ヒトの核DNAにおけるミトコンドリアDNA由来の配列
ヒトの核DNAにおけるミトコンドリアDNA(mtDNA)由来の配列に関する研究(Wei et al., 2022)が公表されました。細胞質内の細胞小器官から細胞核へのDNA移行は内部共生事象の遺産であり、核内mtDNA断片(NUMT)の大半は、ヒトの種分化より前に生じた、太古のものと考えられています。NUMTをmtDNAの多様体と解釈してしまうと、ミトコンドリア病(関連記事)の診断を混乱させ、mtDNAが父系で伝わったかもしれない、との疑問(関連記事)を呈すことになります。
この研究は、癌患者12509人を含む、66083人の全ゲノム塩基配列を解析し、mtDNAの核DNAへの移行は現在でも進行しており、NUMTの複雑な全体像の一因となっていることを実証します。このうち99%以上の人が、1637種類のNUMTのうちの少なくとも1つを持っており、8人に1人は、人口集団の0.1%未満にしか存在しない極めて稀なNUMTを持っていました。この研究が評価した現存のNUMTの90%以上は、ヒトが非ヒト類人猿から分岐した後に核ゲノムに挿入されました。一度埋め込まれたこうした塩基配列は、ミトコンドリア内で見られる進化的制約を受けなくなり、NUMT特異的な変異はmtDNAとは異なる変異痕跡を持っていました。
新規変異(de novo変異、親の生殖細胞もしくは受精卵や早期の胚で起きた変異)NUMTは、104件の出生ごとに生殖系列に1つ、また103の癌ごとに1つ観察されました。NUMTには、PRDM9(PR domain zinc-finger protein 9)の結合に関連する二本鎖切断修復など複数の機構が関与する核への挿入を伴う、非コードのmtDNAが優先的に含まれており、これによって転写と複製がNUMTの起源に結びつけられました。腫瘍特異的なNUMTの頻度は癌によってさまざまであり、たとえば、粘液性脂肪肉腫での(NUMT)挿入は、おそらく腫瘍の原因です。この研究は、NUMTが、サイズとゲノムでの位置に基づいて選択される証拠を見いだし、これがヒトのひじょうに不均一で動的なNUMTの全体像を形作っています。
なお、現代人の一部の集団の核DNAには、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のmtDNAに由来する領域がある、と推測されており、デニソワ人においてNUMTが起き、現代人の一部集団のゲノムに更新世に起きた交雑により伝えられた可能性が高い、と示唆されています(関連記事)。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のmtDNAの配列の一部も、同様に現代人の一部集団の核DNAに継承されている可能性があるでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ゲノミクス:6万6083例のヒトゲノムにおける核に埋め込まれたミトコンドリアDNA塩基配列
ゲノミクス:ヒトの核ゲノムに含まれるミトコンドリア由来DNAの全体像
今回、6万6083人のヒトゲノム塩基配列における、核内ミトコンドリアDNA断片(NUMT)の全体像が報告されている。
参考文献:
Wei W. et al.(2022): Nuclear-embedded mitochondrial DNA sequences in 66,083 human genomes. Nature, 611, 7934, 105–114.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05288-7
この研究は、癌患者12509人を含む、66083人の全ゲノム塩基配列を解析し、mtDNAの核DNAへの移行は現在でも進行しており、NUMTの複雑な全体像の一因となっていることを実証します。このうち99%以上の人が、1637種類のNUMTのうちの少なくとも1つを持っており、8人に1人は、人口集団の0.1%未満にしか存在しない極めて稀なNUMTを持っていました。この研究が評価した現存のNUMTの90%以上は、ヒトが非ヒト類人猿から分岐した後に核ゲノムに挿入されました。一度埋め込まれたこうした塩基配列は、ミトコンドリア内で見られる進化的制約を受けなくなり、NUMT特異的な変異はmtDNAとは異なる変異痕跡を持っていました。
新規変異(de novo変異、親の生殖細胞もしくは受精卵や早期の胚で起きた変異)NUMTは、104件の出生ごとに生殖系列に1つ、また103の癌ごとに1つ観察されました。NUMTには、PRDM9(PR domain zinc-finger protein 9)の結合に関連する二本鎖切断修復など複数の機構が関与する核への挿入を伴う、非コードのmtDNAが優先的に含まれており、これによって転写と複製がNUMTの起源に結びつけられました。腫瘍特異的なNUMTの頻度は癌によってさまざまであり、たとえば、粘液性脂肪肉腫での(NUMT)挿入は、おそらく腫瘍の原因です。この研究は、NUMTが、サイズとゲノムでの位置に基づいて選択される証拠を見いだし、これがヒトのひじょうに不均一で動的なNUMTの全体像を形作っています。
なお、現代人の一部の集団の核DNAには、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のmtDNAに由来する領域がある、と推測されており、デニソワ人においてNUMTが起き、現代人の一部集団のゲノムに更新世に起きた交雑により伝えられた可能性が高い、と示唆されています(関連記事)。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のmtDNAの配列の一部も、同様に現代人の一部集団の核DNAに継承されている可能性があるでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ゲノミクス:6万6083例のヒトゲノムにおける核に埋め込まれたミトコンドリアDNA塩基配列
ゲノミクス:ヒトの核ゲノムに含まれるミトコンドリア由来DNAの全体像
今回、6万6083人のヒトゲノム塩基配列における、核内ミトコンドリアDNA断片(NUMT)の全体像が報告されている。
参考文献:
Wei W. et al.(2022): Nuclear-embedded mitochondrial DNA sequences in 66,083 human genomes. Nature, 611, 7934, 105–114.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05288-7
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