竹沢泰子「人種と人種差別 文化人類学と自然人類学の対話から」
井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』所収の論文です。人種は一般的に、皮膚の色をはじめとして、頭髪や身長や頭の形や血液型など形質的な特徴による区分単位とされ、現代日本社会では、コーカソイド(白色人種)とモンゴロイド(黄色人種)とネグロイド(黒色人種)の3人種に区分されます。こうした概念は社会に広く深く浸透しているようです。本論文は、生物学的な人種は存在しない(人種に生物学的根拠はない)ものの、社会的な人種は現実に存在し、それに基づく人種差別がある、と強調します。
本論文は、こうした人種観念の定着について、日本では第一線の自然人類学者がモンゴロイドを積極的に使い、一般向けの本やテレビ番組で取り上げられたことを指摘します。本論文は、自身をモンゴロイドと考える日本人が多いものの、モンゴロイドは「国際的」には差別語と認識されている、と指摘します。コーカソイドという用語の由来は、ノアの箱舟の到達地であるアララト山がコーカサス山脈の南側と考えられていたことにあります。ネグロイドは、「黒」を意味するラテン語(niger)に由来します。本論文は、各人種を表す用語が西欧中心的な世界観から生まれている、と問題点を指摘します。
また本論文は、人種に関する一般的印象が、報道や映画などを通じて刷り込まれたもので、実際の多様性を反映していない、と注意を喚起します。人種に関する一般的印象の発信源として世界的に絶大な影響力を有するアメリカ合衆国は「世界の縮図」ではなく、黒人はアフリカ西部起源の人々、アジア人は中国か日本起源の人々というように、現実の多様な世界諸地域の人々とは一致せず、恣意的に選ばれてきた、というわけです。
本論文は現在の「先進国」の主流的見解に沿った内容になっており、たとえば人種差別的な「科学的研究」を批判した本の書評とも通じます(関連記事)。しかし私は、そうした主流派の見解に対して、単一の遺伝子座に焦点を当て遺伝子座間の相関構造を無視しており、一般に「人種区分」と呼ばれるものは根底にある入れ子的な遺伝的構造の低解像度の描写で、主流派はそうした入れ子構造の研究まで非難している、とのライト(Colin Wright)氏の見解を強く支持します。
参考文献:
竹沢泰子(2021)「人種と人種差別 文化人類学と自然人類学の対話から」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)第15章P237-250
本論文は、こうした人種観念の定着について、日本では第一線の自然人類学者がモンゴロイドを積極的に使い、一般向けの本やテレビ番組で取り上げられたことを指摘します。本論文は、自身をモンゴロイドと考える日本人が多いものの、モンゴロイドは「国際的」には差別語と認識されている、と指摘します。コーカソイドという用語の由来は、ノアの箱舟の到達地であるアララト山がコーカサス山脈の南側と考えられていたことにあります。ネグロイドは、「黒」を意味するラテン語(niger)に由来します。本論文は、各人種を表す用語が西欧中心的な世界観から生まれている、と問題点を指摘します。
また本論文は、人種に関する一般的印象が、報道や映画などを通じて刷り込まれたもので、実際の多様性を反映していない、と注意を喚起します。人種に関する一般的印象の発信源として世界的に絶大な影響力を有するアメリカ合衆国は「世界の縮図」ではなく、黒人はアフリカ西部起源の人々、アジア人は中国か日本起源の人々というように、現実の多様な世界諸地域の人々とは一致せず、恣意的に選ばれてきた、というわけです。
本論文は現在の「先進国」の主流的見解に沿った内容になっており、たとえば人種差別的な「科学的研究」を批判した本の書評とも通じます(関連記事)。しかし私は、そうした主流派の見解に対して、単一の遺伝子座に焦点を当て遺伝子座間の相関構造を無視しており、一般に「人種区分」と呼ばれるものは根底にある入れ子的な遺伝的構造の低解像度の描写で、主流派はそうした入れ子構造の研究まで非難している、とのライト(Colin Wright)氏の見解を強く支持します。
参考文献:
竹沢泰子(2021)「人種と人種差別 文化人類学と自然人類学の対話から」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)第15章P237-250
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