『卑弥呼』第95話「鏡奇譚」
『ビッグコミックオリジナル』2022年10月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが金砂(カナスナ)国への出陣を筑紫島諸国の王と兵士に告げるところで終了しました。今回は、暈(クマ)の国の夜萬加(ヤマカ)にて、洞窟の奥深くの部屋でヒルメが民の訴えを聞いている場面から始まります。訴えてきたのはホデリという男性で、部屋の外にはタマヨリという妻がいます。2ヶ月ほど前に、ホデリとタマヨリとの間のニニギという子供が死に、ホデリは何とか耐えたものの、妻のタマヨリは毎日気が狂わんばかりに泣き叫び、そこで気晴らしというか、タマヨリは近くの邑々に出向き、母を亡くした赤子に乳をやっていました。ヒルメはホデリを慰め、奇特なことだ、と感心して見せますが、とくに感情はこもっていないようです。ホデリは、20日ほど前に摩訶不思議なことがあった、とヒルメに話します。満月の夜、タマヨリが起き、外で子供の鳴き声がする、ニニギが黄泉の国から帰ってきた、と言い、幻聴だ、死んだ者は帰ってこない、とホデリが引き止めたにも関わらず、外に出て子供を探します。すると、イヌが籠を守るかのように座っており、その中に男児がいました。タマヨリは、ニニギが黄泉から帰ってきた、と喜びます。天照様のお慈悲と考えたホデリとタマヨリはその子を育てることにしますが、その籠には鏡もあり、高価なものなので、拾った子供は貴種ではないか、と思ってホデリはヒルメに相談したわけです。
ヒルメは思い当たるところがあるのか、興奮したようにその鏡を見せるよう、ホデリに命じます。ヒルメは子供を早く見せるようホデリに命じ、子供と一緒にいた犬が入ってきます。ヒルメはこの犬がかつてナツハ(チカラオ)に飼われていた、と確信し、ますます興奮します。他人の子供に乳をやっていた話が邑々に広く伝わっていたのだな、とヒルメは推測します。子供は無事に生まれたものの、母が死んでしまった家は多い、とホデリは説明します。この子供を捨てた者の姿をヒルメに訊かれたタマヨリは、最初は物の怪かと思った、と答えます。最初は半分魚の如く鱗に覆われていたように見えたが、今思い返すと半身が黥の男だったようだ、とタマヨリが証言すると、ヒルメは喜びを隠しきれません。ヒルメはホデリとタマヨリに、麓の邑に引っ越し、住まいも畑も与えるが、10日に1回、必ずその子を自分に見せるよう、命じます。ヒルメは躊躇うホデリとタマヨリに、天照大御神(アマテラスオオミカミ)様より使命を下された、その子は神に近い血筋なので、立派に育てるよう、命じます。その子(ニニギ)が5歳になったら、自分は巫覡(フゲキ)に必要な知と行儀と読み書きを授ける、暈の大夫である鞠智彦(ククチヒコ)に目通りすることも夢ではない、とヒルメはホデリとタマヨリに伝えます。ヒルメは、ニニギがナツハとヤノハとの間の息子(ヤエト)だと確信し、深く恨んでいるヤノハに復讐できる、と考えます。
ヤノハは船上で、ヤエトを頼むぞ、チカラオ、との寝言をイクメに聞かれてしまいます。ヤノハは、寝言の内容をイクメから聞き出し、ヤエトの運命を思ってか沈んだ気分になります。ヤノハは、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)諸国の兵を率いて、渡海の途中でした。豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の宍門(アナト)が遠くに見えるので、難所である関門海峡ではなく、響灘か周防灘を渡っているのでしょうか。宍門が見えてきた、とイクメがヤノハに伝えるところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハは出雲での日下(ヒノモト)との戦いに赴く場面が少し描かれただけで、ヒルメが実質的な主役でした。チカラオは、土地勘があるため、夜萬加で子供の預け先を探したのでしょうが、ヤノハを深く恨んでいるヒルメに気づかれ、ヤノハにとって凶兆とも言えそうです。チカラオはヒルメがヤノハを深く恨んでいることも知っているはずですから、チカラオの失策と言うべきかもしれませんが、そこまで気づくのはなかなか難しいでしょうか。ヒルメは、ニニギ(ヤエト)がチカラオとヤノハとの間の息子だと確信し、いつかヤノハへの復讐に利用しようと考えているのでしょう。モモソは以前、ヤノハは自身の子供に殺される、と予言しており、ニニギが自分はヤノハの息子だと明かして、日見子(ヒミコ)としてのヤノハの権威が失墜し、ヤノハは民か支配層に殺されるのでしょうか。あるいは、ヒルメに教育され、ヤノハへの憎悪を植え付けられたニニギ(ヤエト)が、直接的もしくは他者を使って間接的にヤノハを殺すのかもしれません。
モモソは、ヤエトを妊娠中のヤノハに、ヤエトを殺せばもっと大勢の人が死ぬ、とも予言しており(第73話)、ヤエトは本作終盤においてひじょうに重要な役割を担うことになりそうです。ヒルメは久々の登場となり、チカラオ(ナツハ)がヤノハを姉だと認識して忠誠を誓っているだけに、もう出番はないかな、とも思っていただけに、このような形での再登場となったことは、よく構成されているな、と思います。ヒルメが再び重要人物として登場し、暈で捕らわれたアカメの運命も気になり、描いてもらいたい人物と出来事が多いので、今後の話もたいへん楽しみです。すでに同じ作画者の天智と天武~新説・日本書紀~』の連載回数を超えたので、次は原作者が同じ『イリヤッド』の123話を超えて、さらに長く続いてもらいたいものです。次号と次々号は休載とのことで、たいへん残念ですが、その分、出雲での戦いの描写には期待できそうで、たいへん楽しみです。
ヒルメは思い当たるところがあるのか、興奮したようにその鏡を見せるよう、ホデリに命じます。ヒルメは子供を早く見せるようホデリに命じ、子供と一緒にいた犬が入ってきます。ヒルメはこの犬がかつてナツハ(チカラオ)に飼われていた、と確信し、ますます興奮します。他人の子供に乳をやっていた話が邑々に広く伝わっていたのだな、とヒルメは推測します。子供は無事に生まれたものの、母が死んでしまった家は多い、とホデリは説明します。この子供を捨てた者の姿をヒルメに訊かれたタマヨリは、最初は物の怪かと思った、と答えます。最初は半分魚の如く鱗に覆われていたように見えたが、今思い返すと半身が黥の男だったようだ、とタマヨリが証言すると、ヒルメは喜びを隠しきれません。ヒルメはホデリとタマヨリに、麓の邑に引っ越し、住まいも畑も与えるが、10日に1回、必ずその子を自分に見せるよう、命じます。ヒルメは躊躇うホデリとタマヨリに、天照大御神(アマテラスオオミカミ)様より使命を下された、その子は神に近い血筋なので、立派に育てるよう、命じます。その子(ニニギ)が5歳になったら、自分は巫覡(フゲキ)に必要な知と行儀と読み書きを授ける、暈の大夫である鞠智彦(ククチヒコ)に目通りすることも夢ではない、とヒルメはホデリとタマヨリに伝えます。ヒルメは、ニニギがナツハとヤノハとの間の息子(ヤエト)だと確信し、深く恨んでいるヤノハに復讐できる、と考えます。
ヤノハは船上で、ヤエトを頼むぞ、チカラオ、との寝言をイクメに聞かれてしまいます。ヤノハは、寝言の内容をイクメから聞き出し、ヤエトの運命を思ってか沈んだ気分になります。ヤノハは、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)諸国の兵を率いて、渡海の途中でした。豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の宍門(アナト)が遠くに見えるので、難所である関門海峡ではなく、響灘か周防灘を渡っているのでしょうか。宍門が見えてきた、とイクメがヤノハに伝えるところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハは出雲での日下(ヒノモト)との戦いに赴く場面が少し描かれただけで、ヒルメが実質的な主役でした。チカラオは、土地勘があるため、夜萬加で子供の預け先を探したのでしょうが、ヤノハを深く恨んでいるヒルメに気づかれ、ヤノハにとって凶兆とも言えそうです。チカラオはヒルメがヤノハを深く恨んでいることも知っているはずですから、チカラオの失策と言うべきかもしれませんが、そこまで気づくのはなかなか難しいでしょうか。ヒルメは、ニニギ(ヤエト)がチカラオとヤノハとの間の息子だと確信し、いつかヤノハへの復讐に利用しようと考えているのでしょう。モモソは以前、ヤノハは自身の子供に殺される、と予言しており、ニニギが自分はヤノハの息子だと明かして、日見子(ヒミコ)としてのヤノハの権威が失墜し、ヤノハは民か支配層に殺されるのでしょうか。あるいは、ヒルメに教育され、ヤノハへの憎悪を植え付けられたニニギ(ヤエト)が、直接的もしくは他者を使って間接的にヤノハを殺すのかもしれません。
モモソは、ヤエトを妊娠中のヤノハに、ヤエトを殺せばもっと大勢の人が死ぬ、とも予言しており(第73話)、ヤエトは本作終盤においてひじょうに重要な役割を担うことになりそうです。ヒルメは久々の登場となり、チカラオ(ナツハ)がヤノハを姉だと認識して忠誠を誓っているだけに、もう出番はないかな、とも思っていただけに、このような形での再登場となったことは、よく構成されているな、と思います。ヒルメが再び重要人物として登場し、暈で捕らわれたアカメの運命も気になり、描いてもらいたい人物と出来事が多いので、今後の話もたいへん楽しみです。すでに同じ作画者の天智と天武~新説・日本書紀~』の連載回数を超えたので、次は原作者が同じ『イリヤッド』の123話を超えて、さらに長く続いてもらいたいものです。次号と次々号は休載とのことで、たいへん残念ですが、その分、出雲での戦いの描写には期待できそうで、たいへん楽しみです。
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