ヒトの身長に関連する遺伝的多様体

 ヒトの身長に関連する遺伝的多様体についての研究(Yengo et al., 2022)が公表されました。成人の身長は遺伝性の形質で、容易に測定できます。以前の研究で、おもにヨーロッパ系の集団において、身長に関連する高頻度の遺伝的多様体(骨格障害に関連する遺伝子を含みます)が数多く同定されました。身長は、観察可能なヒトの形質(表現型)の構造における、遺伝的変異の役割を評価するためのモデル形質になっています。ありふれた一塩基多型(SNP)は総合的に、ヒトの身長における表現型の変動の40~50%を説明すると予測されています。しかし、身長に特異的な多様体や関連する領域を特定するには膨大な標本規模が必要です。

 この研究は、さまざまな祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の540万人(主要な祖先が、ヨーロッパ系は75.8%、アジア東部系は8.8%、ヒスパニック系は8.5%、アフリカ系は5.5%、アジア南部系は1.4%)のゲノム規模関連解析(GWAS)のデータを用いて、身長と有意に関連する12111ヶ所の独立したSNPが、ありふれたSNPに基づく遺伝率のほぼ全てを説明する、と示します。これらのSNPは、平均サイズが約9万塩基対の7209の重複しないゲノム断片内にクラスタ(まとまり)として存在しており、ゲノムの約21%を占めています。

 独立した関連の密度はゲノム全体にわたって異なり、密度が高い領域には、生物学的に関係する遺伝子が豊富に含まれていました。独立標本による推定では、12111のSNP(あるいはHapMap 3パネルの全てのSNP)が、ヨーロッパ系の集団における表現型分散の40%(45%)を説明するものの、他の祖先系統の集団では約10~20%(14~24%)しか説明しません。効果量や関連領域や遺伝子の優先順位付けは祖先系統集団間で類似していることから、予測精度の低下は連鎖不平衡や関連領域内の対立遺伝子頻度の差異によって説明される可能性が高い、と示されます。

 さらに、関係する生物学的経路は、原因遺伝子や原因多様体の関与を示すのに必要な標本規模より小さくても検出可能と分かりました。総合的にこの研究は、身長に関連するありふれた多様体の大部分を含む特定のゲノム領域の包括的な遺伝し地図を示しています。この遺伝し地図は、ヨーロッパ系の集団では飽和しているものの、他の祖先系統の集団で同等の飽和を達成するには、さらなる研究が必要です。この研究は、人類進化史の解明にも役立つことが期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


遺伝学:ヒトの身長の遺伝的背景に関する新知見

 ヒトの身長に関連する1万2000個以上の遺伝的バリアントが特定されたことを報告する論文が、Nature に今週掲載される。この知見は、これまでに報告されている中で最大規模のゲノムワイド関連解析(GWAS)である約540万人のゲノムワイド遺伝子型解析のデータによって得られた。

 成人の身長は、遺伝性の形質であり、容易に測定できる。以前の研究で、主にヨーロッパ系の集団において、身長に関連する高頻度の遺伝的バリアント(骨格障害に関連する遺伝子を含む)が数多く同定された。身長は、観察可能なヒトの形質(表現型)の構造における遺伝的変異の役割を評価するためのモデル形質になっている。

 今回、GIANTコンソーシアムのLoïc Yengoたちは、さまざまな人種の集団(約540万人)の遺伝的解析を行った。このサンプルの75.8%は、主な祖先がヨーロッパ系で、8.8%が東アジア系、8.5%がヒスパニック系、5.5%がアフリカ系、1.4%が南アジア系であった。そして、身長と有意に関連する1万2111個の遺伝的バリアントが同定された。Yengoたちは、これらのバリアントが、特にヨーロッパ系の集団において、身長に関連する高頻度バリアントのほぼ全てを網羅しているという見解を示している。次に、ゲノム全体において、これらのバリアントの位置を調べたところ、成長障害に関連することがすでに知られている遺伝子の付近に集合している可能性の高いことが判明した。Yengoたちは、今回の研究で同定された身長に関連する遺伝的バリアントは、ヨーロッパ系の集団における身長の個人差の40%を説明できるが、他の集団では10~20%程度にとどまることを指摘している。

 今回の知見は、十分に大きなサンプルサイズを確保できれば、個人差に寄与するゲノム領域の飽和マップを作製できることを示している。今回の研究で、ヨーロッパ系の集団における身長に関連するゲノム領域の飽和マップが得られたが、Yengoたちは、非ヨーロッパ系の集団についても同じレベルの飽和を達成するにはさらなる研究が必要になると結論付けている。


遺伝学:ヒトの身長に関連するありふれた遺伝的バリアントの飽和マップ

遺伝学:ヒトの身長に関連するほぼ全てのありふれたバリアント

 今回、540万人を対象とした大規模なゲノム規模関連解析(GWAS)により、身長という複合形質の遺伝率へのありふれたバリアントの寄与の程度が、初めてほぼ完全にマッピングされた。



参考文献:
Yengo L. et al.(2022): A saturated map of common genetic variants associated with human height. Nature, 610, 7933, 704–712.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05275-y

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