大型肉食恐竜の狭い眼窩と咬合力の向上
大型肉食恐竜(獣脚類)の狭い眼窩と咬合力の向上エピに関する研究(Lautenschlager., 2022)が公表されました。この研究は、中生代(2億5200万~6600万年前頃)の爬虫類の化石標本(410点)の眼窩を比較しました。この化石標本には、恐竜とその近縁種(ワニ類など)が含まれていました。その結果、大部分の爬虫類種、とくに草食動物の眼窩は円形だと分かりました。これに対して、長さ1 m超の頭蓋骨を持つ大型肉食動物の場合は、幼体が円形の眼窩を持つ傾向があっものの、成体は楕円形や鍵穴の形をした眼窩を持つことが多い、と分かりました。また、古代種は、より新しい種よりも円形の眼窩を持つ傾向が強く、大型獣脚類は、祖先種よりも鍵穴形の眼窩を持つ傾向が強いことも分かりました。この観察結果からは、大型の肉食動物種において、鍵穴形の眼窩が進化したものの、この形状は、幼体ではなく成体において発達した、と示唆されます。
この研究は、眼窩の形状が頭蓋骨の構造と機能に及ぼす影響を調べるため、咬合模擬実験において5種類の形状の眼窩を有する爬虫類頭蓋骨の理論モデルが受ける力を比較しました。また、円形や鍵穴形の眼窩を持つティラノサウルスモデルの頭蓋骨が収容できる眼球の最大サイズも比較されました。鍵穴形の眼窩は、円形の眼窩と比べて、咬合時の変形が少なく、眼窩の後方の頭蓋骨のより強い部分に沿って力を分散させることにより、頭蓋骨が受ける応力を軽減する上で役立ちました。これに対して、円形の眼窩のティラノサウルスモデルでは、鍵穴形の眼窩を持つモデルの場合よりも7倍大きい体積の眼球が収容されました。
この研究は、幅の狭い眼窩が進化したことで、獣脚類の頭蓋骨内で眼球が利用できる空間が減った一方で、顎の筋肉が利用できる空間が増え、頭蓋骨の頑丈性が向上した、と指摘しています。これが、大きな眼球を持つ代わりに咬合力を高めるうえで役立った可能性があります。眼球は、大きい方が視知覚の向上につながるという仮説が先行研究で示されており、この研究は、恐竜の進化を方向付けた機能的トレードオフ(交換)に光を当てています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古生物学:ティラノサウルス・レックスとその近縁種は大きな目の代わりに強い咬合力を得た
ティラノサウルス・レックスとそれに類似した大型肉食恐竜(獣脚類)の場合、祖先種より眼窩が狭くなったことが、咬合力の向上に役立った可能性があることを報告する論文が、Communications Biology に掲載される。
今回、Stephan Lautenschlagerは、中生代(2億5200万年前から6600万年前まで)の爬虫類の化石標本(410点)の眼窩を比較した。この化石標本には、恐竜とその近縁種(ワニ類など)が含まれていた。その結果、大部分の爬虫類種(特に草食動物)の眼窩は円形であることが分かった。これに対して、長さ1 m超の頭蓋骨を持つ大型肉食動物の場合は、幼体が円形の眼窩を持つ傾向があったが、成体は楕円形や鍵穴の形をした眼窩を持つことが多かった。また、古代種は、より新しい種よりも円形の眼窩を持つ傾向が強く、大型獣脚類は、祖先種よりも鍵穴形の眼窩を持つ傾向が強かった。この観察結果からは、大型の肉食動物種において、鍵穴形の眼窩が進化したが、この形状は、幼体ではなく成体において発達したことが示唆されている。
Lautenschlagerは、眼窩の形状が頭蓋骨の構造と機能に及ぼす影響を調べるため、咬合シミュレーションにおいて5種類の形状の眼窩を有する爬虫類頭蓋骨の理論モデルが受ける力を比較した。また、Lautenschlagerは、円形や鍵穴形の眼窩を持つティラノサウルスモデルの頭蓋骨が収容できる眼球の最大サイズを比較した。鍵穴形の眼窩は、円形の眼窩と比べて、咬合時の変形が少なく、眼窩の後方の頭蓋骨のより強い部分に沿って力を分散させることによって頭蓋骨が受ける応力を軽減する上で役立った。これに対して、円形の眼窩のティラノサウルスモデルでは、鍵穴形の眼窩を持つモデルの場合よりも7倍大きい体積の眼球が収容された。
Lautenschlagerは、幅の狭い眼窩が進化したことで、獣脚類の頭蓋骨内で眼球が利用できる空間が減った一方で、顎の筋肉が利用できる空間が増え、頭蓋骨のロバスト性が向上したという考えを示している。これが、大きな眼球を持つ代わりに咬合力を高めるうえで役立った可能性がある。眼球は、大きい方が視知覚の向上につながるという仮説が先行研究で示されていた。今回の知見は、恐竜の進化を方向付けた機能的トレードオフに光を当てている。
参考文献:
Lautenschlager S. et al.(2022): Functional and ecomorphological evolution of orbit shape in mesozoic archosaurs is driven by body size and diet. Communications Biology, 5, 754.
https://doi.org/10.1038/s42003-022-03706-0
この研究は、眼窩の形状が頭蓋骨の構造と機能に及ぼす影響を調べるため、咬合模擬実験において5種類の形状の眼窩を有する爬虫類頭蓋骨の理論モデルが受ける力を比較しました。また、円形や鍵穴形の眼窩を持つティラノサウルスモデルの頭蓋骨が収容できる眼球の最大サイズも比較されました。鍵穴形の眼窩は、円形の眼窩と比べて、咬合時の変形が少なく、眼窩の後方の頭蓋骨のより強い部分に沿って力を分散させることにより、頭蓋骨が受ける応力を軽減する上で役立ちました。これに対して、円形の眼窩のティラノサウルスモデルでは、鍵穴形の眼窩を持つモデルの場合よりも7倍大きい体積の眼球が収容されました。
この研究は、幅の狭い眼窩が進化したことで、獣脚類の頭蓋骨内で眼球が利用できる空間が減った一方で、顎の筋肉が利用できる空間が増え、頭蓋骨の頑丈性が向上した、と指摘しています。これが、大きな眼球を持つ代わりに咬合力を高めるうえで役立った可能性があります。眼球は、大きい方が視知覚の向上につながるという仮説が先行研究で示されており、この研究は、恐竜の進化を方向付けた機能的トレードオフ(交換)に光を当てています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古生物学:ティラノサウルス・レックスとその近縁種は大きな目の代わりに強い咬合力を得た
ティラノサウルス・レックスとそれに類似した大型肉食恐竜(獣脚類)の場合、祖先種より眼窩が狭くなったことが、咬合力の向上に役立った可能性があることを報告する論文が、Communications Biology に掲載される。
今回、Stephan Lautenschlagerは、中生代(2億5200万年前から6600万年前まで)の爬虫類の化石標本(410点)の眼窩を比較した。この化石標本には、恐竜とその近縁種(ワニ類など)が含まれていた。その結果、大部分の爬虫類種(特に草食動物)の眼窩は円形であることが分かった。これに対して、長さ1 m超の頭蓋骨を持つ大型肉食動物の場合は、幼体が円形の眼窩を持つ傾向があったが、成体は楕円形や鍵穴の形をした眼窩を持つことが多かった。また、古代種は、より新しい種よりも円形の眼窩を持つ傾向が強く、大型獣脚類は、祖先種よりも鍵穴形の眼窩を持つ傾向が強かった。この観察結果からは、大型の肉食動物種において、鍵穴形の眼窩が進化したが、この形状は、幼体ではなく成体において発達したことが示唆されている。
Lautenschlagerは、眼窩の形状が頭蓋骨の構造と機能に及ぼす影響を調べるため、咬合シミュレーションにおいて5種類の形状の眼窩を有する爬虫類頭蓋骨の理論モデルが受ける力を比較した。また、Lautenschlagerは、円形や鍵穴形の眼窩を持つティラノサウルスモデルの頭蓋骨が収容できる眼球の最大サイズを比較した。鍵穴形の眼窩は、円形の眼窩と比べて、咬合時の変形が少なく、眼窩の後方の頭蓋骨のより強い部分に沿って力を分散させることによって頭蓋骨が受ける応力を軽減する上で役立った。これに対して、円形の眼窩のティラノサウルスモデルでは、鍵穴形の眼窩を持つモデルの場合よりも7倍大きい体積の眼球が収容された。
Lautenschlagerは、幅の狭い眼窩が進化したことで、獣脚類の頭蓋骨内で眼球が利用できる空間が減った一方で、顎の筋肉が利用できる空間が増え、頭蓋骨のロバスト性が向上したという考えを示している。これが、大きな眼球を持つ代わりに咬合力を高めるうえで役立った可能性がある。眼球は、大きい方が視知覚の向上につながるという仮説が先行研究で示されていた。今回の知見は、恐竜の進化を方向付けた機能的トレードオフに光を当てている。
参考文献:
Lautenschlager S. et al.(2022): Functional and ecomorphological evolution of orbit shape in mesozoic archosaurs is driven by body size and diet. Communications Biology, 5, 754.
https://doi.org/10.1038/s42003-022-03706-0
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