氷期ヨーロッパ西部におけるオーリナシアンとマグダレニアンとの間の遺伝的関連(追記有)

 人間進化研究ヨーロッパ協会第12回総会で、氷期ヨーロッパ西部におけるオーリナシアン(Aurignacian)とマグダレニアン(Magdalenian)との間の遺伝的関連についての研究(Villalba-Mouco et al., 2022)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P183)。以下、年代は較正年代です。ヨーロッパのヒト集団は最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)に顕著な範囲縮小を経ており、南方の気候退避地へと退去しました。これは、旧石器時代の人々の遺伝的差異に永続的で劇的な影響を及ぼした可能性が高そうです(関連記事)。

 しかし、ヨーロッパ全域におけるグラヴェティアン(Gravettian)からマグダレニアン(マドレーヌ文化)への文化的移行に伴うゲノムの過程は、まだ充分には理解されていません。ヨーロッパ西部と南西部については、これは、LGM気候事象と重なる中間のソリュートレアン(Solutrean)期(24000~19000年前頃)のゲノムデータの欠如のためです。本論文は、23000年前頃と直接的に年代測定された、イベリア半島南部のアンダルシアの遺跡であるマラルムエルゾ洞窟(Cueva del Malalmuerzo)のソリュートレアン(ソリュートレ文化)関連個体ゲノム規模データを提示します。

 マラルムエルゾ洞窟(MLZ)個体の遺伝学的結果は、LGM前のグラヴェティアン(グラヴェット文化)関連個体とは異なるものの、遺伝的にはオーリナシアン(オーリニャック文化)関連個体のゲノム、つまりベルギーのゴイエ(Goyet)遺跡の個体(ゴイエQ116-1)のゲノムを、ヨーロッパ全域のその後となるLGM後のマグダレニアン関連祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)つとなげる祖先系統を明らかにします。MLZ個体はゴイエQ116-1関連祖先系統を有しているにも関わらず、その後のマグダレニアン関連個体と密接に関係しており、LGMにおけるヨーロッパ西部での遺伝的連続性の存在が示唆されます。

 さらに、この研究の結果は、MLZ個体とヨーロッパ中央部のLGM前のグラヴェティアン関連個体との間の過剰な共有された遺伝的浮動の欠如を確証します。このシナリオは、ゴイエQ116-1関連祖先系統を有しているソリュートレアン関連個体群によるグラヴェティアン関連個体群の置換か、ヨーロッパ全域のグラヴェティアン技術複合の存在にも関わらずイベリア半島においてヨーロッパ中央部グラヴェティアン祖先系統が欠如していたか、いずれかとして解釈できます。ソリュートレアン技術複合は地理的に現在のフランスとイベリア半島に限定されており、これは、LGMにおける上部旧石器時代人口集団にとっての気候退避地としての、ヨーロッパ南西部の役割をより妥当なものとします。


参考文献:
Villalba-Mouco V. et al.(2022): Genetic link between Aurignacian and Magdalenian in Ice Age western Europe. The 12th Annual ESHE Meeting.


追記(2023年3月7日)
 この研究が『Nature Ecology & Evolution』誌に掲載されたので、当ブログで取り上げました(関連記事)。

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