大塚柳太郎「人口からみるヒト」
井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』所収のコラムです。動物の出生・死亡パターンを繁殖戦略から見ると、変動する環境に合わせて好条件時に出生率を高めることで個体数を維持するr戦略と、環境依存性が低く、出生率も死亡率も低く抑えて個体数を安定的に維持するK戦略が両端に位置し、ヒトを含む霊長類は典型的なK戦略者と考えられています。避妊や中絶を行なわない狩猟採集民や農耕民など45集団の女性の完結出生児数(合計出生率に相当)を対象とした研究では、集団内の個人差が大きくて10を超える集団も多く、狩猟採集民の平均値は7を超え、平均値が10.4と最高だったハテライトは北アメリカ大陸に居住する農耕集団で、宗教的理由から20世紀前半まで避妊が受容されなかった、と示されました。ヒトの出生力は潜在的に高い、というわけです。一方、現生動物でヒトと最近縁のチンパンジーの完結出生児数が6を超えることはほとんどありません。これは、出産間隔がヒトの約4年に対して、チンパンジーは5~6年であることと関連しており、その主因は、ヒトが乳児に離乳食をあたえ、授乳期間が短くなるためです。この点で、ヒトは相対的にはr戦略者的です。
どの動物種も個体数は環境収容力の制約を受けますが、ヒトは農耕や牧畜など文化的手段でそれを高めてきました。農耕開始後、ヒトの個体数は一時的な減少があっても増加を続け、1750年には約7億2000万人に達した、と推定されています。その後、18世紀後半に先進国で、19世紀~20世紀にかけて途上国で、死亡率と出生率が大きく変化していきます。この過程で、死亡率も出生率も高い多産多死から、死亡率だけ低下する多産少死を経て、出生率も低下する少産少死へと移行しました。こうした人口転換は先進国では20世紀に、アフリカを除く途上国でも21世紀中にほぼ終了する、と予測されています。
参考文献:
大塚柳太郎(2021)「人口からみるヒト」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)P204-205
どの動物種も個体数は環境収容力の制約を受けますが、ヒトは農耕や牧畜など文化的手段でそれを高めてきました。農耕開始後、ヒトの個体数は一時的な減少があっても増加を続け、1750年には約7億2000万人に達した、と推定されています。その後、18世紀後半に先進国で、19世紀~20世紀にかけて途上国で、死亡率と出生率が大きく変化していきます。この過程で、死亡率も出生率も高い多産多死から、死亡率だけ低下する多産少死を経て、出生率も低下する少産少死へと移行しました。こうした人口転換は先進国では20世紀に、アフリカを除く途上国でも21世紀中にほぼ終了する、と予測されています。
参考文献:
大塚柳太郎(2021)「人口からみるヒト」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)P204-205
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