サヘラントロプス・チャデンシスの二足歩行の証拠
サヘラントロプス・チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)の二足歩行の証拠を報告した研究(Daver et al., 2022)が公表されました。二足歩行は人類クレード(単系統群)を規定する重要な適応の一つです。二足歩行の証拠は、600万年前頃となるアフリカ東部の後期中新世人類とされるオロリン・トゥゲネンシス(Orrorin tugenensis)の頭蓋後方化石から得られており、その腿骨頸断面の緻密骨分布パターンが(非ヒト)類人猿よりも人類に近い、と指摘されています。
サヘラントロプス・チャデンシスの化石は、2001年にアフリカ中部のチャド共和国で発見され、その年代は704万±18万年前頃と推定されています(関連記事)。サヘラントロプス・チャデンシスの二足歩行はこれまで、ほぼ完全な状態で発見された頭蓋骨の大後頭孔(頭蓋骨底部に位置し、脳から連続する脊髄が通り、頭蓋骨の外にでる孔)の位置に基づいて推論されていましたが、慣習的な二足歩行ではなかった可能性も指摘されています(関連記事)。
本論文は、2001年にサヘラントロプス・チャデンシスの化石が発見された場所であるロスメナラ(Toros-Ménalla)化石産出地域のTM 266地点で発見された、左の大腿骨と1組の尺骨の分析結果を報告し、その移動行動に関する頭蓋後方の証拠と、人類進化史の初期における二足歩行に関する新たな手がかりを提示します。大腿骨の形態は習慣的な二足歩行と最節約的で、頭蓋骨から得られた証拠による予測を裏づけています。一方、尺骨には顕著な樹上性行動の証拠が残されていました。
総合するとこれらの知見は、人類が700万年前頃にはすでに二足歩行をしていたことに加えて、樹上性のよじ登りがおそらく移動行動の大半を占めていたことも示唆しています。サヘラントロプス・チャデンシスが類人猿(ヒト上科)クレード内において、非ヒト系統よりも人類系統の方に近いと位置づけられるのか、まだ確定していませんが、まず間違いなく人類系統と位置づけられ、サヘラントロプス・チャデンシスよりも300万年以上後に存在したアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)についても、かなりの樹上生活への適応の可能性が指摘されており(関連記事)、人類系統は最近縁のチンパンジー属系統との分岐後も長く、樹上でかなりの時間を過ごしていたのかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:初期人類が二足歩行を始めた時
既知のヒト族の中で最古の部類に入るサヘラントロプス・チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)は、700万年前に二足歩行していたことが、太腿と前腕の化石の分析によって明らかになった。この知見は、同様の結論に至った過去の分析結果が基になっている。今回の研究について報告する論文が、Nature に掲載される。
2001年にチャドのトロス・メナラで大量の化石が発見され、初期ヒト族(現生人類と近縁の絶滅種を含む分類群)の新種「サヘラントロプス・チャデンシス」の命名につながり、年代測定によって約700万年前のヒト族種であることが判明した。また、ほぼ完全な状態で発見された頭蓋骨の分析により、サヘラントロプスが2本足で歩行していたこと(「直立二足歩行」というヒト族の定義的特徴)の可能性が示唆された。この仮説については、同時期に同じ地域で発掘された腕と脚の骨に関する研究報告が既になされており、それを用いた検証の機会が得られた。
今回、Guillaume Daver、Franck Guyたちは、2001年にサヘラントロプスの化石が発見された場所で出土した左の太腿の骨(大腿骨)と1組の前腕の骨(尺骨)を分析した結果を明らかにした。大腿骨の解剖学的構造は、約700万年前にサヘラントロプスが地上で二足歩行していたことを示しており、頭蓋骨から得られた証拠による予測を裏付けている。それに加えて、Daverたちは、尺骨の特徴が、木登りへの適応の特徴である形質と一致するという点も慎重さを保ちつつ強調した。例えば、尺骨の機能的様式は、サヘラントロプスが、おそらく何らかの形でつかまったり、四肢を不規則に動かしたりして木を登り降りしていたことを示唆している。
以上の証拠を総合すると、ヒトとチンパンジーが分岐した直後に、初期人類が、2本足で歩く能力を備えるようになり、木登りができるようになる骨の特徴も保持していたことを示唆しているとDaverたちは結論付けている。
古生物学:チャドにおける後期中新世のヒト族の二足歩行を示す頭蓋後方の証拠
古生物学:700万年前のヒト族における二足歩行
今回、初期のヒト族であるサヘラントロプス・チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)の、長く待ち望まれてきた大腿骨の分析結果が報告されている。この大腿骨の特徴は、このヒト族が二足歩行をしていたことを示しているが、一緒に発見された左右2本の尺骨には、これとは対照的な樹上性の適応が見られた。
参考文献:
Daver G. et al.(2022): Postcranial evidence of late Miocene hominin bipedalism in Chad. Nature, 609, 7925, 94–100.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04901-z
サヘラントロプス・チャデンシスの化石は、2001年にアフリカ中部のチャド共和国で発見され、その年代は704万±18万年前頃と推定されています(関連記事)。サヘラントロプス・チャデンシスの二足歩行はこれまで、ほぼ完全な状態で発見された頭蓋骨の大後頭孔(頭蓋骨底部に位置し、脳から連続する脊髄が通り、頭蓋骨の外にでる孔)の位置に基づいて推論されていましたが、慣習的な二足歩行ではなかった可能性も指摘されています(関連記事)。
本論文は、2001年にサヘラントロプス・チャデンシスの化石が発見された場所であるロスメナラ(Toros-Ménalla)化石産出地域のTM 266地点で発見された、左の大腿骨と1組の尺骨の分析結果を報告し、その移動行動に関する頭蓋後方の証拠と、人類進化史の初期における二足歩行に関する新たな手がかりを提示します。大腿骨の形態は習慣的な二足歩行と最節約的で、頭蓋骨から得られた証拠による予測を裏づけています。一方、尺骨には顕著な樹上性行動の証拠が残されていました。
総合するとこれらの知見は、人類が700万年前頃にはすでに二足歩行をしていたことに加えて、樹上性のよじ登りがおそらく移動行動の大半を占めていたことも示唆しています。サヘラントロプス・チャデンシスが類人猿(ヒト上科)クレード内において、非ヒト系統よりも人類系統の方に近いと位置づけられるのか、まだ確定していませんが、まず間違いなく人類系統と位置づけられ、サヘラントロプス・チャデンシスよりも300万年以上後に存在したアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)についても、かなりの樹上生活への適応の可能性が指摘されており(関連記事)、人類系統は最近縁のチンパンジー属系統との分岐後も長く、樹上でかなりの時間を過ごしていたのかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:初期人類が二足歩行を始めた時
既知のヒト族の中で最古の部類に入るサヘラントロプス・チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)は、700万年前に二足歩行していたことが、太腿と前腕の化石の分析によって明らかになった。この知見は、同様の結論に至った過去の分析結果が基になっている。今回の研究について報告する論文が、Nature に掲載される。
2001年にチャドのトロス・メナラで大量の化石が発見され、初期ヒト族(現生人類と近縁の絶滅種を含む分類群)の新種「サヘラントロプス・チャデンシス」の命名につながり、年代測定によって約700万年前のヒト族種であることが判明した。また、ほぼ完全な状態で発見された頭蓋骨の分析により、サヘラントロプスが2本足で歩行していたこと(「直立二足歩行」というヒト族の定義的特徴)の可能性が示唆された。この仮説については、同時期に同じ地域で発掘された腕と脚の骨に関する研究報告が既になされており、それを用いた検証の機会が得られた。
今回、Guillaume Daver、Franck Guyたちは、2001年にサヘラントロプスの化石が発見された場所で出土した左の太腿の骨(大腿骨)と1組の前腕の骨(尺骨)を分析した結果を明らかにした。大腿骨の解剖学的構造は、約700万年前にサヘラントロプスが地上で二足歩行していたことを示しており、頭蓋骨から得られた証拠による予測を裏付けている。それに加えて、Daverたちは、尺骨の特徴が、木登りへの適応の特徴である形質と一致するという点も慎重さを保ちつつ強調した。例えば、尺骨の機能的様式は、サヘラントロプスが、おそらく何らかの形でつかまったり、四肢を不規則に動かしたりして木を登り降りしていたことを示唆している。
以上の証拠を総合すると、ヒトとチンパンジーが分岐した直後に、初期人類が、2本足で歩く能力を備えるようになり、木登りができるようになる骨の特徴も保持していたことを示唆しているとDaverたちは結論付けている。
古生物学:チャドにおける後期中新世のヒト族の二足歩行を示す頭蓋後方の証拠
古生物学:700万年前のヒト族における二足歩行
今回、初期のヒト族であるサヘラントロプス・チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)の、長く待ち望まれてきた大腿骨の分析結果が報告されている。この大腿骨の特徴は、このヒト族が二足歩行をしていたことを示しているが、一緒に発見された左右2本の尺骨には、これとは対照的な樹上性の適応が見られた。
参考文献:
Daver G. et al.(2022): Postcranial evidence of late Miocene hominin bipedalism in Chad. Nature, 609, 7925, 94–100.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04901-z
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