多様だった鳥類の骨格の進化

 鳥類の骨格の進化の多様性に関する研究(Navalón et al., 2022)が公表されました。進化の速度および様式の変動が現生種の表現型の多様性をどのように構築してきたか、その特徴を明らかにすることは、大進化研究の中心的な目標です。しかし、そうした研究は通常、少数の形質に限定されており、充分な情報は得られていません。鳥類は生態学的に多様な分類群で、構造的にも複雑であり、この多様性の少なくとも一部は6600万年前頃となる白亜紀末の大量絶滅の結果と推定されています。この大量絶滅の後に起きた生態学的多様化は、水鳥と陸鳥という明確に異なる鳥類分類群を生み出した、と考えられています。

 この研究は現生鳥類228種の形態的多様性(骨格要素13種)を分析し、「汎骨格的」な比率から個々の骨の局所的な三次元形状の変化まで、構造スケールを詳細に記録しました。その結果、鳥類の下位分類群間および骨格要素間で進化の様式に顕著な差異が見いだされ、地球の主要な環境にわたって、広範な斑状が存在すること、および大進化の景観構造に差異があるかもしれない、と示されました。水に関連する鳥類群、特にAequorlitornithes類(水鳥)は、それらの全形態空間の大部分を繰り返し探索しており、体の比率や、体の中心に近い骨(ロコモーション機構と機能的に関連する)の形状における多様性が顕著です。対照的に、Inopinaves類(陸鳥)は、K–Pg(白亜紀–古第三紀)の大量絶滅後の早い時期に分類群特異的な異なる体の形態を進化させ、次いで、特に頭部や遠位の肢の骨(より直接的に環境と相互作用します)において、局所的形状の多様性を際立たせました。全鳥類種の過半を占めるスズメ類は控え目な進化的動態を示し、結果として全ての骨格要素にわたって差異の程度は小さい、と示されました。

 現生鳥類の形態空間の初期の確立を示す証拠は、嘴や複合的な骨格形態など、一部の骨格要素については明確です。一方、「生態的地位占有」モデルのより具体的な予測に反して、そうした形態空間が早期に分割されたことを示す証拠はほとんど得られませんでした。しかし、広範な環境タイプ間での早期の分岐は進化様式の早期の分岐を引き起こした可能性があり、これは、環境的分岐がクラウン群鳥類の放散を構築する上で重要な役割を果たした、と示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化学:相当に多様だった鳥類の骨格の進化

 200種以上の鳥類の骨格構造の解析が行われ、鳥類の進化が相当に多様であることが明らかになった。特に水鳥と陸鳥の進化様式には顕著な相違点が見つかり、環境が動物の特徴を形作る上で重要な役割を果たしていることが浮き彫りになった。この結果について報告する論文が、今週、Nature に掲載される。

 鳥類は、生態学的に多様で、構造的にも複雑であり、この多様性の少なくとも一部は6600万年前の白亜紀末の大量絶滅の結果だと推定されている。この大量絶滅の後に起こった生態学的多様化は、水鳥と陸鳥という明確に異なる鳥類分類群を生み出したと考えられている。進化の解明は、新しい方法や技術によって進歩してきたが、最も重要と考えられる数種類の形質や体の部位だけに注目した研究が多い。

 今回、Guillermo NavalónとRoger Bensonたちは、鳥類の骨格全体(体の各部位の相対比、繋がった骨の複合形状、個々の骨の形状変化など)にわたって進化のパターンを定量化した。今回の研究で、現生鳥類全科にわたる228種の骨格要素(13種)を解析し、頭部、翼、脚の構成要素を調べた。その結果、予想に反して、白亜紀末の大量絶滅は、研究対象の鳥類分類群に属する現生鳥類の多様性を説明する上で小さな役割しか果たしていないことが判明した。むしろ、その後の進化の節目の方が重要な役割を果たした可能性のあることが明らかになった。さらに、水鳥と陸鳥では進化様式に著しい違いが見られることから、これらの鳥類の環境が進化経路を決定する上で重要であったことが示唆されている。例えば、陸鳥は、移動運動のための特別な適応を発達させ、それが脚に反映しているのに対して、水鳥(例えばペンギン)の移動運動のための適応は進化的多様性が高かった。

 今回の研究では、マクロ進化のパターンを観察するため、骨格の差異について、非常に詳細な3D定量化が行われた。Navalónたちは、体のそれぞれの部位の進化パターンが多岐にわたる可能性があるため、数々の体の特徴にわたって研究を行うことの有益性を示した。今回の研究で得られた知見は、大量絶滅が進化経路に与えた影響に関する議論だけでなく、多様な陸上環境と水環境が鳥類の進化において果たした役割に関する議論も見直している。


進化学:鳥類の骨格の進化的多様化における環境シグナル

進化学:鳥類の骨格の進化には環境が複雑に影響した

 今回、現生鳥類の形態に見られる多様性を説明する上で、白亜紀末の大量絶滅の後に起こった鳥類の形態的多様化が果たした役割は小さなものでしかなかったことが示された。水鳥と陸鳥の間に特に大きな違いが見られるように、形態の多様性により大きく寄与したのは環境であったと考えられる。



参考文献:
Navalón G. et al.(2022): Environmental signal in the evolutionary diversification of bird skeletons. Nature, 611, 7935, 306–311.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05372-y

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