翼竜の羽毛の色彩パターン

 翼竜の羽毛の色彩パターンエピに関する研究(Cincotta et al., 2022)が公表されました。中生代の化石の保存状態がきわめて良好な軟部組織から、羽毛の進化に関して多大な知見が得られおり、翼竜類の分岐構造を持つ羽毛(ピクノファイバー)に関する新たな証拠から、羽毛が前期三畳紀に翼竜類と恐竜類の祖先である鳥中足骨類(Avemetatarsalia)で出現した、と示唆されています。こうした翼竜類の構造物と羽毛の相同性については議論になっていますが、均一な卵形のメラノソームを持つ翼竜類の羽毛に関する報告は、そうした羽毛の色の多様性が限られていたことを示唆しており、初期の羽毛がおもに体温調節の機能を担っていた、という仮説を支持しています。

 この研究は、ブラジルで発見された前期白亜紀(約1億1300年前)のタペジャラ科(Tapejaridae)翼竜類であるトゥパンダクティルス・インペラトル(Tupandactylus imperator)の頭蓋骨の一部を分析し、頭蓋隆起には、2つのタイプの羽毛が見られ、枝分かれしていない小さな単一フィラメントと、それより大きく、現代の鳥類の羽毛に近い枝分かれ構造のものが見つかりました。皮膚、ならびに単純な羽毛および分岐構造の羽毛に、さまざまな形状のメラノソーム(色素を産生する構造体)が存在した、というわけです。これらのメラノソームは、それぞれの種類の羽毛および皮膚で異なる集団を形成しており、これまで鳥類を含む獣脚類恐竜でしか知られていなかった特徴です。以下はトゥパンダクティルス・インペラトルの想像図です。
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 翼竜類のこうした組織特異的なメラノソームの形状は、羽毛の色の操作、ひいては羽毛の視覚的コミュニケーションにおける機能が、進化的に古い起源を持つ、と示しています。これらの特徴は、メラノソームの性質と形状の遺伝的調節が羽毛進化の初期にすでに機能していたことを明らかにしています。これらの羽毛は飛行に使われていなかった可能性があるものの、視覚的コミュニケーションの一形態として使用されており、この能力の基盤となる遺伝的機構は、初期に分岐した三畳紀中期から三畳紀後期(約2億4700万~2億100万年前)の爬虫類にすでに備わっていただろう、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:翼竜の羽毛にも色彩パターンがあり得た

 翼竜類の一部にはさまざまな色素が沈着した羽毛があり、体温調節とディスプレイ(誇示)の両方に用いられていたことを示唆する論文が、Nature に掲載される。この発見は、羽毛の初期の進化史を明らかにする手掛かりとなる。

 翼竜類には、毛状の繊維(ピクノファイバー)でできた綿毛があることが知られているが、これが本物の羽毛かは議論の的になっている。今回、Maria McNamara、Aude Cincottaたちは、白亜紀前期のブラジルに生息していた翼竜類Tupandactylus imperator(約1億1300万年前のものと年代決定された)の頭蓋骨の一部を分析した。頭蓋隆起には、2つのタイプの羽毛が見られ、枝分かれしていない小さな単一フィラメントと、それより大きく、現代の鳥類の羽毛に近い枝分かれ構造のものがあった。

 この頭蓋骨には軟組織が良好な状態で保存されていたため、McNamaraたちは、メラノソーム(色素を産生する構造体)を詳細に調べることができた。羽毛と皮膚のいずれにおいても、複数のタイプのメラノソームが確認された。これは、これまで獣脚類恐竜と現生鳥類でのみ知られていた特徴である。このことは、現代の鳥類の場合と同じく、メラノソームが羽毛の色を生み出していたことを示唆している。以上の知見を総合すると、これらの羽毛は飛行に使われていなかった可能性があるが、視覚的コミュニケーションの一形態として使用されており、この能力の基盤となる遺伝的機構は、初期に分岐した三畳紀中期から三畳紀後期(約2億4700万~2億100万年前)の爬虫類にすでに備わっていたことが示唆されている。


古生物学:翼竜類のメラノソームで裏付けられた初期の羽毛の信号機能

Cover Story:視覚的誇示:翼竜類が色のついた羽毛を使って視覚でコミュニケーションをしていたことを示唆する化石

 表紙は、トゥパンダクティルス類の翼竜Tupandactylus imperatorの想像図である。羽毛のある翼竜類はこれまでにも報告されているが、こうした主張には異論があり、革状の翼を持つ翼竜類に現代の鳥類のようなさまざまな色の羽毛があったかは明らかになっていない。今回A Cincottaたちは、翼竜類に羽毛があっただけでなく、おそらくその羽毛にはさまざまな色がついていたことを示す証拠を提示している。著者たちは、ブラジルで発見された約1億1300万年前のトゥパンダクティルス類の部分的な頭蓋を調べた。その結果、とさかの基部に沿って2種類の羽毛が見いだされ、その1つには現代の鳥類の羽毛に非常によく似た分岐構造の特徴があることが分かった。さらに、両方の種類の羽毛ととさかの皮膚に、色素を作る細胞小器官が存在することも明らかになった。著者たちは、こうした色のついた羽毛は視覚的なコミュニケーションに使われたと思われ、トゥパンダクティルスにおけるそうした羽毛の存在によって、羽毛の色を操作する能力の起源がこれまで考えられていたよりさらにさかのぼることが示されたと示唆している。



参考文献:
Cincotta A. et al.(2022): Pterosaur melanosomes support signalling functions for early feathers. Nature, 604, 7907, 684–688.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04622-3

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