総攻撃をかけるのであれ、ヤノハ率いる連合軍が戦場を選ぶまでフトニ王は何もしないだろう、というわけです。

 金砂国の大内(オオウチ)では、事代主(コトシロヌシ)と大勢の信者が籠城した川沿いの邑を、崖の上から吉備津彦(キビツヒコ)と配下のイヌヒコが眺めていました。この邑を攻めれば渡河して宍門まで逃げるだろう、と吉備津彦は推測し、イヌヒコは対岸にも兵を配備しよう、と進言しますが、フトニ王の指示は事代主の首を獲った後に宍門を攻めよ、とのことだったので、ここで無理に事代主の首を獲るよりは、宍門まで追い込んだ方が一石二鳥ではないか、と吉備津彦は答えます。するとイヌヒコは、それも一理あるが、フトニ王君は宍門攻めを撤回するかもしれない、と吉備津彦に進言します。敵軍は宍門を出て海岸線を東上しており、とくに山社国の百人は、日見子(ヒミコ)、つまりヤノハがすでに出雲にいない事代主がいないことを知らずに、事代主を助けようと必死でどの国よりも先を急いでおり、フトニ王は宍門攻めを止めて、急いで海岸線に向かい、山社連合軍を食い止めよ、と指示するだろう、というわけです。自分なら容易く敵を蹴散らせる、と自信を見せる吉備津彦に対して、ならば一気に事代主を討つべきだ、とイヌヒコは進言しますが、吉備津彦は躊躇います。その後、吉備津彦はフトニ王からの使者を出迎えます。吉備津彦は宍門攻めの撤回を予想していましたが、フトニ王の指示は、今は何もするな、というものでした。フトニ王は敵を一度の戦で倒したいので、敵の全軍を金砂国に入れようと考えている、というわけです。吉備津彦は、敵にフトニ王の策を悟らせないためにも、事代主を討つのは止めた、と言います。

 金砂国の青谷(アオタニ)では、ヌカデが吉備の兵と酒を酌み交わしていました。ヌカデは、青谷邑を抜けて越国(コシノクニ)へと避難する、と偽っていました。吉備の兵の一人は、この邑を警固するのが吉備でお前は幸運だった、と上機嫌でヌカデに語ります。少し前までは鬼軍がおり、問答無用で殺されていた、というわけです。鬼軍は邑人全員を殺し、西の沼地には大勢の遺骸が沈んでおり、青谷邑には吉備の兵が4人しかいない、と吉備の兵はヌカデに語ります。ヌカデは同行者の女性3人に、明日は早いので眠ろう、と呼びかけますが、吉備の兵は代償としてヌカデたち女性の体を求めます。吉備の兵はそれぞれ女性を選んで別れますが、ヌカデ以外の女性3人も戦女(イクサメ)だったのか、吉備の兵を殺害し、ヌカデは3人の女性に青谷邑に留まるよう指示し、自分は西に向かって日見子様と合流する、と言います。青谷邑は大切な場所なのか、と問われたヌカデは、ここは山社軍の死に場所だ、と答えます。

 ヤノハとミマト将軍とイクメは、金砂国の出雲に到着し、丘の上から見事な社に感心します。雲の上にある、という話も偽りではなかったようだ、というわけです。事代主がいないことから、すでに吉備軍に攻められて殺されたのではないか、とミマト将軍は案じますが、事代主に限ってそれはない、とヤノハは言います。出雲に到達するまで敵軍に遭遇しなかったので、フトニ王は我々に戦場を選ばせるつもりだ、とのヤノハの予測が正しかった、とミマト将軍は感心します。どの地を戦場に選び、700の兵で1万の兵を破るつもりなのか、とミマト将軍に問われたヤノハは、そんな地の利のよい場所があるはずない、と答えます。何か策があったのでは、とミマト将軍に問われたヤノハは、天照大神様が全員の命を守ると言ったが、それは偽りだ、と答えます。ヤノハがミマト将軍とイクメに、自分の必勝策は、山社軍が全滅することで初めて功を奏す、と語るところで今回は終了です。


 今回は、山社を盟主とする連合軍と日下を盟主とする連合軍の決戦へと至る過程が描かれました。フトニ王はヤノハの推測通り、山社連合軍を一度に殲滅しようと考えているようです。これに対するヤノハの策は、まだミマト将軍とイクメにも知らされていないようですが、ヌカデは知っており、青谷邑で山社軍が玉砕覚悟の戦いをして、その隙にミマアキ率いる特殊部隊がフトニ王を殺害しようとするのでしょうか。ヤノハの策がどのようなものなのか、予測困難ですが、この決戦は本作の山場の一つになりそうなので、その過程と結末、さらには今後の展開との関連で注目されます。次回は巻頭カラーとのことで、たいへん楽しみです。

この記事へのコメント

F2
2022年12月22日 09:01
アオタニは現代の鳥取県青谷でしょうか? 海辺で平地が少なく大軍のメリットが生かしにくい地形のように思います。
管理人
2022年12月23日 11:36
そうかもしれません。青谷上寺地遺跡について当ブログで何度か言及していたのに、まったく思い浮かびませんでした。ヤノハの策がどのようなものなのか、見当がつかないので楽しみにしています。