ヨーロッパ人集団の自然選択

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、ヨーロッパ人集団の自然選択に関する研究(Song et al., 2021)が公表されました。自然選択は進化の1経路で、世代から世次代へと小さな変化をもたらします。複雑な形質の自然選択の特徴の解明は、人類の進化や生物学的および病理学的な仕組みを理解するうえで重要です。先行研究から、自然選択が現生人類(Homo sapiens)の進化をどのように形成してきたのかは明らかにされていますが、選択がその後どのような影響をもたらしているかについては、あまり分かっていません。

 この研究は、イギリスバイオバンクと精神医学ゲノミクスコンソーシアムから得た現生人類の遺伝学的データ、およびヨーロッパ全域から集められた古代ヒトゲノムデータを用いて、現生人類が種として出現してから現在に至る期間のヨーロッパ人集団における自然選択の証拠について調べました。この研究は870の多遺伝子形質についてゲノム規模要約統計を活用し、現生人類の進化史における4期間にわたって、現代ヨーロッパ人の祖先の異なる形質に対する選択の兆候の定量化を試みました。

 その結果、755の複雑形質(複数の遺伝的影響と環境因子が関連する形質)に関連する遺伝的影響が、過去3000~2000年の間に自然選択により変化してきた、と示唆されます。これらの形質には、色素沈着や栄養摂取、炎症性腸疾患や神経性無食欲症といったいくつかのありふれた疾患など、多種多様な遺伝的影響に関連する形質が含まれています。最近の選択は、同じ形質において古代の選択兆候と関連していました。色素沈着と身体計測と栄養摂取に関連する形質では、異なる期間で強い選択兆候が示されました。

 ヨーロッパ人集団の進化を通じたこれらの結果により、ヒトの多遺伝子形質に対する選択兆候とその特徴を概観できました。これらの知見は、さらなる集団的・医学的な遺伝学的研究の基礎となり得ます。ただ、こうした遺伝的影響が複雑形質に対して因果関係のある影響を及ぼすのかどうか判定できず、またヨーロッパ人のデータのみが使用されたことから一般化には限界があります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


ヨーロッパ人集団の遺伝的進化の証拠

 過去2000~3000年に、ヨーロッパ人の遺伝的進化に自然選択が果たしてきた役割について明らかにした論文が、Nature Human Behaviour に掲載される。今回の研究では、この期間に自然選択によって変化した755の形質と関連する遺伝的影響が特定されており、この過程がヒトゲノムに影響を及ぼし続けていることが示された。

 自然選択は、進化が起こるルートの1つであり、1つの世代から次の世代へと小さな変化をもたらす。これまでの研究から、自然選択がホモ・サピエンスの進化をどのように形作ってきたかについては明らかにされているが、選択がその後のどのような影響をもたらしているかについてはあまり分かっていない。

 今回、Weichen Songたちは、英国バイオバンクと精神医学ゲノミクスコンソーシアムから得た現生人類の遺伝学的データ、およびヨーロッパ中から集められた古代ヒトゲノムDNAを用いて、ホモ・サピエンスが種として出現してから現在に至る期間のヨーロッパ人集団における自然選択の証拠について調べた。Songたちは、755の複雑形質(複数の遺伝的影響と環境因子が関連する形質)に関連する遺伝的影響が、過去3000年の間に自然選択によって変化してきたと示唆している。これらの形質には、色素沈着や栄養摂取、炎症性腸疾患、神経性無食欲症といったいくつかのありふれた疾患など、多種多様な遺伝的影響に関連する形質が含まれている。

 Songたちは、今回得られた結果では、こうした遺伝的影響が複雑形質に対して因果関係のある影響を及ぼすかどうかを判定することはできず、またヨーロッパ人のデータのみが使用されたことから一般化には限界があるものの、ヒトの遺伝と進化に関する今後の研究の基盤となる可能性があると結論付けている。



参考文献:
Song W. et al.(2021): A selection pressure landscape for 870 human polygenic traits. Nature Human Behaviour, 5, 12, 1731–1743.
https://doi.org/10.1038/s41562-021-01231-4

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