1000年前頃のクラインフェルター症候群
1000年前頃のクラインフェルター症候群の個体を報告した研究(Roca-Rada et al., 2022)が公表されました。ポルトガル北東部の中世のトーレ・ヴェーリャ(Torre Velha)遺跡で1000年以上前に埋葬されたヒト骨格が、分析され、調べられました(図1)。以下は本論文の図1です。
調査の結果、死亡時に25歳以上だった可能性が高い、きわめて良好な保存状態の成人骨格が見つかりました。この個体の身長は約180cmです。注目すべきは、身長を確認できた6体の骨格のうち、この個体の身長が最も高かったことです。骨盤の形態と骨格計量分析に基づいて、この個体は男性と結論づけられました。しかし、この個体の両腸骨幅は289mmで、ポルトガルの古代人男性で以前に報告された平均幅(261.8mm)よりかなり長いことも分かりました。さらに、この個体の歯は非対称に摩耗しており、顎の不正咬合と上顎前突症の可能性が示唆されました。骨密度分析は、正常な骨塩定量を示しました。
X染色体とY染色体(0.902)および常染色体(0.298)との比率、X染色体(約2)とY染色体(約1)の遺伝子量、X染色体の同型接合性(約0.2)を含むさまざまな手法を用いて遺伝的分析が実行されました。この個体のミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)はV、Y染色体ハプログループ(YHg)はR1b1a1b1a1(P310)と決定されました。YHg-R1b1a1b1a1はヨーロッパ西部および汎ヨーロッパの頻出系統となり、この個体のイベリア半島遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)と一致します。まず、この個体がヨーロッパ西部現代人で実行された主成分分析(PCA)に投影され、ほぼスペイン人の変異内に収まりました(補足図9)。以下は本論文の補足図9です。
次に、この個体がヨーロッパ西部古代人で実行されたPCAに投影され、イベリア半島古代人の変異内に収まりました(補足図10)。この個体は遺伝的に、イベリア半島の古代人と現代人の変異内に収まる、と言えそうです。以下は本論文の補足図10です。
さらに、X染色体かY染色体か常染色体にマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)された、配列決定読み取り数もしくは配列決定されたDNA断片に基づいて、個体の核型を確率論的に割り当てることができ。新たなベイズ手法の使用により、この個体の核型が47本(XXY)と決定され、XXYとXXもしくはXYの混入モデルが却下されました(図1C)。調査されたこの個体の観察位置とXXY核型の理論的位置の近さ(図1C)は、この個体がクラインフェルター症候群の核型を持つ事後確率を約1とすることと強く一致します。形態学的調査結果、とくに慎重と両腸骨幅と顎の不正咬合の可能性と上顎前突症と47本(XXY)の核型を示唆する遺伝学的調査結果を考えると、調査されたこの個体はクラインフェルター症候群だと結論づけられました。一般的な人口集団におけるクラインフェルター症候群の有病率は以前には0.1~0.2%と報告されましたが、多くの患者は診断されていません。
通常、クラインフェルター症候群の患者は、背が高く、腰が広く、体毛が疎らで、精巣が小さく、女性化乳房であり、下顎前突症の場合もあります。クラインフェルター症候群の患者では、肥満と低耐糖能と糖尿病とともに、アンドロゲン不足による骨粗鬆症も観察されます。注目すべきは、この個体における骨粗鬆症の欠如が、クラインフェルター症候群の診断を除外しないことです。クラインフェルター症候群患者では、骨粗鬆症は約10~40%しかなく、一般的に約80%は染色体が47本(XXY)です。
骨格遺骸から得られるDNAは、希少で劣化して断片化している場合が多く、染色体異数性の臨床診断で一般的に利用可能な技術を用いての分析には不適です。これらの限界を克服するため、新たなベイズ法が考案されました。この新たなベイズ法は、古代DNAや無細胞DNAや法医学的事例のDNAなど、さまざまな供給源からの断片化したDNAを効率的に統計的に分析する手法になり得る、と本論文は確信しています。
参考文献:
Roca-Rada X. et al.(2022): A 1000-year-old case of Klinefelter's syndrome diagnosed by integrating morphology, osteology, and genetics. Lancet, 400, 10353, 391–392.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01476-3
調査の結果、死亡時に25歳以上だった可能性が高い、きわめて良好な保存状態の成人骨格が見つかりました。この個体の身長は約180cmです。注目すべきは、身長を確認できた6体の骨格のうち、この個体の身長が最も高かったことです。骨盤の形態と骨格計量分析に基づいて、この個体は男性と結論づけられました。しかし、この個体の両腸骨幅は289mmで、ポルトガルの古代人男性で以前に報告された平均幅(261.8mm)よりかなり長いことも分かりました。さらに、この個体の歯は非対称に摩耗しており、顎の不正咬合と上顎前突症の可能性が示唆されました。骨密度分析は、正常な骨塩定量を示しました。
X染色体とY染色体(0.902)および常染色体(0.298)との比率、X染色体(約2)とY染色体(約1)の遺伝子量、X染色体の同型接合性(約0.2)を含むさまざまな手法を用いて遺伝的分析が実行されました。この個体のミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)はV、Y染色体ハプログループ(YHg)はR1b1a1b1a1(P310)と決定されました。YHg-R1b1a1b1a1はヨーロッパ西部および汎ヨーロッパの頻出系統となり、この個体のイベリア半島遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)と一致します。まず、この個体がヨーロッパ西部現代人で実行された主成分分析(PCA)に投影され、ほぼスペイン人の変異内に収まりました(補足図9)。以下は本論文の補足図9です。
次に、この個体がヨーロッパ西部古代人で実行されたPCAに投影され、イベリア半島古代人の変異内に収まりました(補足図10)。この個体は遺伝的に、イベリア半島の古代人と現代人の変異内に収まる、と言えそうです。以下は本論文の補足図10です。
さらに、X染色体かY染色体か常染色体にマッピング(多少の違いを許容しつつ、ヒトゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)された、配列決定読み取り数もしくは配列決定されたDNA断片に基づいて、個体の核型を確率論的に割り当てることができ。新たなベイズ手法の使用により、この個体の核型が47本(XXY)と決定され、XXYとXXもしくはXYの混入モデルが却下されました(図1C)。調査されたこの個体の観察位置とXXY核型の理論的位置の近さ(図1C)は、この個体がクラインフェルター症候群の核型を持つ事後確率を約1とすることと強く一致します。形態学的調査結果、とくに慎重と両腸骨幅と顎の不正咬合の可能性と上顎前突症と47本(XXY)の核型を示唆する遺伝学的調査結果を考えると、調査されたこの個体はクラインフェルター症候群だと結論づけられました。一般的な人口集団におけるクラインフェルター症候群の有病率は以前には0.1~0.2%と報告されましたが、多くの患者は診断されていません。
通常、クラインフェルター症候群の患者は、背が高く、腰が広く、体毛が疎らで、精巣が小さく、女性化乳房であり、下顎前突症の場合もあります。クラインフェルター症候群の患者では、肥満と低耐糖能と糖尿病とともに、アンドロゲン不足による骨粗鬆症も観察されます。注目すべきは、この個体における骨粗鬆症の欠如が、クラインフェルター症候群の診断を除外しないことです。クラインフェルター症候群患者では、骨粗鬆症は約10~40%しかなく、一般的に約80%は染色体が47本(XXY)です。
骨格遺骸から得られるDNAは、希少で劣化して断片化している場合が多く、染色体異数性の臨床診断で一般的に利用可能な技術を用いての分析には不適です。これらの限界を克服するため、新たなベイズ法が考案されました。この新たなベイズ法は、古代DNAや無細胞DNAや法医学的事例のDNAなど、さまざまな供給源からの断片化したDNAを効率的に統計的に分析する手法になり得る、と本論文は確信しています。
参考文献:
Roca-Rada X. et al.(2022): A 1000-year-old case of Klinefelter's syndrome diagnosed by integrating morphology, osteology, and genetics. Lancet, 400, 10353, 391–392.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01476-3
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