『卑弥呼』第94話「豊日別会議」
『ビッグコミックオリジナル』2022年9月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハがイクメに、鬼国(キノクニ)の背後に吉備(キビ)がいるなら吉備の王の首を刎ね、吉備の背後に日下(ヒノモト)がいれば日下の王の首を必ず獲る、と力強く宣言ところで終了しました。今回は、ヤノハとイクメが、菟狭(ウサ、現在の大分県宇佐市でしょうか)と穂波(ホミ)国の中間の御木(ミケ、現在の福岡県豊前市大字三毛門でしょうか)を歩いている場面から始まります。イクメはヤノハに輿に乗るよう促しますが、ヤノハは、森の気は身体によいと言って、歩きます。すると雨が降り始め、ヤノハとイクメは近くの峡谷に避難します。この一帯はこの時期には激しい雨が降り続き、川の氾濫や土砂崩れが起こるとのことで、イクメはヤノハに、巖谷で何日か野宿しよう、と進言します。
穂波国の豊日別(トヨヒワケ)では、ミマト将軍が兵士を訓練し、ヤノハを日見子(ヒミコ)として擁立した筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の穂波と那(ナ)と伊都(イト)と都萬(トマ)と末盧(マツロ)の王が集まり、協議していました。穂波のヲカ王は、雨が止まねば船団を出せない、と言いますが、それでは金砂(カナスナ)国は滅んでしまう、と那のウツヒオ王は焦ります。ヲカ王は逸るウツヒオ王を宥めて、時化もさることながら肝心の日見子様がまだ到着していない、と言います。すると伊都のイトデ王が、そもそも日見子様は漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)の邑から無事に戻って来られるのか、と疑問を呈します。都萬のタケツヌ王も、たとえ無事でも鉄(カネ)の刀に勝てる武器を伝授されたのか、と疑問を呈します。日見子様が来ずとも今出兵すべきと言うのか、と末盧のミルカシ王に問われたウツヒオ王は、それが日見子様の御心で、日見子様は後から追いかけて来るだろう、と答えます。宍門(アナト)からの使者によると、鬼国(キノクニ)はすでに吉備(キビ)国の傀儡と化したと聞いている、とイトデ王に指摘されたヲカ王は、それは事実のようで、吉備の背後には日下(ヒノモト)がいるそうだ、と答えます。タケツヌ王が周辺の国々の情勢を尋ねると、ミルカシ王は配下に作らせた)豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の地図を見せます。伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の土器(ドキ)と伊予(イヨ)と五百木(イオキ)と土左(トサ)と賛支(サノキ)の諸国はもはや日下の傘下で、児屋(コヤ)と武庫(ムコ)と播磨(ハリマ)の各国も日下と同盟を結んだと聞いており、伯方(ハカタ)と埃(エ)と峯(ミネ)の各国も今は中立であるものの、日下に脅されれば簡単に落ちるだろう、とヲカ王は情勢を説明します。豊秋津島で我々に与するのは宍門だけか、とタケツヌ王が呟くと、イトデ王は他の王に、日見子殿がすでにお隠れになっている場合どうするのか、と尋ねます。那のウツヒオ王は、それでも金砂に援軍を送ると言い、末盧のミルカシ王も穂波のヲカ王も同意見です。ヲカ王は、鬼国が次に狙うのは穂波なので、選択の余地はない、との立場です。都萬のタケツヌ王は、策を練り直すべきとの意見で、伊都のイトデ王もタケツヌ王に同意します。敵が鉄の武器を持っているのに対して、青銅(アオカネ)の武器主体の我々に勝ち目はあるのか、とタケツヌ王に問われたイトデ王は、あの男は勝てると言っている、と答えて筑紫島一の戦人であるミマト将軍を呼びます。日見子殿が漢人から秘策を授からなくとも鉄に勝つ術があるのか、と問われたミマト将軍は、ございます、と答えます。
金砂国の出雲では、本殿を多くの民が取り囲み、事代主(コトシロヌシ)を仰いでいる様子を見て、フトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)から事代主の首を獲るよう命じられた吉備津彦(キビツヒコ)もその配下のイヌヒコとキジロウも、どうすべきか悩んでいました。吉備津彦は、日下に使者を派遣し、フトニ王に事代主殺害を考え直してもらうよう、進言することにします。すると吉備津彦の配下で俊足のサルヒコが、フトニ王自らが日下軍を率いて間もなく出雲に到着する、と報告します。フトニ王が到着し、吉備津彦は、わざわざお出でいただかなくとも、と恐縮しながら出迎えます。フトニ王は吉備津彦に、王君(オウキミ)と呼ばれています。事代主の首はどうなったのか、と問われた吉備津彦は、本殿に大勢の民が集まっており、近づくこともできない、と答えます。すると、民など皆殺しにしてしまえばよいではないか、とフトニ王は言い、金砂国のミクマ王を騙し討ちにして恥じなかった吉備津彦も、さすがに困惑します。
豊日別では、ミマト将軍が筑紫島諸国の王に兵士の訓練を見せていました。ミマト将軍は、剣(ツルギ)で斬り合えば不利だが、槍で突くなら青銅の武器でも互角だ、と指摘します。ミマト将軍は全兵士に槍を持たせる考えでした。我々が総大将と仰ぐ女王の日見子様は無事だと思うか、とイトデ王に問われたミマト将軍は、心配無用と即答します。雨の中、宍門に出帆するか否か、筑紫島諸国の王でも意見が割れているが、日見子殿ならどうすると思うか、と王たちに問われたミマト将軍は、日見子様はじっと雨宿りをするよう、雨を楽しみ、雨の中を踊る方だ、と返答します。雨は依然として降り続いていますが、ヤノハとイクメの一行が到着します。たとえ日の神様でも雨は止められぬようだ、と言うイトデ王をタケツヌ王は窘め、我々の士気低下を読んでいたのだろう、とミルカシ王は指摘します。ヤノハは、雨が降ると自分は楽しくてじっとしていられない性分なのだ、と言います。ミマト将軍の言う通り、ヤノハ巖谷で野宿せず、豊日別へと歩いてきたわけです。ヤノハが、今こそ出立の時だ、と筑紫島諸国の王と兵士に告げるところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハを日見子として仰ぐ筑紫島諸国と、日下陣営の思惑が描かれました。危機をも楽しみながら乗り越えていこうとするヤノハは、これまでの人物造形に沿ったもので、説得力がありましたし、魅力的でもあります。今回の最大の注目は、これまで何回も名前だけ言及されていたフトニ王が、ついに初登場となったことです。フトニ王は作中にて冷酷で奸智に長けた人物と言われていましたが、今回の様子からは、感情がないように見えます。これまでの登場人物では、フトニ王は暈(クマ)のイサオ王と同等以上の大物と言えそうですが、今回はイサオ王にあった大物感があまり窺えず、ただ感情のなさそうな不気味な人物に見えました。フトニ王の人となりは、今後詳しく描かれるのでしょうか。ヤノハはフトニ王の殺害を考えていますが、フトニ王が出雲に出陣してきたことで、出雲一帯での戦いは本作の山場の一つになるのではないか、と期待されます。
穂波国の豊日別(トヨヒワケ)では、ミマト将軍が兵士を訓練し、ヤノハを日見子(ヒミコ)として擁立した筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の穂波と那(ナ)と伊都(イト)と都萬(トマ)と末盧(マツロ)の王が集まり、協議していました。穂波のヲカ王は、雨が止まねば船団を出せない、と言いますが、それでは金砂(カナスナ)国は滅んでしまう、と那のウツヒオ王は焦ります。ヲカ王は逸るウツヒオ王を宥めて、時化もさることながら肝心の日見子様がまだ到着していない、と言います。すると伊都のイトデ王が、そもそも日見子様は漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)の邑から無事に戻って来られるのか、と疑問を呈します。都萬のタケツヌ王も、たとえ無事でも鉄(カネ)の刀に勝てる武器を伝授されたのか、と疑問を呈します。日見子様が来ずとも今出兵すべきと言うのか、と末盧のミルカシ王に問われたウツヒオ王は、それが日見子様の御心で、日見子様は後から追いかけて来るだろう、と答えます。宍門(アナト)からの使者によると、鬼国(キノクニ)はすでに吉備(キビ)国の傀儡と化したと聞いている、とイトデ王に指摘されたヲカ王は、それは事実のようで、吉備の背後には日下(ヒノモト)がいるそうだ、と答えます。タケツヌ王が周辺の国々の情勢を尋ねると、ミルカシ王は配下に作らせた)豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の地図を見せます。伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の土器(ドキ)と伊予(イヨ)と五百木(イオキ)と土左(トサ)と賛支(サノキ)の諸国はもはや日下の傘下で、児屋(コヤ)と武庫(ムコ)と播磨(ハリマ)の各国も日下と同盟を結んだと聞いており、伯方(ハカタ)と埃(エ)と峯(ミネ)の各国も今は中立であるものの、日下に脅されれば簡単に落ちるだろう、とヲカ王は情勢を説明します。豊秋津島で我々に与するのは宍門だけか、とタケツヌ王が呟くと、イトデ王は他の王に、日見子殿がすでにお隠れになっている場合どうするのか、と尋ねます。那のウツヒオ王は、それでも金砂に援軍を送ると言い、末盧のミルカシ王も穂波のヲカ王も同意見です。ヲカ王は、鬼国が次に狙うのは穂波なので、選択の余地はない、との立場です。都萬のタケツヌ王は、策を練り直すべきとの意見で、伊都のイトデ王もタケツヌ王に同意します。敵が鉄の武器を持っているのに対して、青銅(アオカネ)の武器主体の我々に勝ち目はあるのか、とタケツヌ王に問われたイトデ王は、あの男は勝てると言っている、と答えて筑紫島一の戦人であるミマト将軍を呼びます。日見子殿が漢人から秘策を授からなくとも鉄に勝つ術があるのか、と問われたミマト将軍は、ございます、と答えます。
金砂国の出雲では、本殿を多くの民が取り囲み、事代主(コトシロヌシ)を仰いでいる様子を見て、フトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)から事代主の首を獲るよう命じられた吉備津彦(キビツヒコ)もその配下のイヌヒコとキジロウも、どうすべきか悩んでいました。吉備津彦は、日下に使者を派遣し、フトニ王に事代主殺害を考え直してもらうよう、進言することにします。すると吉備津彦の配下で俊足のサルヒコが、フトニ王自らが日下軍を率いて間もなく出雲に到着する、と報告します。フトニ王が到着し、吉備津彦は、わざわざお出でいただかなくとも、と恐縮しながら出迎えます。フトニ王は吉備津彦に、王君(オウキミ)と呼ばれています。事代主の首はどうなったのか、と問われた吉備津彦は、本殿に大勢の民が集まっており、近づくこともできない、と答えます。すると、民など皆殺しにしてしまえばよいではないか、とフトニ王は言い、金砂国のミクマ王を騙し討ちにして恥じなかった吉備津彦も、さすがに困惑します。
豊日別では、ミマト将軍が筑紫島諸国の王に兵士の訓練を見せていました。ミマト将軍は、剣(ツルギ)で斬り合えば不利だが、槍で突くなら青銅の武器でも互角だ、と指摘します。ミマト将軍は全兵士に槍を持たせる考えでした。我々が総大将と仰ぐ女王の日見子様は無事だと思うか、とイトデ王に問われたミマト将軍は、心配無用と即答します。雨の中、宍門に出帆するか否か、筑紫島諸国の王でも意見が割れているが、日見子殿ならどうすると思うか、と王たちに問われたミマト将軍は、日見子様はじっと雨宿りをするよう、雨を楽しみ、雨の中を踊る方だ、と返答します。雨は依然として降り続いていますが、ヤノハとイクメの一行が到着します。たとえ日の神様でも雨は止められぬようだ、と言うイトデ王をタケツヌ王は窘め、我々の士気低下を読んでいたのだろう、とミルカシ王は指摘します。ヤノハは、雨が降ると自分は楽しくてじっとしていられない性分なのだ、と言います。ミマト将軍の言う通り、ヤノハ巖谷で野宿せず、豊日別へと歩いてきたわけです。ヤノハが、今こそ出立の時だ、と筑紫島諸国の王と兵士に告げるところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハを日見子として仰ぐ筑紫島諸国と、日下陣営の思惑が描かれました。危機をも楽しみながら乗り越えていこうとするヤノハは、これまでの人物造形に沿ったもので、説得力がありましたし、魅力的でもあります。今回の最大の注目は、これまで何回も名前だけ言及されていたフトニ王が、ついに初登場となったことです。フトニ王は作中にて冷酷で奸智に長けた人物と言われていましたが、今回の様子からは、感情がないように見えます。これまでの登場人物では、フトニ王は暈(クマ)のイサオ王と同等以上の大物と言えそうですが、今回はイサオ王にあった大物感があまり窺えず、ただ感情のなさそうな不気味な人物に見えました。フトニ王の人となりは、今後詳しく描かれるのでしょうか。ヤノハはフトニ王の殺害を考えていますが、フトニ王が出雲に出陣してきたことで、出雲一帯での戦いは本作の山場の一つになるのではないか、と期待されます。
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