『卑弥呼』第96話「開戦の時」
『ビッグコミックオリジナル』2022年11月20日号掲載分の感想です。前回は、船上でイクメがヤノハに、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の宍門(アナト)が見えてきた、と告げるところで終了しました。今回は、金砂(カナスナ)国の出雲において、事代主(コトシロヌシ)を慕って本殿に多くの民が集まっているところを、吉備津彦(キビツヒコ)とその配下であるイヌとキジとサルが見張っている場面から始まります。2号休載だったのでたいへん待ち遠しく、出雲での日下(ヒノモト)との戦いに至る過程が描かれるのか、それとも他の動向が描かれるのか、気になっていました。吉備津彦の配下は、今すぐ本殿を去らねば容赦なく成敗する、と民に伝えたものの、事代主を慕って集まってきた民は一向に動かない、と吉備津彦に伝えます。手は尽くした、というわけです。吉備津彦は配下の者にきび団子を与えます。吉備津彦は、出雲の民が事代主と死ねるならば無類の幸せと感じていることに困惑していました。吉備津彦の兄で、日下(ヒノモト)国の次の王君(オウキミ)であるクニクル王子(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)は吉備津彦に、何か嫌なことをやる時は無理やりにでもその中に楽しみを見出だせ、と教えていました。吉備津彦は、無辜の民を殺すことも案外楽しいかもしれない、と何とか父であるフトニ王君(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)の命令遂行に楽しみを見いだそうとします。吉備津彦は、自分に虐殺を命じておいて、吉備(キビ)国や武庫(ムコ)国や児屋(コヤ)国の巡幸に出かけたフトニ王は羨ましがります。四道将軍(ヨツノミチノイクサノキミ)である自分がそれらの国々を征服したのに、お褒めの言葉の一つもない、と吉備津彦フトニ王に不満を抱いています。吉備津彦が配下の者にさっさと片付けよう、と言ったところへ、フトニ王からの伝令が到着します。宍門(アナト)国に放たれていた軒猿(ノキザル、間者)から、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)6ヶ国の兵が到着した、との報せが届いた、とのことでした。吉備津彦はその6ヶ国について、那(ナ)と伊都(イト)と末盧(マツラ)と都萬(トマ)と穂波(ホミ)についてはすぐに思いつきましたが、残り1ヶ国については、暈(クマ)ではなさそうなので、分かりませんでした。伝令から、もう1ヶ国は新しき国と聞いた吉備津彦は、山社(ヤマト)だと悟ります。筑紫島の連合軍の総大将が、那のウツヒオ王なのか、伊都のイトデ王なのか、吉備津彦に問われた伝令は、若い女性と答えます。吉備津彦は、総大将が山社の日見子(ヒミコ)だと悟り、現人神が海を越えて豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)に来たのか、と困惑します。伝令から、事代主の首を獲った後で、早々に宍門に向かうように、とのフトニ王の命令を聞いた吉備津彦は、忙しい限りだ、と嘆息します。
宍門国では、筑紫島の6ヶ国の王が、宍門国のニキツミ王と今後の作戦を検討していました。初めて日見子(ヤノハ)と会って恐縮しているニキツミ王に、自分はただ天照大神の声が聞こえる者にすぎない、とヤノハは声をかけます。筑紫島の6ヶ国の王はニキツミ王に、出雲に向かう宍門周辺の国々の動向などを尋ねます。峯(ミネ)国と最短の道や、を末盧のミルカシ王から問われたニキツミ王は、峯(ミネ)国と埃(エ)国はそう簡単に日下の傘下に入るとは思えない、憂慮すべきは伊予(イヨ)と土器(ドキ)と五百木(イオキ)と賛支(サヌキ)と土左(トサ)、という、すでに日下の軍門に下った伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の5ヶ国だ、と答えます。つまり、全軍を金砂国に差し向けると、背後よりその5ヶ国に突かれる、というわけです。伊予之二名島勢が宍門に来襲するまで何日かかると思うか、とイトデ王に問われたニキツミ王は、早くて30日と答えます。1ヶ月では、金砂から鬼(キ)軍を一掃し、宍門に引き返すのは不可能だ、と都萬のタケツヌ王は言います。もっと悪い想像もできる、と言う末盧国のミルカシ王に、日下と吉備と鬼と伊予之二名島の連合軍に、武庫国と児屋国が加わり、金砂国にいる筑紫島連合軍の背後を突いた場合だろう、とイトデ王は補足します。穂波国のヲカ王も、敵には鉄(カネ)の武器がある、と弱気です。そこへ、山社のミマト将軍が、ヤノハが漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)の隠れ里である、穂波国と都萬国との間にある秦邑(シンノムラ)で入手してきた、隠し武器を見せます。これは、10本の矢を一度に放てる弩(連弩)で、見たことのない暗器(暗殺用の武器)だと、ニキツミ王は驚きます。この連弩は、弓の名手でなくとも容易に扱える武器です。イトデ王が、数日で同じものを複製して全軍の兵に配れる、との配下の翔矢部(カケルヤベ、弓矢を作る職人の組織)からの報告を伝えると、弱気だったヲカ王も、30日の壁を破れるかもしれない、と明るい表情で言います。するとヤノハは、敵を侮ってはならない、と忠告します。とくに日下と吉備と鬼の兵は、屯田兵(普段は農業に従事し、徴用されると兵士になる人々)ではなく、戦いを生業とする戦人だ、とヤノハはかつて事代主から聞いた話を諸王に伝えます。十人力の連弩を全兵が持てばよい、と言うミマト将軍に、ヤノハは連弩を全兵士に渡すことに反対します。隠し武器とは敵に知られてはならない暗器で、全兵が持てば戦場で敵は必ず奪うだろう、というわけです。ヤノハの指摘にミマト将軍は納得し、では、どのように連弩を使うのか、とイトデ王はヤノハに尋ねます。ヤノハは、各軍から10名の兵を選ぶよう、指示します。では精鋭部隊を招集するのか、とミマト将軍に問われたヤノハは、弓の腕はそこそこでよく、それ以上に、身丈夫で動きが素早く、夜目が利いて、恐れを知らない兵を選ぶよう、伝えます。その部隊に何をやらせようというのか、とウツヒオ王に問われたヤノハは、戦とはいつ始めていつ終わらせるのか、その終わらせ方が肝心だ、と答えます。
吉備国の茅萱館(チガヤノヤカタ)では、フトニ王が後継者のクニクル王子に、後継者たる者はおろおろするな、と諭します。クニクル王子は、筑紫島と宍門の総勢700名の兵が大挙して金砂に押し寄せることを警戒していました。するとフトニ王は、敵が何人来ても気にすることはない、戦を始めるかはあくまで自分が決めることだ、と言います。金砂攻めはすでに終わり、今頃は吉備津彦が事代主の首を刎ねているだろう、筑紫島の6ヶ国と宍門の王が出雲に駆けつけても屍の山を見るだけで、その時に攻撃を始める、とフトニ王は言います。筑紫島の6ヶ国と宍門の連合軍を包囲し、時間をかけて嬲り殺しにする、とフトニ王は今後の構想を語ります。クニクル王子が、筑紫島6ヶ国の兵はいずれも勇猛果敢と聞いている、と懸念を伝えると、フトニ王は、1ヶ月待って戦を始めようと思う、と答えます。1ヶ月あれば、フトニ王の手勢と、吉備と鬼の他に、児屋と武庫と伊予と五百木と土左と賛支と土器の兵が自軍に加わり、筑紫島に渡ることなく、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の何百年にもわたるお怨みを晴らすことができる、というわけです。クニクル王子から連合軍の数を問われたフトニ王が、1万と答え、700対1万では赤子の手を捻るようなものだ、と言うところで今回は終了です。
今回は、筑紫島諸国と日下の思惑が描かれ、決戦が近いことを予感させられるやり取りで、どのように話が進むのか、楽しみです。ヤノハが隠し武器である連弩を兵士全員に渡さないと決めたところは、今後のことも踏まえてさすがに冷静だな、と改めて思います。ヤノハは、吉備津彦、さらにはフトニ王の殺害も計画しているのでしょうか。フトニ王は、吉備津彦が出雲を簡単に制圧できると考えているようですが、出雲にはトメ将軍とミマアキもいるはずで、どのように事代主を守るべく戦うのか、注目されます。今回、フトニ王の後継者であるクニクル王子が初めて登場したことも注目されます。フトニ王はいかにも冷酷残忍といった感じの人物ですが、クニクル王子はずっと「まともな」人物のように見えます。今回、吉備津彦が四道将軍(の一人?)だと明かされ、現在伝わる『日本書紀』の記事からは、日下が勝って九州を制圧し、後の日本国につながりそうです。しかし、ヤノハが主人公ですから、そうした展開になるとも考えにくく、クニクル王子が「常識的な」人物のように見えることから、フトニ王は出雲をめぐる戦いで殺され、最終的には、日下のクニクル王とヤノハとの間で何らかの合意がなされ、暈以外の西日本を統一した政権が成立し、筑紫島諸国と日下の伝承が融合されるのかな、とも予想しています。筑紫島諸国と日下との戦いの後にも、暈や日下との関係と魏への遣使などが詳しく描かれそうなので、今後の展開もたいへん楽しみです。
宍門国では、筑紫島の6ヶ国の王が、宍門国のニキツミ王と今後の作戦を検討していました。初めて日見子(ヤノハ)と会って恐縮しているニキツミ王に、自分はただ天照大神の声が聞こえる者にすぎない、とヤノハは声をかけます。筑紫島の6ヶ国の王はニキツミ王に、出雲に向かう宍門周辺の国々の動向などを尋ねます。峯(ミネ)国と最短の道や、を末盧のミルカシ王から問われたニキツミ王は、峯(ミネ)国と埃(エ)国はそう簡単に日下の傘下に入るとは思えない、憂慮すべきは伊予(イヨ)と土器(ドキ)と五百木(イオキ)と賛支(サヌキ)と土左(トサ)、という、すでに日下の軍門に下った伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の5ヶ国だ、と答えます。つまり、全軍を金砂国に差し向けると、背後よりその5ヶ国に突かれる、というわけです。伊予之二名島勢が宍門に来襲するまで何日かかると思うか、とイトデ王に問われたニキツミ王は、早くて30日と答えます。1ヶ月では、金砂から鬼(キ)軍を一掃し、宍門に引き返すのは不可能だ、と都萬のタケツヌ王は言います。もっと悪い想像もできる、と言う末盧国のミルカシ王に、日下と吉備と鬼と伊予之二名島の連合軍に、武庫国と児屋国が加わり、金砂国にいる筑紫島連合軍の背後を突いた場合だろう、とイトデ王は補足します。穂波国のヲカ王も、敵には鉄(カネ)の武器がある、と弱気です。そこへ、山社のミマト将軍が、ヤノハが漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)の隠れ里である、穂波国と都萬国との間にある秦邑(シンノムラ)で入手してきた、隠し武器を見せます。これは、10本の矢を一度に放てる弩(連弩)で、見たことのない暗器(暗殺用の武器)だと、ニキツミ王は驚きます。この連弩は、弓の名手でなくとも容易に扱える武器です。イトデ王が、数日で同じものを複製して全軍の兵に配れる、との配下の翔矢部(カケルヤベ、弓矢を作る職人の組織)からの報告を伝えると、弱気だったヲカ王も、30日の壁を破れるかもしれない、と明るい表情で言います。するとヤノハは、敵を侮ってはならない、と忠告します。とくに日下と吉備と鬼の兵は、屯田兵(普段は農業に従事し、徴用されると兵士になる人々)ではなく、戦いを生業とする戦人だ、とヤノハはかつて事代主から聞いた話を諸王に伝えます。十人力の連弩を全兵が持てばよい、と言うミマト将軍に、ヤノハは連弩を全兵士に渡すことに反対します。隠し武器とは敵に知られてはならない暗器で、全兵が持てば戦場で敵は必ず奪うだろう、というわけです。ヤノハの指摘にミマト将軍は納得し、では、どのように連弩を使うのか、とイトデ王はヤノハに尋ねます。ヤノハは、各軍から10名の兵を選ぶよう、指示します。では精鋭部隊を招集するのか、とミマト将軍に問われたヤノハは、弓の腕はそこそこでよく、それ以上に、身丈夫で動きが素早く、夜目が利いて、恐れを知らない兵を選ぶよう、伝えます。その部隊に何をやらせようというのか、とウツヒオ王に問われたヤノハは、戦とはいつ始めていつ終わらせるのか、その終わらせ方が肝心だ、と答えます。
吉備国の茅萱館(チガヤノヤカタ)では、フトニ王が後継者のクニクル王子に、後継者たる者はおろおろするな、と諭します。クニクル王子は、筑紫島と宍門の総勢700名の兵が大挙して金砂に押し寄せることを警戒していました。するとフトニ王は、敵が何人来ても気にすることはない、戦を始めるかはあくまで自分が決めることだ、と言います。金砂攻めはすでに終わり、今頃は吉備津彦が事代主の首を刎ねているだろう、筑紫島の6ヶ国と宍門の王が出雲に駆けつけても屍の山を見るだけで、その時に攻撃を始める、とフトニ王は言います。筑紫島の6ヶ国と宍門の連合軍を包囲し、時間をかけて嬲り殺しにする、とフトニ王は今後の構想を語ります。クニクル王子が、筑紫島6ヶ国の兵はいずれも勇猛果敢と聞いている、と懸念を伝えると、フトニ王は、1ヶ月待って戦を始めようと思う、と答えます。1ヶ月あれば、フトニ王の手勢と、吉備と鬼の他に、児屋と武庫と伊予と五百木と土左と賛支と土器の兵が自軍に加わり、筑紫島に渡ることなく、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の何百年にもわたるお怨みを晴らすことができる、というわけです。クニクル王子から連合軍の数を問われたフトニ王が、1万と答え、700対1万では赤子の手を捻るようなものだ、と言うところで今回は終了です。
今回は、筑紫島諸国と日下の思惑が描かれ、決戦が近いことを予感させられるやり取りで、どのように話が進むのか、楽しみです。ヤノハが隠し武器である連弩を兵士全員に渡さないと決めたところは、今後のことも踏まえてさすがに冷静だな、と改めて思います。ヤノハは、吉備津彦、さらにはフトニ王の殺害も計画しているのでしょうか。フトニ王は、吉備津彦が出雲を簡単に制圧できると考えているようですが、出雲にはトメ将軍とミマアキもいるはずで、どのように事代主を守るべく戦うのか、注目されます。今回、フトニ王の後継者であるクニクル王子が初めて登場したことも注目されます。フトニ王はいかにも冷酷残忍といった感じの人物ですが、クニクル王子はずっと「まともな」人物のように見えます。今回、吉備津彦が四道将軍(の一人?)だと明かされ、現在伝わる『日本書紀』の記事からは、日下が勝って九州を制圧し、後の日本国につながりそうです。しかし、ヤノハが主人公ですから、そうした展開になるとも考えにくく、クニクル王子が「常識的な」人物のように見えることから、フトニ王は出雲をめぐる戦いで殺され、最終的には、日下のクニクル王とヤノハとの間で何らかの合意がなされ、暈以外の西日本を統一した政権が成立し、筑紫島諸国と日下の伝承が融合されるのかな、とも予想しています。筑紫島諸国と日下との戦いの後にも、暈や日下との関係と魏への遣使などが詳しく描かれそうなので、今後の展開もたいへん楽しみです。
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