シルル紀の魚類化石が示す有顎脊椎動物の台頭
中国南部で新たに発見された前期シルル紀(約4億3900万~4億3600万年前)の大量の保存状態良好な魚類化石を報告した四つの研究が報道されました。分子的研究からは、現生脊椎動物の99.8%以上を占めている、顎口類としても知られている有顎脊椎動物の起源は、遅くとも後期オルドビス紀(約4億5000万年前)だった、と示唆されています。そうした分析結果は、オルドビス紀および前期シルル紀の軟骨魚類と推定される動物の関節のつながっていない微小化石とともに、オルドビス紀末の大量絶滅の前および直後の有顎脊椎動物の進化的繁栄を示唆しています。しかしこれまで、形態の詳細な再構築が可能な有顎魚類の最古の完全な化石は、後期シルル紀の化石群(約4億2500万年前)に由来するものでした。後期シルル紀以前の関節がつながった全身化石の不足により、有顎脊椎動物の最初期の進化史は長く不明でした。第一の研究(Zhu et al., 2022)は、中国南部の重慶の前期シルル紀となる(テリチアン期、約4億3600万年前)の地層で発見された、保存状態が良好である多様な有顎魚類の全身化石の存在を特徴とする、新たな保存的化石鉱脈(Konservat-Lagerstätte)について報告します。優占種は、「板皮類」すなわちステム群顎口類で、この新属新種はシウシャノステウス・ミラビリス(Xiushanosteus mirabilis)と命名されました。シウシャノステウス・ミラビリスは、主要な複数の板皮類下位集団の形質を併せ持ち、その頭蓋には板皮類から硬骨魚類の状態に向かう天蓋部パターンの変化の前兆が認められました。一方、軟骨魚類の新属新種シェンアカンサス・ベルミフォルミス(Shenacanthus vermiformis)は胸部が大きな装甲板で覆われており、これはその系統では以前には知られていなかったもので、従来の軟骨魚類のボディープランに加えて、板皮類に見られるような大きな中背板も有していました。まとめると、これらの種は、前期シルル紀における有顎脊椎動物のこれまで知られていなかった多様化を明らかにするとともに、この時代の有顎脊椎動物の全身形態に関する詳細な知見をもたらしています。
対鰭は、有顎脊椎動物の系統において、現生の無顎脊椎動物からの分岐後に進化した主要な新機軸です。無顎で装甲に覆われていた絶滅ステム群顎口類には、骨格の突起から単純な弁まで、有対体壁の多様な拡張が見られました。対照的に、骨甲類(有顎脊椎動物の姉妹群)は胸部に最初の真の有対付属肢を持つと解釈されており、骨盤の付属肢は顎に関連して後に進化した、と考えられています。第二の研究(Gai et al., 2022)は、中国のシルル紀層で発見されたツジアアスピス・ビビドゥス(Tujiaaspis vividus)の関節のつながった化石に基づいて、ガレアスピス類(骨甲類と有顎脊椎動物の両方の姉妹群)が、3つの不対背鰭、ほぼ対称な脊髄腹側の尾、1対の鰓から尾へと連なる腹外側の鰭を有していた、と明らかにします。腹外側の鰭は、他のステム群顎口類に見られる有対の鰭弁、とくに分化した胸鰭も持つ骨甲類のケファラスピス類の腹外側稜に似ています。これらの腹外側の鰭は、脊椎動物の有対付属肢の起源として提唱されている鰭襞仮説の複数の側面と一致します。ガレアスピス類は、骨甲類と有顎脊椎動物の前駆的状態を有し、この状態において、有対の鰭が最初に胸部から骨盤への連続した側鰭として出現しました。計算流体力学実験では、この対鰭によって受動的に揚力が生じる、と示されました。胸鰭の前方への分化は、骨甲類と有顎脊椎動物につながるステム群系統のより後の段階で起きました。こうした後の分化に続いて、残りの鰭の能力範囲が骨盤の位置に制限され、これが能動的な推進と舵取りを促進した、と考えられます。
下顎の歯および歯列は有顎脊椎動物の特徴で、これらを最初に獲得したのは現生の軟骨魚類および硬骨魚類の古生代の祖先でした。化石記録からは現在のところ、顎口類の歯が出現した年代は遅くともシルル紀の後半(約4億2500万年前)であり、続くデボン紀に下顎歯列の成長および換歯機構が進化した、と示されています。第三の研究(Andreev et al., 2022A)は、中国貴州省で出土した複数の遊離の輪状歯(tooth whorl)に基づいて、前期シルル紀の顎口類の新属新種チェノドゥス・デュプリキス(Qianodus duplicis)を記載し、有顎脊椎動物に関して既知の最古の直接的な証拠を提示します。これらの輪状歯は1対の非脱落歯の列から構成され、現生の複数の顎口類群に見られる多くの特徴を示しています。そうした特徴には、互い違いに並ぶ歯の舌側への累加と、このパターン形成の輪状歯の発達を通した維持が含まれます。この研究のデータは、有歯顎口類の記録を後期シルル紀から前期シルル紀(約4億3900万年前)まで1400万年拡張させるもので、脊椎動物の初期の多様化の記録に重要です。この分析結果は、有顎脊椎動物が、オルドビス紀の大規模な生物多様化事象(Great Ordovician Biodiversification Event;約4億8500万~4億4500万年前)の一部としてより早い時代に出現していたことを支持する多くの化石証拠に、新たな例を加えます。
軟骨魚類と硬骨魚類(四肢類を含む)の現生種は、それぞれ異なる骨格構造および発生経路を有しており、これら2つのクレー(単系統群)ドの進化的分岐の古さを裏づけています。一方、後期シルル紀およびデボン紀の有顎脊椎動物に関する最近の研究からは、硬骨魚類および軟骨魚類と両者の顎口類祖先との間のこれまでの区別を不明瞭にするような、類似の骨格状態が明らかになっています。第四の研究(Andreev et al., 2022B)は、中国で発見された、関節のつながった有顎脊椎動物化石としてこれまで最古とされていたものより年代の古い、前期シルル紀の軟骨魚類の新属新種ファンジンシャニア・レノバータ(Fanjingshania renovata)の化石(皮骨板、鱗、鰭棘)を報告します。ファンジンシャニア・レノバータは肩帯の皮骨板とひとそろいの鰭棘を有し、これらは、ステム群軟骨魚類の一部(クリマティウス類の「棘魚類」)で記録されているものと構造が酷似しています。しかし、軟骨魚類には特異なことに、ファンジンシャニア・レノバータには硬骨魚類に似た鱗の歯状突起(皮歯)の吸収性脱落と棘内の歯原性組織の欠如が見られました。この結果は、これらの状態が軟骨魚類のステム群で独立して獲得されたことを明らかにしており、ファンジンシャニア・レノバータが、従来の定義の棘魚類内に含まれる多くの分類群に加わりました。このファンジンシャニア・レノバータの発見によって、有顎脊椎動物が前期デボン紀層の化石記録での広範な出現に先立って前期シルル紀に放散したとする説に対して、これまでで最も強い支持が得られました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
化石:大量出土したシルル紀の魚類化石が示す有顎脊椎動物の台頭
中国南部で新たに発見された前期シルル紀(約4億3900万~4億3600万年前)の2つの化石層で出土した保存状態の良い魚類化石のコレクションが、有顎動物の初期の放散と多様化に関する新たな識見をもたらしている。この研究知見は、今週、Nature に掲載される4編の論文に示されており、これらの論文では、魚類の新種が明らかにされ、有顎脊椎動物の最古の歯についての記述がある。
有顎脊椎動物(顎口類としても知られている)は、ヒトを含む現生脊椎動物の99.8%以上を占めており、約4億5000万年前に出現したと考えられている。しかし、この時代の化石証拠は少なく、有顎脊椎動物の初期進化史を再構築することは難しい。顎関節を持つ有顎魚類については、約4億2500万年前の化石が、これまでに確認された最古のものとなっている。
Min Zhuたちの論文には、中国南部の重慶で見つかった前期シルル紀の極めて保存状態の良好な化石の堆積層が示されている。この化石層には、多様な魚類の全身化石が含まれており、記録上の空白を埋めるために役立つ。出土した化石は、板皮類(最古の既知の有顎脊椎動物である先史時代の甲冑魚類の絶滅分類群)や軟骨魚類(サメやエイなどの軟骨魚の分類群)などの化石だった。その中で最も多かった(標本数が20点以上だった)のが、体長約3 cmの板皮類種で、Xiushanosteus mirabilisと命名された。この魚類種は、主要な板皮類サブグループの特徴を併せ持っており、このことが、現生有顎脊椎動物の頭蓋骨の進化を明らかにするヒントになっている。また、Shenacanthus vermiformisと命名された軟骨魚類種は、体形が他の軟骨魚類種に類似しているが、通常は板皮類に関連付けられている装甲板を有することが分かった。これらの発見は、この時代にこれまで知られていなかった多様化が生じたことを明らかにしている。
このほかのZhuたちの3編の論文には、これらの魚類種の一部が詳細に記述されている。第2の論文では、古代の魚類で、中国とベトナム北部でしか見つかっていない装甲板を有する無顎魚類の絶滅分類群であるガレアスピス類の全身の詳細が、約4億3600万年前の標本の分析を通じて初めて明らかにされた。ガレアスピス類には、特徴的な頭部背板(head shield)があるが、頭蓋後方の解剖学的構造は、これまで不明だった。この論文では、腕や脚の前駆構造である胸びれと腹びれに分かれる前の対鰭の原始的状態も示されている。第3の論文には、約4億3900万年前の堆積層から発見された古代の棘のあるサメ様魚類種(Fanjingshania renovataと命名された軟骨魚類種)について記述されている。この古代魚類種は、一部のステム軟骨魚類に見られるものに似た肩帯を持っているが、硬骨魚類に通常見られる硬組織吸収の証拠も示している。これらの知見は、有顎脊椎動物が、下部デボン紀の化石記録に広く現れる前の前期シルル紀に放散したという学説に対するこれまでで最も強力な補強証拠になるとZhuたちは述べている。第4の論文では、約4億3900万年前のこれまで知られていなかったサメの近縁種(Qianodus duplicis)の複数の化石歯が報告されている。これらの歯は、他の既知の顎口類の歯の化石標本よりも古く、これによって、脊椎動物の顎と歯列が出現した年代が約1400万年さかのぼった。
Cover Story:歯と顎:シルル紀の化石層によって明らかになった初期の有顎脊椎動物の起源と多様性
表紙は、今回新たに発見されたシルル紀の古代魚5種の想像図で、上から順にShenacanthus vermiformis、Fanjingshania renovata、Qianodus duplicis、Tujiaaspis vividus、Xiushanosteus mirabilisを示す。これらの魚類の化石は、中国南部にある年代が4億3600万年前と4億3900万年前の保存状態の良い2つの地層で見つかったものである。今回M Zhuたちは、これらの化石層を発掘し、そこで発見した化石を4報の論文で記載・検討している。化石の保存状態が非常に良いため、有顎動物がどのように進化し、多様化したかという難しい問題に光を当てることが可能になった。中でも、有顎脊椎動物の既知最古の歯が、これまで知られていなかったサメの類縁種のQianodusから得られている。今回の知見を合わせると、前期シルル紀の有顎動物における多様性について新たな状況が見えてくる。
参考文献:
Andreev PS. et al.(2022A): The oldest gnathostome teeth. Nature, 609, 7929, 964–968.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05166-2
Andreev PS. et al.(2022B): Spiny chondrichthyan from the lower Silurian of South China. Nature, 609, 7929, 969–974.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05233-8
Gai Z. et al.(2022): Galeaspid anatomy and the origin of vertebrate paired appendages. Nature, 609, 7929, 959–963.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04897-6
Zhu Y. et al.(2022): The oldest complete jawed vertebrates from the early Silurian of China. Nature, 609, 7929, 954–958.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05136-8
対鰭は、有顎脊椎動物の系統において、現生の無顎脊椎動物からの分岐後に進化した主要な新機軸です。無顎で装甲に覆われていた絶滅ステム群顎口類には、骨格の突起から単純な弁まで、有対体壁の多様な拡張が見られました。対照的に、骨甲類(有顎脊椎動物の姉妹群)は胸部に最初の真の有対付属肢を持つと解釈されており、骨盤の付属肢は顎に関連して後に進化した、と考えられています。第二の研究(Gai et al., 2022)は、中国のシルル紀層で発見されたツジアアスピス・ビビドゥス(Tujiaaspis vividus)の関節のつながった化石に基づいて、ガレアスピス類(骨甲類と有顎脊椎動物の両方の姉妹群)が、3つの不対背鰭、ほぼ対称な脊髄腹側の尾、1対の鰓から尾へと連なる腹外側の鰭を有していた、と明らかにします。腹外側の鰭は、他のステム群顎口類に見られる有対の鰭弁、とくに分化した胸鰭も持つ骨甲類のケファラスピス類の腹外側稜に似ています。これらの腹外側の鰭は、脊椎動物の有対付属肢の起源として提唱されている鰭襞仮説の複数の側面と一致します。ガレアスピス類は、骨甲類と有顎脊椎動物の前駆的状態を有し、この状態において、有対の鰭が最初に胸部から骨盤への連続した側鰭として出現しました。計算流体力学実験では、この対鰭によって受動的に揚力が生じる、と示されました。胸鰭の前方への分化は、骨甲類と有顎脊椎動物につながるステム群系統のより後の段階で起きました。こうした後の分化に続いて、残りの鰭の能力範囲が骨盤の位置に制限され、これが能動的な推進と舵取りを促進した、と考えられます。
下顎の歯および歯列は有顎脊椎動物の特徴で、これらを最初に獲得したのは現生の軟骨魚類および硬骨魚類の古生代の祖先でした。化石記録からは現在のところ、顎口類の歯が出現した年代は遅くともシルル紀の後半(約4億2500万年前)であり、続くデボン紀に下顎歯列の成長および換歯機構が進化した、と示されています。第三の研究(Andreev et al., 2022A)は、中国貴州省で出土した複数の遊離の輪状歯(tooth whorl)に基づいて、前期シルル紀の顎口類の新属新種チェノドゥス・デュプリキス(Qianodus duplicis)を記載し、有顎脊椎動物に関して既知の最古の直接的な証拠を提示します。これらの輪状歯は1対の非脱落歯の列から構成され、現生の複数の顎口類群に見られる多くの特徴を示しています。そうした特徴には、互い違いに並ぶ歯の舌側への累加と、このパターン形成の輪状歯の発達を通した維持が含まれます。この研究のデータは、有歯顎口類の記録を後期シルル紀から前期シルル紀(約4億3900万年前)まで1400万年拡張させるもので、脊椎動物の初期の多様化の記録に重要です。この分析結果は、有顎脊椎動物が、オルドビス紀の大規模な生物多様化事象(Great Ordovician Biodiversification Event;約4億8500万~4億4500万年前)の一部としてより早い時代に出現していたことを支持する多くの化石証拠に、新たな例を加えます。
軟骨魚類と硬骨魚類(四肢類を含む)の現生種は、それぞれ異なる骨格構造および発生経路を有しており、これら2つのクレー(単系統群)ドの進化的分岐の古さを裏づけています。一方、後期シルル紀およびデボン紀の有顎脊椎動物に関する最近の研究からは、硬骨魚類および軟骨魚類と両者の顎口類祖先との間のこれまでの区別を不明瞭にするような、類似の骨格状態が明らかになっています。第四の研究(Andreev et al., 2022B)は、中国で発見された、関節のつながった有顎脊椎動物化石としてこれまで最古とされていたものより年代の古い、前期シルル紀の軟骨魚類の新属新種ファンジンシャニア・レノバータ(Fanjingshania renovata)の化石(皮骨板、鱗、鰭棘)を報告します。ファンジンシャニア・レノバータは肩帯の皮骨板とひとそろいの鰭棘を有し、これらは、ステム群軟骨魚類の一部(クリマティウス類の「棘魚類」)で記録されているものと構造が酷似しています。しかし、軟骨魚類には特異なことに、ファンジンシャニア・レノバータには硬骨魚類に似た鱗の歯状突起(皮歯)の吸収性脱落と棘内の歯原性組織の欠如が見られました。この結果は、これらの状態が軟骨魚類のステム群で独立して獲得されたことを明らかにしており、ファンジンシャニア・レノバータが、従来の定義の棘魚類内に含まれる多くの分類群に加わりました。このファンジンシャニア・レノバータの発見によって、有顎脊椎動物が前期デボン紀層の化石記録での広範な出現に先立って前期シルル紀に放散したとする説に対して、これまでで最も強い支持が得られました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
化石:大量出土したシルル紀の魚類化石が示す有顎脊椎動物の台頭
中国南部で新たに発見された前期シルル紀(約4億3900万~4億3600万年前)の2つの化石層で出土した保存状態の良い魚類化石のコレクションが、有顎動物の初期の放散と多様化に関する新たな識見をもたらしている。この研究知見は、今週、Nature に掲載される4編の論文に示されており、これらの論文では、魚類の新種が明らかにされ、有顎脊椎動物の最古の歯についての記述がある。
有顎脊椎動物(顎口類としても知られている)は、ヒトを含む現生脊椎動物の99.8%以上を占めており、約4億5000万年前に出現したと考えられている。しかし、この時代の化石証拠は少なく、有顎脊椎動物の初期進化史を再構築することは難しい。顎関節を持つ有顎魚類については、約4億2500万年前の化石が、これまでに確認された最古のものとなっている。
Min Zhuたちの論文には、中国南部の重慶で見つかった前期シルル紀の極めて保存状態の良好な化石の堆積層が示されている。この化石層には、多様な魚類の全身化石が含まれており、記録上の空白を埋めるために役立つ。出土した化石は、板皮類(最古の既知の有顎脊椎動物である先史時代の甲冑魚類の絶滅分類群)や軟骨魚類(サメやエイなどの軟骨魚の分類群)などの化石だった。その中で最も多かった(標本数が20点以上だった)のが、体長約3 cmの板皮類種で、Xiushanosteus mirabilisと命名された。この魚類種は、主要な板皮類サブグループの特徴を併せ持っており、このことが、現生有顎脊椎動物の頭蓋骨の進化を明らかにするヒントになっている。また、Shenacanthus vermiformisと命名された軟骨魚類種は、体形が他の軟骨魚類種に類似しているが、通常は板皮類に関連付けられている装甲板を有することが分かった。これらの発見は、この時代にこれまで知られていなかった多様化が生じたことを明らかにしている。
このほかのZhuたちの3編の論文には、これらの魚類種の一部が詳細に記述されている。第2の論文では、古代の魚類で、中国とベトナム北部でしか見つかっていない装甲板を有する無顎魚類の絶滅分類群であるガレアスピス類の全身の詳細が、約4億3600万年前の標本の分析を通じて初めて明らかにされた。ガレアスピス類には、特徴的な頭部背板(head shield)があるが、頭蓋後方の解剖学的構造は、これまで不明だった。この論文では、腕や脚の前駆構造である胸びれと腹びれに分かれる前の対鰭の原始的状態も示されている。第3の論文には、約4億3900万年前の堆積層から発見された古代の棘のあるサメ様魚類種(Fanjingshania renovataと命名された軟骨魚類種)について記述されている。この古代魚類種は、一部のステム軟骨魚類に見られるものに似た肩帯を持っているが、硬骨魚類に通常見られる硬組織吸収の証拠も示している。これらの知見は、有顎脊椎動物が、下部デボン紀の化石記録に広く現れる前の前期シルル紀に放散したという学説に対するこれまでで最も強力な補強証拠になるとZhuたちは述べている。第4の論文では、約4億3900万年前のこれまで知られていなかったサメの近縁種(Qianodus duplicis)の複数の化石歯が報告されている。これらの歯は、他の既知の顎口類の歯の化石標本よりも古く、これによって、脊椎動物の顎と歯列が出現した年代が約1400万年さかのぼった。
Cover Story:歯と顎:シルル紀の化石層によって明らかになった初期の有顎脊椎動物の起源と多様性
表紙は、今回新たに発見されたシルル紀の古代魚5種の想像図で、上から順にShenacanthus vermiformis、Fanjingshania renovata、Qianodus duplicis、Tujiaaspis vividus、Xiushanosteus mirabilisを示す。これらの魚類の化石は、中国南部にある年代が4億3600万年前と4億3900万年前の保存状態の良い2つの地層で見つかったものである。今回M Zhuたちは、これらの化石層を発掘し、そこで発見した化石を4報の論文で記載・検討している。化石の保存状態が非常に良いため、有顎動物がどのように進化し、多様化したかという難しい問題に光を当てることが可能になった。中でも、有顎脊椎動物の既知最古の歯が、これまで知られていなかったサメの類縁種のQianodusから得られている。今回の知見を合わせると、前期シルル紀の有顎動物における多様性について新たな状況が見えてくる。
参考文献:
Andreev PS. et al.(2022A): The oldest gnathostome teeth. Nature, 609, 7929, 964–968.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05166-2
Andreev PS. et al.(2022B): Spiny chondrichthyan from the lower Silurian of South China. Nature, 609, 7929, 969–974.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05233-8
Gai Z. et al.(2022): Galeaspid anatomy and the origin of vertebrate paired appendages. Nature, 609, 7929, 959–963.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04897-6
Zhu Y. et al.(2022): The oldest complete jawed vertebrates from the early Silurian of China. Nature, 609, 7929, 954–958.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05136-8
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