黒死病と関連する免疫遺伝子の進化
黒死病と関連する免疫遺伝子の進化に関する研究(Klunk et al., 2022)が公表されました。感染症は、ヒトの進化を駆動する最も強い選択圧の一つです。これには、有史時代における唯一最大の大量死事象で、一般に「黒死病」と呼ばれる、ペストの第二次パンデミック(世界的大流行)の最初のアウトブレイク(集団発生)が含まれる。黒死病はペスト菌(Yersinia pestis)によって引き起こされる感染症で、1346~1350年にかけての世界的大流行はアフロ・ユーラシア大陸に壊滅的な被害をもたらし、人口の最大30~50%を死に至らしめました。黒死病の死亡率が高かったことは、その当時までに、これらの地域の人口集団においてペスト菌に対する免疫学的適応がほとんどなかったことを示唆しています。その後の400年間における黒死病の大流行では、死亡率が低下しました。これは、文化的慣習の変化や病原体の進化の結果かもしれませんが、ヒトがペスト菌に遺伝的に適応したことを示している可能性もあります。
この研究は、黒死病のさいに選択された可能性のある座位を特定するため、2つの異なるヨーロッパ人集団の、それぞれ黒死病の流行前、流行中、流行後に死亡した人々に由来するDNA試料(計516点、そのうちロンドンが318点、デンマークが198点)から206点を主解析に用いて、免疫関連遺伝子の周辺の遺伝的変動の特徴を明らかにしました。これらのDNA試料の年代は、過去の記録と放射性炭素年代測定法を用いて決定されました。DNA試料が抽出された個体の一部はロンドンのペスト墓地に埋葬されており、その全員が1348年から1349年の間に死亡しました。
分析の結果、免疫座位は、一連の非免疫座位と比較して、高度に分化した部位にひじょうに豊富に存在することから、正の選択を受けた、と示唆されます。ロンドンのデータセット内において高度に分化した245の多様体が特定され、そのうち4つはデンマークの独立コホートでも再現されたことから、これらは正の選択を受けた最も有力な候補です。これらの多様体の1つであるrs2549794の、選択を受けたアレル(対立遺伝子)は、(短縮型に対して)完全長のERAP2転写産物の産生、ペスト菌に対するサイトカイン応答の変動、マクロファージでの細胞内ペスト菌を制御する能力の増強と関連づけられました。さらに、防御多様体が、自己免疫疾患に対する感受性の上昇と現在関連づけられているアレル群と重なることも示され、過去の世界的大流行が現在の疾患感受性を形成するうえで役割を果たした、と示す経験的証拠が提示されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:黒死病に対する免疫を調べる
黒死病が、病原体に対する免疫応答に関与する遺伝子の進化に影響を与えた可能性があることを示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。これは、古代ゲノムのデータを解析する研究によって得られた知見で、パンデミック(世界的大流行)が疾患感受性を方向付けた可能性があることを示す証拠となっており、その傾向が今後も続く可能性を示唆している。
ペスト菌を原因とする黒死病は、西暦1346年から1350年にかけてヨーロッパ、中東、北アフリカに広がり、死者数が、当時の人口の30~50%に達した。黒死病の死亡率が高かったことは、その当時までに、これらの地域の集団においてペスト菌に対する免疫学的適応がほとんどなかったことを示唆している。その後の400年間におけるペストの大流行では、死亡率が低下した。これは、文化的慣習の変化や病原体の進化の結果であるかもしれないが、ヒトがペスト菌に遺伝的に適応したことを示している可能性もある。
今回、Luis Barreiroたちは、免疫関連遺伝子の遺伝的変異の進化を探究するため、英国ロンドンとデンマーク全土での黒死病の流行前、流行中、流行直後に死亡した者から抽出したDNA試料(計516点、うちロンドン318点、デンマーク198点)の解析を行い、そのうちの206点が主解析に使用された。これらのDNA試料の年代は、過去の記録と放射性炭素年代測定法を用いて決定された。DNA試料を抽出した者の一部は、ロンドンのペスト墓地に埋葬されており、その全員が1348年から1349年の間に死亡している。この解析の結果、免疫関連遺伝子の複数の遺伝的バリアントが、黒死病の流行中と流行後に正の選択を受けたことを示す証拠が見つかった。ロンドンでの黒死病の流行前と流行後のDNA試料の比較で、高度に分化した遺伝的バリアント(245個)が特定され、そのうちの4個がデンマークのコホートで再現された。正の選択を受けたバリアントの最有力候補(4個)のうちの1つは、実験室実験において血液細胞(マクロファージ)によるペスト菌の制御に関連していることが判明し、このバリアントが、ペスト菌に対する耐性に寄与した可能性が示唆された。
Barreiroたちは、ペスト菌からの防御に関連するバリアントが、自己免疫疾患に対する高い感受性に関連するアレルと重複している点を指摘し、過去のパンデミックが現在の疾患リスクを方向付ける役割を果たした可能性を強く示している。
遺伝学:黒死病と関連付けられた免疫遺伝子の進化
遺伝学:免疫遺伝子の進化と黒死病の関連
今回、古DNAの研究から、黒死病のパンデミックの際にヨーロッパの集団において選択を受けた可能性が高い免疫座位が明らかになった。
参考文献:
Klunk J. et al.(2022): Evolution of immune genes is associated with the Black Death. Nature, 611, 7935, 312–319.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05349-x
この研究は、黒死病のさいに選択された可能性のある座位を特定するため、2つの異なるヨーロッパ人集団の、それぞれ黒死病の流行前、流行中、流行後に死亡した人々に由来するDNA試料(計516点、そのうちロンドンが318点、デンマークが198点)から206点を主解析に用いて、免疫関連遺伝子の周辺の遺伝的変動の特徴を明らかにしました。これらのDNA試料の年代は、過去の記録と放射性炭素年代測定法を用いて決定されました。DNA試料が抽出された個体の一部はロンドンのペスト墓地に埋葬されており、その全員が1348年から1349年の間に死亡しました。
分析の結果、免疫座位は、一連の非免疫座位と比較して、高度に分化した部位にひじょうに豊富に存在することから、正の選択を受けた、と示唆されます。ロンドンのデータセット内において高度に分化した245の多様体が特定され、そのうち4つはデンマークの独立コホートでも再現されたことから、これらは正の選択を受けた最も有力な候補です。これらの多様体の1つであるrs2549794の、選択を受けたアレル(対立遺伝子)は、(短縮型に対して)完全長のERAP2転写産物の産生、ペスト菌に対するサイトカイン応答の変動、マクロファージでの細胞内ペスト菌を制御する能力の増強と関連づけられました。さらに、防御多様体が、自己免疫疾患に対する感受性の上昇と現在関連づけられているアレル群と重なることも示され、過去の世界的大流行が現在の疾患感受性を形成するうえで役割を果たした、と示す経験的証拠が提示されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:黒死病に対する免疫を調べる
黒死病が、病原体に対する免疫応答に関与する遺伝子の進化に影響を与えた可能性があることを示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。これは、古代ゲノムのデータを解析する研究によって得られた知見で、パンデミック(世界的大流行)が疾患感受性を方向付けた可能性があることを示す証拠となっており、その傾向が今後も続く可能性を示唆している。
ペスト菌を原因とする黒死病は、西暦1346年から1350年にかけてヨーロッパ、中東、北アフリカに広がり、死者数が、当時の人口の30~50%に達した。黒死病の死亡率が高かったことは、その当時までに、これらの地域の集団においてペスト菌に対する免疫学的適応がほとんどなかったことを示唆している。その後の400年間におけるペストの大流行では、死亡率が低下した。これは、文化的慣習の変化や病原体の進化の結果であるかもしれないが、ヒトがペスト菌に遺伝的に適応したことを示している可能性もある。
今回、Luis Barreiroたちは、免疫関連遺伝子の遺伝的変異の進化を探究するため、英国ロンドンとデンマーク全土での黒死病の流行前、流行中、流行直後に死亡した者から抽出したDNA試料(計516点、うちロンドン318点、デンマーク198点)の解析を行い、そのうちの206点が主解析に使用された。これらのDNA試料の年代は、過去の記録と放射性炭素年代測定法を用いて決定された。DNA試料を抽出した者の一部は、ロンドンのペスト墓地に埋葬されており、その全員が1348年から1349年の間に死亡している。この解析の結果、免疫関連遺伝子の複数の遺伝的バリアントが、黒死病の流行中と流行後に正の選択を受けたことを示す証拠が見つかった。ロンドンでの黒死病の流行前と流行後のDNA試料の比較で、高度に分化した遺伝的バリアント(245個)が特定され、そのうちの4個がデンマークのコホートで再現された。正の選択を受けたバリアントの最有力候補(4個)のうちの1つは、実験室実験において血液細胞(マクロファージ)によるペスト菌の制御に関連していることが判明し、このバリアントが、ペスト菌に対する耐性に寄与した可能性が示唆された。
Barreiroたちは、ペスト菌からの防御に関連するバリアントが、自己免疫疾患に対する高い感受性に関連するアレルと重複している点を指摘し、過去のパンデミックが現在の疾患リスクを方向付ける役割を果たした可能性を強く示している。
遺伝学:黒死病と関連付けられた免疫遺伝子の進化
遺伝学:免疫遺伝子の進化と黒死病の関連
今回、古DNAの研究から、黒死病のパンデミックの際にヨーロッパの集団において選択を受けた可能性が高い免疫座位が明らかになった。
参考文献:
Klunk J. et al.(2022): Evolution of immune genes is associated with the Black Death. Nature, 611, 7935, 312–319.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05349-x
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